16 ストーリー崩壊
通常ガチャで増員されたハリネズミ部隊とゴブ吉を連れ、俺はゆっくりと道を歩く。
ハリネズミという響きはどこか頼りなさげに聞こえるかもしれないけれど、彼らの装備できる武器が『角』であると聞けば、その不安も消えるだろう。
なんせこの俺の装備する武器と同等のレアリティの『角』が余っているんだから、この弱い敵しかいない場所での戦力としては充分なのだ。
さらに、次の村へと続く道のりは先行したボナコン達によって露払いがされている状態だから、この状況は既に可愛いペットを連れてただの散歩をしていると言ってもなんら問題はない状況。
「平和だねぇ~……」
「ピュイ」
俺の言葉に反応するハリネズミ。
なぜガチャで出現するモンスターの中にゲームをプレイしている時に出てきた事はない『ハリネズミ』が混じっていたのか、それはほとほと謎だが、何故かハリネズミが出る度にペットとして残してしまっている。
そのかいあってか編隊を組めるだけの数も揃ってしまったので、今回は俺の部隊として組んだ。
別に俺の周りにいるのが骨と岩がイヤだなぁ~とかそういうワケではない。特に岩ならまだ我慢できるけど骨はなんだか怖くてイヤだなぁ~とかではない。
俺の言葉を理解してくれるハリネズミがめっちゃ可愛かった。ただそれだけなのだ。
ほんと癒されるわ、この3匹のハリネズミ。
「こんなゆっくりでいいのかよ?」
「ん?」
隣を歩くゴブ吉がどこか不満げな顔をしている。
これまで俺の言っていた通りに襲撃が行われていたのだから、これから向かう村でもゴブリン達が襲われているのかもしれないと思えば、その反応も当然だろう。
俺だって友人や知人が危機に見舞われているかもしれないと知れば同じ気持ちになるし焦る。
「だからこそ、だよ。
俺達が急いで移動すればそれだけ敵の侵攻が早くなる可能性もあるからな。
ゆっくり移動していれば敵の侵攻もゆっくりになるかもしれないし、ゆっくり襲ってくればボナコン達も余裕を持って倒せるだろ?
少しでも討ち漏らして村に侵入される方がまずいからな。」
「よくわかんねぇよ。」
「わかる必要もないさ。俺の当てずっぽうも入ってるのも事実だからな。
でも俺達よりも強いキキーモラさん達が、もうずっと早く先に向かってるんだぞ? それだけでも安心感あるだろ?
だから俺達が急いで追いついたとしても逆にすることなんてねぇよ。だから、なんでかわかんないけど、こうなんだって思って納得しとけ。」
俺の言葉にゴブ吉は疑問を押し殺すように渋い顔で上を向く。やがて大きく息をついた。
「はぁ……まぁそれもそうだな。
未登録ユーザーよりもずっと頼りになる皆が向かってるんだものな。俺達が急いだってあんまり変わんねぇわな。」
「……なんかお前に改めてそう言われるとムカつくな。蹴っていいか?」
「なんでだよ!」
「ストレスっていうのは人類の天敵なんだよ! ストレスが溜まれば免疫力も落ちるし、病気にもなりやすい! アレか? お前は俺を病気にしたいのか? そうじゃないなら蹴らせてみろよ!」
「無茶苦茶だなお前! 俺がストレス溜まるわ!」
「ピュイ」
空気を察したのか、俺とゴブ吉との間にハリネズミが割って入る。
見上げるハリネズミの可愛さに俺は一気に破顔してしまう。
「おぉ、そうだよな~ケンカしちゃダメだよな~ハリー。」
「ピュイ」
「ピュイ」
ハリーと勝手に名づけたハリネズミとは別のハリネズミ達も『そうだそうだ』と言わんばかりに鳴き声を上げる。
実際のハリネズミは人になつかないが、この世界だと俺の言葉もきちんと理解して行動してくれるから、なんとも愛らしい。
俺はハリーを抱え上げて頭に乗せ、もう2匹も両手で抱えるように手を伸ばす。
なんせゆっくり歩いているとは言えどハリネズミが俺の移動速度に合わせて移動するのは大変そうに見えるからだ。
「よしよし。ポーとターもちょっと休憩しような。」
「おいバカやめろ。なんだかその名前が続くのは、なんか良くない事が起きる気がする。」
「奇遇だな。俺もだ。」
「じゃあそんな名前つけんな!」
--*--*--
俺達が次の村に到着すると、予想していた通り本来は壊滅していたはずの村に傷一つない状態だった。
村に入ると村の外にいたツムリンとボナコンがやってくる。
「はっはっはっは! 勝った!」
「おう、お疲れさん。もう敵は引いた感じか? ツムリン。」
「はい。未登録ユーザー様が到着した時に戦っていた敵が最後だったようで敵の気配がなくなりました。今回は襲撃が何度かあって忙しかったです。」
「何度か?」
少し引っかかる。
そもそものストーリでは、この村はほぼ壊滅するはずだった。
壊滅までに何度襲われていたのかは分からない。ただ戦う能力のないゴブリンの村であれば一度の襲撃でも十分なはず。なのに何度も襲撃があったというのは少し腑に落ちない。
「敵の種類は初級に出てくるクラスだった?」
「はい。スケルトンさんでも一撃で倒せる強さだったので苦にはなりませんでした。」
「う~ん……」
感じた違和感を解消したいが今考えても答えの見えない疑問であり、これ以上考えても仕方がないと頭を切り替える。
「その他なにか変わった事は?」
ツムリンが少し視線を外す。
「その……ボナコンさんが……途中から……」
「はっはっはっは! 勝った!」
「オーケー。わかった。
ボナコン。調子はどうだった?」
「はっはっはっは! 気分爽快!」
「あ~そう。それは良かったね。」
どうやら骨や岩たちの戦いを見て、ボナコンも戦いたくなったパターンのようだ。
「お疲れツムリン。」
「いえ。村に被害が無くて良かったです。
ただキキーモラさんは未登録ユーザー様の指示で別行動すると、戦いながら前進されてましたけど、あれで良かったんですか?」
「うん。キキーモラさんには先行してもらうようにお願いしたからね。」
「そうですか……」
ツムリンの表情がいつもと違う気がして問い掛けてみる事にした。
「……何か気になる事あった?」
「いえ、敵も弱いですし……キキーモラさんならなんの問題もないとは思うんですけど……」
「……けど?」
「なんだか少し敵の戦い方がおかしかったような気もするんです。
何がどう、と具体的には言えないんですけど、なんだか微妙に何かが違うような気がして……」
「ふむ……」
俺は右手で拳を作り口元に運ぶ。
ツムリンは余り自分から意見を言う事は無い控えめな子だ。
胸も控えめだが、これで下半身にマグナムさえついていなければ正統派箱入り大和撫子的な性格の子だ。
そんなツムリンがこういった事をわざわざ口に出すということは微妙な違和感であっても『はっきり』感じているとも言える。
襲撃の回数に続き敵の戦い方についも違和感を感じている。二つも違和感があれば何かがおかしいと考えても良いだろう。
違和感の正体を探るべく質問をしてみる。
「敵の戦い方はこれまで通り、こっちの1編隊に対して3~5匹の敵が襲ってくるのを繰り返される形だった?」
「はい。それはその通りで、一度に編隊が相手にするのは多くて5匹でした。」
再度右拳を口元に運ぶ。
戦い方は依然としてスマホゲームの戦い方に沿っている。
「戦闘の繰り返しは3回だった?」
「一度の襲撃で来る敵の数が多かったので、倒すとすぐ控えている敵が出てくるので、あまり区切りというのは分かり難かったように思います。ただ3連戦後は、なんとなく区切りはあったようにも思えます。」
「そんなに数がいたの?」
「はい。もし敵が一気に攻めてきたら討ち漏らす可能性があるくらいの数は一度の襲撃で来てました。」
「んん? ……そんな数が何回も襲撃してきたの?」
「はい。そうなんです。」
やはり何かがおかしいような気がする。
そうだ。そもそもキキーモラさんが先行している先には敵が出てくる穴が開いているはずだ。そしてその穴から敵が出てきているのだから襲撃に来る敵はキキーモラさんと接敵している可能性g――
「じっと待って見てるので結構気味がわるかったです。」
怯えたような素振りで両手を胸の前に寄せるツムリン。
ビキニだから谷間がよく見える。ちっぱいでも谷間ってできるんだなぁ。オッパイの神秘だなぁ。
俺は谷間の魔力により思考が止まった。
「だが男の娘だ。」
「え?」
自我を取り戻す俺の声に、ツムリンが首を傾げる。谷間から慌てて視線を外し咳ばらいをする。
「んんっ! 何でもない。えっとなんだっけ……あれ?」
きょとんと逆方向に首をかしげるツムリン。俺は思考が飛んだ恥ずかしさからとりあえず話を締める事にした。
「まぁ、あれだ。なんか違和感とか怪しい雰囲気があるから、できるだけ早くキキーモラさんの所に向かう事にしよう。ヤバイことになったら逃げるように言ってあるけど流石にちょっと心配になってくるわ。次の祠でストーリは一旦区切りになったはずだし、さっさと全員で突撃して終わらせるに限る。」
「そうですね!」
「うし! じゃあこの村の魔法石もらってくるわ。魔法石手に入れ次第全員で祠に向かう事にするからツムリンは皆に移動に備えるよう指示を宜しく。」
「分かりました!」
無事にこの村でも魔法石を手に入れ、そしてすぐに移動を開始した俺たち。
ボナコンに跨って早めの移動を始めて1時間ほど過ぎた頃。
キキーモラさんの姿を見つけた。
ゴブリンを両脇に抱えてこっちに向かってくる姿だった。