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14 ストーリーをぶち壊せ

「ほら。これがこの村の魔法石な。未登録ユーザー」

「ぐふふ、ぐふふふふふ、ぐふふふふふふふふふふふふ! 良い色をしておるのう! ワシの望みを叶えんと輝いておるわ! しゃーーしゃっしゃっしゃっしゃ!」


 ゴブ吉から受け取った魔法石を両手で掲げ、その神々しさに酔いしれると自然と笑いも漏れる。

 この魔法石が俺を女体という神秘の存在を手にする手助けとなるのだ。


「ただね、ただ一言いうならば、15枚って少なすぎやしないかい? そこんところどうなんだい?」

「すみませんでしたのう……ウチの村にはそれくらいしかなくて……申し訳ない限りですぞい……」


 老ゴブリンが俺の問いに、さも申し訳なさそうに答えてくる。


「いやうん、別に文句ってワケじゃないんだ。うん。いや、ほんと別に文句ってワケじゃないんだ。だから気にしないで。ほんのちょっと本音が漏れただけだから。いや、むしろ15枚もあってすごいなぁ! うん!」


 心底申し訳なさそうな老ゴブリンの姿に慌ててフォローする。


「前の村と同じで想像ついてただろうが……まだ別の村にもあったはずだから集めればいいだろう?」

「一つの村で15枚が確定って事かいそれは? アレかい? これを後18回繰り返せってことなのかなぁ?」

「別にいいじゃねぇか。どうせ他にやる事もねぇんだしさ。」

「あ、それ言っちゃう? まぁその通りだからどうしようもないんだけど……ってもうそろそろ帰ってきたっぽいな。」


 村の入り口から外に足を進めると、キキーモラさんやボナコン、ツムリンが戻ってくる姿が目に入った。

 しかもそれぞれがスケルトンや岩人の編隊を引き連れた大勢で。



--*--*--



「戻りました未登録ユーザー様!」

「おう、お疲れツムリン。どうだった?」


「はい。ボクが前に出る必要は全然なかったです! しっかり戦えてました。」

「指示とか困ったこととかはなかった?」


「えぇ、スケルトンさん達のレベルや武器を持ってることもありますから、相手のレベルから考えると過剰な戦力って感じでした。」

「はっはっはっは。戦ったのは我の部隊のはずだが、どうして戦果をツムリンに尋ねるのだ? 未登録ユーザー殿よ。」


 ボナコンがぐいっと顔を突き出して俺とツムリンの間に割り込み問う。

 邪魔なので押し返す。だけれどびくともしない。


「だってボナコンの指揮が一番不安だったんだもの。自分で突撃して『はっはっはっは! 問題なく蹴散らした! はっはっはっは!』とか言いそうじゃんお前。」

「はっはっはっはっは!」


「……」

「……」

「はっはっはっはっは!」


「いや、笑ってねーで否定かなんかしろよっ!」


「はっはっはっは! 進んで敵がいたらスケルトン達に戦いに行くよう命じる。万が一スケルトン達が倒れたら我が戦う。 これくらいの約束は守れるさ。はっはっはっは!」

「ちーがーうーでーしょー?

 索敵して敵を見つけたら部隊に戦闘指示を出す。部隊が全滅しそうな場合は部隊を引いてお前が戦う。敵の気配がなくなったら帰還する。でしょう? すっごい省略された上になんか忘れているよね?」

「帰還はボクが戻るように声をかけました。」


 ツムリンが申し訳なさそうに声に出した。


「はっはっはっは? そうだったか? まぁ細かい事だ。気にするな! はっはっはっは。」

「はっはっはっは! じゃねーよ……やっぱりボナコンはキキーモラさんかツムリンの指示を待つような形にしておくかな……それか編隊に組み込んだ方が効果的かなぁ……」


 頭を掻きながら修正案を検討する。



 ――ストーリーを進めたいが、それにより生まれる犠牲を懸念して動けなかった俺。

 だが、動かざるを得ない事態となった為、一つ賭けに出てみることにした。


 俺が行ったら村が襲われるのなら、襲われる村が反撃できるようにしてしまえ。と。


 スマホゲームだと仲間のモンスターと話をすることなんて不可能だったが、この世界では皆が『個』としてしっかりと存在している。

 だからこそ編隊を組んで指示出しなんかを任せることができるんじゃないかと思ったのだ。


 幸いな事に、強制収容所には岩と骨とハリネズミが増え続けていたから、骨達に武器を装備させて編隊を組んでキキーモラさんに指示を任せて初級曜日クエストをやってみたところ、流石キキーモラさんというべきか、最初の数回は戸惑っていたけれど、あっという間に編隊を指揮できるようになっていた。

 後は、キキーモラさんにツムリン達が指揮できるように教師役を担ってもらい指揮の訓練とレアリティRの骨や岩のレベル上げ。俺はベースでレアは出ない通常ガチャを回して戦力の増強や、武器の強化に取り組んだ。


 戦力が揃ってからは、いよいよストーリー進行となるのだが、ストーリーの進行条件が『俺』と案内役である『ゴブ吉』がイベントのある村に近づくことで発生すると仮定し、ベースのゴブリン村のゴブリンにキキーモラさん達の目的地の村への案内をお願いし、先行して防衛線を張ってもらったのだ。


 そしてストーリー進行最初の村は、予想通りハリネズミ編隊を引き連れた俺とゴブ吉が近づくことで敵襲が始まった。


 だが、所詮、初級も初級。

 スケルトンや岩人たちのレアリティは『R』そして初級クエストを何度もクリアしたり、通常ガチャのハズレを食わせてレベルも上がり、ありあまっていた覚醒進化素材も使いに使い、中盤以降だって戦えるレベルにまで仕上がっているのだから、そんな大量のスケルトンに守られた村は防衛線どころの話ではない。

 反撃だ。逆襲だ。カウンターアタックだ。返り討ちだ。


 あっという間に誰一人の犠牲もなく勝利を手に収めたのだ。


 そして次の村は、どうにもレアリティが低いからか、はたまた性格なのか、微妙に指揮に向かないボナコンをメインにし、どこまで動けるかをツムリンの監視付きで先行させ、撃退までは問題なかったことが確認できた。

 そしてなんとなく守ってもらったことを理解した村の長から礼として魔法石を頂戴しているというわけ。

 俺の目論見は大成功。この調子でいけば、ストーリーで全滅に近い状態にされた村すらも、誰一人の犠牲も出さずに守れるはずだ。



 ストーリーでは、この後、祠が的の魔物の出現する『穴』が盛大に開いてしまっていて、それを溢れる魔物で負った怪我を押して無理矢理閉じる祈祷をした為にゴブ吉の父親が死ぬことになり、母親も瀕死の重症を負う。

 だが閉じたはずの穴は不完全で、完全に閉じる為には、五行の『火』『木』『水』『金』『土』のそれぞれの世界に穴を繋げて、その世界の封印の力を手に入れて封じることができる者の力を増していくしかない的な事を母親が告げる、そして動けない自分ではなくゴブ吉に穴を繋げる為の力を受け渡して果てる。

 ゴブ吉は両親の死を乗り越え、穴を塞ぐ役を買って出て、プレーヤー達は戦えないゴブ吉が穴を塞げる力を得られるようにサポート役として各世界を共に旅する。


 たしか、この後の各世界でもなんやかんやで暴走してたりだのしっちゃかめっちゃかを解決する事になり、ようやく五行の力を揃えたら――


 といういい所で運営の更新が止まっていたはず。

 それも長い間。


 多分、運営内で、これからどう話をもっていって課金させやすくするか煮詰まっていたんだろう。

 そして萌えイラストで容易に課金が増えたから、ストーリーそっちのけになった。という感じ。


 だが今の俺に重要な事は、沢山の救うべき村や街があるということ。

 そしてどの村や街も、俺が近づかなければイベントは発生しない。つまり先回りし放題だ。


 ゴブ吉の両親もキキーモラさんの部隊を先回りさせれば、まず安心。というか別に両親を祠から怪我を防ぐ意味で一時的に誘拐しておいてもいいんじゃないだろうか。


「まったく自分の才能が怖くなるぜ……」


 つい自分の天才的頭脳に鼻を鳴らす。

 そんなことを考えていると、大事な事を思い出した。

 とてもとても大事なことだ。


 あまりに大事な事過ぎて、思わず目を見開き、体が震えた。


「またろくでもないことを思いついた顔ですね。」

「あぁ、こりゃあもうどうしようもねぇよ。キキーモラ姉さん。」

「はっはっはっは! まぁいいか!」

「あはは。ボクはああいう顔もいいと思いますよ。」


 外野が五月蠅いがどうでもいい。


「水の世界に……人魚おったやんけ……

 木の世界に……エロフおったやんけぇ!」


 ストーリーを進めるやる気がフルバーストした。


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