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13 回復薬無双

「オォォオォォ――」


 まるで地鳴りや地響きのような唸り声を上げながら消滅してゆく巨体。

 自身の尾を咥えて大地に横たわっているとされるミドガルズオルムを思わせる蛇のような姿がどんどんと消え去り、最後に小さな緑色の仮面を残す。だがその仮面もすぐに消滅した。


「勝って…しまった……」


 荒い息の中、搾り出るように出た言葉だった。


 曜日クエストは木属性、ボナコンやキキーモラさん、ツムリンの弱点となる属性では無かった為、装備とレベルの充実で上級者向けクエストもこなせるようになっており、調子に乗った俺は『超級者向け』クエストもイケるイケると扉を開いてしまった。


 そして開いてすぐに巨体のモンスターの放つ雰囲気に呑まれ恐怖する。

 一言で言えば『アカン』

 それ以外の何ものでもなかった。


 それも当然だ。そもそも超級者向けクエストは重課金兵及び廃課金兵の為にあるクエスト。

 『SSR(ダブルスーパーレア)』のレアリティでは弱者『UR(ウルトラレア)』で普通。『SUR(スーパーウルトラレア)』を揃えていれば勝者として舞台に上がれる。武器も同じレアリティが求められるクエストレベル。

 SSRの武器を装備しているとは言えボナコンは『R』、SRの爪を装備しているキキーモラさんは『SR』、ツムリンでようやく『SSR』。だが装備はRの牙だ。

 しかも現時点で最高レベルに達しているのは成長しやすいボナコンしかいない。


 ……完全に悪い意味で調子に乗ってしまった。

 そう後悔しながら固唾を飲む。


 だが俺以外のキキーモラさん達はそうでもないようで立ちすくむ俺を尻目に果敢に攻撃を開始する。

 そしてボナコンがボスの通常攻撃をくらって一撃で瀕死モーションへと変わった。


 俺はその様子に再び『アカン』という思いに染まるわけだが、そんな思いは無視され戦いは続く。

 流石に準備だけはあり余る素材を使ってしっかりとしてきていたから、体力を回復させる回復薬なんかも持ってきていたので、すぐにボナコンに回復薬を投げつけて体力を回復させる。再び味方の攻撃が再開されるとボスが次に放った攻撃は無慈悲な全体攻撃だった。


「アカーーンっ!」


 全体攻撃は俺にも害を及ぼす。


 激痛&激痛


 これは瀕死モーションになるのも当然だわと一人納得しながら状況を確認すると、なんとか俺もかろうじて生きていた。

 というよりも俺含め全員が瀕死モーションになっていると言っていい。

 あまりの危機的状況にパニックになりつつも自分の体力を回復する為に吸血のダガーでボスを切りつけながら回復薬を誰に使うか考える。


 キキーモラさんに使うか、ツムリンか、それともボスに対する弱点属性を持っているボナコンか。

 だが回復させても仲間の誰しもがボスの攻撃を2回受けたらやられてしまう可能性が高い。

 皆の瀕死モーションになっている姿は俺に焦燥感を生ませる。それほどに辛そうな姿なのだ。


『誰に使ったらいいんだ!』


 内心でそう叫びながら行き場の定まらない回復薬を片手にボスを切り続け、そしてそのまま5分が経過して気が付いた。



 誰も攻撃をしていない。と。



 そう。

 ボスですら何故か攻撃の手が止まっていたのだ。


 ここまで来て俺はようやく気が付いた。

 俺が回復薬を誰に使うか迷っている状態は、ちょうどゲームでは選択肢が出て戦闘がストップしている状態なのだと。


 俺は覚醒したかのように叫んだ。


「あーー! 誰にーー回復薬をーー使おうかなー!」


 叫びながら吸血のダガーをボスに突き立て続けるのだった。 




 結果――


 

「勝ってしまった……」


 手から血が出るレベルで延々孤軍奮闘。どれだけの時間切り続けていたか不明瞭だが……勝利した。

 こうして俺は回復薬の使い方を知ったのだった。



--*--*--


「はぁ……」

「どうしたんだよ? 溜息なんかついてさぁ。」


 ゴブ吉の声に、なんとなしに頭を掻く。

 裏ワザに近い方法だけれど『超級者向け』クエストすらクリアすることが出来るようになったが、大型レイドは相変わらず発生しなかった。

 そして超級者向け素材が手に入ったことで、ツムリンの進化に必要な素材も一気に手に入り、キキーモラさんとツムリンもいつでも覚醒進化できるようになった。二人のレベルも時機に最高に到達するだろう。


 超級者向けをクリアしたことでほぼほぼ先が見え、目標や目的が無くなったように思える今、どうしても考えてしまうのだ。


 『何故、俺がこのスマホのゲームの中にいるのだろうか』という事を。

 しかもこれまでの俺のプレイデータは無く、まったくのさらな状態で放り込まれた理由を。


 だがどれだけ考えても答えは無かった。

 そしていつも同じ答えに辿り付く。


「なぁゴブ吉。お前『近くの村』が気になっているんだよな?」

「あぁ。敵が襲ってないか心配だ。」

「だよなぁ……」


 ゴブ吉の懸念しているのも当然。その感情と提案に従えばメインストーリーが進行するのだから。


 メインストーリーは俺が面倒で避けていたこと。

 当時、何が面倒だったかと言うと、チュートリアルと同じように話の進行を見ながら敵が襲ってきたら倒すという流れで襲ってくるまで待つ時間が、ただひたすらに長くなるだろう事が容易に想像できて時間がもったいなかったからだ。


 そして今、それhとは別にもう一つ新しく理由が生まれてしまっている。


 このモンスターワールドのメインストーリーの大まかな流れを整理すると、メインストーリーでは、ゴブ吉の要請に従って隣の村の様子を伺いに行くとやはり敵に襲われていて助ける事になる。もちろん敵を撃破し村を救うとゴブリン達の信仰している山から敵が襲ってきている事が分かり、まずは山の麓の村に行く。すると山の麓の村は既に半壊していて襲っている敵を倒し、生き残りから次の目的地である山の中腹の祠を聞きだし目指す。


 簡単にまとめれば、最初の村→村→麓の村→祠と移動し、その都度面倒くさいタイミングで現れる敵を撃破して行く事になるのだが、懸念している事は進むにつれそこに住んでいるゴブリン達の犠牲がどんどん大きくなるということ。

 特に最後の祠ではゴブ吉の両親が死ぬことになっていたはず。


 ゴブリン村で過ごしていて、どうにもゴブリン達に愛着がわいてしまっていて、あまり不幸な目にあってほしくはない。だが、回復薬の選択で戦闘が止まったように、ここはスマホゲームの世界。メインストーリーを進めれば否が応でも話は進んでゆくはず。


 逆に言えばメインストーリーを進めない限り、一番平和な状態が続くのだ。


 だが、この一番平和な状態でできる事はコイン集めに素材集め、通常ガチャを回し続ける事。村のゴブリンに道具を作ったり骨や岩、そしてハリネズミを成長させる事くらいしかなくなるだろう。

 召喚の素材になっているゴブリンもいるから、これもまた少し気が重い。


 果たして俺は、こんな状態を作る為にこの世界に居るのだろうか?

 更新されていないとはいえ、ストーリーを進める事で、なにかが起きる可能性はないだろうか。


 ストーリーを進めればゴブリン達の犠牲が出る。

 進めなければ犠牲は無い。


 進んだとして俺の望む結果が得られるかは全く不明。

 だがしかし、このままの状態では精神的に死んでいるのと同じじゃないだろうか。


 ゴブ吉の知り合いや肉親ゴブリンの犠牲とストーリー進行を天秤にかける。

 だが天秤はどうにも動かずため息が漏れる。


「近くの村の様子を見に行くべきかなぁ……」

「おぉ、出来ればそうして欲しいもんだ。」


 呆れ気味に言葉を放つゴブ吉。

 何も知らないゴブ吉が羨ましく思えると同時に、あまりに呑気な様子に少しかんに障る。

 だが、だからといって両親を亡くすような酷な目に合えばいいとも思えない。


「はぁ……」


 天秤は揺れるだけで傾かない。

 ここ数日ずっとこうだ。


「あぁ、そうそう。

 俺の気になる近くの村だけどな、少ないけど魔宝石があったと思うぞ?」

「ほう?」


 天秤が激しく動いた。

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