11 ヌルゲー
「……え?」
シュワァァ――と中級の少しごつい仮面をつけた敵が消えていく。
今日は土曜クエスト。やはり大金を消費した不安からお金を稼ぐ事にしたのだ。
今日のクエストは土属性の敵だから金属性のキキーモラさんの攻撃はよく効く、その代わり火属性のボナコンの攻撃はいまいちとなるし被ダメージも増える。
だがレベルが上がり装備品も加わったからだろうからかボナコンの攻撃一撃で敵が消えた。
だが『今』ボナコンが攻撃した敵は、先ほどと同じ敵であるにも関わらず一撃では倒せなかった。
ツムリンやキキーモラさんが一撃で葬っていく中、ボナコンの攻撃は二撃を必要とした。
最初の攻撃がクリティカル的に作用したのだろうか……それとも……
三連戦目の敵が出現し、俺は検証してみる事にした。
いつものように突進していくボナコン。
その突進して行く敵に向かって、レアリティ『R』の十字手裏剣を投げる。
さっくりと敵に刺さり、そしてボナコンの尖った角を使った突進攻撃。
敵は一撃で消えた。
ツムリンやキキーモラさんが敵を屠してゆく中、俺は右手で拳を作り口元に運ぶ。久しく取っていなかった考えるポーズだ。
「おい! 未登録ユーザー! さっさと素材回収しろよ! キキーモラさんが見てるぞ!」
ゴブ野郎が小声で俺をせっつく。
だが、サボっているのではなく俺は考えているのだ。これはキキーモラさんも見逃してくれるはずだ。
とは思うけれど、ちょっと目をやったらじっと見られてたので拾います。拾ってから考えます。
慌てて素材を回収し扉をくぐり神殿へと帰還した。
そして俺はキキーモラさんに誤解されたかもしれない恐れを払拭すべく、頭に過っていた考えを話す事にした。
「みんな。ちょっといいかな――」
--*--*--
日曜。
日曜クエストは基本的に属性素材ではなく『経験値素材』『希少素材』を目的としたクエストに変わる。
希少素材の中には、仲間モンスターのレベル上限を上げる覚醒進化、つまり『限界突破』に必要になる共通素材なども多く出てくる。
「ふんっ!」
俺はまるでドスを構えるようにスティレットを持って突貫。そして敵に深々とを突きたてると、程なく敵は消え始めた。
俺の攻撃が敵に止めを刺したのだ。
「ふふふ………ふははは……しゃーーっしゃっしゃっしゃっしゃ!」
そう。まるで効いていなかった俺の攻撃は『武器』を介していれば有効打となったのだ。
そして俺は敵に認知されないから死角から構造的に弱点らしきところを見定めてクリティカルアタックを繰り出す事ができる。これぞまさしく不可視の攻撃だ。
「いいゾ~……いいゾ~……」
独り言を呟きながら薄ら笑いで敵を求める。
なんせ危険もなく一方的に敵を攻撃できるのだ。
これまではキキーモラさん達が倒した敵が落とす素材回収しかできなかった。つまり『誰でもできる仕事』『変わりがきく仕事』『重要度の低い仕事』『とりあえず振られた仕事』雑務をしていた。底辺の仕事と揶揄されるような仕事内容だ。
それがどうだ。今俺がしているのは『俺にしかできない』オンリーワンの仕事。しかも自分に危険は無く、とても楽にこなすことができる。こんな万能感は無い。
「しゃしゃしゃしゃしゃ!」
笑いながら新たに出現した敵に突貫し攻撃を開始する。
攻撃力は武器依存の為『R』程度の武器の俺が一撃で敵を倒す事は不可能だが、何度でも思うままに攻撃はできる。
塵も積もれば山となる。一度でダメなら何度でもだ。
「しゃーーっしゃっしゃっしゃっ! 無敵無敵ぃ!」
この日は調子に乗った俺の提案により上級者向けクエストに挑戦する事になるのだった。
--*--*--
「火力不足が否めません。」
俺は無敵ではなかった。
かなり危なかった。
すみませんでした。
ごめんなさい。
「大丈夫でしたか? 未登録ユーザ―様。」
「はっはっは。ピクピクしていたな。はっはっは。」
「私達と比べると随分もろいようですから無理はしないように気をつけてください。」
主に俺だけが。
何が起きたかといえば、上級者向けクエストには3戦目にボスが出現するようになるのだが、そのボスは規定ターンが経過すると『必殺技』を使ってくるのだ。
『全体攻撃』の広範囲の必殺技を。
あれ、ボスの裏でこっそり延々切ってようが届くのね。
スッゴイ痛かった。
痛さのあまり思わず使用制限をかけていた味方の必殺技を解禁するくらい痛かった。
ちなみに、なぜ必殺技の使用制限をかけていたかというとボナコンの固有必殺技が『灼熱うんこ』だったからだ。
『灼熱うんこ』は本当にヤバいんだ。ニオイが。離れてても目に染みて涙が出るくらいヤバイ。二次被害がヒドイんだ。主になぜか俺だけ。
ただ、そんなボナコンの必殺技も武器を装備していたおかげで、ただの突進系必殺技に変わっていたから発動できた。うん。解禁するのを忘れていただけとも言う。
「うん有難う。みんな有難う。調子に乗って冷や水ぶっかかる気持ちがとてもよくわかりました。なので一刻も早く火力を増強したいです。」
つまり結論として、俺が安全に過ごす為には、敵も味方も必殺技を使う前に敵を殲滅する必要がある。
その為にできることは、俺がレアリティの高い強力な『武器』手に入れる事だった。
「ということで、武器のレアガチャを回そう。」
3000魔宝石を保持していればいい俺は、後5回は挑戦できると考え俺の活躍と安寧の為にレアガチャを回す事を提言する。すると、いつも通り特に反対も無く、皆でガチャの間へと移動するのだった。
ガチャの間でモンスターガチャに目を惹かれながらも涙を呑んで武器ガチャに魔宝石をいれていく。
やはり魔宝石を入れている最中は『これでモンスターガチャ回したら女体でるかもしれないんだよな』とかそう言った思いが何度も頭を過る。だが、インビジブルアタックで活躍し覇道を歩む為には伝説級の武器が必要なんだ! 俺には武器が必要なんだ! と、強く何度も言い聞かせて自分を納得させる。
それ以上の未練が起きる前にガチャを回してオーブを手に取る。
いつも通りにヒビが入り、魔法陣に向けて投げた。
「お願いお願いお願いお願い! 俺が活躍する為にカッコイイ武器を!」
大きく口に出して祈りを捧げると、カカっ! と激しい閃光が走った。それは普通に白い光を放つ前だった。
「ふぉっ!?」
いつもよりも派手な演出に目を見開く。
オーブが虹色の光を放ち始める。
「ふぉおおおおおおおっ!!」
『SSR』以上のレアリティ確定演出だ。
ぶっちゃけこれまでの運営の対応から期待は薄くなっていた。もちろん良い物が出て欲しいと期待はしているのだがボナコン然り、キキーモラさん然り『どうせ良いのは出ないんだろうな』という心の予防線が生まれていたのだ。
だが、この演出は確実に良い物がでる演出。
思わず胸に手を当て、目を閉じて天を仰ぐ。
「あぁ……運営……やっぱりいたんだね……」
溢れる光の中、ジワリと目元が少しだけ痺れるような気がした。
そして光に包まれる。
温かな光に包まれていると不思議と心の中に温かさが生まれ、色々な事が些細な事だったように思えてくる。
「今にして考えればキキーモラさんも俺の欲望を別にして考えれば、正直当たりだったようにも思える。今回もきっと俺に必要な武器を与えてくれるんだね……」
光が収まったのを瞼の裏から感じ、ゆっくりと目を開く。
そして俺は微笑みながら魔法陣へと向かい、その場にあった武器を右手で取る。
「うん……うん。」
左手に持ちかえ、右手で拳を作り口元に運び、左手を動かして色々な角度から武器を眺める。
どこか『火』をイメージさせるような荘厳な作りに力強さを感じずにはいられない。この武器を装備する者は確実に強力な戦士となるだろう。そう確信させる力がある。
「うん……素晴らしい。
素晴らしい……
……けど、これ『角』だね。」
「おぉっ! すげぇ! 『火竜の角』じゃねぇか! 火属性のヤツが装備すれば倍以上の加護を得られるっていう伝説級の武器だぜ!」
「よし静かにしろゴブ野郎。俺は今とてもナイーブだぞ。」
ゴブ野郎を冷静に制しつつ右手で頭を掻きながら考え、なんとか手で持ったり、はたまた額に装備できないか頑張ってみる。
結局握る形に落ち着くが自分でもまだ普通の剣の方が武器として持てているように感じてしまう。
頭の中では既に『ん。ムリじゃね?』的な言葉何度も往復している。だが諦めきれない。
「……どうかな? ……俺…強そう?」
「えっと……ちょっと……」
「はっはっはっは! なんとも無理があるな!」
「無様です。」
「おいおい。角は角を装備できるモンスターしか装備できないだろ? 人型のお前はどう考えたって無理に決まってるじゃねぇか!」
皆の雰囲気で俺は悟った。
「こんっ! ちくしょーーっ!」
『火竜の角』を地面に叩きつけるのだった。