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1 なんぞ?


「おっ、おっ、おっ?」


 右を見ても左を見ても、広がるは風に草が波打つ大平原。

 爽やかな緑の香りが鼻をくすぐり、雄大な自然を感じずにはいられない。


「……はて?」


 つい首を傾げてみれど答えは見つからない。答えどころか求める問いすら何か分からない。何故に自分がこんなところにいるかも分からない。

 少しでもヒントが欲しい気持ちから目を閉じ、ここに至るまでの行動を思い返してみる。


 まず仕事が終わり帰宅の為に電車に乗ろうと駅に向かった。駅でちょいお高めスィーツの売店を横目に改札を通り、家の近くのコンビニでビールとホットスナック、ついでにプリンを買おうと決め電車に乗ろうとした。

 無事に電車に乗り揺られていると、車内広告でいくつかやっているスマホゲームの中でちょうどやってるゲームの広告が流れたので暇つぶしに起動しポチポチやってると、家のある駅に到着したから画面見ながら降りた。


 降りたら……ここに居た。


「おっ? おっ!? おっ! どゆこと!?」


 思い返しても何の解決にもならなかった不安から今度は両手も一緒に顔と合わせて右往左往してみる。

 そして後ろにまだ電車があるかもしれないと思いつき振り返ってみた。


 もちろん電車は無い。というか、手に持っていたはずのスマホもカバンも無い。ポケットに入れていた財布も無い。かろうじて着ている服以外、何も所持品が無い。


「おーーっ!?」


 混乱の極みに至り思わず叫んだ。



「うぉっ!? なんだお前!」

「おっ?」


 そこには緑色の小人の姿。

 体長は40cm程で、草の高さに丁度隠れるような大きさだった。

 目は三白眼で口は耳まで裂け、誕生日のパーティグッズのような三角帽をかぶっている。


「ぉお?」


 このゴブリンに見覚えがあった。

 情報処理に脳がフル稼働を始めると、そんな俺を尻目にゴブリンはどこか訝しげな雰囲気で口を開く。


「おいおいお前、一体なにもんだ? 見なれねぇ恰好だなぁ。それにマヌケそうな面してる。どっから来たんだ?」

「あっ。ゴブきちだ。コイツ。」


 思い出した。

 コイツ。俺がやってたスマホゲーム『モンスターワールド』の進行役のキャラクター、ゴブリンのゴブ吉じゃないか。


「な、なんで俺の名前を知ってるんだっ!? お、お前……さてはただもんじゃないな!? 名を名乗りやがれ!」


 俺の言葉を聞いたゴブ吉が驚き、二歩三歩と後ずさりながら大きな声を出した。

 俺はそんなゴブ吉に向けて両手の平を向ける。


「あ、うん。ちょっと待ってもらっていい? 少し整理するから。」

「えっ?」


 呆気にとられたような表情のゴブ吉から視線を外し、右手で軽く拳を作り、そのまま親指と人差し指で唇を押さえる。

 不思議とこの恰好をすると、とても考えているような気がしてくるから考える時の癖になっている。


「ん~~……えっと。なんだ。」


 だが、考えている恰好をしているだけで思考は何もまとまらない。

 チラっとゴブ吉を見ると、こっちを見ながらオロオロしてはいるが、ちゃんと待ってくれている。


 何度かチラ見するとその度にゴブ吉と目があい、ゴブ吉も何か言おうとしているように見えた。

 ゴブ吉が意を決して口を開こうとしたので右手の人差し指を伸ばし視線を送りゴブ吉の言葉を発そうとする意欲を止める。


 とりあえず色々言われる前に適当に確認を始めよう。


「ごめんねー。ちょーっと、確認したいんだけど……もしかしてゴブ吉は住んでたモンスターの村の危機を救う為に、特別な力を持つという勇者を探しに出てたり……する系?」

「おっ!? おま、なんd――」


 目を見開き慌てたように口を開くゴブ吉に両手を開いて振り再度ゴブ吉を制する。


「いやいやいやいやいや、そういうのいいから。ね? 『お、おまえ何者だ!』的なのは最後にちゃんと答えるから、今は俺の質問に答えてくれるだけでいいから。ね? まだちゃんと答えてもらってないよ~?」

「お、お? ……おう。」


 ゴブ吉は腑に落ちないような感じで視界を何度も外し、焦りからか首や鼻を掻く。

 なんとなく正解したとわかっているけれど俺はバッチリしっかりゴブ吉を見つめながら眉毛両方と手を動かし『ホラ、ホラ、早く答えを言え』と回答を促す。


「……確かに…そうだけど。」

「ん、ん。ありがと。」


 再度右手で軽く拳を握り親指と人差し指で唇を押さえる。

 

「あの――」

「あ。ちょっと待って。考えてるから。」


 左手の平をゴブ吉に向け言葉を止める。


 どうやら、かなり前の事で記憶がおぼろげになっているけれど、スマホゲームのプレイ開始時のチュートリアルっぽい。

 主人公という名のプレーヤーがゴブ吉と出会い全てが始まるシーンのように思える。確かグダグダと浅いやりとりをして、なんとなく仲間を手に入れる流れになって、そのまま流れで冒険に出るヤツだ。


 スマホゲームなんてどれも似た様なものなので大抵の場合は複数プレイしているから、開始から一年ほどゆるーくやっているゲームのオープニングなど詳しく覚えているやつなどこの世に存在しない。だが、賢い俺はどうにか覚えていたようだ。流石だ。


 確かゴブ吉が出てくるゲームは簡単にまとめれば、悪いモンスターが湧き出るようになって世界が大変。良いモンスターを仲間にして悪いモンスターを倒して! というスマホゲームだ。


 そう。スマホゲーム。


 ……スマホゲーム?


 あの終わりがなく、延々課金を求められるゲーム?


 ある程度ストーリを進めると『後から更新するよ』的に有耶無耶になっていて、結局デイリーイベント、ウィークリーイベントなどで遊ばせて、定期イベントの大人数参加のレイドをクリアさせる為に無茶な課金をさせようとする仕組みのスマホアプリ?


 イラストレーターに数千円か数万円で依頼したイラストの為だけに、多額の金を毟り取るアコギな商売の代表のアレ?

 もう、そんな重課金するなら直接イラストレーターに依頼しろよ。イラストレーターだって数万円もらえれば喜んで乳首券発行するよ?



 ――にわかに信じがたいが俺は、そんな世界に足を踏み入れている可能性が高い。いや、踏み入れてしまったようだ。


「あの――」

「んー、ちょっと待ってくれるかな? すっごく大事な事考えてるから。

 今どうにも明晰夢めいせきむ見てるみたいだから。」


「えっと――」

「起きろ! 起きろ! 俺っ!」


 自分に平手打ちしながら呼び掛ける。


「ちょっ――」

「いって…結構(いた)ー……夢でも痛いもんだな。ほら起きろ! 俺! 起きろ! 俺!」


 言葉に合わせて自分をつ。かなり痛い。


「なぁ――」

「ウェイカッ! カモンウェイカッ! 俺ッ!」


「いい加減にしろよ!」


「っ! スネーーーッ!」


 自分のすねに走った痛みに思わずしゃがみこんで脛を手で押さえる。

 ゴブリンパンチが脛にヒットしたようだ。物凄く痛い。


 なぜゴブリンパンチをされたのが分かるかというと、ゴブ吉が小さいくせに、しゃがんだ俺を見下すような目で見ているからだ。


「あぁ? ヒトが大人しくしてりゃあなんだ? コッチに質問するだけ質問して放置って何様だ?」

「…………っタイわっ!!」


 溜めに溜めた『痛い』の言葉でゴブ吉に反撃する。

 全力の大声に、ゴブ吉が顔をしかめ耳を塞ぐ。


「うるせーっ! でっけー声出すな!」


 ゴブ吉は俺の大声に負けず大声で反撃してきた。

 涙が滲みそうなくらい脛が痛いので、とりあえずさすりながらゴブ吉を恨みがましく横目で見る。


「なんだよその目。」

「いーえ……べつにぃ?」


 眉毛を全力で額に寄せ、うすら笑いで返す。


「……なんなんだよ。」

「い~え~なんでもないですけどぉ?

 いやぁ、いきなり脛とか殴るとかぁ? ゴブリンの挨拶って過激ですねぇえ? 知能低いんですかねぇ?」


 顔と唇を大袈裟に歪めながら言葉を続けると、ゴブ吉の眉間にも一気にシワが集まった。


「んっ…だよ……ラァ……」

「アァ? ……スっゾ? ラァ……」


 ビキ、ビキキ、と両者の額に青筋が走る。

 その瞬間、ゴブ吉が肩から下げていた鞄が光り出した。


「っ!?」


 ゴブ吉は慌ててカバンから光る元となっているオーブを取り出す。


「まさか……お前が……選ばれし者なのか?」

「セッ! ……ダ……ラァ……」


 構わず威嚇を続ける。


「ちょーっとー止めろよー。空気読んで? もう今そんな流れじゃないでしょう? 光ってるんだよ? オーブが?」


 ゴブ吉が落胆したように言葉を発する。


「知るかっ! ……ケェ……」

「分かった分かった。ゴメンゴメン。パンチしてゴメン。悪かった」


 早口で謝るゴブ吉。

 眉間に深いシワを刻み付けたままゴブ吉を見下す俺。


「……いや……ちょっと待ってぇ何その目。俺、謝ったよ? 今。ちゃんとさぁ。」

「…………謝るだけで許されるなんて、世界って平和だね~。

 襲ってくる悪いモンスターにも謝ってくれヴぁあ? 許してくれるかもよぉ?」


 下あごを出してのらりくらりと答えると、ゴブ吉の額に青筋が復活した。


 俺は平和主義者だ。

 けして暴力は好まない。


「ブ……ッスぞ!」

「んだぁ……ラァ……」


 暴力は悲しみの連鎖しか生まないことを知っているのだ。


 でも……ムカついたら仕方ないよね。

 それにゴブ吉って弱そうだし。


 なので



「あああああああああ」



 蹴った。



 ゴブ吉が空を舞う。

 声を上げながら飛ぶ。

 ゴブ吉が手に持っていたオーブも飛んでいる。


 なぜなら一緒に蹴ったから。

 だってゴブ吉がガードするんだもの。


「またスネっ!!」


 痛かった。

 オーブ直撃でスネ。超痛い。


「ああああああああああああああ。おうふ。」


 ゴブ吉が綺麗な放物線を描いて落下。


 体格差は力の差。この世は所詮弱肉強食。

 弱き者よ眠るがよい。


「すっだコラァ!」


 やだ。あの子、意外とどころか全然平気そうに起き上がってる。

 ナニアレ新手のグレ○リンなの? まぁいいや。もっかい蹴ろ。


「「 ん? 」」


 その時、ちょうどゴブ吉との中間の位置にオーブが浮いている事に気が付いた。

 ピィシっ! と大きな音を立て一つのヒビがオーブに入る。


「「 お? 」」


 ピシ、ピシピシピシっ! と、立て続けにヒビが走り、オーブの明るさが一段と増し、まばゆい光があたりを包み始める。


「おおっ!? 村長より預かりし選ばれし者のみが使う事ができるという召喚のオーブが割れようとしている!

 オーブは割れると同時に、選ばれし者に付き従う悪に立ち向かう力を持った者を召喚するという! その召喚のオーブが割れようとしているってことは……やっぱり! お前は選ばれし者だったのか!?」


「はい説明台詞オツ。」

「っさいっ!」


 鼻くそをほじりながら長セリフを放ったゴブ吉をねぎらったらキレられた。なんという理不尽か。

 そうこうしている間にも、オーブが金色の光を放ち始める。


「あ。コレ、アレじゃね? 金色ってSSR予告じゃね?」


 光の放ち方に特徴があった為、おもわず口に出た。

 10連なんかでは必ず目にするし普通にやってても結構見るエフェクトだ。結構見るのにどこが超超希少なんだか。


「えすえすあーる?」

「ダブルスーパーレアの略ね。つーか、まぁチュートリアル後にSSRがどれか手に入るのはテンプレだったもんな。当然か。

 まぁ、なんかよくわからんけれど従者ができるっていうのはありがたいし、じっくり見とこ。」

「ん? ん?」

「あぁ、こっちの話。気にすんなゴブ野郎。」

「おーれーゴーブー吉!」


 ゴミ野郎のキレ声とともに一際ひときわ大きな光が放たれ、天をつく光の柱が立った。

 余りの光量にたまらず腕で目を覆い隠す。


 収まった気配に、目をチカチカと眩ませながら何度も強く瞬きをしながら目を慣らす。

 正直、なんのキャラが召喚されたのかは興味津々だ

 モンスターワールドというゲームの中で、仲間となるのはもちろん冠にある通りモンスターだ。

 だが、このゲームも所詮は金を収集する為のゲーム。そのターゲットとなるのは男。つまり人間的にお色気満載なモンスター娘が沢山いるのだ。所詮は萌えゲー。男から金を集めるには『萌エロ』が手っ取り早いのは紛れもない事実だ。


 そんなことを考えていると、つい鼻もプクッ、プクっと膨らむ。


 ぶっちゃけ人間っぽいオッパイがあれば俺はそれだけでご飯3杯イケます。おかわりOKです。でもできれば、えっっっっっろいサキュバス的なおねーさんよ来いっ! 来てっ! お願いっ!


 つい、両手を組んで祈る。


 キラキラ光るのが落ち着き、召喚されたモンスターの姿が見えてきた。

 小柄の身体のフォルム。上半身にはビキニを着用し、そのビキニはネットリとしたローションのような物で濡れている。

 それだけではなく、全身がネットリヌルヌルとした光沢を放ち、どこか妖艶な雰囲気を醸し出していた。


「うぅう。ボ、ボクはちゃんとお役に立てるでしょうか……不安ですぅ。」


 キャラクター固定の登場セリフを聞いた俺は天を仰ぎ、そしてその場に崩れ落ちた。


「ボクはツムリン。よろしくね」


 ゴブ吉はツムリンに駆け寄る。


「おぉっ! 珍しいカタツムリのモンスターだ。防御力も高く、歯で削る力も強い強力なモンスターだ! スゴイっ!」

「えへへへ。」


 ゴブ吉とツムリンがキャッキャと楽しそうに手をつないで飛び跳ねる。


 だが俺は、涙を流し拳を地に打ち付けずにはいられなかった。


「男の娘じゃねーかーっ! クソがああああああああああああっ! 運っ営っ! 死ねぇっ!」

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