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夢話堂  作者: 若葉 美咲
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夢録7 白い子の神隠し


 ……なんですかね。騒がしい。まあ、いつでも騒がしいですが。

 今夜は一段と騒々しいと言いますか。隆元も疲れて眠っているでしょうし、私が行かないとでしょうね。やれ、羽織は何処へやったかな? 流石に寝間着だけだとまだ冷える。あったあった。

 よいしょ、と。夜叉白鶴。居ますか?

「ここにいるぜ。そろそろ君が起きてくるんじゃないかと思ったんだ」

 流石にそろそろ読まれますか。少し照れくさいですね。

 それにしても真夜中に呼び出してしまって申し訳ありませんね。起こしてしまうつもりはなかったのですが……。

「気にしないでくれ。俺は好きでやっている」

 そう言ってもらえると助かります。本当に夜叉白鶴は優しい。

 まあ、それは一旦置いておきましょうか。

 で、一体何が起こっているのですか?

「俺も詳しくは知らないんだ。ただ、誰かが逃げ出しただとか、お客が来ただとか。そんなことを皆が言っていたぞ?」

 逃げ出したのなら私の至らなさでしょうね。ただ、お客様だとしたらまた不思議な時間にいらっしゃる。

 さてはて、どちらでも少々困った事態だ。全く、私の睡眠時間は削れてしまいますね。

 おやおや、夜叉白鶴も眠そうだね。すまない、呼び出してしまって。もう、眠ってくれ。

「いいのかい? 手伝いは欲しいだろう?」

 欲しいですが、大丈夫ですよ。私はここの店長ですから。さあ、お休みなさい。

「じゃあ、お言葉に甘えるとするか。ありがとうな」

 はい。


 さて、お前たち。

 少し静かにしておくれ。はい、ありがとう。

 質問してもいいかい? ありがとう。助かるよ。

 じゃあ、質問するよ。先ず、ここを出ていった子がいるって本当かい? 嗚呼本当だ。鳥の掛け軸から絵が飛び立ってしまったようだね。これは困りました。

 でも、そうですね……、これはこのままにしておきましょう。帰ってきてますから。ええ、本当ですよ。あの子は賢い子ですし寂しがり屋です。

 さて、もう一つ。お店の端っこにうずくまっているのはどちら様ですか? おやおや、泥棒ですか。この光景に驚いて腰を抜かしたと。それはまた可哀そうなことを。お前たちね、いたずら好きも大概にしてもらわなければ困りますよ。店の評判が落ちてしまいます。

 さあ、お前たち。今日は十分に暴れただろう? そろそろ本体へお戻りなさい。夜叉白鶴はもう眠りにつきましたよ。そうですね、今日お利口にしてくれたら、明日は沢山遊んでやりますから。


 お待たせしました、お客様。化け物なんて言わない下さい。私は人間ですよ。幽霊ではないかなどと面白いことをおっしゃいますね。そんなことありませんよ。触ってみますか? それにほら、私は足もありますし、透けてもいないでしょう?

 はい、落ち着かれたようで何よりですよ。

 しかしまあ、このお店に泥棒に入るお客様がいるとは全く予想しておりませんでした。簡単に盗まれるとは思っていませんが、私の安眠の為に今後は戸締りをしっかりしてから眠りにつきましょう。

 え? ええ、戸締りは今までしていませんでしたから。このお店はすべての中間点に存在しております。近いと言えば何よりも近く、遠いと言えば何よりも遠いのがこのお店。おや、理解できないという顔をなさる。自覚がないというのも恐ろしいものですね。貴方は今、すべての中間点にいるというのに。

 何をお求めですか? いや、何を盗ろうと考えていらしゃったのですか?

 お金、ですか。生憎ここにお金はありません。金よりも大切なものなら五万とありますがっ!!

 いきなりナイフをかざしてくるなんて、危ないじゃないですか。思わず床に組み伏せてしまいましたが、朝までこの姿勢でいなきゃいけないとなるとお互いしんどいですね。ナイフ、放してもらっていいですか?

 言っておきますがこのお店で貴方に勝ち目などありませんよ。私はこんななりですが多少、武術には心得がありますし、傍仕えの者も相当の腕があります。何より、先ほどまで貴方がおびえていた付喪神達だって私の声に応じてくれます。夜行性の子もいますから。

 貴方の身のためでもあるんですよ。ナイフをお放しなさい。

 ああ、ほら。夜叉白鶴が起きてしまう。そしたら貴方の首と胴体は離れてしまいます。もちろん、物理的に、ですよ?

 やっと分かって下さいましたか。

 さあ、立ってください。貴方はどうやってここに迷い込んでしまったのか。そのご様子だと、帰り道も分かりますまい。

 まあ、強制的に送り返すことなら出来……嗚呼、全く困った。そういうことでしたか。絵巻から朱雀すざくが抜けた時にできた時空の歪みから入ってきてしまったのですね。

 朱雀を呼び戻さなければならないじゃないですか。そうじゃないと強制的に送り返すこともできやしない。

 お客様。大変申し訳ありません。必ず元の場所へ返します故、少々お待ちください。どうぞ大人しくしてて下さいね。これ以上の厄介ごとは敵いませんから。それにこれ以上は私とて、安全を保障しかねます。


 朱雀。呼び声に答えておくれ。おいで。手招く方に。遍くところに帰る場所はない。お前の我が家はこの紙の中。羽を休める枝はここに。おいで、近くへ。

 いくつもの場所を渡り歩いても帰る場所はここだけなのだから。幾多の星に溶け込もうとしてもそこに居場所はない。お前の居場所はここにある。

 そうだよ。鳥かごの鳥などではないお前はここからいろいろな世界を見ることが出来る。お前の帰りたい南の方角へもやがて向かうだろう。ただ、今はお休み。その羽では逃げ出すに逃げ出せない。いつか自由を手に入れたらその時は自由にしなさい。

 怒りはいないさ。誰だって自由が欲しいからね。悪いことじゃない。だってお前も私も魂があるのだから。思うままに生きたいと望むことは何も悪いことじゃない。

 さあ、今はお眠り。

 ……早くこの子の傷を癒してくれる方にお会いできればいいのですが……。こればかりは時間と運がなければなりませんね。


 お待たせしました、お客様。おや、お客様?

 いらっしゃらない。何処へ行かれてしまったのやら。

「ああ、俺に触れたもんで隠してしまったよ」

 夜叉白鶴。隠してしまうとはまた強引な。

「いいじゃないか。君だって危なかったし、俺は盗まれるのは嫌だったしな。人斬り包丁といえ、矜持ってもんがある」

 全くその通りだね。まあ、震えている手じゃ人は殺せはしないし、私だって対応できる。そんな者に触れられたくないのは分かるけど一々隠してしまうことはないだろう?

 まあ、隠してしまった人を助けることなど私ごときには出来ないけれど。でも、良かったら君が元の場所へ送っておいてくれ。気が向いたらでいいよ。夜叉白鶴。お前の神域なのだから。

「まあ、その辺は任せておいてくれ」

 任せたよ。

 しかしまあ、だから言ったのにね。付喪神達だと。安全を保障しかねる、と。

「君はちゃんと言ったじゃないか。守らなかったのは向こうだろう?」

 まあ、そうとも言いますか。今夜は朱雀が戻ってきたことだけで良しとしましょうか。

 それではお休みなさい、夜叉白鶴。

「嗚呼、お休みな」

 それでは。


「“おやすみ”だな、君も。骸になれば店主を傷つけることももう出来まい? ふふ。おっと。彼がどうなったかだって? そうだな、神隠しと言ったところか? まあ、嘘か誠かは君が決めることさ。俺じゃない。じゃあ、またいつか」




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