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夢話堂  作者: 若葉 美咲
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夢録6 鬼の落とし物


 いい天気ですね。いや、人によっては悪いというかもしれませんが。

 私が捻くれてくるからそんな風に言うのかもしれませんね。

 おや、急に風が。これは……。

 隆元、奥に下がって出てこないようにしなさい。絶対に出てこないようにね。

「それは何故ですか?」

 すまないね、説明している時間がない。とにかく言ったとおりにしておくれ。いいね、隆元?

「しかし……」

 頼むよ。さあ、奥へ。


 全く不思議なお客様もいらしゃるものです。この店はあらゆるものの真ん中に存在しますからね、時折こういうお客様が来るのですよね。

 いらっしゃいませ。っと、いきなりこれはご挨拶じゃありませんか?

 人間のくせに生意気だと? よく言われます。私は人間でもこの仕事に誇りを持っておりますから。

 今日はなんのご用事でしょうか?

「おい、店主に手を出したらさすがに許さないぜ」

 夜叉白鶴!! 何故?

「隆元が心配そうにしてたから顔を出してみただけの話だ」

 そうですか。相変わらず、夜叉白鶴は優しい。

 でも、今はお客様の御前ですよ。下がりなさい。いえ、少なくとも刀をしまいなさい。貴方の本体でもあるのですから、下らないものを斬らないようにしなさい。

 顔がいいからって舐めていると痛い目にあうぞ、ですか。顔がいいですか、ありがとうございます。

「君な、煽ってどうするんだ? おい、店主からその手を離してもらおうか」

 話の取っ掛かりになるなら怒りでも構わない、という持論だよ。だから夜叉白鶴。いちいち刀を構えなくてもいいですよ。

 この鬼が何を求めて地獄から這い上がってきたのか、私には興味がある。暴力的だといえお客様はお客様。私には接待する義務がある。

 しかし、それを踏まえた上で一言申し上げます。今のお客様、貴方にお渡しするものは何もない。ここに集うもの達も、この店の威厳も私の命すらも。貴方には何一つ渡すことはできません。私の店主としての意地です。

 それでも、私は貴方に興味がある。なぜなら今の評価は貴方の表面からしか判断できていないからです。貴方には奥があると私は思っているからだ。

 さあ、分かったらその手を私の胸ぐらから離しなさい。これは貴方がお客であるという最後の忠告ですよ。これ以降は私は貴方を店主として排除しなければなりませんよ。さあ。


 ふう。ありがとうございます。分かって頂けて嬉しいですよ。

 鬼の握力は馬鹿になりません。かなり痛いですね。ああ、夜叉白鶴平気ですから殺気はしまいなさい。

 さて、いかがいましたか?

 鬼としての誇りである鬼の金棒を無くした!? それで荒れていた、と?

「……驚きすぎて店主も言葉が出ないみたいだぜ」

 いえ、そんなわけありませんよ。しかし、困りましたね。これはかなりの問題ですよ。

 鬼の金棒には罪人を裁くため、魂に直接痛みを与えることが出来る。それと同時に怒りを司る鬼の感情を制御するリミッターにもなっています。他人の手に渡るととても困ったことになってしまいますね。

 成る程。だからうちにいらしたのですか。正しい判断ですよ。

「何でだ? 君は痛い目にあったことを忘れやすいのかい? 」

 いや、そうではないよ。さすがに痛いものは痛い。

 でもそれとこれとは置いて置かなければならない。私は店主だからね。

 それでね、何故正解と言ったのかというと、鬼の金棒は他の人の手に渡る前に狭間に流れるようにしているんだよ。すべての狭間といえば? はい、夜叉白鶴。

「そりゃあ、ここだろう?」

 そうだね。それでこの店にやってきたってことさ。


 さてお客様。ありますよ。鬼の金棒。

 お渡しいたしましょう。どうぞお気をつけ下さい。

 いえ、お代は結構ですよ。代わりに金棒、大事にしてあげて下さい。

 え……? どうしても払うのですか……。

「なら、謝罪したらどうだ? 君のせいで店主は怪我したんだぞ」

 では、それで。

 はい、ありがとうございました。

 ……またのご来店をお待ちしております。

「大分、ためらったな」

 そりゃ、私も人間ですからね。

 それでは、またいずれ……。

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