夢録5 草の見る夢
桜が咲く季節は皆、どこか忙しない。うららかな春という季節を皆せわしなく動いていく。勿体無いですね。
一年の中で最も賑わう季節。ゆっくり時の移ろいだけを眺めていたい気がしますが残念ながらそうもいかないんですよね。いえ、別に嫌なわけじゃないんですよ?
春は出会いと別れの季節なので。
いらっしゃいませ。夢話堂へようこそ。
何をお探しでしょうか?
夢で見た花ですか。黄金の花畑。嗚呼、それは菜の花かもしれませんね。
花言葉は色々ありますが“小さな幸せ”という花言葉が私は好きですね。あ、どうでもいいことでしたね。
成る程。最近なにかと菜の花の夢を見るのですか。その割に現実ではいいことが続かない、と。どうもうちの子が一枚噛んでいるような気がしますね……。
ただ、問題は菜の花がメインで作られている作品が今はないということですね。
さて、一体誰が貴方を招いたのか。いえ、大丈夫です。ここからは私達、店の者のお仕事ですので。
隆元。私は少し奥を見てくるよ。店番を頼まれてくれないかい?
「分かりました。今日は何分ざわついております故、お気をつけください」
ありがとう。
さて、と。本当に今日は騒がしいね。
さあさあ、誰がお客様を招いたんだい? おや、途端に静かになったね。成る程。
いいよ。時間はまだあるようだから。さあ、探しに行こうか。
「随分自身があるようだな? 検討がついているのかい? 」
おや、夜叉白鶴。最近は珍しくよく起きているね。調子がいいようで何よりだよ。
「いや、俺の話を聞いているかい?」
聞いてましたよ。ただ、ここで言うのは面白くない。何より、素直に夜叉白鶴が活発に出てくれるようになってくれたのが嬉しくてね。
「君は本当にずるい」
ふふふ。それは褒め言葉として取っておくことにしましょう。
さて、あまり夜叉白鶴にだけ構っているときっと探されている子が不安になってしまう。じゃ、そろそろ答えを合わせていこうか。
まず、菜の花。これは外せないね。
ではあのお客様を呼んだものは“何”か。花瓶? 絵付け? 置物? 絵画? 着物? いや、その全てが当てはまらない。
重要なのは夢で何度も訴えかけられるほど呼びかけられるほど霊力を持っていること。挙句の果てにはここに呼び寄せてしまったんだね。つまりかなり古いもの、と考えることができる。
それで少し思い出したんだよ。昔は怖い夢を遠ざけるための道具があるという言い伝えが入ってきたんだ。それで着物を仕立てている店の女将さんが余ったモンシロチョウと菜の花が描かれた布で作品を作り上げた。枕カバーとして使えるお守りをね。
忘れ去られたと思ったのかもしれないね。
「まあ、ここは道具が多いからなぁ。不安にもなるだろう」
そうだね。でも、私はここの店主だよ。どんな子も忘れるなんてしないさ。
ほら、ここにいるだろう? もう、大丈夫。お前が自分で選んだ人なら何も言わないさ。
お待たせしました。こちらがあなたの夢に影響を与えていた子です。
ええ、枕カバーですね。どうでしょう? ああ、気に入られましたか。良かった。
いえ、お代はいりません。
どうぞ、この子を大事にしてください。お願いします。
またのご来店をお待ちしております。
この話が本当か嘘か、ですか? そうですね、信じるも信じないも貴方次第です。
どうぞ、ゆっくり考えていってください。