夢録2 淀み
静かな眠りを妨げて貴方は一体何を手に入れますか、お嬢さん。
貴方が望むものは毒になる。
世界は貴方にとって優しくはない。けれども貴方は人であることを止めてはいけない。もし貴方がひとであることを止めたら、その先には暗闇しかありません。
そうですよ、馬鹿な考えは止めにして今はゆっくりと眠りなさい。さあ。
……ふう。嫌な夢に干渉されてしまいました。
「お茶でも如何ですか?」
隆元。いつもすまないね。
「いえ。今日はどのような夢に入ってしまったのですか?」
今時のお嬢さんの夢だよ。虐められてもう、後が無いようで呪いの道に進もうとしていたよ。
いや、あれはもう片足を突っ込んでいたかもしれないね。後ろに蛇の姿が見えた。今にも食べようとしていた。
「呪い……」
ああ。呪いだよ。
面白半分に書かれた雑誌の内容を信じてしまったみたいだ。
呪いは呪われ。呪術に使われたモノ達は行き場のない念を持ち主に返すことしかできない。望もうと望まなかろうと。
しかも、正しいやり方ではないから、呪いに使われる子たちが壊れてしまう。困ったな。
「なら、君が止めればいいじゃないか。君の夢に入る力ならその子を止めることなんて造作もない」
おや、珍しいですね、夜叉白鶴。こんな昼間から起きてくるなんて。それとも起こしてしまいましたかな?
「違う。寝てるのに退屈しただけさ。隆元がかまってくれないのが悪い」
「私のせいですか」
本当に仲がいいね。だけど夜叉白鶴。今の案は頂けない。私の夢見は不安定だからね。
「おい君。今のをどう見たら仲がいいに見えるんだ? 」
そこに突っ込むのが夜叉白鶴だね。まあ、それは私の主観だから置いておいていいよ。話したいのは呪いの話だ。
夢は向こうも寝ていなければならないんだよ。
「確かにな。君の言うことも一理ある」
だろう? でけど、あの呪いは気になる。少し現世に出てこようかな。
「それはなりません」
やれやれ、隆元は厳しいね。おや、夜叉白鶴までそんな目を向けないでおくれよ。
分かったよ。冗談だということにしておいて欲しいな。
「ならば俺が呼んでやろう。それだけの呪を使っているやつなら簡単に呼べる」
それは危険すぎる。おやめなさい。貴方は元々ここに羽を休めに来ているのですよ、夜叉白鶴。待ちなさい。
嗚呼、困った子だ。
隆元。すまないが厄払いの準備をしておいてくれ。
「止めなくてよいのですか?」
せっかくだから両方救うのもありだろう?
いらっしゃいませ、お嬢さん。ようこそ夢話堂へ。
以前お会いしたことがありますよね。ああ、覚えておりませんか。それは仕方ありません。
おや、そんなに怯えないで下さい。突然ここに来てしまったので驚いているのでしょう。このお店は少し特別なお店なのです。
魂が宿った物達が集まるお店だと思ってくだされば間違ってはいません。ええ。物には魂が宿ります。何にも代えがたいたったひとつの命。人間と何ら変わらない尊いものです。
ですが、物の寿命は持ち主や扱い人次第。あっという間に儚く散るものも居れば産み親の人間よりも長く生きて半悠久的な時を生きる者もいます。
貴方にも沢山の物達がいらっしゃる。本当ですよ。しかし、証明する術がありません。ですから信じるも信じないも貴方次第。
少しお付き合い頂いてもいいですか? ありがとうございます。それでは、少し昔の話をしましょう。