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夢話堂  作者: 若葉 美咲
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夢録1 失せ物


 いらっしゃいませ。ようこそ夢話堂へ。

 ここは何よりも近く何よりも遠いお店です。おや、そんな訳が分からないと言いたげな顔をしないでください。

 貴方が望んでご来店なさったのですから。

 こんな店に来る予定は無かった? おや、酷いことをおっしゃいますね。


 このお店は人と物の架け橋となるお店です。

 大切にされた物や、特別な思いが込められて作られた物には意思、いえ、魂が宿るのです。物に魂が宿ることを日本では付喪神なんて呼び方をしますね。まぁ、妖なんて呼ぶ方もいらっしゃいますが、ね。

 このお店にはそんなモノ達が期待に胸を踊らす場所であり、羽を休める場所でもあります。

 そんな怖がらないで上げてください。皆、いい子ですよ。

 どうぞごゆるりとお寛ぎ下さい。

 ええ。ご自由にお手にお取り下さい。


 おや、風が強くなってきましたね。このままでは店の中まで荒れてしまう。

悪戯っ子ですね、仕方ありませんか。風は思うままに、ですから。

 隆元。

「はい」

 窓を閉めるのを手伝ってくれるかい? どうにも落ち着かない。

「分かりました」

 すまないね。


 ん? 嗚呼、彼は人間です。幽霊でも付喪神でもございません。私の大事な相棒です。

 こうして店を続けていられるのも彼のおかげです。特に閉店後なんかは私一人じゃ回せない。騒がしくていけませんね。

 お客様が来る開店時間は皆、黙りこくってしまって。

 何分、曖昧なところに存在する店ですのでお客様も少なくて。昼のほうが静かかもしれません。

 疑うのも信じるのも自由です。全ては貴方次第。

 全ての境界線が曖昧なこの店では真実を見つけようとするほうが難しい。覗き込めば二度と戻れないところまで進みかねない。だから、全ては貴方の持つ価値観と力量でお決めなさって下さい。

 怖がらせてしまったら申し訳ありません。


 店の話は置いておきましょう。お客様、何か気になるものを見つけたようですね。

 そちらのペンダントですか。折り鶴をイメージして作られたものですね。金色の一色で作れているのに関わらず、光を反射して何色にも見える。美しいものです。

 おや、貴方はこれに見覚えがあるようですね。ああ、捨ててしまった物とよく似ている、と。

 番になる予定の方から貰ったものなのですね。浮気していると思って海に投げ捨てた、と。でも、それが勘違いだったのですね……。

 それはそれは。道理でこの子と共感する。

 このペンダント。貴方によくお似合いになる。どうぞ貴方がお持ち下さい。

 いえ、お代は結構です。その子も行きたがっておりますから。

 どうしてもお代を払うとおっしゃるなら、どうぞそのペンダント。大事にして下さい。もう二度と捨てることのないように。


 ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。

 我々は一同、ここで待っております。




「いいのですか。あのお客様は道具をあまり大切にするようではありませんしたが」

 確かにね。ひと時の感情に流されて物を海に放ってしまうようなお方だからね。でも、この再開を求めたのはあの子だ。

 ペンダントであるあの子は人間を許すことを選んだ。そして、あの主の傍に居ることを望んだ。

 人を許し、その傍にあることに誇りを持つ。人間以上に人間らしいことだと思うよ。


 使い手がどうであれ、物たちは使われることに意味がある。

 それ故にどんな主にも何処までも忠実になれる。そんな悲しくも優しい性なんだよ。

 この店の本当のお客様はもしかしたら人ではないのかもしれないね。

「そうですね。さて、そろそろ店じまいでもしますかな? 」

 そうだね。さあ、片付けようか。


 この話が本当かどうか決めるのは全て貴方次第。今回のお話はここまでにしましょう。お休みなさいませ。

 貴方も、もしかしたらこの店に呼ばれるかもしれませんよ。

 それではまた……。


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