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実は私は?



  ***



 とりあえず昨日のやり取りを踏まえ一晩眠らずに考えた結果として、彼女からは反乱軍についてのなんの情報も得られそうにはないということはわかった。なので、ノワールは。 


「今日の朝食はオムレツにしてみた。ああ、ところで君はどうして、反乱軍になど所属しているのだ?」


「……唐突ですね、大佐さん。そしてふわとろですね」


「ふむ、自信作だ。さ、熱いうちに召し上がれ。尋問は食事が済んだらにしよう」


「はい、いただきます」


 タンポポオムレツを振舞いながら、彼女自身の経緯について尋問してみることにして……いや、これはあれだ。あくまで彼女は機密情報的なアレをなにも知らないということだから、そういった観点でのアプローチは諦めて、いち反乱軍兵士の実態調査に切り替えただけなのだ。


 つまりこうして親密に食事を共にしながらも、油断を誘い、そして情報を持たない捕虜からもどんな些細であれなにかしらの情報を引き抜く尋問テクニック、みたいな。そういうことだ、わかったか。なので異論は一切認めないし、受け付けない。

 

 なぜならこれはあくまで作戦であり、尋問。決して彼女を手放したくないとか、一緒にご飯が食べたかったからとか、そのための言い訳とかではないのであしからず。


 ……と、オムレツをリリィベルと共に食しながら心の中での説明終了。いついかなるときでも、ノワールは帝国軍大佐としての本懐を忘れはしないのだ。だから、


「……ごちそうさまです、すごくおいしかったです」


「口に合ってなによりだ。では、食後のお茶を淹れよう」


「え……あの、尋問は」


「何を言っているんだ君は、喉が渇いていたらせっかくの情報もきちんと声に出して言えないだろう? だからまずは紅茶で喉を潤しなさい。ローズマリーでいいかな?」


「あ、はい……いただきます」


 こうして食後のお茶を用意するのも、作戦の内なのだ。捕虜の衛生管理も忘れない、それが出来る男、つまりは私だから――文句があるやつは前に出ろ、撃ち殺してやる。と、ノワールが邪魔者を排除する気まんまんで紅茶を用意していると、


「……わたしが反乱軍に入ったのは、母の影響だと思います」


「唐突だな、君は」


「大佐さんほどじゃありません。というかわたしは、捕虜ですから」


「そ、それはそうだが……ふむ、では仕方ない。お茶にしながら、尋問を開始しようか」


「はい……あと、笑わないでくれますか?」


「うん?」


 なぜかリリィベルは、少しもじもじと頬を赤らめて指先を遊ばせて。


「……少しでも大佐さんが知りたいと仰ったことは、せめてお話したいので。わたしの身の上話くらいなら、いくらでもお話したいんです。命を救っていただいているお礼に、わたしのすべてを、大佐さんに知ってもらいたいんです」


「……!」


 こんなことを、言い始めて――す、べ、て、だと!? そのキーワードにノワールの妄想が、加速して。


「そういうことは、結婚してからでどうだろうか」


「はい?」


「あ、いやなんでもない」


 うっかり口が滑って、はいいまのなし。手を振って。


「それで、ですね。わたしの母も、反乱軍なんです」


 そんなノワールの様子を気にしながらもテーブルに座ったまま、リリィベルは世間話でもするような感じで話始めて……まあ、いいか。なんにせよこれで情報は手に入るわけだ。


 このままの流れで、好きな色とか、犬と猫どっちが好きかとか、洋菓子と和菓子はどちらが好きかとか、そういった反乱軍の情報を洗いざらい吐いてもらおうか……あと、可能なら好みの男性のタイプも聞きたいところだ。というかそれが一番重要だ。今回の尋問の最大の目的と言ってもいい。


 なのでぶっちゃけ母親のことなどどうでもいいし、聞き流すつもりでしかなかったのだが、


「君の母君も、かい?」


「はい、というか母が反乱軍のリーダーでして」


「そうか、母君がリーダーなのか……それは大変だな」


「はい」


「……」


「……」


 ふたり揃って、紅茶を含む。数秒、沈黙して。


「……いま、君の母君がなんだと?」


「はい、母が反乱軍のリーダーをやってまして」


 事も無げ、リリィベルはそう返してきて……ふっ、とノワールは笑みを浮かべ。


「……はっ、はは」


「……大佐さん?」


「ははははははっ!」


「大佐さん、楽しそうです」


 もう、ノワールは笑うしかなくなって。



 ――とんでもない情報が、ぽろっと茶のみ話で明かされました。

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