尋問ですから
***
そう、これはあくまで作戦。彼女を油断させるための作戦、なのだ。
わざと反乱軍とは関係のない話や情報をしゃべらせて、そうしてうっかり緩んだ心の隙、その間隙に必要な機密情報を聞き出すという作戦だ。なので、
「……わたしは、リリィベルといいます。親しいものは、リリィと呼びます。年齢は十七歳です」
「リリィベル……ふむ、思ったよりも若いな。私の五つ下か。む、口元にクリームが……」
「では、大佐さんは二十二歳、わたしよりお兄ちゃんですね。あ、すみませんお手間を……このドライフルーツのケーキおいしいです」
「ああ、謝らなくてもいい。それより気に入ったようでなによりだ。それとよければ紅茶でも飲まないか? 実はいい茶葉が手に入ってね、このケーキにもきっと合うと思うんだが」
「……いただきます」
こうして手ずから運んだテーブルと椅子にふたりで掛けて、ケーキを用意して最高級の茶葉で淹れた紅茶、それを新品のティーセットに注いで振舞っているもの。小さな唇に生クリームが付いているのを見つけて、それをハンカチで拭いてやっているのも。
「……くしゅんっ」
「む、冷えるか……いかんな、風邪を引いてしまってはせっかく尋問しても正しい情報が手に入らない可能性がある……待っていなさい!」
リリィベルがくしゃみをして、小さく肩を震わせればすぐさま長い階段を駆け上がり、入り口を守っていた兵士が慌てて立ちあがり、
「た、大佐殿、なにかありましたか?」
「気にするな、そのまま見張りを続けろ! それと今日から私以外、最深部牢獄への立ち入りを禁ずる! もし私以外が入ろうした場合、撃ち殺せ!」
「はっ、はい! 了解しました!」
さらっと立ち入り禁止と射殺の命令を下しつつ、急ぎ部屋に戻り一番手触りの良いブランケットとティッシュの箱を抱きかかえ鬼の形相。長い脚を生かしたクイックターンを決めて、また入り口へと舞い戻り。
「た、大佐殿! おかえりなさい!」
「誰も入れていないな!?」
「はっ!」
「よくやった、貴様を二階級特進およびこの入り口を守る私直轄の守護隊長に任命する! 死ぬ気で守れ!」
「こ、光栄であります! 必ずや死守します!」
職権乱用、こうしてしっかりと入り口塞いでおくのも。二段飛ばし、少しでも早くと階段を駆け下りていくのも。着くや否や、ふわっとリリィベルの肩に先ほどのブランケットを羽織わせてやりながら、
「さ、これで暖かいだろう」
「あ、ありがとうございます……」
「それとほら、鼻をかみなさい。鼻声では、尋問しても正しく聞き取ることができない可能性があるからな。はい、ちーん」
ちゃんと鼻をかませてやるのも、見ればカップの中身がなくなっていることに気づいてすぐにおかわりを注いでやるのも。ぜんぶ、ぜんぶ。
「わたしは、こんなにおもてなしされてしまってよいのでしょうか……?」
「なにを言っているのだ君は? さっきから言っているだろう」
――これは尋問なんだから、なんの問題もないのだ。