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もっと、見たいんです。



   ***



 ――あの世への片道切符を手に旅立ちかけたノワールだったが、なんとか(ヴェルメイユの友情の心臓マッサージ、という名の豪腕鉄槌によって)現世へとカンバックすることに成功していた。


 そして痛む胸を押さえながら、隠すつもりもない不機嫌顔。ノワールはしぶしぶと仕方なしにもう二つばかりヴェルメイユに椅子を持ってこさせ、黒、金、白、紅。いつものテーブルが四人がけに変わり四色の頭が揃ったところで、だ。


「……各自、もう好きにすればいい。私はもう、どうなろうが知らん」


「なんだ、なにを拗ねているんだノワール? もしかして痛かったか?」


「ああ、痛いな。どこかの馬鹿者ふたりのせいで頭が痛くてしょうがない!」


 肩肘ついて、ノワールは胸の次に痛む頭も抱えるしかない。本当、どうしてこうなるんだ。どこで私は間違えたのだろうか……と、まったく予想だにしていなかった現在の状況にイライラは止まらなくて。


 そこに加えて、ここに揃った面々はといえば。


「頭痛薬あるわよー? 私が口移ししてあげましょうか?」


「なんだ、ブランシュ中尉。女子がそんなことをするものではない。その役目、俺が変わろう」


「……ジョークが冴えてるわね」


「俺はいつだって、何事にも本気だ。しかし女子がやるのはまずいので、男子の俺が受け持つべきだと思ったのだが……まずいか?」


「いや、まずくはないけれど……むしろ私としてはおいしいのだけれど。でゅふっ」 


「……あの、では、代わりにわたしがしましょうか?」


「……あんたがしたら、頭痛は治っても今度こそノワールが死んじゃうからやめときなさい。見なさい」


「……大佐さん、鼻血が出ています。大丈夫ですか?」


「……そっとしておいてくれ」


 こんなやつら、ばっかりで。


 しかもポタポタと妄想の弊害か、軽く鼻血が出たノワールは三人から顔を逸らす。そしてしみじみ思うのだ……ここには変態と脳筋と天然しかいない。これは極めて危険な組み合わせだ。果たして自分ひとりで、これを御することが出来るものか……というかこの状況で尋問なんか出来るのか、と。悩むが。


「ともかくノワール、そういうわけで頭痛と鼻血を止めるためにも、とりあえず私と口移ししましょ? さあ、さあ、さあ! ハリーハリーハリー!」


「……ヴェルメイユ」


「あいさ、いつものだな」


「ちょっ、また……やあああっ、高い高いすんなあっ!」


「ははははっ、軽いなブランシュ中尉。どうする、ノワール?」


「回せ、今度は吐くまでやってもかまわんぞ」


「よしきた!」


「よしきてない! え、うそ、ま、あ―――――っ!」


 グルングルンと高く持ち上げられて回るブランシュと、笑顔で「そーれ!」と回すヴェルメイユの姿に……あ、これは無理だな。すぐさまノワールは諦めて。


 そもそもこんなやつらがいて、まともな尋問なんかできるはずあるか、と。また頭を抱えてげんなりとした顔を浮かべて。


 だって本来なら絶対に交じり合うはずのない三者がここにいるのだ。何においても阻止すべき状況がここにはあるのだ。なんだこれは、なんて悲劇だ。いやあるいは喜劇か。カタルシスに浸るよりもいっそ笑ってしまうほうが正しいような現状に、ノワールはなす術もなくて。


「……大佐さん」


「ん?」


 と、そんな笑うべきか悲しむべきかどうすべきかで悩むノワールの服の袖を、ちょいちょいっと細い指先が引っ張ってきて。見てみれば。


「……どうしたのだ?」


「いえ、なんと言いましょうか」


 リリィベルが、その宝石と見紛う美しい青い瞳でまっすぐ射抜くように見つめてきて。なにやらぱくぱくとうまく言葉に出来ない様子、何度か小さな口を開閉してみせていて。ぱちり、二重の瞼が弾くように一度瞬いたとき。


「……そんなお顔もするんだなあ、と思いまして」


「……どんな顔だ?」


 ぽやーんとした顔でそう言ったリリィベルに、少なくともひどい顔しかしていないと思うんだが……いま自分は、どんな顔を見せていた? とノワールが自分の顔を触りながら首を傾げてみれば、そっと。


「いろいろ、です……ふたりのときには見せてくれない大佐さんのお顔が見れて、わたしはいろんなお顔が見れて、いますごく楽しいです」


 幸せそうな顔で微笑みながら重ねるように、ノワールが顔に触れた手に小さなリリィベルの手が触れて――ボンッ! とノワールの頭上から湯気が吹き上がり。


「ノワール、許して、止めて、私、三半規管、も、よ、よわっ、弱いの、よおっ!」


「だそうだ! どうするノワール? ……ノワール?」


 相変わらずくるくる回るブランシュからのSOSに、ヴェルメイユが訊いてくる、がしかし。そのときすでにノワールは。


「大佐さんが、真っ赤になって目を回してしまいました」


「おまえふざけんなあ―――っ! ……うぷっ」


「あーはっはっは!」


 吐く寸前のブランシュよりも前に、触れたリリィベルの手から伝わるその熱に。早々と目が回って倒れてしまっていたのだった。


 その後、ノワールが目を覚ましたときブランシュがどうなっていたかは……極秘事項ゆえ、伏せるとする。



 ――見せた顔は、いくつだろうか。見せてもらった顔は、いくつだろうか。数える意味は、等しくなくとも意味はない。

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