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それでも縁というのです。



   ***



 一言で言うならば、なにもかもが爽やか。それがヴェルメイユという男だ。


 ノワール以上の長身で、細く見えるがその実筋肉質。貴族顔負けの端正さでありながら無邪気な子供らしさが滲むその顔立ち。言動行動何もかもが真っ直ぐで、少年のような心を持った男だ。


 それでいて軍人としての資質は天性の才か、武勇においては並ぶもの無しと評されるほどの戦歴を誇り。たぶん一対一でこの男に適う者など帝国には存在しないとまで言わしめる程で。


 そして、そんなやつがノワールたちに何の用かと思えば。


「……狭いな」


「すまないノワール、どうせ基地に向かうのだから一緒でいいと思ったんだが……俺が乗るとさすがにキツイな」


 なんでも所用でノワールたちの基地に行きたい、のだそうな。なので、ふたりの乗っていた車に同乗させて欲しい、ということだったのだが……いかんせん、この男の図体がでかいだけに手狭で。


 後部座席に三人並び、両端にノワールとヴェルメイユ、そして挟むようにして真ん中にブランシュという形になっていて。


「すまないな、ブランシュ中尉も苦しいだろう」


「いいえ、問題ないわ……むしろいい男ふたりにサンドウィッチ状態……はあはあ、なにこれたまんない。右に黒髪鬼畜眼鏡、左に爽やかイケメン……ふ、ふふ、腐っちゃう」


 しかし圧迫感を感じているのは男ふたりのみで、真ん中の虚弱女はなにやら満足そうに息を荒げてみせていて……ああ、車内の空気が淀んでいる。ノワールは、耐え切れなくて。


「……すでに手遅れなほど腐りきっているだろう。すまないヴェルメイユ、そっちのドア開けてくれ。捨てるものがある」


「ん? ゴミか? ポイ捨ては感心しないな」


「問題ない、放っておけば母なる大地に帰るものだからな」


「そうなのか? わかった、では手伝おう」


 走行中にも関わらず、ヴェルメイユは爽やかな笑顔でドアを開ける。「で、捨てるものは?」とノワールに聞いてくる。なのでノワールは親指立ててくいっと、


「……へ?」


 窓の外に視線を逃がしながらも自分の隣の腐ったものを指し示してみせて、「なるほど」とヴェルメイユは頷いてブランシュの手を握って。


「え、ちょ、え……ノワール? ヴェルメイユ?」


「大丈夫だブランシュ中尉、優しくするから」


「いやん……そんな優しい顔で甘い台詞なんて……」


 ブランシュが、言いかけると同時。ひょいっ、と小柄なその身体をヴェルメイユは抱き上げて。え? と驚く腐ったものを車外のほうへと移動させながら、ゴオオッと高速で滑り流れる地面が見えて。


「投げたほうがいいだろうか? あるいはそのまま転がすようにしたほうが?」


「捨てる気? 私を捨てる気なのね? そうなのね? そんな爽やかスマイルで、なんて攻めを強要するの!」


 傍から聞けばゴミでも捨てるような選択肢に、やっとブランシュは自身の運命に気がついて。いーやーだー! 騒ぎ出して。しかしその顔は、なぜか恍惚とした……とんでもなく嬉しそうな顔で。


「ねえ、ノワール冗談よね? まさか本当に投げ捨てたりしないよね? だって死んじゃうよね? 気持ちいいのは間違いないけれど!」


「……うるさいから、放り投げるほうで。死なない程度、しかしなるべく遠くまでな。君なら可能だろう」


「よしきた、それじゃいくぞブランシュ中尉」


「うそうそうそうそっ、そんなことされたら気持ちよすぎて死んじゃうから! っていうかノワール、この男ってば目がマジなんですけれど!?」


「俺は、いつだって本気さ!」


「だそうだ、よかったなブランシュ。なに、彼も士官学校以来の旧友じゃないか、もっと信頼してやれ」


「この男には冗談が通じないことだけは信頼してるわよっ!」


 いやあぁぁ~……と、ブランシュの悲鳴が木霊したあたりで。


「ノワール、こんな感じでいいか?」


「上出来だ、これで少しは大人しくなるだろう」


 バンッとヴェルメイユはドアを閉める。そのおかげか借りてきた猫のように怯えて大人しくなったブランシュをそっと席に戻してやって、


「いやあ、懐かしいなこのやり取り。仕官時代を思い出したよ」


「ふふっ、私が友人と認めるのは君だけだよヴェルメイユ。君がいなければ、この変態の扱いは少々手に余るからな」


 小さな頭の上で、男二人はこつんと拳を合わせて。


「……鬼畜眼鏡と筋肉馬鹿」


 そんなふたりを、真ん中のブランシュは膝を抱えて恨めしそうな声で蔑んで。


「ヴェルメイユ」


「あいさ、わかった」


「あ―――――っ!」


 また懲りずに、投げ捨てられそうになって……そこまでやって、ようやっと本題。


「それで、今日はなんの用なのだ? なにもただ旧友と語り合いに来た、というわけでもないだろう」


「おっと、そうだった。俺としたことがつい伝え忘れていたな!」


 こほん、とヴェルメイユは咳払いひとつ。実はな、とまっすぐにノワールを見て。


「ノワール、君ほどの男が手こずっているという捕虜に会わせて欲しいんだ。俺にも、君の尋問の手伝いをさせて欲しい」


 親友として、君の力になりたいんだ……そんな、友情に熱いヴィルメイユゆえの申し出で。


 だからそんな親友に、ノワールはにこり、微笑を浮かべて。そうかそうか、それならば。


「……いますぐ帰れ」


 

 ――友情はどれだけ深く繋がろうとも、断ち切れるときは一瞬だ。

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