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出会い



   ***



 ――ついに、反乱軍のメンバーを捕らえることに成功した、と。


 基地の一室、自室へ入ってきた部下からノワールの元にそんな報告が入ったことが始まりだった。


「……ふっ、ついにか」


「はっ! 現在は地下の牢獄にて監禁していると報告があります。ノワール大佐、いかがなさいますか?」


 知れたこと、とそう言った副官の女性兵士へ背を向けてノワールは黒のコートを翻す。そして同じく黒地に金の装飾が施された軍帽をかぶり、眼鏡を指先で押し上げながら不適な笑みを浮かべ。


「すぐに尋問を行う、やつらの情報をすべて吐かせてやるさ」


「はっ! 了解しました」


 すぐさま自室の扉を開け放ち、ノワールは地下牢へと向けて歩き出す。そして、石造りの長い階段を下り、真っ暗な闇の中へ。そのまま地下に設えられた捕虜や囚人を閉じ込めておくここにおいても、もっとも厳重な場所へ。


 そこは深い地下牢の、さらに奥。


 他の牢からも隔離された、地上からは遥か遠く地獄のほうが近いかもしれないほどの深部にある、極太の鉄格子が嵌められた牢獄の前。そこに立ち。


「……くくく、この基地に潜入するようなバカがいてくれるとはな」


 その中に捕らえられているであろう、愚か者の顔をノワールは拝んでやることにする。さて、どうしてくれようか? まずは軽く拷問でもして心を砕いてやってから、ゆっくりと口を割るまで痛めつけるもありかもしれないな……と。


 いや、でもその程度では生ぬるいかもしれない。なにせ、相手はあの反乱軍だ。散々わが軍を苦しめた、あの屈強な兵士たちだ。最悪、どれほど痛めつけようが口を割らない可能性もあるだろう。


 ……まあ、そのときは――少々生きていることを後悔する程度は、覚悟してもらうだけだがな。ノワールは歪な笑みを漏らす。そして、鍵を差込み牢を開ける。


 さあ、覚悟しろ反乱軍め! 地獄すら優しいと思えるほどの、このノワールの尋問術の餌食になるがいい! 意気高らか、踏み込む。


 ――が、瞬間目に入ったのは。


「……!?」


「……あなたがここの基地の偉いひと、ですか?」


「……なっ!?」


 たったひとつの、小さなランプの明かりの中で。


 はらり、零れるように揺れた金色の長い髪。そこから覗く粉雪のように美しい、白い肌。ぺったり床に伏した細い四肢、こちらを見上げる大きな磨き上げた宝石のような蒼い瞳。不意に飛び込んできたその儚げな少女の姿に目を奪われて。お、あ、う……たじろいで。


「わたしはこれから、どうなるのでしょうか?」


「……かわいい」


「はい?」


 ぽそっと、呟いちゃって。


「はっ!? 違う、いまのは無しだ!」


「あ、はい」


 余計な台詞が口をつく。うっかり本音が漏れてしまった……よかった、部下がいなくて。ほっと胸を撫で下ろす。そんなノワールに小首傾げて、不思議そうな顔。綺麗な顔。長い睫毛が瞬いて。う……と少し後退してしまって。


 い、いけない、なにを後退りしているのだ私は? なんだ、見ればただの少女ではないか。ふははは! なにを恐れることがある、ノワール! 少々、いやかなり意外だったが。もっとこう、筋骨隆々のマッチョな男を想像していたけれども! それでも! いや、だからこそ怖じることなどなにもないだろう!


 さあ、ノワールよ高らかに叫べ。さあ、さあ、さあ、いつものように! ……そうやってひとしきり心の中で己を鼓舞し、ノワールはぐっと腹を決める。


 そしてそんな内なる動揺を隠すように眼鏡を強く押し上げ、腕を組み、少女を見下すようにして言うのだ。


「ふっ……私としたことが取り乱すとはな。名乗るのが遅れたな、私はノワール。階級は大佐。つまり、この基地の最高責任者ということだ」


「……あなたが」


「そして、もうひとつ。残念なことを教えてやろう。私はこの帝国において最も冷徹な男として知られている。その私がこれから、捕虜である君の尋問を行うのだよ。そして反乱軍の情報を泣こうが喚こうが洗いざらい喋ってもらう。言わない場合は、痛い目にあってもらうことになるぞ」


「痛い目……いたいのは、いやです……」


 ふふん、素直でよろしい。にやり、ノワールは笑みを浮かべる。怯えたような顔、少女はこちらを見上げてくる。ざっとこんなものだ、大丈夫。私は、いつも通りだ、動揺なんかしていない。


 そうだ、私はこの帝国の大佐。冷徹無比なる大佐。誰もが私に怯え、頭を垂れる。この心は非情で満ち溢れ、冷え切っているのだ。血の通わぬ悪魔とさえ揶揄されている男だ。だから私が、こんな少女相手にたじろぐ必要などまったくない。


 ふっ――冷静さが戻ってきたぞ。さて、どうしてくれようこの女を。と、ノワールは落ち着きを取り戻す。そうだまずやるべきことは――


「くくく……ならばすべて素直に答えることだな。ではまず、最初に訊こうか」


「……なん、でしょう?」


 ――まずは、手始めに。これだけは訊いておかねばなるまい。なにせ私と君は帝国の大佐と反乱軍のメンバーという間柄なのだから。相対する同士、思想も目的もまったく違う敵同士なのだから。


 互いに育った環境も置かれた立場も違うだろう。だから、まずは、


「まずは……君の名前と年齢を教えてもらおうか!」


 お互いの名前を知るところから、始めませんか?

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