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発見は、大小問わずに喜びだ。



   ***



「なるほど、お姫様ですか。たしかにそういう捉え方もできますね」


 ――かわいい。純白のドレスが、まるで彼女の肌の白さを引き立てようと、出すぎず引きすぎず。あくまで引き立て役として寄り添うように、淡い雪の羽衣のような輝きで彼女を飾っている。


「ですが、どうでしょうか……たしかにわたしは反乱軍のリーダーの娘、それは間違っていません。けれど、果たしてこんなにもてなしていただいてよろしいのでしょうか。少し、心苦しくもあります」


 ――可愛い。青の宝石と見紛うばかりのその大きな瞳も。絹のように柔らかな金色の髪を白のリボンでゆるくまとめて、細い肩先で束ね揺れ零れる様も。その陰からいじらしく覗く首のしなやかなシルエットも。


「大佐さん、あの……もしかして、無理をなさっていませんか? 久しぶりにお会いしたのに、なんだか顔色がよくないような」


 ――ドレスアップした彼女は、リリィベルの可愛らしさはもう筆舌に尽くしがたい。ふわりとしたベットに行儀良く座る姿もカワイイ、着慣れないドレスのせいか落ちてくる肩紐をこっそり直すのもカワイイ、リリィベルさんカワイイ、カワイイ、カワイイ……カワ、


「あの大佐さん、聞いていますかわたしの話」


「……ん? ああ、もちろんだとも。とても素晴らしい」


「……聞いて、いませんね」


 リリィベルが困ったような飽きれた顔を浮かべてみせて――はっ!? そこでやっとノワールは、現実に帰還した。


 い、いけない。つい真顔でまじまじと眺めながらの鑑賞タイム、ノワールはトリップしかけていた。しかし夢心地、とはこのことか……なんて破壊力なのだ。どれだけ私の心を弄べば気が済むというのだ、この天使は! いやお姫様は! だが可愛い! それで十分だ!


 ノワールは、そんな心中を微塵も出さない体で何事もないように首を振る。そんなことはない、ちゃんと聞いていたさ、と。眼鏡を押し上げて、にこり、笑顔を浮かべて。大丈夫、言いたい事はわかっているさ、と。


「さて、では撮影を始めようか。心配しないでくれ、ポーズはすべてこちらから指定する」


「いえ、そういうことではなくて……こんなにおもてなしされてしまって、いいのかということを」


「大丈夫だ、なにも問題ない」


 スチャッとカメラを構えて――心配も不安も、もういらない。このノワールのファインダー、決して君を悪いようにはしない! この帝国製の一眼レフの力を、信じたまえ! と、そこでいつもの決め台詞を高らかに。


「なにもかもすべてこれは、尋問だから問題ない!」


「やっぱり大佐さん、なんだかいつもと違います……」


 そうか? 確かにノワールはいま、少々ハイテンションかもしれない。


 でもすべて必要なことなのだから、そういうことなのだから! 資料だから、これは必要なことだから! そして君も、いつもと違うよプリンセス! ……まったく寝ていないせいか、少々気が昂ぶったことを口走っている気がしないでもないが……大丈夫、気のせいだ。


 ノワールは、カシャカシャとシャッターを切り続け、そして。


「……おや?」


「大佐さんっ?」


 何回目かのシャッターの折に、不意に世界が歪む。そのまま景色がぐるり、横に倒れていくような感覚が襲ってきて――そのまま、


「……不覚」


 パタリ、と。横倒しに崩れ落ちていって……ノワールの意識は、最後に驚いた顔で駆け寄るリリィベルの姿で一度暗幕が下ろされて。




 ――しばし、波間にでも揺られるような感覚の中を漂う。


 わずかに感じるのは、この頬に当たる軟らかさくらい。まるでそう、マシュマロみたいな……?


「……私は」


 そこで、落ちた瞼がやっと上がる。しかし気だるさに包まれた身体は、まだうまくは機能してくれそうにはなくて。視線だけを、ノワールが滑らせてみれば、


「……眼鏡、眼鏡はどこだ? これじゃなにも見えん……」


 眼鏡が外れているせいかぼやけた視界のせいで、なにも見えやしなくて。少なくとも、いま自分がどうなっているのか、せいぜい横になっている、ということしか把握できなくて。そして、


「……眠って、いなかったんですか?」


 なぜか自分の上のほうから抑揚のない、怒っているみたいな声色で響いた声にまた視線を滑らせて見やれば。そこには。


「……君か。どうしたんだい、せっかく綺麗な装いだというのに、そんな不機嫌な声をして」


 リリィベル、だとは思う。滲んだ視界のせいで、はっきりとは見えないが、あの青い瞳と金色の長い髪の陰影は、間違いなく彼女であって。


 しかしこれじゃはっきり見えないな……と手探りで眼鏡を探し、指先に金属の当たる感触。お、あった……とさらに手を伸ばす。だが、


「……かけちゃ、だめです」


「なっ……」


 手に取る直前、なぜかリリィベルの伸びた手はそれを先に拾い上げてしまって――え? 驚くと同時に。


「……大佐さん」


「な、なんだろうか?」


 一拍の、間のあとに。


「……わたしは、少し怒っています」


 聞いたことのない、似つかわしくないその声は。新たな発見と喜ぶべきか、あるいは……?



 ――叱られる、と察する本能は大人も子供も関係ない。

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