自己満足と呼ばれても
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深夜、ノワール自室――。
「ふっ……まったく愚かな娘だ。こうも易々と姿を我らに晒すとはな」
真っ暗な、わずかなライトの明かりだけで照らされたデスクにて。ノワールは今日手に入れた写真を眺めていた。その数、ゆうに数十枚。それを恭しい手つき、ノワールは一枚ずつ丁寧にファイリングしていく。その背表紙には、極秘ファイルと銘打ってある。
それを悪い笑みたっぷりに、くくく……と喉を鳴らしながらノワールはチェックしていて。
「これなどは、まさに反乱軍の象徴のような姿だな」
一枚目、反乱軍敬礼のポーズ。人前で行うのはちょっと恥ずかしいのか、少しぎこちなくしている姿が大変いい。ぎゅっと瞑ってしまった目も、本人には悪いがとても愛らしいし和む。
「ふむ、銃の構え方は独特だな……だが、この不釣合いさが反乱軍ということか」
二枚目、射撃姿勢。小柄な彼女にあえて大型のライフルを持たせてみたが、これは中々どうして……重い大型銃を必死に構える必死な姿がたまらないものがあるではないか。今度はランチャーも持たせてみよう、そうしよう。そして、
「……しかしやはり、これが一番の収穫か」
何十枚とある写真の中で、ノワールは特に慎重な手つきでその写真を引き抜く。まるで宝物にでも触れるように、そっと、そおっと、ライトの下へと移動させて。照らし出されたそれは、
「……かわいい」
振り向くようなアングル、指で髪をかきあげて耳元から首筋にかけてを露にした姿。そのわずかに照れて火照った頬。ちょっと不思議そうな表情でこちらを見つめる顔は、もう可愛いの一言に尽きていて――ノワールは、しばらく無言でそれを眺めてみて、ややあって後に。
「……手帳に入れておくとするか。大事な証拠物件だし」
いそいそと胸ポケットから取り出した私用の手帳に挟み込む。うん、これで安心だ。これほどの重要写真、常に持ち歩き自ら管理せねば危険だからな! よし! と頷いて。……それにしても、と。ノワールはここで、ひとつ気付いたことがあって。それは。
「いくら捕虜とはいえ……仮にも反乱軍のリーダーの娘をあのような場所に閉じ込めておいてもいいものだろうか? ましてやこんなぼろ布で繕った囚人服など着せて……ううむ」
む、よく見ればこの服では胸元がはだけてしまいそうではないか……どれか、もう少しはっきりわかりそうな写真はないものか……違う、そうじゃなくて。
公にはしていないとはいえ仮にも彼女は、敵軍の頭目の娘。つまりは反乱軍を国で例えるならば、彼女は姫であるのだ。
だとうのに、捕虜という立場とはいえそれほどの人物にこんな扱いをしてしまっていいのだろうか? もっとこう、可愛らしい部屋で、あの麗しい見目に合うような素敵な衣服を着用させるべきなのではないか、と。そしてそれを写真に収めることが、帝国軍人として、いや帝国として成すべきことではないか。
それこそが、誇り高き帝国の礼節を見せつけ、なおかつ重んじることに繋がるのではないか……? 瞬間フリルたっぷりの、リボンたっぷりのドレスを着たリリィベルの姿が鮮明に脳裏に浮かび――そこまで考えたところで、ノワールは「はっ!?」と閃いたように立ち上がり。
「く、くくく……ふははははっ! そうだ、忘れてしまっていた! 私は帝国の誉れある軍人、ノワール大佐ではないか!」
高らかに、叫び。椅子を蹴り飛ばし、部屋を飛び出し。
「姫をもてなせずして、なにが大佐か、帝国か! くくくっ、見ていろ……貴様にこの帝国軍大佐、ノワールの本気を見せてやろうではないか! 首を洗って、いまは健やかに眠って待つがいい! はーっはっはっ!」
しゅるり、エプロンを身体に付け、明日の朝食の下ごしらえのために軽やかに厨房へと姿を消していく。胸の内に秘めた野望を、成就するために。ますはしっかりとした朝食作りからノワールは始めるのだった。
――好意と悪意は同じもの、あとは受け取る者の感じ方次第だ。