アタシ、脱いでもスゴイのよ?
サブタイトル詐欺……(汗)
この子もダメなら、もう一人の……気は弱いけど、顔は申し分ない。
ビビりは少しずつ慣らすとして……。
ねぇ、と吉岡君に声をかけようとしたら、彼は彰ちゃんと楽しそうに話をしていた。
ちょっとだけムッ。
まぁ、それは言ってみれば彼も彰ちゃんに何度か助けてもらったんだものね。
よく考えてみたら、なんか腹が立つ。
何か悪戯してやろうかしら……と、思ったその時。
「あ、あの!!」と、女の子の声がした。
振り返ると、名前は知らないけど女性警官の卵が立っている。
「先日は……ありがとうございました!!」
深々とお辞儀をする、なかなかガタイの良い彼女の顔は覚えているんだけど、誰だったかしら?
あ、思い出した。
確か前回の『犯罪捜査』の授業で教官からセクハラに遭っていた子。
顔はまぁまぁ。女の子にしては背が高くて筋肉質。
この子が男の子ならねぇ……アタシもスカウト対象にしたんだけど。
「あんたね、あれぐらいのことで挫けちゃダメよ? 現場に出たらもっとずっと酷いことを言われたりするんだから。無神経になれとは言わないけど、覚悟を決めなさい。この仕事、辛いことも多いけど、良かったと思えることもたくさんあるんだからね?」
「……はい!!」
未来の女警は最敬礼をして、それから走り去っていく。
「……北条警視がごく普通の嗜好の持ち主なら……今頃、とっくにお嫁さんがいて、子供もいて……」
彰ちゃんがしみじみと言う。
「うるさいわね。それより、吉岡君は?」
「何言ってるんですか、そろそろ授業が始まりますよ」
例によって顔色の悪い立石がやってくる。
「立石教官に敬礼!!」
教場当番の生徒が号令をかけると、軍隊のように統率された生徒達は一斉に敬礼。
これが一人でもタイミングがずれたり、遅れたりすると大変なのよ。北○鮮かと思うでしょうけど、これは本当の話。
また来てるのか、と立石がアタシ達を見る。
何よ、何か文句あるって言うの?
「……今日は、車に乗っている相手に対してバンかけを行う!」
グラウンドにクラウンが運びこまれる。
「それじゃ……今日は二十三日だから」
立石は名簿を見つつ「松山!」
松山君。可愛い顔した小柄な子。
アタシが候補に挙げた子の一人だわ。
指名された彼は少しだけびくっと怯えて、返事をする。
「この車のナンバーを見て気付いたことは?」
それはヤーさんの車ね、間違いなく。
「……ゾロ目です」
「そうだ。他に、ゾロ目と足して九になるナンバーの車はほぼ例外なく暴力団関係者の車両と考えていい。そういう車には例外なく、覚せい剤や凶器が隠されている。よし、どこに隠されているか当ててみろ」
はいっ、と緊張の面持ちで松山君はガラス窓をノックする。
その後の彼の職務質問の様子を見ていると、なかなかどうして、ちゃんと予習したのがよくわかる模範演技だった。
これはもしかしてもしかすると、今度こそ期待していいのかも……!!
授業が終わった時、アタシは迷いなく彼を捕まえた。
「さっきのバンかけはものすごく模範的だったわ。あなたもしかして、捜査一課を志望してたりしない?」
ちょっと童顔で可愛い顔がなぜか、困惑気味にアタシを見つめる。
「いや、あの……僕は……」
「遠慮しなくたっていいのよ!? 刑事課なんてね、昔と違ってずいぶんハードルが下がったんだから!!」
とりあえず推してみる。
「……」
彼は少し黙った後、ものすごく言いにくそうに答えてくれた。
「僕は……鑑識課に行きたいです」
「え?」
「もともと僕は外回りよりも、内勤でコツコツの方が性に合っていまして……それに刑事課ってなんか、汗臭そうだし、タバコの臭いとか……」
「そんなの、どこの課だって一緒よ!!」
彼は目を逸らした。
もしかすると……嫌な予感が。
「ねぇ、まさかと思うけど……彼女目当てじゃないでしょうね?」
「彼女?」
「こないだ鑑識捜査の授業に講師でやってきた、平林郁美よ!!」
彼女がチンピラみたいな生徒に絡まれて困っていた彼を助けた場面は、アタシも見たから覚えている。
まさか、そんな単純で不純な動機で……?
ぽっ、と頬が赤く染まる。
ビンゴか!!
「あんたね、そんな不純な動機で……!!」
「警視が他人のこと、どうこう言えないと思いますけど?」
後ろから声が聞こえた。
「あんたは黙ってなさい!!」
この子もダメなら、あと候補は一人しかいないのよ?
ここはどうにか上手く口車に乗せて……。
「あ、あの、それよりも!!」
それよりも?
「平林巡査長の連絡先とか知ってますか?! 知ってたら教えてもらえませんか!!」
こ、こいつ……!!
アタシからのスカウトをスルーした挙げ句に、気になる女の連絡先を聞き出そうっていうの?!
可愛い顔して何て子なの!!
ああ、恐ろしい!!
「郁美ちゃんの連絡先なら知ってるよ。教えてあ……ほげぇっ?!」
余計なことを言いかける彰ちゃんを軽くどついておいて、アタシはなおも彼に迫る。
「あなたはだんだん特殊捜査班に行きたくなーる……」
彼の両肩をしかとつかみ、我ながらアホかもしれないと思いつつ、暗示を唱えてみるアタシ。
だけど……。
「ぼ、僕はやっぱり鑑識課か、さもなければ警務課がいいです!!」
警務課。それは一般企業で言うところの『総務課』『広報課』というやつで、職員の給与支払いだったり、人事の手配だったり、言ってみれば内勤メインの……。
なんで、どうしてよ?!