あえて否定はできないと思うけど
今日は彼が教場当番だったみたい。
一人で一生懸命グラウンドにパイロンを必死で並べている。たぶん、これから職務質問の授業、もしくはパトカー運転講習かしらね。
「宮野君」
声をかけるとああ、と笑顔で応じてくれる。可愛い。
なんとなくアタシの中でこの子が第一候補に挙がってる。
例の捜査二課希望の男子とどういう関係か知らないけど、そんなことは知ったことじゃない。
「これから何の授業なの?」
「地域警察です……ところで……」
彼の視線が、アタシの隣で顔を腫らしている彰ちゃんに注がれる。
「ああ、この子のことは気にしないで」
こいつったら、自分の父親にアタシのことを色欲魔人みたいな言い方しくさったのよ。
あんまりにも腹が立ったから、力いっぱい往復ビンタをしてやったわ。
そこへ宮野巡査~、ともう一人の生徒がやってきた。
あれは確か、吉岡君。
教官に怒鳴られるたびにいちいち怯えてた、ある意味可愛い子。
「あ、どうもお疲れ様です!!」
彼はたぶん、彰ちゃんの方に親しみを込めてそう挨拶した。
「ねぇ、あなた達はどこを配属先に志望してるの?」
二人揃って「刑事課です!!」と答えがある。
やったーーーっ!!
思わず胸の内でガッツポーズ!!
でも、待って……? 一口に刑事課と言ったって、幾つか部署は別れるのよ。
「刑事課って、やっぱり強行犯係なの?」
「……僕は……」
吉岡君は口ごもっている。口にしてはみたけれど、畏れ多いとでも考えて躊躇してるのかしら?
そしたら先にこっち。
「宮野君、あなたは?」
「えっと、自分は……」
こう言う時は一気に畳み掛けて、はいと言わせるのも一つの手よ。
「迷ってるならウチに来ない?」
「ウチ?」
「聞いたことあるでしょ、特殊捜査班」
「はい、知っています。確か、平井巡査が志望してる……」
「平井君って、どの子?!」
思わず期待してまわりを見回してしまったアタシ。
「彼です」
それは……何日か前に来たとき、最初に見たマッチョだわ。
「平井巡査~」
だから、そういうのはもう見飽きた……って、なんで呼び掛けてんのよ?!
うん、そりゃね。特殊捜査班っていうぐらいだから、モヤシ体型に務まらないのは言うまでもないのよ。でもね……。
「お、お初にお目にかかります! お噂は兼ねてから耳にしておりました、北条警視殿!!」
あ~……。
「自分は平井政信と申します! 是非とも、特殊捜査班HRTの末端にでも置いていただけますように、精進して参りますので、なにとぞよしなに……!!」
はいはい。身体能力は文句なさそうだけど、ビジュアルがね……。
顔はともかくとして、無意味に白い歯と、こんがり焼けた小麦色の肌っていうのがどうも……。
ほら、BL小説によくあるじゃない?
『すらりと伸びた手足に、透き通るような白い肌』
アタシが求めているのはそういうのなんだけどなぁ……。
『ボディービルダーと見まごうようなマッスル体型』じゃないのよ。
背中で忍び笑いが聞こえてくる。
「……何、笑ってるのよ」
多少、ドスを効かせて言ってみたら彰ちゃんは黙り込んだ。
気を取り直してアタシは宮野君に迫ってみる。
「で、話が逸れたわね。実はね、どこの部署もそうなんだけど、ウチは特に優秀な新人を募集してる訳。考えてもみてよ、特殊捜査班HRTって言ったらね、警視庁で言うところのSATなんだから」
あ、少し表情が動いた。
「SATかぁ~……カッコいいですね」
「でしょ?!」
「でも……」
でも? 何かしら、嫌な予感がするわ。
宮野君は可愛らしい顔いっぱいに笑顔を浮かべ、こう答えた。
「自分は将来的に、捜査三課に行きたいです!!」
三課……? 窃盗事案を主に扱う、あのドロ刑……。
「な……なんで?」
「ルパン三世を捕まえたいからです!! 自分が目指しているのは銭方警部です!!」
ちーん。
頭の中で臨終の鐘が鳴る。
……この子、思ってた以上のバカだった。
ダメだわ。うちにくる子はそれなりに頭脳もないと……。
頭痛がしてきた。