表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/11

ジャイアンとスネ夫

警察学校の生徒さんて、実際には全員丸刈りなんだそうですね……。

 鑑識捜査の授業のあとはクラブ活動の時間。

 まだ時間に余裕があるアタシは、さっきの松山君の姿を追って音楽室に行った。ふーん、何か楽器やるんだ。

 大抵のことは器用にこなしちゃうアタシだけど、楽器だけは無理だったわ。

 でも歌は上手よ、たぶん。

 きっと卒業後は県警音楽隊に入るのであろう生徒達が皆、バイオリンだのフルートだのを演奏している。

 松山君の様子を見ていると、彼はピアノを演奏し始めた。

 身長は約百六十センチ、体重はきっと四十八キロぐらい。応募資格を辛うじてクリアしてるってところかしら。

 鍛えれば立派な細マッチョになる可能性は大。

 うふふ、楽しくなってきちゃった。

「……さっきのあの生徒が、第一候補ですか?」

 彰ちゃんが音楽室の壁に背をもたせかけて、松山君の後ろ姿を見ながら言った。

「そうねぇ、第一かどうかは未定だけど……」

 そうだ、思い出した。彰ちゃんって音感ゼロなのよね。

 何か歌って、と嫌がらせで言おうとした時だった。

 さっきアタシが頭を潰してやりかけた二人組の生徒が、松山君に声をかけて音楽室を出て行く。

 気になったので、気配を消して後をつけてみる。

「お前のせいじゃけんな?」

「ほうじゃ、お前があん時すぐに返事をせんかったけぇじゃ!」

 さっきの『鑑識捜査』の授業の時の話かしら?

「知らないよ、そんなこと!」

 時々、いるのよね。チンピラみたいな学生って。

 訳のわからない理屈をつけて、彼みたいな小柄で可愛い顔をしてる、ちょっと頼りなさそうな子をいじめるバカが。ま、ここの生活ってストレス溜まるものね……。

 さて。松山君はどう出るのかしら?

 彼は黙っている。

 ぐいっ、とチンピラの一人が彼の胸ぐらをつかむ。

 ジャイアンとスネ夫のコンビは今にも彼を殴りかかろうと、腕を振り上げる。

「あなた達、何してるの?!」

 そう言ったのは……アタシじゃない。

 郁美ちゃんったら、授業が終わったらさっさと帰ったと思ったのに、どうしてまだいたのよ?!

 チンピラ二人は慌てて、松山君から手を離す。それから小走りにその場を去って行く。

「……大丈夫?」

「は、はい。あの……」

 松山君は赤い顔をして彼女を見つめている。

「もっと鍛えなさい。細くて可愛い顔してるから、ああいうのに舐められるのよ」

 じゃあね、と颯爽と立ち去る彼女のその姿は、女優で言うと米倉○子か篠原○子かと思う……あら、どっちも「りょうこ」じゃない……って、そんなことどうだっていいわ。

 うぅ、この子もいいところばっかり取っていく略奪女(?)なの?!


「もう帰りましょうよ~北条警視……」

「あともう2、3人は嫁候補を見つけるまでは帰らないわよ!!」

「なんですか、その『兄ちゃんは鮎を釣るまで帰らないぞ』みたいなのは……」

 彰ちゃんの言ってることはイマイチよくわからないけど、あと一人はせめて嫁候補を探してからじゃないと……。

 今日の授業はもう終わってしまった。

 生徒達はそれぞれ、自由行動になる。

 さて、どうしたものか……。

「あ!!」

 後ろから声がして振り返ると、

「確か、先週もいらっしゃいましたよね?!」と、元気な声がする。

 確か、宮野君。犯罪捜査の授業で珍回答を繰り広げていた。

「あら、覚えててくれて嬉しいわ」

「みんな、噂してますよ。本部から美形のカップルが視察に来たって」

「美形の……」

「カップル……?」

 アタシと彰ちゃんは顔を見合わせた。

 確かに、昔はカップルだったこともあったけど……。

「じょ、じょ、冗談じゃないよ!! 僕、この人とは何でもないし、そもそも他に……ほげえぇぇっ?!」

 うるさい元カレを力でねじ伏せ、拳で黙らせ、アタシはにっこり彼に向き合った。

「実はね……アタシ、優秀な新人を発掘に来てるの」

「そうらしいですね」

「ねぇ、宮野君……だったっけ?」

 はい、と素直な返事。

 アタシは彼ににじり寄り、いつでも壁ドンできるように態勢を整える。

「あなた、どこの課を志望してるの?」

「自分は……」

 その時だ。

「おい、寛樹!!」

 眼鏡をかけた学生の一人がこちらに向かって歩いてくる。切れ長の眼をしたイケメン……そう、アタシが目をつけた候補の一人で確か長嶺君。

 ファーストネームで呼びかけるあたり、相当親しい間柄なのはわかる。

 そして。その表情を見る限り、相当怒ってるみたい。

 やだ、ひょっとしてこの二人ってカップル?

 そんなことより、アタシまだこの彼のファーストネームを知らないわ。

 挿絵(By みてみん)

「お前、何風呂場の掃除をサボってるんだよ!」

「悪い、今行くから~……」

「ねぇちょっと、あなた!」

 イケメン君がこちらを振り向く。

「アタシは捜査一課の北条雪村。あなたのお名前は?」

「長嶺です。長嶺尚人」

「どこの課を希望してるの?」

 彼は真っ直ぐにアタシの眼を見つめて答えてくれる。

「……捜査二課です」

 ああ、見るからにインテリだもんね……。

 日がな一日デスクに向かって電卓を叩いてる姿が目に浮かぶ。

 あるいはサイバー犯罪対策課かしら。いずれにしろ、頭脳労働を好みそうな顔をしているわ。

「一課に興味はない?」

「……申し訳ありませんが……」

 ほら、行くぞ。彼は宮野君を引き摺って向こうへ歩いて行ってしまった。

「やーい、フラれ……あああ!! ごめんなさい、すみませんでした!!」

 この子って学習能力がどこか一部欠けてるのかしら?

 それにしても、はぁ~……なかなか思うようにならないわね。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ