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「見てご覧、あれが本物のチートだよ」「ほんとだ。すごいね、お父さん!!」

もう、サブタイトル意味不明……すみません。

 アタシに悪気はなかった……と思うわ、たぶん。

 教場の中が一瞬静まり返り、やがて爆笑に包まれる。

「……ごめんなさい、今のはリハーサル」

 気を取り直した立石が机を叩くと、さっと生徒達から笑みが消える。

「今のはそれなりに模範演技だった!! どこが良かったか、答えられるのは?! 長嶺!!」

 それなりにって何よ?

 すると。見るからに勉強のできそうなインテリ眼鏡の学生が立ち上がる。

 切れ長の目に、整った顔立ちをしている。名前は何て言うのかしら?

 よし、この子も候補の一人に決めた。これで二人目。

「まず、対象者から目を逸らさなかったことです。それから、ポケットへ手を入れるなという指示も的確です」

 その通りよ、よくわかってるじゃない。

「なぜだ?」

「相手が突然、凶器を取り出すかもしれません」

 立石も満足げに頷く。

「よし、いいだろう。他には? えーと……吉岡!!」

 指命された生徒は、さっきアタシが候補の一人に数えた子。

 あーあ、既に泣きそうな顔してるわ……。

 可愛いけど、助けてあげたいところなんだけどね……。

 その時。

 威圧感が凄かったとか言っておけば? と、いつの間にか戻ってきていた彰ちゃんがその子に耳打ちしてるのが聴こえてきた。

 そうしたらその子は言われるままに、

「い、威圧感が半端なかったです!!」と、大きな声で答えた。

 可愛い。素直だわ。

 これはきっと、褒めて育てれば伸びるタイプね。

「……そりゃな。この人は警官人生何十年のベテランで、何度も修羅場をくぐってきたからな。いいか、職務質問は地域課の基本中の基本で、年間一千件の検挙率につながっている……」

 立石は意外にも学生達を励ます言葉をかけて、授業を締めくくった。


「……いかがでしたか? 今年の新入生は」

 あんた絶対、一度病院で診てもらった方がいいわよ。

 立石が青黒い顔をして訊いてくるので、アタシは思わずそう口にしかけた。

「何人か面談したい子を見つけたから、もうちょっと授業の様子を見ていていいかしら」

「どうぞ、お好きなように……」

 絶対に一人ぐらいは『買って』帰るわよ。

 次の授業は剣道ですって。

「アタシも参加していいかしら?」

「……生徒に怪我をさせんでくださいよ?」

 立石は黒い顔を曇らせて、職員室に戻って行く。

「彰ちゃん、あんたも参加するのよ」

「えー、面倒くさ……痛い、痛いですって! 本気でぶたないでくださいよ! 聡さんはいつも、ちゃんと手加減してくれますよ?!」

「そもそも、聡ちゃんの血圧を上げるのは大概にしなさいよ」

 誰か、強い子はいないかしら? アタシ強い子も大好き。

 着替えを済ませてウキウキしながら道場に入ると、これまたアタシの後輩で古い知り合いの辰巳が待っていた。

挿絵(By みてみん)

「……お久しぶりですね、北条警視」

 相変わらずだわ。角狩りの頭に、小柄で筋肉質。

 背丈にコンプレックスを持ってるみたいだけど、こいつって、学生時代は全日本大会優勝、各署対抗の武術大会で何度も優勝してるのよ。すごいでしょ?

 なのに、今まで一度もアタシに勝てた試しがないからって逆恨みしてるのよ。

 知らないわよ、そんなこと。

 道場には着替えを済ませた生徒達が正座で教官の指示を待っている。

「おい、お前ら! スペシャルゲストの登場だぞ!! 県警捜査1課特殊捜査班隊長、北条警視だ」

 ざわ……と、生徒達がざわめく。

「お前らが束になってかかっても勝てない相手だ……と、言いたいところだが……よし、今から呼ぶやつ、前に出ろ!! 伊勢崎、佐藤、高橋、加藤、斉藤!」

 名前を呼ばれて立ち上がったのは皆、男の子。背丈も体型もバラバラ。

「警視ほどの腕前ならこんなヒヨっこが五人束になろうが、一人で充分太刀打ちできるでしょう?」

 え……? と、学生達は顔を見合わせる。

 要するにこいつは、いくらアタシでも複数人を相手には上手く立ち回れないと踏んでいる訳。

 学生達の前で恥をかかせたいっていう魂胆でしょ。

 でも、残念ね。

 そう思い通りにはいかないわよ。

 アタシ、根性の曲がった男の子は大好きだけど、腐ったオヤジは大嫌いなの。

 名指しされた生徒達はまごついている。

「いいから早くしろ!!」

 辰巳の声にびっくりして、学生達が五人全員でアタシに向かってくる。

 ふん、だ。見てなさい。

 実は警察学校に入って初めて柔剣道を倣ったっていう人が意外にいるのよ。

 五人の内三人はきっとそのタイプね。

 あとの二人は……一人はまぁまぁ。

 もう一人は初動ですぐに有段者だとわかったわ。

 動きに無駄がなくてしなやかで、防具のせいではっきりは見えないけど、顔もいいし背も高い。

 でも残念ね。

 アタシは遊びにも手を抜かないタイプなの。

 武器がライフルから竹刀に変わろうが、特殊捜査班隊長の肩書きは伊達じゃないのよ。

 まずは一本。

 アタシが相手の胴を捉えると、ものすごく悔しそうな顔で再び立ち向かってくる。

 あら、いいわぁ~。

 負けず嫌いで根性のある子は大好きよ。

 その後も彼は、腐れ教官が合図をするまで懲りずに向かってきた。

 候補のもう一人はこの子に決めたわ。名前は覚えたわよ。伊勢崎君。

 これで三人目、と。

「お前ら、五人もおってそのザマか?! 情けないと思わんのか!!」

 辰巳は唾を飛ばしながら学生達に叫んだ。

「悪いわね、辰巳。アタシが強すぎるのよ」

 どうでもいいけど、防具を被ってると暑くてかなわないわ。脱いじゃおうっと。

 それからちら、と彰ちゃんの様子を見てみると……。

「……この子なら、五人がかりで楽に倒せると思うわよ」

 アタシは欠伸をしていた彰ちゃんを生徒達の前に立たせてみる。

「え?」

 生徒達が色めき立つ。

「ちょ、ちょっと! 北条警視!? ぎゃーっ!!」

 さて、と。

 お昼休憩を挟んだら午後の授業は何だったかしら?

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