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【累計10万PV突破!】ミソロジーの落とし仔たち   作者: 葉月コノハ
第二章 Re×5:starting-memories
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メタ思想の罠

「…………あ」


 勝てない(・・・・)。それは一種の勘とも言うべき感覚だった。僕らは今のままでは、絶対に彼女に勝つことは出来ない。


 そもそも全ての事象に絶対(・・)は無い。だがそれは現実の世界にのみ当てはまるルールだ。たとえばゲームなんてやっていたら、負けイベントなるものに遭遇するのはしょっちゅうだ。バグ技でイベントをスキップするのは初見じゃ不可能なんだ。


 焦りを隠しきれないまま正面を睨むと、カノンがゆっくりと顔を上げるのが見える。その顔に映っていたのは、矢張りというべきか、これから待ち受けるだろう死への恐怖−−−−−−では無かった。




 魔性の笑みが、僕らを射抜く。


「遼−−−−−−これはやば」


 時すでに遅し。僕の声が遼に届く前に。僕が伝え終わる前に、ねっとりと絡みつくようなカノンの言葉が空間を遮った。





「ええ。それでは再戦と洒落込みますか(・・・・・・・・・・)







 そうカノンが言い放つや否や、暗い路地の闇が増す。電灯の光量はそのままに、影だったところが、更にその黒さを濃くしたのだ。視界の奥から順に、黒、黒、ただ深い黒に染まっていく。


「ちっ…………往生際の悪い!」

 遼が舌打ちと共に引き金を引く。乾いた銃声が一つ鳴り響いたが、骨を砕き肉を裂く音は聞こえない。ただ静寂の底から、けらけらと乾いた笑い声だけが聞こえてくる。


「おいおい……」


 遼の顔に、驚愕の表情が浮かぶ。


「おいおいおいおいおい待てよ待てよ、冗談じゃ無ェ。これは必中の弾丸だ。そういう(・・・・)魔具だ。なのに……」


 次いで、彼は苦々しげに呻く。


「なのに、如何して当たっていない!」


 カノンは薄く笑ったまま動かない。その華奢な身体に外傷は見当たらず、代わりに足元から空中にまで、うっすらと黒いヴェールのようなものが巻かている。




 カノンは溜息をついた後、まるで無知な我が子を諭すように答える。


「必中の魔具の原理をご存知でしょう。攻撃の命中を保証する魔具は古今東西、様々な神話にモチーフが散見されます。結構結構、素晴らしい性能です」


 カノンは嘲るかのように、わざとらしく手を叩く。彼女は遼の銃だけでは無く、前回ヤイバが用いた、あの呪剣の事を言っているのだろう。


「……ですがそれらの本質は、例外なく未来(・・)の選択。水を張った皿を遥か上空から十枚落としたと仮定して、それら全てが一滴も溢れること無く、地面に着地する微量な可能性の未来。不可能と誰もが思いはすれど、論理的にはあり得る。そういう僅かな可能性をすくい上げ、世界に選択させ、結果としてまるで魔法のような(・・・・・・・・・)−−−−−−すなわち必中の攻撃とする」




「んな事は判ってる」


 噛み付くように遼が。


「長い長〜いご講義どうも」


 皮肉たっぷりに理恵が呟く。


 いえいえ、と微笑み返すカノン。彼女が話している間に少しづつ色を濃くした黒いヴェールは、今や真っ黒の布のようになっている。


「……ここから先が重要です。この原理ならば、命中する可能性が本当にゼロ(・・)の相手に当たることはあり得ないのです。外国(とつくに)住む、名も知らぬ誰かを狙って槍を投げても到底殺せぬのは道理。逆に、眼前に相手がいるなら、どの方向に突いても何らかの不測事態(アクシデント)で偶然当たるかもしれない。限りなくゼロに近いとはいえ、無いと言い切れることはできない悪魔の証明。それが必中の(しゅ)の本質」


「真逆、お前」



「ええ、その通りです知識神。貴方が狙ったカノン(わたし)は、そこ(・・)に居ないのですよ」




 そう言い放った瞬間、周りを取り巻くヴェールが彼女の身体を包み込む。黒い姿は周りの暗闇と境界を無くし、じわりじわりと闇に溶け込んでいく。


「どこ行った!?」


「落ち着け理恵、魔具で幻影を創っていたなら、本体はそう遠くないところにいる筈だ」


 僕も暗闇の奥を覗き込もうと目を凝らすが、ただ視界が黒く塗りつぶされるだけである。


「く、来る(・・)にゃ!!」


 突如、鋭い忠告が飛んだ。声を発したのは黒猫だろう。彼女の眼は、夜目の効く猫のように怪しく光っていた。



「何ボサッとしてるの朔馬!!!」



 僕はまだ、同じ位置にいた。思考に夢中で体が思うように動いていなかったのだ。僕がハッと気付いた時には既に、漆黒の刃が、おそろしいスピードで眼前に迫ってきていた。


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