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【累計10万PV突破!】ミソロジーの落とし仔たち   作者: 葉月コノハ
第一章 The beginning of Madness Worlds
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つぎに、ふたり

「では遊びは、これで終わりとしましょう」


 氷の柱は、稲妻の直撃で一瞬で融解した。そしてなによりも、〈遠雷〉は彼女の心臓を正確に貫いていた。だがしかし、それでも聞こえるこの声は、まさしく−−−−−−。


 甲高い打ち合いの音が鳴り響いた。僕は綿津見と顔を見合わせると、その能力解除と共にヤイバを見た。そこには、真っ黒な剣を振り下ろしたカノンと、それをすんでのところで受け止める刀使いの青年の姿があった。


「お……前は……ッ!」


「愚かな貴方に種明かしです。私は今、影を操る魔具の所有者。あなた方が相手をしていたのは最初からずっと、私の『複製』といえばお分かりでしょうか?」


 視線を移せばカノンの背中には、先ほどミツとの戦いで落としたはずの〈宵闇の嘆き〉がしっかりと収まっている。


「影とはその物の本質そのもの。その投影でありながら、表裏一体の関係を保ち続けるもう一つの実在(・・)


 取っ組み合う彼らの足元に映る影に、変化が生じる。ヤイバの影から伸びる〈遠雷〉の影が浮かび上がり(・・・・・・)、カノンの持つ真っ黒な刀に吸い込まれていく。


 距離を取ったヤイバが〈遠雷〉の切っ先で空を切る。斬撃は電流を纏って雷撃となり、カノンめがけて襲いかかった。しかし彼女は回避の素振りを見せることもなく、同じように刀を空で切る。彼女の刀身からも雷撃が生じ、空中で相殺した。


「……貴方の刀を複製しました。妙な小細工は通用しません」


 煩しげに髪を払うカノンの目は冷ややかで、自身の勝利を確信し、そしてヤイバを、そして僕たちを軽蔑するような視線を放っていた。


「妙な、とは言ってくれる」

 ヤイバはまたもや〈遠雷〉を放り投げ、空いた右手を空中に突き出す。

「招来宣言、打チ直シ〈血の渇望(ティルフィング)〉」


 彼の掌は、いつのまにか新たな日本刀を掴んでいた。その刀身は既に何者かの血で染まり、その切っ先から鮮やかな赤が滴り落ちている。


 影から複製させる隙は与えない。彼はすぐさま突進して距離を詰めた。至近距離よりカノンに斬りかかる。怨嗟を込め、刺し穿つ切っ先は今度こそ、間違いなくその身体を貫いた。











「_____残念でした。私が純粋なヒトであれば、あるいはでしたが」



 結論から言えば、カノンは血の一滴すら流してはいなかった。その刀身は間違いなく彼女を貫通しているにも拘らず、その傷口から血は流れ出ず、カノンの表情にも痛覚や死の恐怖は見られない。正にその逆である。勝ち誇ったような笑みを浮かべて、彼女はヤイバの肩を掴んでいた。


「ティルフィング___北欧のエッダに登場する、必中の呪いを秘めた剣。鍛えた者のかけた呪いにより、一旦鞘から引き抜けば、所有者の殺意の有無に関わらず誰かを殺すことが確約されると聞きます。貴方が私を確実に殺害するため、この剣を用いようと考えたのは良い判断でしょう」


 カノンはヤイバの手に優しく自らの手を重ね、半ば強引に刀を奪い取る。自身の身体からゆっくりと引き抜くと、驚愕と恐怖のあまり脚が動かないヤイバへ、ゆっくりと近づいていく。


「死を招く伝承は、その武器が殺意に関係なく(・・・・・・・)発現する権能であるということを、もう少し考慮しておくべきでしたね。たとえそれが恋人や家族の魂でも、武器はただ貪欲に代償を、生贄を求めるのですから」


 カノンが刀の峰でヤイバの首を打つ。彼は嗚咽を漏らしながらバランスを崩し、倒れ込んだ。


「まずいッ……!」


 理恵が血の槍を何本も生じさせ、カノンめがけて射出する。しかし必死の援護虚しく、影が蠢いて妨害を阻んだ。



「私の核となり、私を衝き動かす衝動は、魂などという高尚な概念では無い。感情という、魂のそのまた欠片の一つに過ぎないのですよ。捧げる供物としてはいささか不十分でしょう。魂の希薄さゆえに、操る魔具の力を十分に引き出すことが出来ないことが私のネックでしたが、今回ばかりはそれが功を奏したようです」


 この刀に捧げる魂は、また別に用意されなければ(・・・・・・・・・・)ならない。冷酷に響き渡るカノンの言葉が意味するものが、僕たちにとっても想像するのは容易いことだった。


「待って……まって届いてよ、届いてってばッ!」


 理恵は涙声になりながらも、攻撃を続けている。その全てが、無慈悲にも相殺されていく。一方遼は、一度は構えたライフルの銃口を、既に下ろしていた。彼の目には、後悔と諦めの色が見て取れた。



「私を殺すなら、ただの刀で事足りたのです。部不相応な神代の呪などに頼るからその身を焦がす。異能を持たぬ凡人(・・)ごときが」


 カノンが刀を逆手に持つ。ヤイバの放った呪は、まだ続いているのだ。刀は血を渇望する。



「はい、ゲームオーバーです」


 僕は始終目を背けていた。直視するには悲惨すぎる光景だったから。僕はまた逃げ出して、僕はまた傍観者気取りでいて。


「残り……四人」

 そんな僕の心など露も知らず、返り血のついたカノンが、返り血と狂気の中で笑った。

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