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【累計10万PV突破!】ミソロジーの落とし仔たち   作者: 葉月コノハ
第一章 The beginning of Madness Worlds
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幕開きの朝

 後味の悪い夢を見た。やはりあれは夢だった。夢だったのだ。ならば、問題は二日後だ。





 **




「......では次のニュースです。今朝未明。カナガワ県ヨコハマ市で、身元不明の女子高校生の遺体が発見されました。『海に人が浮いている』と、海岸線沿いの道路を散歩中だった近隣住民の男性により119番通報があり、駆けつけた救急隊により、死亡が確認されました。遺体は腹部や胸部を激しく損壊しており、警察はその後の調査で、先月から同様の手口で発声している女子高生連続殺人事件と関連があると見て......」



「もう年末だっていうのに、穏やかじゃないわね」

 顔を曇らせながら、母さんが台所から香ばしいベーコンの香りと共に姿を現した。|黒乃こよみ。毎年僕と同じように年を重ねているはずなのに、一向に老ける気配がない謎に包まれた僕の母。短めの髪の毛が、体の動きに合わせてはらりと揺れる。


「まぁ、僕らも気をつけるに越したことは無いね。」

「そうよ。死んでからじゃ時すでに遅し。時計の針は逆には回らないんだから」


 テーブルに並んだ食器に朝食を盛り付けると、僕の隣の椅子に座った。


「で、犯人は捕まるの?」

推理小説(ミステリ)のネタバレを聞くみたいな感覚で尋ねてこないで欲しいよ」

「気になるじゃない。それにしてもまあ、酷い人間もいるもんだよね。神さまはバチを当てないのかしら」

「さあ、そこまでは見てない。それは神さまにでも訊いてくれ」


 僕は目を閉じ、一昨日に見た夢の内容を思い出す。


「捕まるよ。今日の夕方に確保されるから、夜中のニュースはそれでもちきり。犯人は精神鑑定にかかるんだったかな。詳しい犯行の動機とか、供述とか、聞く?」

「それは遠慮しておくわ。あ、ごめんね朔馬。嫌なこと思い出させちゃったでしょ」

「別に……」


 鮮明な記憶と引き換えに失ったのは食欲だ。僕は半ば諦め、もう一度深いため息をついてベーコンを飲み込む。少しだけ焦げており、微かな苦味が舌を撫でた。




 神さま。




 なんの気なしに、母さんの言葉を頭の中で反芻した、その瞬間だった。突如、頭の中にイメージが浮かび上がる。



 いつのまにか、辺り一面霧がかった場所に僕はいた。霧の奥にぼんやりと見えるのは、大きな、歯車仕掛けの機械。歯車が回り、糸が上下し、その下に吊り下げられた人形が生きているように動き出す。その人形に注意を向ける。その顔に、どこか見覚えがあるような気がした。あれは……誰だ?


 目を凝らしてよく見ようと意識を集中させたその瞬間、視界が鎖で埋めつくされていく。鎖の向こう側で歯車は音を立て、まだ回り続けている。わずかな隙間から、その奥の人形と目が合った。その目は、その顔は……



「朔馬」



「はいッ!?」


 すぐ横に、心配そうにこちらを覗き込む母さんの顔が見えた。


「ベーコンそんなに苦かった?」

「え、いや、えっと……うん」

「ボーっとするなんて、朔馬にしては珍しいじゃない」


 中途半端に頷きを返し、気を取り直して食事を続けた。今のイメージは一体なんだったのだろう。記憶とは違うような気もする。寝ぼけて夢の続きでも見たのだろうか。




 食事を終え、家を出るべく玄関口に立つ。予定調和の毎日。夢の追体験に、新鮮味など無い。


「……そういえばっ!」


 突然、母さんが声を張り上げた。食卓から動きたく無いのか、大声を出して会話を成立させようとする。なんとも怠惰である。


「なに?」


 反射的に聞き返す僕が振り返ると、突如、視界が暗闇に包まれた。


「今日来るんだよね。朔馬のクラスなの?」

 灯はすぐについた。電球の接触不備だろうか。


「何の話よ」

 上を見上げながら、一昨日の夢をもう一度思い出す。しっかりとは覚えてないが、教室に来客など無かったはずだ。もっとも細かいところは忘れてるから、もしかしたら誰か用務員でも来たかもしれないが。



「何って、そりゃ転校生よ」

「て…………転校生って、あの(・・)転校生!?」


 転校生にあの(・・)その(・・)も無いのだが、ともかく僕は驚きから素っ頓狂な声を上げてしまった。なんとか冷静さを取り戻すと、なるべく落ち着いた声で努めて返事をした


「…………全く、記憶に無い」


 僕は至って真面目な顔なのだが、廊下の向こうでは母さんが微笑んだ。

「なにそれ。新手のジョークか、それとも照れ隠し?」

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