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【累計10万PV突破!】ミソロジーの落とし仔たち   作者: 葉月コノハ
第一章 The beginning of Madness Worlds
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アザナとイミナ

「さて。めでたく起源を思い出したところで、軽く私たち〈禁書の守り手〉の説明でもしていこうか」


「私たちは世界中に散らばる魔術的アーティファクトのうち、主に禁書と呼ばれるものを収集、分析、そして保管することを目的としている。でも実際の活動としては、この関東圏へのアネクメーネからの干渉を阻止するのが大半でね」


骨董趣味はこいつくらいよ、と佐口さんは綿津見を小突いた。


「一応組織ではある以上、ここでは、みんなそれぞれ役職が割り振られていてね。大きく分けて、三つの班がある」


 そう言ってピースを突き出す佐口。言動の不一致。


「アネクメーネからの干渉に対して派遣され、対象と直接交戦する戦闘班、これが一つ目。君が知ってる〈守り手〉達は、私以外の全員がこの戦闘班にあたる。能力も戦闘向きなことが多い」


 理恵が頷く。成る程、確かに理恵たちの能力は、先ほど見たように、戦闘向きだ。


「二つ目は補助班。表世界での活動や任務をメインとしている。まあ戦闘に参加できないから、サポートに徹するというわけだ。まあ今のところ私だけ。実質存在しない」


 とはいえ一応班だ、と息をつく佐口。綿津見がすかさず後を継いだ。


「そして、戦闘に参加することもあれば調査を手伝うこともあるオールラウンダーが遊撃班。オールラウンダーといえば聞こえはいいが、連絡がつかなくて戦力としてアテにならないので、仕方なく別の班としてカウントしてるってのが実情だ」


 思っていたより大規模な団体らしい。


「____と一応は割り振っているわけだが、組織として大きく動くことはそんなに無い。まあ(やっこ)さんも、そうしょっちゅう境界を破ってこっちに来るわけでもないから、大抵はその場にいる面々でどうにかする。あとは、たまにアネクメーネ絡みの事件なんかが起こると、警察から協力要請があったりするから、そういう時は団体で動く」


「アネクメーネの怪異……たとえばさっきのぺリュトンとかは、こっちの世界に来て、具体的に何をするんですか?」


 観光では無さそうだ。


「そりゃあ怪異の種類にもよるが…………大抵はまあ、ヒトを喰らう。それが怪異ってもんだ」


「喰らうってそれは……」


「文字通り、食べる。奴らにとってヒトは良いエネルギー源なのかもしれないし、別の理由があるのかもしれない。もちろんヒトを驚かせて満足する種類の怪異もいないことはないが、東洋でも西洋でも、怪異といえばヒトに害をなすものだ。そして大抵の場合、それは食物連鎖の頂点たるヒトを喰らうという行為によって行われる」


そこに異質さを見出すわけだ、と綿津見が付け加えた。



「……または、人に取り憑くとかね。アネクメーネに感化されたか、霊の類に憑かれたか、はたまた邪神に唆されたか、ともかくアネクメーネを原因として、狂乱し、結果凶行に走る人間も少なくないのよ。表向きは通常の事件として処理されるけど、実際は私たちに協力の要請が来るわ」


「そういえば佐口は今、鎌鼬(カマイタチ)に魅せられた《憑依者》の事件、あれを警察と協力して捜査してるんだったよね」


「そそ。理恵、あんたも気をつけなよ。そろそろ尻尾捕まえれそうだけど、可哀想に女子高生ばっかり狙って斬りやがる」


昨日の朝の報道でもやってた事件のことだ。僕が未来を見て、全て知っていたと思っていた事件。その裏に、僕の全く知らない事情が隠れていたことを僕は悟った。彼女は、いや、彼女達は、本当に、戦っているんだ。


「ま、ささやかな日常を命削って守るのが俺たちの仕事さ。楽しそうだろ?」



 ははは、と乾いた笑いをする綿津見。


「−−−−−−いや、そこ笑うとこだったか?」

 遼が呆れたように呟く。




「−−−−−−あの、質問しても?」

 訊くなら今だ。僕は昨日からの疑問を口にする。


「その仕事の中で、偽名を使うってことでしょうか。遼が、自分の名前は偽名だなんて言い出すもんで」

「ああ……それも言ったのか」


 綿津見は遼をちらりと見遣り、ため息をつく。

「別に遼はなにか犯罪を犯したとかそういうことじゃない。俺たち全員が持ってる。偽名というより、コードネームみたいなものに近いものでね」


 SNSアカウントってあるだろ、と彼は付け加える。


「あれに近い。ネットの世界では、人はアカウントという仮面を被る。アカウントを動かすことは、その役を演じると言い換えることもできる。それと同じ。異能を用いるっていうのは、そのモチーフとなった神様の役を演じるのと同じ。神の役を演じている間は、ヒトとしての俺たちは死んでいる。だから古代中国の伝統から引用し、アザナとイミナという制度を採用した。純粋なヒトとして生きていた自分をイミナとして切り分け、新たにアザナという仮面を俺たちは被る」


「例外はあるけど、ね」

 そしてその言葉を理恵が継ぐ。いつの間にか注いできた紅茶を片手に、自分の椅子に腰かけている。

「あれ、俺の分は?」

「無いわよ。私の茶葉だもん」

角砂糖をひとつだけ落として、理恵は綿津見を睨む。


「例外は魔術を継ぐ家よ。ヒトとして切り捨てたイミナには、捨てるには惜しい業が染みついているから。私を含め一部のメンバーは、今でもイミナを名乗ることがある」


 名を棄て、純粋なヒトだった自分に別れを告げる。単純なことのように思えるけど、それはたぶん、身を裂かれるように辛いだろう。


「だったら……僕も、この黒乃朔馬という名を棄てないといけないんですか」

「その前に異能の完成が先だ。まずは自分の手足と同じくらい自由に、無意識に扱えるようにならないと」


 彼の言葉は否定しなかった。つまり最終的には、そうせざるを得ないということだ。


「早めに習得しなよ。早くしないと、悪〜い魔術使いに変な呪いかけられちゃうかもね」

「佐口あんた、それ笑えないからやめてよね」

 ソーサーにカップを置いた理恵が、引きつった笑みを浮かべる。



「ま、ともかく能力の扱いに慣れることだな。異能力は使ってなんぼだ。使っていくうちに、新たな応用方法だって思いつくさ」

 綿津見からダーツの矢を手渡される。僕は緊張を交えながらも、素直に頷いた。


 そこから三十分、僕はひたすらダーツを撃つ練習を繰り返した。触れたダーツの矢を机から浮かび上がらせ、ダーツボードの中心を狙う。



「うん。異能力の本質通り、命中率は素晴らしいね。ただし移動速度にばらつきあるから、戦闘に転用するならそこが今後の課題かな」

 正確に中心を穿ったダーツを見つめて満足げに頷く綿津見。遼と理恵は用事があるらしく部屋から出ていってしまったため、ここには僕と佐口さんと綿津見の3人しかいない。


「さて、能力にも慣れてきたところで、軽く散歩にでも行こうか」

「大いに賛成だ。この部屋は、なんというか空気が淀みやすい」


 綿津見の提案に即座に乗っかる佐口さん。

 年齢的には近いのだろうか。こうみると恋人同士のように見えなくもない。知り合ってすぐだし、本人達がどう思うかはわからないので、もちろんこのことは黙っておく。


「じゃあ行こうか、歩きながら話でもしよう」


 話、というのが世間話じゃないのは、さすがの僕にも察しがついた。

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