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アーナス・ムーン現象

 ソフィに“決して離婚しない現象”と言われる奇跡の現象である“アーナス・ムーン現象”が起きたことが、陽菜の先輩で、セリ女の理事である心咲に認定された翌日、学校では1学期の終業式を迎えた。その日ロリエは、アーナス・ムーン現象が縁で、別のクラスの生徒である名門家のお嬢様で、アーナス・ムーン現象に憧れているセシリアと、彼女と一緒に付き合っていると噂されるエミルと友達になった。セシリアは、「フタレポ」でアーナス・ムーン現象をテーマにしているという。その後、ウインリィたちと一緒に食べにいったレストランで、ルリカの親戚である祥子から送られてきたメールが「アーナス・ムーン現象が関わっている」と言い、セシリアはルリカに協力を申し出た。一方ソフィは、アーナス・ムーン現象が起きたお相手であるトスカーナの家に家庭教師として向かい、二人きりの“特別な時間”を過ごす。それぞれが“何かが”起きる前の穏やかな一時を過ごしていた……

 (第4話 アーナス・ムーン現象)



 「しまったー! もうこんな時間……!? 気持ちよかったからそのまま寝過ごしたよ……」

 目が覚めた時は、すでに7時半を過ぎていた。ロリエは、慌てて制服に着替えた。そしてカバンを持って部屋を出ようとした時、

 「あ、今はいてるストッキングは寝る時のやつだ。ええと……、あ、これこれ。今日は薄手のラメ付きのグレーで行こう」

 そう言いながら、タンスの中から薄いグレーのストッキングを取り出して、急いではきかえた。そして、就寝用のストッキングをベッドの上に放り投げたあと、一目散に階段を降りていった。

 「ロリエ、朝ごはんは食べないの……?」

 陽菜がそう呼ぶと、ロリエは、冷蔵庫の中からオレンジジュースを取り出し、トーストを口に加えながら、ジュースをコップについだ。そして、トーストとサラダを急いで食べ、ジュースを流し込んだ。それから、

 「いってきます、母さん、姉さん」

 そう言いながら玄関を後にした。

 「全く、ロリエは……、もう少し落ち着いてくれればいいのに……。早速忘れてるわ、ロップ」

 ソフィはため息をつきながら、小走りで玄関を出ていった。そしてロリエを見かけて、

 「ロリエ、ロップを忘れてるわよ」

 声をあげながらロップを見せた。するとロリエは、

 「あー、ごめん、姉さん。ありがとう」

 ソフィに謝りながら、自分のロップを受け取った。それから改めて電動自転車をこいで学校へと向かった。その様子を見ていたソフィは、

 「本当に見つかるのかしらね……、ロリエの恋人」

 こうつぶやきながら、家の中に戻っていった。それから、

 「今日は私も家庭教師のバイトが入ってるから、そのまま向かうわ。あの人・・・のところにね……」

 そう陽菜に報告したあと、歯磨きをして一旦自分の部屋に戻った。そして、軽くメイクをしてから、黒のストッキングをはいた。家庭教師の時に使うノートや、替えのストッキングなどもカバンの中に入れ、部屋を出た。それから陽菜に、

 「いってきます、母さん」

 と言った。彼女は、

 「いってらっしゃい。未来の・・・パートナーと今後を考えてね。結婚のことも含めて。学校への報告は……、大丈夫ね。心咲先輩がついてるから」

 そう言いながら、ソフィを見送った。

 「ジュードちゃん、明日大丈夫かしら……。緊張すると説明がうまくいかないことがあるからね……」

 ジュードのことを心配しながら、テーブルを片付けていた。その最中、

 「さて、私も踊りの教室を開ける日だから、どんなパンストをはこうかな……」

 などと言いながら、食器洗いに移った。



 一方ロリエは、例の場所の近くで、ハチマキを巻いて高校に入った。そして、ルリカとリナと3人で話していた。そこへ一人の男子生徒が3人に近づいた。そして、

 「ロリエ、今日で1学期終わりだよね。よかったら、一緒に行こうか? どこかへ」

 と言いながら、ロリエを誘った。彼女はうれしそうな表情を浮かべながらも、

 「誘ってくれてありがとう♪ だけど、今日は先客がいるから、また別の日にね。ごめんね」

 断ることにした。そして、

 「ねぇ、歴史に興味ある? わたしを誘ってくれたお礼にロップのアドレス教えてあげるから、後で教えて」

 そう言ったあと、ロップのアドレスを男子生徒に見せた。それを見た彼はすぐにアドレスを登録したあと、ロリエのロップにメールを送った。


 -これからよろしく。お前を見てると、付き合いたいと思うようになってね。中学の時に好きだった女の子に似ててね……、あ、オレはエミルっていうんだ。ロリエに負けずに魔法を極めるべく活動してる“魔法男子”だ-


 こんな内容の文章のあと、彼のロップのアドレスを一緒に添えて、ロリエのロップのアドレスに送った。彼女はメール受信を確認して、アドレスを登録した。そして、

 「ねぇ、エミルちゃーん、こっち来て」

 エミルを呼んだ。彼はロリエ近づくと、

 「そういえばさ、ロリエ、昨日“アーナス・ムーン現象”が起きたらしいね。しかも、オレの住む家の近くみたいだけど……」

 いきなりこんなことを言い出した。ロリエには十分心当たりがあった。というよりも、もろに・・・である。何せ自分の姉がその対象となっているからだ。ただ、彼女はそのことを言おうかどうか迷っていた。姉さんも相手もまだ高校生だからだ。さてエミルの言葉を聞いたクラスメイトは、一斉に騒ぎ始めた。アーナス・ムーン現象といえば、「奇跡の“縁結び現象”」としても非常に有名で、この現象により結婚を迎えたカップルは決して離婚せず、また同性同士の場合であれば、無二の親友、もしくは心を許せる間柄となり、一生仲が壊れることはないと言われている。ちなみに年間では、世界中で結婚したカップルのうち、平均して3000組あまりがこの現象を体験しているという。騒ぎ始めた周りをよそに、エミルは、

 「いやいや、オレが見たのは近くの公園で、派手な衣装を着てセクシーな柄ストをはいてた女と、どこかの議員みたいな男とのカップルが、その現象が起きたっつう認定を受けたところなんだよ。二人はその直後、抱き合ってキスしてたね。喜びながら」

 こうロリエに伝えた。彼女は、

 「ねぇ、エミルちゃん、二人の認定をした人って誰?」

 こう問いかけた。エミルは考え込みながら、

 「誰って言われてもな……。少なくとも、二人の近くにいた魔法師らしい人が男であることはわかったけどね」

 こう答えた。それを聞いたロリエはひとまずほっとした。エミルの言っていることが、姉のことではないことがわかったからだ。その様子を見たルリカが、

 「ロリエちゃん、あの人誰なの?」

 ロリエの右肩を軽く叩きながら聞いてきた。ロリエは、

 「彼はエミルっていうんだ。隣のクラスの生徒の」

 と答えた。するとエミルが、

 「ロリエ、アドレスありがとうな。後で伝えたいことがあるから、終わったら、来てくれるかな?」

 こう誘ってきた。ロリエは、

 「ごめんね、ちょっとしばらくは色々あって……。何かあったらメール入れといてね。必ずメール返すから」

 軽く謝りながら答えた。するとエミルは、

 「そうか……、わかった。その代わり会える時は、メールで伝えてくれるかね? こっちも調整するから」

 と軽い調子で答えた。その時、ツインテールの髪型をしたお嬢様風の女子生徒が入ってきた。

 「エミルぅ、どこ行ったの……?」

 その声を耳にしたエミルは、

 「うわ、アイツだ……。今日もハイヒールをはいてるよ。すまんな、ロリエ、後でメール入れとくから、見てくれよな」

 そう言いながら、1年3組の教室を出て行こうとした。ところが、運悪く? 女子生徒に見つかってしまい、

 「もう……、どこ行ってたのよ、エミルぅ~。わたくしというものがありながら、何で他の人のとこに行くのよ……」

 そう言いながら、エミルを捕まえた。

 「ちょ、ちょっと待ってくれんか、セシリア……。歴史好きな女の子と話をしてただけだよ……」

 そう言いながら、女子生徒を振りほどこうとしたエミルであったが、

 「話はクラスで聞くから、私以外の女の子と付き合わないで。あなたにふさわしい、このセシリア様が必ずしあわせにするから」

 セシリアという名前の女子生徒は、エミルをがっちりとつかみながら離さなかった。そしてロリエをじっとにらみながら、

 「あなた、エミルとはどういった関係なの!? まさか、私のエミルを狙っているつもり!?」

 こんな質問をぶつけてきた。ロリエは、

 「えー、わたしもエミルちゃん・・・とは初めて会ったばかりだけど……?」

 首をかしげながら答えた。彼女にはエミルを狙う、すなわち恋人にするつもりなど全く考えていなかった。しかし、話を聞いたセシリアは顔色を変えて、

 「ハア? エミル“ちゃん”……!? いつからエミルとそんな仲がいい関係になったの……!?」

 そう言いながら、ロリエに詰め寄った。もちろんエミルを離さないままであった。ところがロリエは、

 「へぇ、わたしと同じように腕っぷしが強いんだね。しかも、星空を模したストッキングをはいてるんだ。似合うよね、それ。しかも美しいよね。わたしも一度はいてみたいよ」

 いきなりこんなことを言い出した。すると、クラスの生徒たちがセシリアの方を見ながら、

 「あの女子生徒、よく見ると美人だよな」

 とか、

 「何か読者モデルでもやってそうね……」

 など、うらやんだり見とれたり、様々な反応を見せていた。そんな中、セシリアがロリエに、

 「まあ、私が美しいのも当然よ。でも、見る目あるわね、あなたも……。今度、私とストッキングのコーデ対決、やってみない?」

 こんな提案を持ちかけた。するとロリエは、

 「うん、ぜひやってみたい♪」

 快く提案に応じた。さらに、

 「ねぇ、セシリアちゃんって、わたしみたいに結構ストッキングをはくタイプなんだ……」

 こんなことを言った。するとセシリアは、

 「わかってくれるのね、あなたも」

 と言ってロリエの手を握ったあと、

 「そうよ、私は愛するエミルのために、ストッキングをはいたコーデを磨いてるのよ。エミルに私を愛してほしいから。ゆくゆくは彼と結婚して、私達の“夢”をかなえるんだから。ね」

 こんなことを話した。すると、3組の男子生徒の一人が、

 「うらやましいねぇ、エミルってやつは。オレたち、全くスルーだよね、セシリアからの扱い。クラスは違うけど」

 と言えば、

 「やっぱ、あのカップルにこそ、アーナス・ムーン現象が起きてほしいよね……。もし起きれば、みんな納得して祝福するよ」

 と言う生徒もいた。その言葉を耳にしたセシリアは、

 「そうよね、それこそ私達に起きるべきふさわしい“奇跡”なのよ、エミル。だから今日、一緒にデートしましょう」

 と言いながら、エミルの手を握った。すると、彼も観念したのか、

 「わかったよ、セシリア。お前の気持ちは十分にね。だけどね、オレも他の女の子と話をしたいし、あまり縛らないでほしいよね。お前が好きだけどさ……」

 そう言いながら、セシリアの手を握り返した。彼女は、

 「本当にそうなの!? エミル、最後の言葉、信じてもいいの?」

 念を押すようにエミルに頼みこんだ。彼も、

 「ああ。最後は必ず、お前を選ぶよ」

 そう言いながら、そっと手を離した。するとロリエが、

 「エミルちゃーん、ひとつしつもーん。さっき話したアーナス・ムーン現象が起きた日っていつ?」

 エミルにこう問いかけた。彼は、

 「ああ、派手な美女と議員の二人のことね。それね、昨日・・のことなんだ。あんなの間近で見ることが出来るなんて、運がいいね」

 うなずきながらこう答えた。ロリエはなぜか驚いた表情を浮かべながらも、

 「そ、そうだったんだ……」

 と言った。その時セシリアがロリエに、

 「ところであなた、なんて名前なの?」

 と問いかけた。彼女は、

 「わたしはロリエ・安岡。歴史好きの女の子よ」

 と答えたあと、

 「それじゃセシリアちゃん、アドレス交換しよう。わたしのロップのアドレス見せるから、登録してね」

 セシリアにロップのアドレスを見せた。彼女は、それを受けとるなり、すぐにアドレスを登録した。そして、ロリエに彼女のロップを返した。その間、ロリエはルリカたちと話をしていた。そしてしばらくして、ロリエのロップにメールが入ってきた。


 -よろしくね、ロリエ。私はセシリア・グランヴィス。あなたとは、気が合いそうね。腕っぷしが強いところや、ストッキングが好きで似合う点、あと歴史好きなところもね……-


 このメールのあと、セシリアのロップのアドレスが綴られていた。ロリエは、すぐさまアドレスを登録した。そして、

 「ありがとう、セシリアちゃん♪」

 と手を振りながら言った。すると、セシリアも笑顔でそれに応えた。その時、3組の生徒が、

 「もうすぐ先生が来るよ」

 と叫んだ。その声を聞いたセシリアは、

 「ロリエ、また会いましょう。だけど、エミルは絶対渡さないわよ。だって彼は私の“想い人”よ。それに結ばれる運命なの。ね、エミル」

 こう言いながら、エミルと一緒に3組の教室を後にした。いつの間にかエミルも、セシリアと手を繋いでいた。そして、軽くキスを交わした二人の表情は笑顔に変わっていった。


 数分後、担任であるウインリィが入ってきた。そして、

 「皆さん、もう知ってると思いますが、今日は1学期の終業式です。9時30分から体育館に集まります。夏休みの宿題表を渡すので、放送があるまで目を通してください」

 と言ったあと、全員にプリントを配った。それを見た生徒からは、次々と悲鳴が起きた。ところがロリエは、

 「これだったら、ウインリィちゃんとホフマン諸島に行く前に片付きそうだね」

 うなずきながらこう言った。ルリカも同じようにうなずいた。そしてロリエに、

 「ロリエちゃん、さっきの二人とどういった関係なの?」

 と聞いた。彼女は、

 「うーん、わたしも初めて会ったよ。だけどセシリアちゃんとは相性いいと思うんだ。ひょっとすると、わたしとセシリアちゃんとの間で“アーナス・ムーン現象”が起きるかも知れないね……なんてね」

 少しのろけながら答えた。するとリナが、

 「ええと……、セシリアさんの名字って、なんでしょうか……? 彼女、何か活発なお嬢様という感じでしたけど……」

 こんなことを言い出した。ロリエは、セシリアからもらったメールをリナに見せながら、

 「……セシリアちゃんの名字、グランヴィスっていうみたい……」

 と答えた。するとリナが、

 「ええ!? あのお嬢様がこの高校に……」

 驚きながら言った。ロリエとルリカも驚いた表情をしたので、改めてリナは、

 「ええと……、グランヴィス家には、セシリアさんも含め、3人の娘がいるのです。セシリアさんの二人の姉はセリスに行きましたが、彼女だけはここに通ってきたのです……。もちろん、セリス女子に受かるほどの学力は持ってますから、彼女も両親から相当な教室を受けていると思われます」

 こう説明した。それを聞いたロリエは、

 「へぇ、ここまでわたしと同じ・・・・・・・・・・なんだ……。結構共通点あるってね……」

 感心しながら答えた。それから、

 「セシリアちゃん、“フタレポ”のテーマ、何にしてるんだろう……。ちょっと見てみたいな」

 こんなことを口にした。ルリカは、

 「ひょっとすると、今日話題になってた“アーナス・ムーン現象”について書いてるかも知れないですね……。あ、リナちゃん、どうしてセシリアさんが学力があることを知ってるの……?」

 話の途中で何かに気づいたように、リナに問いかけた。すると彼女は、考え込みながら、

 「そう、ですね……、先ほどみたいにエミルと一緒に歩いてる時に、「私はエミルのために、彼と“アーナス・ムーン現象”を実現させる・・・・・ために、セリスじゃなくここに向かったの。セリスには受かったけどね」ということを、何回か耳にしたことがあります」

 と答えた。今度はロリエが考え込みながら、

 「え!? アーナス・ムーン現象って、自力で出せるの??」

 こんなことを言った。ルリカは、

 「私にはわからないわね……」

 と言ったあと、

 「そう言えば、エミルに質問した時、彼が答えてた内容に驚いてたみたいだけど、何かあったの?」

 ロリエにこう問いかけた。彼女は、

 「いや、同じ日に近くで複数回・・・起きるなんて非常に珍しいから、ね……」

 そう答えた。するとウインリィが3人のもとに近づき、

 「ロリエちゃん、例の件・・・、報告してもいいかしら……」

 と問いかけた。ロリエは、

 「え!? それって、姉さんのこと……?」

 少し驚いた表情で問い返した。それに対しウインリィは、

 「ええ、これは両家から公表の承諾があったの。高校生同士だけどね……。それに認定したのが、名門私立の理事を務める魔法師、そう、姉が通う学校のね。終業式が終わったあと、クラスの人たちに話すわ」

 こう答えた。なお“アーナス・ムーン現象”が認定された時、ナディアにおいては、基本的に対象者が住んでいる市町村レベルや氏名は公表されるが、対象者が“未成年同士”(特に男女)の場合は、例えば「新浜県の高校生の男女」という形で、現象が起きたという事実を伝えるにとどめている。ただし、ロリエの姉のソフィのように、交際している両者の親族が承諾した場合や、王族などの重要人物である未成年に関してはこの限りではない。ちなみにナディアでは、18歳以上で成人となり、毎年2月1日が成人の日となっている。そんな中、ウインリィが、

 「もうすぐ終業式が始まるので、全員体育館に向かってください」

 と言った。それを合図に、全員が体育館へと向かった。


 終業式が終わったあと、しばらくたってクラスの通知表を手にしたウインリィが教室に入ってきて、

 「皆さん、うれしいお話があります」

 こう切り出した。それから、

 「この度、ロリエちゃんの姉が、交際してる男子と「アーナス・ムーン現象が起きた」という認定を受けました。認定を受けたのが夜遅くだったので、新聞に掲載されるのは今日の夕刊か、明日の朝刊になりますが、これはおめでたいニュースです」

 こう言ったあと、拍手をし始めた。すると一斉にクラス中が拍手の音でいっぱいになった。それから、

 「おめでとう」

 などの祝福の声も多く飛び交った。いつの間にか、別のクラスからも様子を見に来る人たちまで現れた。ロリエは、

 「あの……、わたしじゃないんだけど……」

 戸惑いぎみに答えたが、

 「いいじゃないか。ロリエの姉さんが付き合ってる男子と幸せに結ばれるんだろう? いい話だぜ」

 というような声に押された? のか、ロリエも、

 「みんな、ありがとう。姉さんのために……」

 とお礼の述べた。その時、セシリアが3組の教室に入り、

 「よかったわね、ロリエ。あなたの姉さんがとびきりの“奇跡”によって結ばれるなんてね……。色々とインタビューしたいわね、姉さんに」

 そう言いながら、ロリエの手を握った。彼女は、

 「ありがとう、セシリアちゃん♪ ……てことは、“フタレポ”のテーマって、まさか“アーナス・ムーン現象”のこと??」

 お礼と驚きの声が入り交じった感じでセシリアに問いかけた。すると彼女は、

 「ええ、そうよ。愛しのエミルと確実に・・・結ばれたいし、もっと幸せなカップルが増やせたら、それはそれで人々のためになるでしょう?」

 こんな答えを返した。そして、

 「ごめんなさい。皆さんのお邪魔をして。ロリエ、あなたもよきお相手が見つかったら、あなたの姉さんを参考にしなさい。姉さんや私みたいに、お相手の方を大切にすることが重要なのよ。友達として、あなたに伝えてあげるわ」

 こう言いながら、教室を後にした。直後に、

 「あんなお嬢様がロリエの友達にいたのか……」

 などと騒ぎ始めた。その様子を見ていたウインリィは、

 「皆さん、静かにしてください」

 と言ったあと、

 「これより通知表を渡します。名前を呼ばれたら、すぐに取りに来てください」

 そう言いながら、五十音順に名前を呼んだ。様々な声が飛び交う中、ロリエの名前が呼ばれた。

 「やはり、セリスを受かっただけの実力はあるみたいね。だけど、美術はまるっきりダメみたいね……。それと終わったら、他の二人と校門で待っててね」

 ウインリィはそう言いながら、ロリエに通知表を渡した。彼女はそれを受けとると、すぐに席に戻り、カバンの中に入れた。全員に通知表を渡したウインリィは、プリントを配った。それには、出校日と補習授業を行う日の日程が書かれてあった。配り終えたあとウインリィは、

 「私には大切な仕事がありますので、皆さんと学校でお会いするのは、2学期が始まってからになります。夏休みの間、有意義な時間を過ごしてください。これで1学期は終わりです」

 そう話したあと、教室を後にした。3人はしばらく話をしたあと、机の中にある私物をカバンに入れた。そして教室を出て、玄関の下駄箱で靴にはきかえようとした時、ルリカが、

 「あれ? 私のロップに何かメールが入ってる……。あ、これ、親戚の祥子しょうこお姉ちゃんからだ」

 そう言いながら,メールを確認すると、以下の内容のメールが届いていた。


 -……ルリカ、このメール、いざという時のために・・・・・・・・・・残しておいて……。私ね、もう少しで、父さんの大切にしてた店と土地を取り戻せるところまで来たの。私が働いてるキャバクラのお客が、とても重要な情報を伝えてくれたの。それに、私が「一緒に付き合って」と言ったら、「お前が、ティナ・・・が好きだ。これでようやく数百年前から・・・・・・かなわなかったこと、お前と晴れて結ばれることが実現する」と言いながら、取り戻すためのお金まで出してくれるって。私は祥子という名前で、店では“リンダ”と呼ばれてるけど、どういうわけか、どちらとも異なる・・・・・・・・名前で呼ばれたの……。それになぜだかわからないけど、お互いに結婚しよう・・・・・・・・・という気持ちになったわね……。あと、以前父さんの店で働いていた人達にはこれまで迷惑をかけたから、私に渡してくれたお金を上乗せして返してあげることにするわ。そのことは、あの元店員の携帯にもメールで伝えてあるわ。あとそれと、土地は“外国の高位の・・・・・・魔法師が父さんたちを騙して奪った”ことがわかったの。ルリカ、このメールは必ず携帯用のメモリーカードに保存して。あなたのハイフォンにも同じ内容のメールを入れてるから……。出来れば他の人にもメールの内容を伝えて。何か重い、嫌な感じがするの……-


 これを読んだルリカは、

 「ロリエちゃん、大切なメール今から送るわ。ロリエちゃんも送ったメールすぐに保存して」

 と言いながら、ロリエのロップに祥子から送られたメールを送った。ロリエは早速来たメールに目を通すと、

 「これ、ウインリィ先生にも送った方がいいね。ひょっとすると、とんでもないことになるかも知れないよ」

 早速ウインリィにも祥子が作成したメールを送った。そして3人は靴にはきかえ、校門の前でウインリィを待った。もちろん、ロリエは電動自転車に乗って、だが……。


 しばらくして、ウインリィが校門の前に車を止めて、ルリカとリナを乗せた。そして、

 「ロリエちゃん、場所はわかってるわね?」

 と聞いた。ロリエは、

 「うん」

 とうなずいたあと、

 「先生、さっき送ったメール見た?」

 こう聞いた。するとウインリィは、

 「ええ。何やらただならぬ雰囲気を醸し出してるわ。だから、すぐにメモリーカードに保存したわ」

 そう答えたあと、

 「続きはレストランでしましょう。先に行って待ってるわ」

 と言いながら車を走らせた。少したったあと、ロリエは後を追った。



 一行が向かったレストランは、中央図書館の近くにあり、パスタとサラダが評判の店である。先に来ていた3人は、先ほどの祥子からのメールが気になっているらしく、そのことで話を続けていた。しばらくして、ロリエが来たのを確認して、

 「ロリエちゃん、こっちよ」

 ウインリィがロリエに声をかけた。ロリエが電動自転車をおりて車に近づくと、

 「みんな揃ったわね。早速中に入りましょう」

 と言って、店に向かった。ロリエは急いで自転車置場に自転車を置いたあと、3人と一緒に中に入った。


 店の中は昼前にもかかわらず、お客さんがたくさん入っていた。ウインリィが予約している旨を伝えたあと、4人はテーブルに座った。そして、『本日のスペシャル・パスタ』を注文して、話を再開した。

 「ルリカちゃん、あなたの親戚の人が送ったメール、何か重大な秘密が隠されてるかも知れないわね……。それにこの内容、もしかすると、セシリアに見せると・・・・・・・・・何かわかるかもね……。彼女のフタレポの内容にぴったりなお題よ」

 ウインリィがこんなことを語った。するとロリエが、

 「ええ!? それって“アーナス・ムーン現象”の……!?」

 驚きながら聞いてきた。しかしウインリィは、

 「それは言えないわ。成績に関わることだから……」

 首を振りながら断った。それでもロリエは、

 「でも、セシリアちゃんは、“アーナス・ムーン現象をテーマにしてる”って、自分からそう言ってたよ。「愛しのエミルと結ばれたい」ともね……」

 こう話した。これにはウインリィも、

 「そうなの……」

 と答えるだけだった。それから、

 「話は変わるけど、来週から始まるホフマン諸島への準備、大丈夫かしら? もう始めておかないと間に合わないわよ」

 こう問いかけた。するとリナが、

 「ええと、先生、私もパスポートがあります……。昨日、父さんが部屋に保管してたことがわかりました。期限も問題ありません」

 そう答えた。後を追うようにルリカも、

 「私も、残りはパスポートの申請結果待ちです」

 すぐさま答えた。ロリエも答えようとした時、

 「ロリエちゃんには、後で知らせておくわね。20日あたりに陽菜先輩にもね……。今は姉のことが大切な状況でしょう? そこは私もフォローしておくから」

 ウインリィが言葉を挟んだ。ロリエも、

 「ありがとう、先生」

 とお礼を言った。そして、

 「ねぇ、先生、ホフマン諸島で何の調査するの?」

 こう問いかけた。ウインリィは少し考え込みながら、

 「今は詳しくは言えないけど、少なくとも、“エレメント”に関することだけははっきりしてるわ。この調査で、何かが見えてくる・・・・・・・・かも知れないわね」

 こう答えた。ロリエは、

 「へぇ、皆川山のところにある“例の場所”と同じような建物とかがあるんだ……」

 感心するように言った。ウインリィは、

 「そうね……。大体そう思ってくれればいいわ。それに明日、あなたがよく遊んでた例の場所に調査に行くの。そこに入るのに、あなたがいないとダメなの」

 こう話した。するとロリエは、

 「じゃ、ミューズちゃんに会えるわけだ。ミューズちゃん、しばらく会ってなかったから、今頃どうしているんだろうな……」

 こんなことを口にした。ルリカが、

 「え? ミューズって……」

 ロリエにこう問いかけると、彼女は、

 「うん、彼はね、遺跡の守り人なんだ。先生の“想い人”のことも知ってるみたいなんだけど……」

 と話をしていたところ、

 「ロリエちゃん、それ以上はダメよ」

 ウインリィに口止めをされた。ロリエは、

 「えー、なんで……!?」

 ちょっぴりすねた表情を見せた。それに対しウインリィは、

 「それはいずれ来るべき時に話す、って言ったわよね? 今はまだその時じゃないから、ごめんね……」

 なぜか顔を曇らせながら語った。ロリエが何か言おうとした時、ルリカが、

 「ロリエちゃん、もう少ししたらパスタがくるよ。あ、水の方は大丈夫?」

 間に入るようにこう問いかけた。全員がいると答えたのを聞いて、ルリカは急いで4人分の水を取りにいった。そして水の入ったコップをテーブルに置いたのとほぼ同じくして、注文したパスタが届いた。この日のスペシャル・パスタは、近海でとれた魚介の海鮮パスタであった。ウインリィは、

 「ここのパスタはね、スープがとてもおいしいの。私も初めて食べてから、もうファンになって、毎月必ず一度はここを訪れてるの。じっくり味わってみて」

 こう言いながら、早速パスタを食べ始めた。他の3人も食べると、口々に“おいしい”という類いの感想が飛び出した。そのまま食べ続けていると、ロリエが、

 「あれ? 向こうにセシリアちゃんとエミルちゃんがいるよ。ここにデートに来たんだ……」

 セシリアとエミルが一緒にパスタを食べているところを目撃した。するとリナが、

 「本当ですね。“二人がラブラブ”といううわさ、ウソじゃなかったんですね」

 うなずきながら答えた。ロリエが二人の元に向かおうとすると、

 「ここは邪魔しない方がいいわ。そっとしておきましょう」

 ウインリィがやんわりと止めに入った。ロリエは、渋々という表情を浮かべながら再び座った。それから、全員が食べ終わるまでは静かになっていた。食べ終わったあと、3人はその場でお礼を言った。それからウインリィが会計をしようとした時、ふとロリエが、

 「ねぇ、ルリカ、学校で送ってくれたメール、セシリアちゃんにも見せていい?」

 こんなことを口にした。ルリカは、

 「ロリエちゃん、急にどうしたの?」

 首をかしげながら問いかけた。するとロリエは、

 「ここじゃあれだから、外に出てからにしよう」

 と言いながら外に出た。ルリカも、

 「先生、先に外で待ってます」

 そう言って、ロリエの後を追った。外に出てロリエに、

 「ロリエちゃん、さっき言ったことって、どういうことなの……!?」

 こう問いただした。すると彼女は、

 「あのメールなんだけど、先生の言った通り、セシリアちゃんにも送った方がいいと思うんだ。だから、今すぐに送ってもいい?」

 こんなことを口にした。ルリカは少し考えたあと、

 「ロリエちゃん、お願い。少しでもお姉ちゃんの助けになれば……」

 そう答えた。ロリエは

 「わかった。今から送るよ」

 と言ったあと、すぐにセシリアにルリカ(=祥子)から送られたメールを添付した、協力を求めるメールを送った。ウインリィがリナと一緒に店から出た時、セシリアから、


 -ロリエちゃん、私でよければ是非とも協力してあげるわ。あなたの親友を助けるのも、友達として当然だし、それにこれは、私がレポートのテーマとしている“あの現象”と関わりがあるかも知れないから……。何かわかったら、すぐにメールで報告するわ。もちろん、あなたの親友のメールはばっちり保存しておいたから、安心して-


 こんなメールが届いた。すぐにロリエは、

 「ウインリィちゃん、セシリアちゃんにあのメール、送っておいたよ。そしたら協力してくれるって返事がかえってきたよ」

 ウインリィに報告した。それを聞いたウインリィは、

 「わかったわ。ありがとう」

 と言ったあと、

 「これからどうするの?」

 3人に問いかけた。3人が考え込んでいると、

 「あら、本当に奇遇ね。あなたたちもここの店に来てたの……」

 セシリアがエミルと一緒にやってきた。それから、

 「ロリエちゃん、あなたのメール、読ませてもらったわ。私も何か大変なことが起きることを予感するほどの内容ね……」

 こんなことを話した。ルリカが突然、

 「お願い。祥子お姉ちゃんを助けて……。私、何か嫌な感じが、嫌な感じがするの……」

 セシリアに頼みこんだ。彼女はルリカの手を握りながら、

 「ええ、私も出来る限りの協力はするわ。それに、こんなところで困っている人を放っておくなんて、グランヴィスの名が泣くわ」

 力強く言った。そして、

 「私が思うには、メールの内容からして、例の現象が起きたと考えているの。もちろん、資料などを詳しく調べてみないと、なんとも言えないけど……」

 こう話した。

 「ありがとう、セシリアさん……」

 ルリカは一言お礼を述べた。ウインリィも、

 「セシリア、メールの“解析”、頼むわね」

 こうお願いしたあと、

 「改めて、これからどうするの?」

 と3人に問いかけた。ルリカとリナは、

 「今日はこれで帰ります」

 と答えた。ロリエは、

 「わたしは図書館に行ってるよ」

 と答えた。それを聞いたウインリィは、

 「わかったわ。それじゃ、ルリカちゃんとリナちゃんを送って行くから、ロリエちゃん、今日のところはここでお別れね」

 こう話したあと、

 「ロリエちゃん、明日は私が迎えに行くから、9時までに玄関の前で待ってて」

 と言いながら、他の二人と一緒に自分の車に向かった。この間全く無視されていた感じのエミルは、

 「なあ、セシリア、オレも何か協力したいんだけど、一体何をすればいいんだ……?」

 こうセシリアに問いかけた。すると彼女は、

 「エミルはね、私の側にいてくれるだけでいいわ。それだけで、私のやる気が出るの」

 と言いながら、エミルを抱き締めた。突然の行動に驚いた彼だったが、自身もセシリアを抱いて、

 「わかったよ。お前がそう言うのなら、自分に出来るだけのことをやるよ」

 こう言った。その声を聞いたセシリアは、

 「それじゃエミル、約束のキスね。でもここじゃ、周りに見られてしまうから、場所を移そう」

 と言いながら、エミルと一緒にその場を離れた。ロリエも少し離れて二人の後を追った。


 二人は、公園の一角にあるベンチに座った。ロリエは、二人が見える場所を、他人に疑われないようにぐるぐる動いていた。

 「ねぇエミル、あなたの父さんって、確か……」

 セシリアがこう問いかけた。エミルは、

 「ああ、県警の警部だよ。結構やり手の、ね」

 と答えた。それから、

 「まあ、考えたくはないけど、“もしもの時”があれば、父さんが全力をもって犯人を捕まえるから」

 こんなことを口にした。セシリアは、

 「わかったわ……」

 そう言ったあと、

 「改めて、約束のキスをしよう、エミル」

 この言葉を合図に、二人は互いを抱き締めて、唇を交わした。そしてしばらくの間、キスをし続けていた。その間の二人は、穏やかな、そしてやさしさにあふれる表情を浮かべていた。それを見届けたロリエは、笑顔でその場を離れ、図書館へと向かった。ちなみに、セシリアに祥子のメールを伝えたことが、“その後・・・”を大きく左右することになるとは、この時点では誰も想像していなかった。



 「セシリアちゃんとエミルちゃん、本当にラブラブだよねぇ……。今日誰かが「二人にこそ“アーナス・ムーン現象”が起きて欲しい」なんて言ってたけど、わたしもあのキス・シーンを見てそう思ったよ……。あ、あの二人だったら、現象が無くても普通にうまくいくか」

 などと言いながら、ロリエは自転車を駐輪場に止めて、図書館に入った。そして、歴史に関する本を手当たり次第に何冊か取って、よみふけった。すると、ある本の中に、気になる記述があった。


 -アーナス・ムーン現象は、対象の状況を問わず発生する現象であり“色を選ばない奇跡”としても知られるが、時として、互いにパートナーがいる状況、つまり夫婦同士・・・・の一方ずつで現象が確認されることがある。この場合対象が同性同士であれば特に問題はなく、例えばお互いの家族同士が親密になり、両家共々発展したり、経営者同士ならば、突然経営状況が好転し、互いの会社が大きく成長するといった例が報告されている。しかし、稀に異性間で起きる場合があり、その場合、人間関係に大きな亀裂が生ずることも少なくない。最悪の場合、戦争に発展することもあり、現にナディアでも、数百年前に一度、アーナス・ムーン現象が原因と思われる戦争が起きている。この戦いの時は10日ほど後、両国の会談で、互いのパートナーを変える・・・・・・・・・、という決断をした下したあと、すぐに戦いは終結し、共に発展を遂げたという。なお余談であるが、20年ほど前、アーナス・ムーン現象で、お互いにパートナーを亡くしたという異性同士が結ばれた時に、しばらくして、“それぞれのかつてのパートナーが生き返った”、という事例がある。この時生き返った二人は、不慮の死を遂げた・・・・・・・・ことが確認されている。同じような例が、歴史上確認出来るだけで幾度かあったが、いずれも生き返った人たちが、生前事故や事件に巻き込まれたか、若くして病気や戦争で亡くなっていたことがわかった-


 これを読んだロリエは、

 「へぇ、こんなことがあるんだ……。セシリアちゃんに見せようかなぁ……」

 と言いながら、この部分の記述を毎日持ち歩いているチェッカーにメモした。そして、

 「よし、今日は家に帰ろう」

 と言ったあと、自転車で家路についた。



 一方のソフィは、学校が終わったあと、バイト先の塾に立ち寄り、そこから彼の家に行った。家庭教師として、そして未来のパートナーとして、彼に会いに……。


 彼の家に着いたソフィは、ドアホンを鳴らした。そして、

 「こんにちは、ソフィ・グリーンヴィラです」

 こう言った。すると、

 「ソフィ、今日も来てくれたね。それで今日は、未来のことを話したいんだ」

 ソフィの彼氏が現れた。

 「ええ。私もそうしたいわ、トスカーナ」

 ソフィも同じ意見であった。それから、

 「今日はもう一件、家庭教師で回るところがあるから、本格的に話すのは、そこが終わってからになるわ。終わったあとにすぐにメールを入れるから、それまでには、家にいてね……」

 こんなことを口にした。トスカーナは、

 「ああ、今日はどこにも行かないよ」

 と言いながら、ソフィの手を握った。彼女も、

 「ありがとう」

 笑顔で答えながら、彼の手を握り返した。そして、

 「さっそく始めるわね」

 と言いながら、勉強を開始した。それから60分近くがたったあと、

 「今日はここまでね、トスカーナ」

 そう言いながら、ソフィが教材をカバンに直した。

 「本当に人に教えるのがうまいね、ソフィは。評判になるのもうなずけるね」

 トスカーナは、感心するようにソフィに伝えた。彼女は、

 「ありがとう」

 一言お礼を述べながらも、

 「まだうまく行かないところがあるみたいね……。もっと教え方の勉強をしないと……」

 こんなことを口にした。そして、

 「これからもう一件、小学生のところに行くの。本当は入ってなかったけど、どうしてもっていうので……。家は近くにあるみたいなの」

 こう言って、玄関に向かおうとしたが、

 「ソフィ、せっかくだから、昼飯を食べないか?」

 トスカーナがこう呼び掛けた。ソフィは腕時計を見て、何度かうなずきながら、

 「ありがとう。お昼どこかで食べてから行こうと思ってたから」

 トスカーナにお礼を述べた。その時、誰かが部屋に入ってきた。

 「母さん、昼飯、ソフィの分も作ってくれないか? ちょっと彼女と話をしたいから」

 トスカーナが、自分の母親に二人分の昼食を作るように頼んだ。母親は一度うなずいたあと、部屋を出ていった。それから、

 「ソフィ、これからどうする? アーナス・ムーン現象が起きて、お互いに喜んでたけど、このまますぐに結婚していいのか……」

 こんなことを切り出した。ソフィも、

 「ええ、私もそう考えたわ。結婚したあと、二人で暮らすことになるでしょう? その時のためにお金を貯めてるとはいっても、色々大変なことがあるし、二人共まだ高校生だから……。昨日近いうちにあなたと結婚する決断はしたけど、どうしようかと……」

 悩みながら話した。その話を聞いたトスカーナは、

 「まあ、結婚可能な年齢に達してなければ、しばらく“愛を育む”ことになるけど……」

 考え込んで言った。するとソフィは、

 「いいえ、私の学校の理事、そしてアーナス・ムーン現象を認定してくれた魔法師によると、お互いに結婚出来る年齢には達してるわ。……ああ、私の学校では、結婚してる生徒をサポートする制度があったわね。それなら、学校に相談しようかしら。それに認定してくれた理事は母さんの親友・・・・・・だから、きっと力になってくれるわ」

 こんなことを口にした。話を聞いたトスカーナは、ただ驚くばかりであった。そしてさらに、

 「決めたわ。近いうちにあなたと結婚するわ。改めて明日、私の家でそのことを話すつもりよ」

 力強い口調でこう述べた。その時、

 「ご飯出来たよ」

 トスカーナの母親の声がした。彼は、

 「台所に行こうか、ソフィ」

 と言った。ソフィもうなずいたあと、二人一緒に台所に向かった。


 「いただきます」

 二人で一緒に言ったあと、すぐに食べ始めた。

 「これ、おいしいわ。カダマ県の特産のそうめんでしょう?」

 ソフィがこう問いかけた。するとトスカーナの母親は、

 「あら、わかるのね、あなた」

 感心しながら答えた。ちなみにカダマ県は、ナディアにある二つの海なし県のうちのひとつであり、新浜県に隣接している。ソフィは、

 「私の母のお客さんや、踊りの弟子たちが、贈り物とかで家に届けたりしてくれるのです。それで何度もいただいたことがありまして……。母は現在、魔法コーディネーターをしてまして、魔法力を上げるアイテムなどの開発も行ってます」

 こんなことを話した。その話を聞いたトスカーナは、

 「えええ!? お前の母さんが……!!? 確かお前、魔法使えなかった・・・・・・・・よな……? お前の母さんも魔法使えない・・・・・・・・・・はずだぞ……」

 ただただ驚くばかりであった。母親も、

 「そうね、基本的に両親が魔法を使えるのなら、子供も魔法を使えるけど……。私も夫もそれなりに使えるから、トスカーナも“魔法アスリート”の選手として活躍出来るし……。だけど、魔法コーディネーターって、最近制定された資格でしょう。魔法が使えない人でもなれるなんて、初耳ね」

 感心しきりであった。それでもソフィは、

 「ええ、母は直接は・・・魔法を使えないのですが、実はストッキングをはくことで、魔法グッズに込められている“魔法の力を最大限に引き出す能力”を発揮する、あるいは、普通の道具に魔法の力を付与する、などといった能力を使えるようになるのです」

 淡々と語った。トスカーナは、

 「そんなんあるんだ……。確かに、特定のアクセサリーを身につけることで、魔法力をアップさせる、なんていうのはゲームとかでもよくあるパターンだけどさ、「パンストはいたらとてつもない能力が使える」なんて聞いたことが無いぞ」

 箸を止めて話した。そして、

 「ちょっと待てよ……、お前が今はいてる制服やパンストも、ひょっとして……」

 ソフィにこう問いかけた。彼女は、

 「ええ……、実は、このストッキングもそうなの。制服は違うけど、名門私立だけあって、ちょっとした“防護服仕様”にはなってるわ」

 と答えたあと、

 「これは「もし好きな人と“特別な時間”を経験する時があれば、これをはいて」と母からいくつか買ってもらったストッキングの中のひとつなの。お互いが愛を育んで、ぬくもりを共有して、大切にしあえる関係を深める、そういった意味を込めて、ね……」

 自分のはいているストッキングを指差しながら、こんなことを口にした。そんなソフィの姿を見たトスカーナは、思わず息を飲んだ。というのも、ソフィは休みの日はスーツ姿で自分の家に来ており、学校帰りに来る時も、冬場以外でストッキングをはくことは少ない。改めてこの日の彼女を間近で見て、

 「きれいだね、ソフィ。君の心を映してるよ」

 こんなことを口にした。すると彼女は、

 「調子がいいのね、トスカーナ……」

 ちょっぴりため息をつきながらも、

 「でもありがとう。私も、あなたのことが好きで、頭から離れられなかったの。あなたを教えてる時にも、学校で勉強してる時にも……。改めて、私たちに“アーナス・ムーン現象”が起きたことを実感したわ」

 笑顔でこう話した。その時、トスカーナの母親が、

 「あら、そうめんは食べないの?」

 二人に問いかけた。二人は、

 「食べますよ」

 と言いながら、改めてそうめんを食べ始めた。数分後、

 「ごちそうさま」

 ここでも息を合わせるかのように、二人一緒に言った。そして、ソフィが腕時計に目をやると、

 「あ、もうこんな時間? 早く行かないと」

 そう言ったあと、

 「ごめんなさい、今から行かないと……。昼ご飯ありがとう、トスカーナ、母さん」

 二人にお礼を言いながら、玄関へ向かった。トスカーナもすぐに後を追った。そして玄関で、

 「ソフィ、後でこっちへ来たら、“特別な時間”で愛を育もう。やっぱり俺にとっても、お前が大切な存在なんだ。こないだ、お前が応援に来てくれたから、何とか勝負に勝てたんだ」

 ソフィに自分の気持ちを伝えた。すると彼女は、

 「ありがとう。“特別な時間”、私も楽しみにしてるわ」

 こう答えたあと、一旦トスカーナの家を後にした。



 家路に着いたロリエは、

 「ただいま」

 と言いながら玄関に入ったが、家族以外の人の靴が数人分あったのを確認して、

 「あれ? 何でこんなに人がいるの??」

 首をかしげながら、靴を揃えて玄関を上がった。そこへ陽菜が現れて、

 「お帰り、ロリエ。今日は踊りのけいこがあるから、自分の部屋に戻っておいて」

 そう言って、ロリエに2階の部屋に入るように指示した。彼女は、

 「わかったよ、母さん」

 と答えたあと、まず台所に向かってジュースを取りにいった。それから、2階の部屋に入った。ちなみに、陽菜は伝統的な「ナディア舞踊」の教室を月に3回、5のつく日に開いており、この日はそれにあたる。ナディア舞踊は、現実世界における日本舞踊とよく似ていて、扇を使って舞うのが特徴であるが、情熱系やそれに近いような音楽と合わさると、歌舞伎の要素が入ることがあるという点が日本舞踊と異なる。陽菜は、ナディア舞踊を踊り始めてもう何年もたつのだが、実はロリエたちには、いつから始めたのかは話していない。さて、ロリエの方はというと、

 「さあ、まずは夏休みの宿題を早めに片付けよう」

 こう言いながら、宿題を机の上に出した。そして、宿題に取りかかった。時間は午後の1時半(1時40分)を過ぎていた。


 それから1時間ほどが経過した時、ロリエは、レポート系以外の宿題をあらかた終わらせていた。そこへ、

 「ロリエ、ドアを開けるよ」

 陽菜の声がした。それからすぐにロリエの部屋に入った。

 「お疲れ様、母さん」

 ロリエは陽菜に声をかけたが、彼女は、

 「まだ終わってないわ。今休憩の時間だから」

 そう言いながら、コップの麦茶を飲み干した。それから、

 「成績はどうだった?」

 ロリエにこう問いかけた。彼女は、陽菜に通知表を見せ、

 「これ」

 と言いながら母に手渡した。陽菜は通知表を見て、

 「……補修はないの?」

 と言ったあと、

 「美術以外の成績はいいわね。さすがにソフィと同じく、セリスを受かるだけのことはあるわ」

 こう話して、机に通知表を置いた。ロリエは、

 「う~ん、わたし絵を描くのは苦手だからね……。何とか補修は免れたけど……」

 苦笑いを浮かべながら答えた。それから、

 「母さん、姉さんはいつ帰るの?」

 こう聞いた。陽菜は、

 「実は私のハイフォンにメールが入って来てね、「彼氏の家で夕飯をごちそうになる」って……。どんなことをして、愛を深めるのかしらね……」

 ちょっぴり笑みを浮かべながら答えた。ロリエは、

 「そうなんだ……」

 と言ったあと、

 「あ、昨日母さんからもらった“寝る時にはく”ストッキング、はいて寝たらすんごく気持ちよかったよ。気持ちよすぎて起きるのが遅れてしまったけど……」

 こんなことを口にした。陽菜は、

 「そうでしょう? 私が考えた“就寝用パンスト”、効果抜群だったでしょう。今度から寝る時にそのパンストをはく場合、起きる時間には気をつけた方がいいわね。それがちょっと難点かな」

 腕を組みながら考え込んだ。それから、

 「ロリエ、後でジュードちゃんにも話すけど、ソフィがいない今だから、あなたには先に言っておくわ」

 こんなことを口にした。ロリエは、

 「母さん、どういうこと?」

 首をかしげながら問いかけた。陽菜は、

 「私ね、3人目を産もうと思うの。あなたとソフィが成長したし、ソフィが近いうちに結婚をすることになるから……。そこで明日、ソフィと彼氏にぜひとも見てほしい“命の授業”を行うわ」

 お腹をさすりながら答えた。ロリエは、

 「母さん、わたしも見たいよ。弟か妹を。それとわたしも子育てを学びたいよ」

 こう話した。陽菜は、

 「わかったわ、ロリエ。ありがとう。後はジュードちゃんが応えてくれるかどうかだけね……」

 ロリエにお礼を言った。その時、

 「先生、休憩終わりましたよ」

 という声が聞こえた。陽菜は、

 「すぐ行きます」

 と答えたあと、

 「ロリエ、この話は今は誰にも言わないで。特にソフィにはね」

 ロリエに先程の話をしないように伝えた。彼女も、

 「わかったよ、母さん。宿題をやっておくよ」

 こう陽菜に伝えた。それを聞いた彼女は、ロリエの部屋を後にした。ひとり部屋に残ったロリエは、レポート系以外の宿題を片付けに入った。時計を確認すると、2時55分であった。

 「よし、4時までにレポート以外の宿題終わらせて、ダイアリーを書こう」

 巻いてあったままのハチマキを絞めて、気合いを入れ直した。そして宿題を終わらせたあと、例のダイアリー作りに取りかかった。



 -7月14日(木)この日は、わたしの姉さんにとてつもない“奇跡”が起きた。それは、“アーナス・ムーン現象”という名前の現象であり、魔法に関する奇跡が起きるのが特徴となっている。またこれは、二人の相性がベストであることを証明するものとなっており、現在では、かなりの腕前の魔法師が判定するようだ。ちなみにこれによって結ばれた夫婦は、決して離婚しないと言われている。姉さんは、今付き合ってる男子とは非常に仲がよかったが、この現象で改めてそのことが裏付けられた。この現象は、世界中で年間3000組ほどの夫婦に起きるらしく、同じ日に、近所で複数回起きるのは奇跡に近い。セシリアちゃんという、名門の家庭のお嬢さんがレポートで現象の研究をしてるから、詳しいことは彼女に聞いてみることにしよう。ただ、この現象がもとで昔戦争が起きたことがあるが、“お互いのパートナーを交換する”という離れ業で、戦争を終結させただけでなく、両国を発展に導いたそうだ。ちなみにこの時も、“近場で複数回現象が起きた”という。何か関連があるとすれば、近いうちに何かあるのかも知れない……-



 こんなことを書いていると、

 「ロリエ、台所へおいで」

 こんな声がした。ロリエが部屋を出て、階段を降りると、

 「こっちこっち」

 陽菜がロリエを台所へと誘った。テーブルの上には、箱がひとつ置いてあった。陽菜は、

 「このケーキね、お弟子さんからもらったの。よかったらロリエも食べない?」

 と言いながら、箱を開けた。

 「うわあ、おいしそうなチョコケーキだ。わたし好きなんだ、チョコケーキ」

 両手を上げて喜びながら、

 「これ食べていい? 母さん」

 陽菜に問いかけた。彼女は、

 「いいわよ。ひとつ食べてみて。皿を用意するから」

 笑顔で皿と小さなフォークを用意しながら答えた。ロリエは早速ケーキをひとつ皿に移して食べ始めた。

 「おいしい。これくせになりそう」

 ロリエがケーキを味わいながら食べていると、

 「ただいま」

 ジュードが帰ってきた。

 「お帰り、ジュードちゃん」

 陽菜が玄関へと向かった。そして、

 「お疲れ様、ジュードちゃん。取材はどうだった?」

 ジュードが置いた荷物を持って、リビングへ向かった。

 「ああ、いいコラムが書けそうだ」

 そう答えたジュードに対し、陽菜は、

 「ジュードちゃん、明日のことで大切な話があるの」

 こう伝えた。ジュードは、

 「ソフィのことか。「“奇跡の現象”が起きた」とメールに入ったからな……。それなら、二人の交際も認めることになるね、必然的・・・に……。それだからこそ、私も二人に確認しておきたいことがある。今後に関わる重大なことだからだ」

 うなずきながら言った。この言葉に対し陽菜は、

 「それもあるけど、私たちにとっても大切なことよ」

 と言ったあと、

 「私ね、あなたとの子供を、3人目を産もうと思うの。それで二人に“命の授業”を見せてあげたいの。ジュードちゃんはどう思う?」

 ジュードにこんな話を持ちかけた。彼はしばらく考えたあと、

 「……わかった、君がそう考えてるのなら、私も協力しよう。こちらも落ち着いてるし、そろそろ考えてもいい頃だと思ってたところだ。私も、君との愛をもっと深めたいからな」

 快く話に応じた。陽菜は、

 「ありがとう、ジュードちゃん♪ それにあなたは本当に“営みが巧い・・・・・”から、必ずや二人の“手本”になるわ」

 ジュードを抱き締めてこう言った。彼は少し照れながら、

 「おいおい陽菜、ロリエもそこにいるだろう? ここからは二人で話をしたいところだけどな……」

 と言いながらも、表情は穏やかでまんざらでもないといった様子であった。そんなジュードの様子を察知した陽菜は、

 「ロリエ、ちょっと部屋に戻ってくれるかしら。大切な話があるから……」

 ロリエに部屋に戻るように伝えた。彼女は、

 「母さん、どうしてなの!?」

 と聞いたが、陽菜は逆に、

 「そういえば、明日ウインリィちゃんと一緒に調査に行くんでしょう? 準備は大丈夫なの?」

 こう問いかけた。するとロリエは、

 「あ、そうだった。ウインリィちゃんに明日のこと詳しく聞いとかないと」

 そう言いながら、リビングを後にした。ジュードは、

 「陽菜、ロリエは明日何かあるのか?」

 考え込みながら聞いた。陽菜は、

 「ええ、そうよ。ウインリィちゃんから、「明日大切な調査にどうしてもロリエが必要なの」という頼みが入ったから、明日立ち会いが出来ないわ」

 と答えた。さらに、

 「ソフィは今日、彼氏の家で夕飯をごちそうになるって連絡があって……。ソフィには、彼氏の両親に私たちの家の場所を伝えるようには言ってあるから、セッティングの心配はしなくても大丈夫とは思うけど……。ジュードちゃん、明日顔合わせをする時、くれぐれも緊張はしないで。その点が気がかりなの」

 ジュードにお願いした。彼は、

 「おいおい、陽菜、私も何回もインタビューを受けてるから、もうその辺は慣れてるよ。だから、そこまで心配する必要はないよ」

 心配はいらないといった表情で、右手を軽く横に振りながら答えた。それから、

 「明日の顔合わせで、彼氏や向こうの両親に伝えたいことをまとめておこう。非常に大切な一日になるからな。それと今から風呂に入りたいけど、わいてるかね?」

 風呂がわいているかを聞いた。陽菜は、

 「あ、ごめん。こんなに早く帰ってくるとは思わなかったから……。今からわかすわ。ちょっと待ってて」

 と言ったあと、風呂場に向かった。そして、急いで浴槽を洗って、湯沸し器でお湯を入れ始めた。それから台所へ戻ったあと、ジュードに、

 「あ、何か飲む?」

 と聞いた。彼は少し考えたあと、

 「そうだなぁ……、まずは麦茶を一杯頼もう」

 と答えた。それを聞いた陽菜は台所に行き、ジュードがよく使うグラスを取り、冷蔵庫から麦茶を出して、グラスについだ。そしてリビングに向かい、

 「はい、ジュードちゃん。これから夕飯の支度をするけど、何を食べたい?」

 机にグラスを置きながら、ジュードに問いかけた。彼は、

 「今日は煮物がいいかなぁ、魚と大根の。甘辛い味付けでね。魚なら、取材がてらに釣ったものがあるから、それを使ってほしい」

 と答えた。すると陽菜は、

 「わかったわ。余った魚は近所におすそわけするわ」

 こう言ったあと、早速料理に取りかかった。しばらくたって、風呂がわいた時の音が鳴り、

 「これから風呂に入ってくるよ」

 ジュードはそう言いながら、着替えを取りにいってから、風呂場に向かった。陽菜は、料理を作りながら、

 「今ごろどうしてるのかしら、ソフィは。二人でどんなことをして愛を深めてるのか、ちょっと見てみたいけどね……」

 などと、物思いにふけっていたが、しばらくして、

 「あ、明日の件は心咲みさき先輩にも知らせておかないと。今回は立ち会いがいる・・・・・・・んだったわ」

 と言いながら、自分のハイフォンを手に取り、すぐさま心咲にメールを送った。その後再び料理を作り始めた。



 一方のソフィは、一旦トスカーナの家を出たあと、彼の家の近くにある小学生の住む家に向かい、家庭教師のバイトをこなしていた。その時、“アーナス・ムーン現象”について話題にのぼっていたが、ソフィは詳しくは話さず、あくまで一般的なレベルに止めた。ただしこの時は、自分のことではなく、ロリエの友達となったエミルが学校で言っていた、別のカップルのことが話題となっていた。それ以外は特に変わったこともなく、小学生に「学校の授業より分かりやすかった」といった評価を受けて、無事に終わった。それから、バイト先で報告や手続きを終えたあと、再びトスカーナの家に向かった。途中、彼にメールを入れてから、コンビニに立ち寄り、すぐ近くに着いた時に電話をいれた。そして玄関で、

 「また来たね。早く中に入ってくれ」

 そう言いながら、トスカーナがソフィを中に入れた。それから、

 「ソフィ、これからどうする?」

 こう問いかけた。ソフィは、

 「そうねえ、すぐにでもあなたと“特別な時間”を過ごしたいけど、ひとつ気になったことがあるの」

 と答えたあと、

 「あれから小学生のところに行った時に、アーナス・ムーン現象についての話があって、「私たちと同じ日に、近くで・・・もう一件“奇跡”が起きた」ということがわかったの」

 こんなことを口にした。するとトスカーナは、

 「す、すげえ話だよ……。するってと、あの日に俺たちと一緒の奇跡を起こしたのがいるってことになるよな……」

 そう言いながら、考え込んでしまった。ソフィは、

 「あの、トスカーナ……、もう少し話を聞いて」

 彼の肩を軽く叩いて言った。彼は、

 「すまんな、ソフィ。そんなことが身近なところで起きるから、「何があるんだろう」と思ってね」

 ソフィにこんなことを伝えた。彼女は、

 「そうね。テレビのニュース番組でも取り上げられてたわ。「同じ日に近い場所で現象が起きると、何か大きな出来事が起こる」ってね」

 と話したあと、

 「だから、結婚の話をもう少し後、例えば高校卒業後とかに延ばそうとも考えたわ。「何が起きてもいいように」ね……」

 結婚の先延ばしを口にした。その言葉を耳にしたトスカーナは、

 「え!? ちょっと、俺たちって、どちらも結婚出来る年齢に達してるって、さっき言ってたよな、ソフィ……。なんで、急にそんな話が出てくるわけ……!?」

 慌てふためいたのか、言葉の歯切れが悪かった。するとソフィは、

 「ごめんなさい。さすがに慎重になったから……。でも、やっぱりあなたと近いうちに結婚する決心をしたの。改めて明日、私の両親にも打ち明けるつもりよ」

 そう語ったあと、

 「ねえ、トスカーナ、今から“特別な時間”を過ごしましょう」

 トスカーナの両手を握りしめて言った。彼も、

 「そうだな。俺もお前と同じ気持ちだよ。今だったら1時間位ならいけるけどね」

 笑顔でこう答えた。そして、

 「ソフィ、お前をずっと大切にしたい。アーナスとは関係なく・・・・・・・・・・

 そう言いながら、ソフィをふんわりと抱き締めた。それに対し彼女も、

 「ええ、私もよ」

 と言ったあと、彼の背中をさすりながら顔を見つめた。それから二人は、開始の合図という感じで、互いの唇を深く触れながら、体をさすりあった。それを皮切りに、しばらくのあいだ、二人は互いの愛を確かめるかのように、“特別な時間”を過ごした。


 それから1時間ほどがたち、

 「ソフィ、いい時間を過ごせたよ」

 トスカーナがソフィの肩を軽く叩きながら言った。彼女も、

 「ええ、私もよ。それにアーナス様が私たちを見守ってくれてるから、気持ちが穏やかになったわ」

 笑顔でこう話した。その表情を目にしたトスカーナは、

 「そうだね」

 と言ったあと、

 「片付けようか」

 と言いながら、辺りを片付け始めた。ソフィも制服などを着たあと、一緒に片付けに入った。片付けが終わった辺りで、

 「ご飯できたよ」

 という声が聞こえた二人は、

 「今から行きます」

 息が合うかのように一緒に声をかけた。それから互いに見つめあったあと、両者は笑顔で部屋を後にした。


 リビングに来た二人を見たトスカーナの母親は、

 「二人共穏やかな表情してるわね。どうだったの?」

 こう問いかけた。二人は、

 「とてもいい時間だったよ」

 「私もいい時間を過ごせたわ」

 口々に感想を述べた。母親はただうなずいたあと、

 「それじゃ、ちょっと早いけど、ご飯にしましょうか」

 と言いながら、冷蔵庫の前に立った。

 「うわあ、すげえな……」

 テーブルに置いてあった料理を見たトスカーナは、思わず息をのんだ。彼の家ではなかなかないごちそうと言える料理が並んであった。

 「母さん、これは……」

 トスカーナは母親に何か言おうとしたが、

 「ああ、これね。お前が全国大会に出場したお祝いも兼ねて作ったの。どう?」

 逆に母親に問いかけられた。すると、

 「母さん、そういうことじゃなくて、この食材、どうやって……」

 少し困惑気味に言った。そんな彼の様子に構わず母親は、

 「大丈夫よ。“アーナス・ムーン現象”のことを知った知人や近所の人たちが、“お祝い”の形で届けてくれたの。だから気にしなくていいわ」

 さらりと笑顔で言った。トスカーナは、

 (どうしてわかったんだ? 「昨日の夜遅くに認定を受けた」とソフィから伝えられたばかりで、今日の新聞にも・・・・・・・載ってなかったはずだぞ。それに俺は今日学校では何も言ってないし)

 と思いながらも、

 「……そうだったんだ……」

 思わずこんな言葉を口にした。母親は、

 「でも、多くの人たちに祝ってもらえてよかったわね」

 こう話した。これにはトスカーナも納得の表情を浮かべていた。それからすぐ3人はイスに座り、母親が、

 「それじゃ、ちょっと早いけど、二人の今後を祝して、みんなで食べましょう」

 と言ったのを皮切りに、一斉に食べ始めた。その前に、

 「……ありがとう、母さん」

 「ありがとうございます」

 二人共母親にお礼を述べた。


 「ごちそうさま」

 料理を食べ終わったソフィは、自分が使った食器を台所に持っていこうとした。その様子に気づいた母親は、

 「いいのよ、ソフィ。後で片付けるから」

 と言ったが、ソフィは、

 「いえ、よその家でも、自分の分は出来るだけ片付けるようにしてますから……」

 こんなことを口にした。母親は、

 「それじゃ、台所の流しに食器を置いといて」

 と言った。ソフィは一度うなずいたあと、食器を持っていき、食べかすを三角コーナーにある袋に入れ、食器を流しの中に置いた。少したったあと、トスカーナも食器を下げた。それから二人は、トスカーナの部屋に向かい、しばらく話をした。それからソフィが、

 「トスカーナ、今日はありがとう。明日楽しみに待ってるわ」

 と言いながら,帰る準備を始めた。トスカーナも、

 「ああ」

 と答えたあと、翌日に自分がやるべきことを確認した。そしてソフィは帰り支度を終えたあと、

 「明日家で待ってるわ。それと改めて、私の家のあるところの地図を渡しておくわね」

 そう言いながら、カバンの中から自分の家のある場所を記した、家の周辺の地図のコピーをトスカーナに渡した。それを受け取った彼は、

 「今すぐに母さんに知らせよう」

 と言いながら、ソフィと一緒に部屋を出た。そして、

 「そうだった。俺はお前の家がどこにあるのかを知らなかったんだ。ありがとう、ソフィ。おかげで助かったよ」

 お礼を述べた。それから二人で母親のところに向かった。台所でソフィが、

 「今日はありがとうございました。私の家の場所を記した地図は、先程トスカーナに渡しました。それと「明日の10時に顔合わせ始めたい」と両親から伝えられてます。今回は現象の認定に立ち会った魔法師も家に向かう・・・・・・・・・とのことです。今日のところはこれでおじゃまします。明日楽しみにして待ってます。ご飯おいしかったです」

 と、深々と一礼しながら言った。二人も、

 「こちらこそありがとう」

 とお礼を述べた。それからソフィとトスカーナは玄関へ向かい、ソフィが靴をはいた時、

 「ソフィ、明日ね」

 トスカーナがソフィを軽く抱いた。それに対し彼女は、

 「もう、明日になったら何度も出来るでしょう?」

 と言いながらも、表情には笑みがこぼれていた。そして、

 「また明日会いましょう」

 そう言ったあと、玄関を開けて家を出た。しばらくのあいだ、トスカーナは彼女の様子を見続けていた。それから彼の家では、翌日の最終準備で忙しくなった。



 「ただいま」

 ソフィが家に帰ってきた。

 「お帰り。結構時間がかかったみたいね。それで今日どうだった?」

 陽菜がソフィのもとへやってきながら、こう聞いた。彼女は、

 「ええ、とてもいい時間を過ごせたわ。それと家の場所も向こうに伝えたわ」

 笑みを浮かべながら答えた。陽菜は彼女に、

 「ソフィ、明日の件、心咲先輩にも伝えておいたわ。事情があって、こちらに向かうのは11時前後になるけどね」

 こんなことを伝えた。その話を聞いたロリエは、

 「へぇ、昨日家に来た先生が明日また来るんだ……」

 感心するように言った。ジュードは考え込んで、

 「陽菜、明日の顔合わせに心咲も来るって……? どういうことだ、いったい」

 陽菜に問いかけた。彼女は、

 「心咲先輩はね、二人に“アーナス・ムーン現象”が起きたことを認定したの。実は例の現象が起きた時には、近いうちに、互いの家族と認定した魔法師が立ち会う必要があるの。明日向こうの家族と顔合わせするから、ちょうどいいタイミング、というわけ」

 こう答えた。そして、

 「こちらも最後の準備を始めましょう」

 と言いながら、イスから立ち上がった。そして自分の部屋に向かった。ジュードも、

 「ソフィ、陽菜のもとに行こうか」

 ソフィと一緒に陽菜の部屋に向かった。すると、

 「姉さん、明日がんばってね」

 ロリエはソフィにこう呼び掛けた。彼女は、

 「あのね、ロリエ、明日は私たちと向こうの家族とで顔合わせをするの。別に私ががんばらなくてもいいわ。恥ずかしいことにならないように気をつける必要はあるけど……」

 苦笑いしながら話した。そして、

 「ロリエ、明日大切な調査があるんでしょう? そちらの準備は大丈夫なの……」

 逆にこう問いかけた。ロリエは、

 「うん、もう準備は出来てるよ」

 と言ったあと、

 「今日は魔法師の大会のテレビ中継があるんだ。わたしの友達が出るから、絶対見ないとね」

 こんなことを口にした。ソフィは、

 「ロリエ、応援するのはいいけど、遅くならないようにね。今日みたいに遅刻しそうになっても、明日はフォロー出来ないわよ。こちらも忙しいし。それじゃちょっと早いけど、お休み、ロリエ。私たちは準備に時間がかかるから」

 そう話したあと、ジュードと共に陽菜の部屋に入った。しばらくして、ロリエも自分の部屋に戻った。それから、部屋で大会の中継を視たあと、明日の準備を整えた。寝る前に何か持って悩みながら、

 「やっぱり例の“寝る時にはく”ストッキングをはこう。明日、調査が長くなるというから、体を軽くしておかないと。目覚まし時計は二つかけておこう。姉さんが言った通り、寝坊したら大変だし……」

 と言いつつ、ストッキングをはいたあと、そのまま眠りについた。翌日以降に“事件”に巻き込まれることになるとも知らず……

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