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夏休み前

 期末試験も終わり、もうすぐ夏休みを迎えるだけとなったある日、ロリエたちに思わぬ話が持ち上がる。それは、ウインリィが自身が歴史研究の拠点とするホフマン諸島に、ロリエたちを歴史探索のパートナーとして連れて行くという内容であった……

 (第2話 夏休み前)


 7月12日(水)、期末テストも終わり、後は夏休みを迎えるだけとなった。ロリエのテストの結果はよく、すべての教科で高得点を出していた。特に歴史については100点満点であり、逆に担任のウインリィに問題の注文をつける位であった。これにはルリカも、

 「ロリエちゃんって、歴史のことになると色々と熱くなるのね……。気持ちはわかるけど……」

 と言うほどであった。ロリエは例のダイアリー作りに余念が無いために、試験勉強がおろそかになりがちと思われるが、そこは名門私立に合格出来るほどの学力の持ち主である彼女のこと、さすがにここは実力を発揮して、テストを楽々と好成績でクリアした。ただ、ウインリィからは「勉強はおろそかにしないで」と釘をさされるほどであったから、ダイアリー作りへの情熱は相当のものであると考えられる。実際、テストの2日前まで目立った試験勉強はせず、ウインリィだけでなく、ソフィからもテスト終了までは極力ダイアリー作りを控えるように伝えられていた。そんなこんなで家を出る時、

 「ロリエ、テストの結果がいいからといって、勉強を怠けてはだめよ。あなたが関わってる歴史研究にも影響してくるわ。目指すところは“ナディアの本当の歴史を取り戻す”ことでしょう? だから、基礎的な部分をおろそかにしてると、後で苦労することになるわよ」

 とソフィから伝えられた。するとロリエは、

 「姉さん、わたしのダイアリー、勝手に見たの!?」

 怒り気味にそう言いながら、ソフィのところに近づいた。しかし彼女は、そんなロリエの姿を見ながらも、

 「ええ、あなたが先月ノートを忘れた時、少し読ませてもらったわ。私も、ロリエがこれほどの歴史好きだとは初めて知ったわ。私の学校でもちょっとした話題になってる・・・・・・・から、ぜひ続けた方がいいわね」

 こう淡々と話した。それを聞いたロリエは、

 「そうだったんだ……」

 少し驚いた表情を浮かべながらつぶやいたあと、

 「ありがとう、姉さん♪」

 うれしそうに言った。そして、

 「いってきます」

 元気よく電動自転車で家を出た。そしていつものように、皆川山にある例の遺跡の近くでハチマキを巻いた。遺跡周辺は、先日の雨による影響で交通規制がかかり、立ち入りが出来なかったためである。実はこれは表向き・・・で、本当の理由をロリエはウインリィを通じて伝えられている。もちろん、両者ともにこのことは関係者以外には話していない。それからほどなく、学校に着いた。


 学校に着いたロリエを見た生徒たちは、小声で話を始めた。いつもの彼女とは違う・・・・・・・・・・姿であったことが話題になっていた。そんな生徒を尻目に彼女は、校舎の中に入っていった。そして教室に入った彼女を見たクラスの生徒は、

 「あれ? いつもと違うね……」

 と口々に言った。ルリカも、

 「どうしたの、ロリエちゃん。靴下をはいてくるの、私も初めて見たわ」

 と首をかしげながら聞いた。ロリエは、

 「うん。わたしもね、プールや海とかに行く時はさすがに靴下をはくよ。だって、水の中に入るとわかってる時までストッキングというのも、なんか変だし。今日体育の授業って、プールで泳ぐんでしょう?」

 こう答えた。それから、

 「わたし、海に潜って遺跡とか探したことがあるし、泳ぐのも好きなんだ」

 と付け加えた。それを聞いた男子生徒のひとりが、

 「へぇ、それじゃ、ロリエってスキューバとかやってるんだ。すげえ話だぜ」

 感心しながら話した。するとロリエは、軽く右手と顔を横に振りながら、

 「ううん、そのまま・・・・。あ、上着は脱いだけど」

 しれっとこう言った。男子生徒は、開いた口がふさがらないといった感じで、その場に立ったままであった。これにはルリカも、

 「ロリエちゃん……、水着とかに着替えずに、そのまま海に飛び込んだの……!? ちょっと信じられないわ」

 あきれた表情を浮かべつつ、ため息をつきながら話した。別の男子生徒は、

 「本当面白いやつだな、ロリエは。そのまま海に飛び込んだって、なかなか大胆なことするねぇ」

 少しとぼけた感じで言った。ロリエは、

 「ええと、正確に言えば、溺れた女の子を助けるために海に飛び込んだの。その時、ついでに遺跡みたいな建物を見つけたから、探索してみたい気持ちがいっぱいで、女の子を助けたあと、そのまま潜り続けたわけ。だけど、その時ストッキングをはいててよかったわ。けがをせずにすんだから」

 当たり前の感じで話を続けた。その時、ひとりの地味な感じの女子生徒が、

 「あの……、そこって、“危険な海域”というところでしょうか……? 最近でも、船が沈没しかけたとかで新聞にのってて……」

 こんなことを口にした。さらに、

 「それと、あそこの海の中には、毒を持つ生物がいると聞きましたけど……」

 こう付け加えた。周りのクラスメートは、どこのことかわからず考え込んだり、「話し方変じゃないの?」などと言いながら、最初の時間の授業の準備を始めていた。女子生徒の話を耳にしたロリエは、

 「ええ? 遺跡の近くにそんなのいたの!?」

 と言いつつ、女子生徒の方を振り向きながら、少し驚いた表情を浮かべた。そして、

 「それじゃ、あの遺跡のあるとこって、そんなにあぶないとこだったの!? わたし、あのときそんなこと全然感じなかったけど……」

 と言いながら、考え込んだ。それから、

 「ねぇ、後でその“危険な海”のことを聞かせて。それで、名前なんて言うの?」

 女子生徒に問いかけた。彼女は、

 「ええと……、リナ・メルベイン、です」

 と答えた。どうやら、人見知りが感じられる様子であった。すると、ロリエは早速リナのもとに駆け寄ったあと、彼女の手を握りながら、

 「わたしはロリエ・安岡。今度からロリエちゃんって呼んでね」

 こう話した。それから、

 「わたしね、歴史探訪が好きなんだ。よかったら、わたしの話を聞いてくれる? リナちゃん。それとなんだかわからないんだけど、リナちゃんがいてほしい・・・・・と感じてるんだ」

 こんなことを口にした。ロリエの勢いに押されぎみの感じであったリナは、

 「こんな私で、いいの……? これまで友達がほとんど、いない……」

 少し恥ずかしそうに答えた。するとロリエは、首を横に振りながら、

 「いいよ。わたしがリナちゃんの友達になってあげる♪」

 なぜかうれしそうに、リナの右手と握手しながら言った。そんなロリエを見つめたリナは、

 「ありがとう……、ロリエちゃん……」

 目に涙を浮かべながら、笑顔で答えた。それから数分がたったあと、チャイムが鳴り、

 「おはようございます」

 担任であるウインリィが入ってきた。その様子に気づいた生徒たちは、それぞれの席に戻った。それからホームルームが始まった。この日は、夏休みを前にして、例の“フタレポ”に関する話を行った。そこで第二回目の中間提出日が、9月の下旬になることを伝えたあと、ウインリィは教室を後にした。2、3分したあと、1時間目の授業が始まった。しかしロリエは、ウインリィが教室を後にした時の後ろ姿に、言葉には表しにくい違和感を覚えたようで、1時間目の授業中、そのことで頭がいっぱいになっている感じだった。担当科目の先生やルリカたちは、そんな彼女の様子に気づかなかったが、近くの席にいたリナは、なんだろうと思っていたらしく、ロリエに何か伝えようとしていたが、結局は授業が終わるまでやめることにした。


 1時間目が終わったあと、リナがロリエに対し、

 「ロリエちゃん、さっきまで色々なところを見てたけど、何かあったの……?」

 こう問いかけた。するとロリエは、

 「ううん、何でもないよ」

 と答えつつも、疑問があるような表情を浮かべていた。そんな彼女の表情を見つめたリナは、

 「ええと……、やっぱり何か、変だと思うわ……」

 首をかしげながら言った。するとロリエは、カバンからロップ(通信・通話専用の携帯電話)を取り出して、

 「ねぇ、リナちゃん、わたしのロップのアドレスを教えてあげる。後でメールで理由を伝えるから、リナちゃんのロップのアドレス教えて」

 と言った。それを聞いたリナは、同じようにカバンからロップを取り出し、アドレスをロリエに見せた。それを見た彼女は、一旦アドレスをメモしたあと、自分のロップに登録した。そして改めて、

 「このアドレスを登録しといて。あと、ウインリィ先生にもアドレス伝えていい?」

 と言いながら、メールを送信した。するとリナは、

 「本当にいいの……」

 恥ずかしそうに言いつつも、表情には笑みがこぼれていた。それから、

 「ありがとう、ロリエちゃん。これから一緒ね。それと、地理や生き物に関して聞きたいことがあったら、私に聞いて。ロリエちゃんや先生のサポートがしたいから」

 こんなことを口にした。この時のリナは、いつもの地味で人見知りの彼女とは違い、自信がある様子を見せていた。その様子に、今度はロリエが、

 「……さっきまでのリナちゃんとは違うみたいね……」

 と言いながら、少し戸惑いを見せた。リナは、

 「ロリエちゃん、私ね、地理と生物はとっても大好きなの。あなたが、歴史が大好きで海に潜って遺跡を探すのと同じ位、私も色々な地形とか、森の中を巡ったりするのが楽しいの。なぜだかわからないけど、そんな時には、いつもと違って色々とお話をすることが出来るわ。それに、あなたとなら、話が合いそうだし」

 こう話した。それを聞いたロリエは、

 「へぇ、そうだったんだ……」

 感心するように言った。リナは、

 「あの、ホームルームの時、あなたに聞いた海域のことなんだけど……」

 と話を始めようとした時、2時間目開始のチャイムが鳴った。

 「ロリエちゃん、昼休みに話しましょう」

 そう言いながら、リナは席に戻った。ロリエも、急いで2時間目の準備を行った。


 それから、時間がすぎていって4時間目、ロリエにとって待ちに待った体育の授業が始まった。3時間目の授業終了後、急いで片付けたあと、すぐさま着替えを持ってプールへと向かった。実はプールの授業自体は6月末から始まっていたが、雨の影響や期末試験の日程の関係で、なぜかロリエのクラスでは、水泳の授業が出来なかったからだ。彼女の様子を見た生徒たちは、

 「早いねぇ、ロリエは」

 などと言いながら、準備を行った。プール下の女子更衣室に着いたロリエは、先に授業を終えた別の学年の生徒が出るのを待っていたが、いかにも待ちきれないといった様子を見せていた。そして、全員が出るのを確認したあと、中に入っていった。その頃には他の女子生徒も数人更衣室に来ていたが、彼女たちには目もくれず、ロリエは一目散に、といった感じで着替えを始めた。彼女の水着姿を見た女子生徒たちは、「かわいい」などといった声をあげた。ルリカも、

 「ロリエちゃんって、きゃしゃなのね」

 と言いながら感心していた。それから、

 「でも、脚の方は色白じゃないのね。毎日ストッキングをはいてるから、太陽の光が当たらないようになってると……」

 こうも話した。それに対しロリエは、

 「ううん、まあ、わたしはいろんなところに出掛けるし、その際に、いろんなストッキングをはくから……。たぶん色白にはならないと思うけどね」

 少し考え込みながら答えた。それから、

 「ルリカの水着姿も似合ってるよ♪」

 と笑顔で伝えた。ルリカは、

 「ロリエちゃん、ありがとう」

 と言ったあと、二人一緒にプールに向かった。その様子を着替えながら見つめていたリナは、

 「ロリエちゃんって、ルリカちゃんとは非常に仲がいいのね……。私ロリエちゃんと、あそこまで仲よくなれるのかしら……」

 少々不安げにつぶやいた。それから、すぐに着替えて階段を登った。


 授業が始まって準備体操を行ったあと、体育教師は、

 「まずは各自どれだけ泳げるのか、それを確認したい。最初は男子の方からだ」

 と言い、順番に泳ぐことになった。そしてロリエの番になり、彼女が飛び込もうとした時、

 「ん? 安岡、何でハチマキをつけたまま泳ぐんだ?」

 体育教師が不思議そうな感じで問いかけた。ロリエは、

 「これ?」

 と言いながら、頭を指差した。それから、

 「これは、わたしにとって大切な・・・ものなんです。これを頭に巻くと、やる気が出てくるんです」

 教師にこう話した。教師は、

 「……珍しいからな、ハチマキをしながら泳ぐ生徒は……」

 そう言いながら、考え込んでいた。そのまま授業は進み、特に何もなく終了した。そして着替えが終わったあと、チャイムが鳴り、昼休みを迎えることとなった。


 昼休み、リナが、

 「ロリエちゃん、一緒にお話しましょう」

 と言いながら、弁当を持ってロリエのもとにやって来た。一緒にいたルリカが、

 「ロリエちゃん、あの人と友達なの?」

 こうロリエに問いかけた。すると彼女は、

 「うん、そうだよ。彼女はリナっていうんだ。地理や生物が大好きというから、ウインリィ先生にもリナちゃんのロップのアドレス伝えたんだ。『わたしたちのサポートがしたい』っていうことも一緒にね」

 笑顔で答えたあと、

 「ルリカも、リナちゃんと仲良くしてあげてね」

 と言った。ルリカもうなずいたあと、リナを見ながら、

 「よろしくね、リナちゃん」

 と話した。リナも、

 「よろしく、お願いします……」

 と、少し照れながら答えた。それから、

 「ロリエちゃん、ホームルームの時に言った“海域”のことなんだけど……、おそらく、ナディア本土の南側にある横代よこしろ島の近くの海じゃないかしら……。あの島は、“魔法師の入門者たちへの関門”というほど有名な島で、ここで魔法が使えないと、魔法師を諦めるしかないというぐらい、魔法の力があふれてるの。それと、毒を持つ生き物もいるわね」

 ロリエにこんなことを話した。彼女は、弁当を食べる手を止めたあと、腕を組んで天井を見つめながらしばらく考え込んだ。そしておもむろに立ち上がり、

 「うん、そこだよ。そこね、去年父さんが釣りの大会に行くついでに、わたしを連れていってくれてね。そこよく魚が釣れるっていうのでも有名みたいなんだ」

 こう答えた。それから、

 「実はね、そこで女の子を助けたのも、その時のことなんだ。潜った時に偶然遺跡を発見してね。あとはホームルームで話した通り」

 こんなことを話した。横で聞いていたルリカは、

 「ロリエちゃんの父さんって、大会に出るほど釣りが好きなのね」

 感心しながら言った。ロリエは、

 「うん、ナディア国内でも指折りの、プロの釣りの選手なんだ。実は父さんが働いてる出版社でも企画を組んでるほどで、コラムも結構人気があるって。わたしは釣りにあまり興味はないけど……」

 と答え、

 「リナちゃん、ウインリィ先生ね、なんかちょっと変な感じがしたんだ……」

 リナにこう伝えた。彼女は、

 「ええ!? 私にメールで伝えるんじゃ……」

 驚いた様子でロリエに言った。すると彼女は、

 「今リナちゃんに伝えた方がいいと思って……。詳しいことは後でルリカと3人になってから話すけど、いい?」

 と言いながら、二人に同意を求めた。両者ともにうなずいたのを確認したロリエは、

 「それじゃ、弁当食べたあと、図書室に行こう」

 そう言ったあと、再び弁当を食べ始めた。


 図書室に向かった3人は、端のテーブルに座った。それからロリエがおもむろに、

 「ウインリィ先生って、大切にした人がいたみたいなんだ。ルリカは知ってると思うけど、先月、わたしと先生で“例の遺跡”に行った時に、『先生を“恩人”という人がいた』ことを聞いたんだ」

 こう話した。それから、

 「それから何回か、わたしは先生がペンダントらしきものをじっと見つめてたところを目撃してるんだ」

 こんなことも口にした。リナは、

 「……先生にそういった人がいたのですね……。男子生徒が『先生には恋人いないんじゃないか』という話をしてて、からかってた感じでしたけど……」

 などと言いながら、ロリエを見つめていた。その時、着信音が鳴り、各自ポケットを確認したところ、ロリエのロップに着信が入っていることがわかった。改めて彼女が自身のロップを確認したところ、次の内容のメールが届いていた。


 ――ロリエちゃん、とても大切な話があるわ。放課後に校門で待ってて。授業が終わったあと、追ってメールで連絡するから、先に帰ることがないように……――


 このメールの送信者を確認したロリエは、

 「ウインリィ先生からだ。それにしても“大切な話”って、いったいなんだろう……?」

 メールを見ながら悩んでいた。ルリカは、

 「私たちも一緒に待ってていい?」

 とロリエに問いかけたところ、彼女は、

 「いいよ」

 うなずきながら答えた。それから3人は、時間ギリギリまで図書室で話をして、教室に戻った。



 その後すべての授業も終わり、

 「今日は面白い話を聞かせてもらったぜ、ロリエ。また変わった話してくれよな」

 などといった声が聞こえて、続々と生徒たちは教室を後にしていった。ロリエたち3人も、帰りの準備を終えたあと教室を出た。その時、ロリエのロップの着信音が鳴り、彼女がロップを確認したところ、


 ――ロリエちゃん、もうすぐ校門に向かうから、そこで待ってて。夏休みのことで話がしたいから――


 このようなメールが送られていた。それを確認したロリエは、

 「ねぇ、早く校門に行こう」

 二人に呼び掛けた。二人とも了解したことを受け、3人は校門に向かった。そこで待つこと数分、

 「あら、3人で待ってたのね」

 ウインリィが到着した。ロリエは、

 「先生、紹介したい友達がいるんだ」

 と言いながら、リナの方を向いた。それから、

 「彼女がリナちゃん。で、わたしたちに協力したいって言ってるんだ」

 リナの右手を持ちながら、ウインリィの前に連れてきた。

 「メルベインさん、急にどうしたの……!?」

 ウインリィは戸惑い気味に言った。すると、

 「私ね、こんな自分と友達になってくれるロリエちゃんを見て、何かしたいと思ったの。私は地理や生物が好きなので、そちらの方でサポートが出来たら、と……」

 リナが強めの口調でこう話した。ウインリィは、

 「あなた、確か人見知りだったわよね……? 私たちの協力をしてくれるという申し出は、ありがたく受け取っておくわ。だけど、会話の方は大丈夫!?」

 心配そうにリナを見つめながら言った。すると、

 「心配いりません、先生。私、地理や生物に関連することなら、十分会話は出来ます」

 笑顔でこう答えた。その表情から、彼女の気持ちを感じ取ったウインリィは、

 「わかったわ。本当はロリエちゃんにだけ、と思ったけど、あなたにもお話するわ」

 そう言いながら、一旦気持ちを落ち着かせた。そして、

 「今から大切な話があるわ。よく聞いて」

 真剣な面持ちでこう言った。ロリエは、

 「先生、さっきわたしだけにって言ってたけど……」

 首をかしげながら聞いた。するとウインリィは、

 「事情は後で話すわ。先に用件を言うから、慌てないで」

 ロリエをなだめる感じで答えた。そして、

 「結論から言うと、あなたたちには、私と一緒にホフマン諸島に来てほしいの。そう、歴史探索のためにね・・・・・・・・・

 こう伝えた。これを聞いたロリエは、

 「ええ!? いきなりそれを言われても……」

 なぜか困惑しながら頭を抱えていた。

 「え? ロリエちゃんって、歴史が大好きで、海の中の遺跡に服を着たまま探索する位だから、私てっきり喜ぶかと……」

 リナは首をかしげながら言った。ロリエは、

 「確かにそうだけど、夏休み、ルリカや家族と大切な用事があって……」

 こう話を続けようとした時、ルリカは、

 「いいのよ、ロリエちゃん。私のことはこちらに帰ってきたあとでも。だから、先生と一緒に探索に行って来て。そして、その時の話を聞かせて」

 と、ロリエに探索に行くように勧めた。するとウインリィは、

 「いいえ、3人ともに・・・・・よ。お金やパスポートなどの面は心配しなくていいわ。既にロリエちゃんのことは話題にのぼってるし、二人がいれば、私やロリエちゃんにとっても、何かと頼りになるただろうから」

 3人にこんなことを伝えた。これには3人も驚いた様子で、しばらく何も言えなかった。その後ルリカが、

 「先生、このことは親に伝えた方がいいと思います……。それからどうするかを決めた方が……」

 と言った。ウインリィは、

 「ええ、帰ったらすぐに伝えて。そして結論を私のロップにメールを入れるか、明日にはかならず報告して。必要ならば、パスポートの申請書類をすぐに渡すから」

 そう話したあと、

 「それじゃ、返事を待ってるわ。日程の方は明日伝えるから。それと、このことは家族以外の人には話さないで。余計な心配をかけることになるから」

 3人にこう言って、校門を後にした。残された3人は、しばらく悩んでいたが、リナが、

 「あの……、今日は家に帰ってから、親に伝えましょう。そこでどうするかを考えて……、明日先生に報告しましょう」

 こう話した。それを聞いたロリエが、

 「うん。それじゃ、早く家に帰ることにしよう。また明日ね」

 と言いながら、電動自転車に乗った。ルリカも、

 「また明日ね、ロリエちゃん」

 と言って、リナと一緒に校門を後にした。それから、本屋に寄ってウインリィの著書を探して、しばらく読み更けた。



 家に帰ったロリエは、早速陽菜に、

 「母さん、とても大切な話があるんだ」

 と言ったあと、

 「実はね、夏休みに、ウインリィ先生が、わたしたちをホフマン諸島に連れて行くっていう話があったんだ。それで、どうすればいいのかを……」

 話をしている途中で、陽菜は、

 「行って来なさい。ウインリィちゃんが直々に、歴史探索のパートナーとしてロリエを指名したのよ。こんなチャンス、なかなかないわよ。だから、ウインリィちゃんをサポートしてあげて。ジュードちゃんの実家に寄ってから、そちらに行くことを伝えるわ」

 笑顔でロリエに言った。それから、

 「後であなたに渡すものがあるわ。“とっておき”をね」

 こんなことを口にした。ロリエは、

 「ええ!? なんで母さんがそれを知ってるの!?」

 思わず驚いた表情を浮かべながら叫んだ。陽菜は、

 「そうね、ウインリィちゃんが私に伝えてくれたの。『私の活動拠点であるホフマン諸島で、ロリエちゃんに歴史探索に協力してほしい。頼りにしてる』というメールが私のハイフォン(多機能型携帯電話)に入ってたわ」

 淡々と話した。ロリエは、

 「先生……、先に母さんに知らせてたんだ……」

 と言ったあと、

 「わかったよ、母さん。わたし、ホフマン諸島に行くよ。父さんにも伝えておくよ」

 決心するように陽菜に伝えた。彼女は、

 「二人にはすぐに伝えておくわ。それとパスポートは私が預かってるから、前日にあなたに渡すわ」

 と言いながら、料理づくりを再開した。


 しばらくして、ジュードとソフィが一緒に帰ってきた。陽菜は二人に対し、

 「今日はね、大切な話があるの」

 こう述べたあと、

 「実はね、ウインリィちゃんが、ロリエを歴史探索のパートナーとして、ホフマン諸島に連れて行くことを伝えてきたの。ジュードちゃん、あなたの実家に行く日程の変更は出来るかしら……?」

 ジュードに日程の変更を打診した。すると彼は、自身のハイフォンを取りだし、電話をかけた。その数分後、

 「陽菜、私の両親もロリエを応援してくれてるよ。『ロリエにはこちらに帰ってから寄っておいで、と伝えて』と言ってたし、日程を変える必要はないよ」

 と答えた。ソフィも、

 「ロリエ、行って来なさいよ。あなたのファンや理解者は着実に増えてるし、ウインリィ博士にもいいところを見せてあげて」

 そう言って、ロリエにはっぱをかけた。姉の言葉を聞いた彼女は、

 「ありがとう、姉さん。父さんもね」

 うれしそうにお礼を言った。そして、一家揃って夕飯を食べた。


 夕飯を食べたロリエは、片付けを手伝ったあと、彼女の部屋に戻り準備を始めた。その時、

 「ロリエ、入っていい?」

 陽菜の声がした。ロリエがドアを開けると、

 「あなたに渡すものがあるの」

 と言いながら、箱を置いてふたを開けた。そして、

 「これだけど、サイズは合うかしら? 私が気に入ってて、私の力を増幅させた、そして私を守ってくれた・・・・・・パンストなんだけど……」

 ロリエにストッキングを手渡した。早速彼女は、そのストッキングをはいた。すると陽菜は、

 「よかったわ、ロリエにぴったりね。そしてよく似合うわ」

 うれしそうに話した。ロリエも、

 「これ、はきやすいだけじゃなくて、とても丈夫だよ、母さん。本当にきれいな柄が描かれてるし……。それになんか、やる気が出てきた・・・・・・・・よ」

 こちらも、うれしそうにストッキングをはいた感想を述べた。その様子を見ていた陽菜は、

 「実はね、それ、ある特殊な繊維から、魔法技術を使って加工した『サンシャイン・ローズ』という名前のパンストなの。ウインリィちゃんも、今あなたがはいてるようなものをいくつも持ってるわ。そうね……、ゲームでいえば、“強力な防具”ってとこかしら……。私もね、これをはいてたおかげで命を救われたことがあったし……」

 こんな話をした。ロリエは、

 「ええ!? そんな話、初耳だよ」

 驚きながら言った。陽菜は、

 「まあ、話せば長くなるかも知れないわね。だけど、それをはいてたことで、致命的なけがを負わずにすんだのは事実よ。それに、ジュードちゃんと出会えるきっかけにもつながったし……。その時のことは、必ずロリエにも話すわ」

 笑顔でこう話した。その時ロリエは、なぜか食い入るように陽菜の話を聞いていた。そして、

 「母さん、その話、かならずしてよね」

 念を押す感じで陽菜にお願いした。彼女は、

 「ええ、ジュードちゃんに言っておくわ。数日内に『私たちのなれそめの話をする時が来た』ということをね。もちろん、ソフィと一緒に聞いてほしいわね」

 快くロリエの願いに応じた。それから、

 「ウインリィちゃんには、私から報告しておくわ。パスポートもあるし、『ロリエは行く気満々』ってね。明日ウインリィちゃんの説明はちゃんと聞いておいてね」

 こう言ったあと、ロリエの部屋を後にした。ひとり残った彼女は、今はいているストッキングを脱いだ。それから、改めてそのストッキングを眺めながら、

 「こんなすごいストッキング、初めて見たよ。それに母さんって、わたし以上に腕っぷしが強かったんだ……。これ、大切にしなければね」

 こうつぶやいた。そして、ストッキングをきれいにたたみながら、

 「ウインリィ先生にはいたところを見せたら、先生、何と言うんだろうな……」

 楽しそうに箱にしまった。そして、自分の机の上に置いたあと、メモ用紙を1枚取って、『ホフマン諸島でウインリィ先生に見せる!』と書き、箱の上に置いた。そして、別の日記帳に、以下のような文章を書き記した。


 ――7月12日、今日は新たな友達が出来た。母さんからは、母さんが大切にしてたストッキングをもらった。友達はリナちゃんという地味な感じの女の子。だけど、地理や生物に関する話になると自信を持ってるみたいで、ふだんとは違うリナちゃんを見せてた。今度ウインリィちゃんに、歴史探索のパートナーとしてホフマン諸島に連れて行ってもらうことになった。ルリカとリナちゃんも一緒だという。一方ストッキングは、“母さんの命を救った”という代物のようで、わたしもはいてみたら、すんごく気に入った。ウインリィちゃんにも、はいた姿を見せたいな――


 「明日はどうなるかな……。せっかくだから、ウインリィちゃんと買い物した時に買ってもらったストッキングをはこうかな……」

 そう言いながら、再び準備を始めた。それから、しばらく自分のハイフォンで何か調べものをしたあと、眠りについた。



 翌日、3人は昼休みにウインリィから呼び出しを受けた。その事でクラス中が持ちきりになったが、彼らに構うことなく3人は職員室へ向かった。3人が職員室に入ってきたのを確認したウインリィは、

 「校長先生、これから大切な話があります」

 と言いながら、3人と一緒に職員室を出た。そして4人は図書室へと向かった。


 図書室に来た4人は、窓際のテーブルに座った。そしてウインリィはおもむろに、

 「皆さん、家族に聞いた結果を報告してください」

 と話した。まずはルリカが、

 「私は大丈夫です。両親から了解をもらいました」

 こう答えると、続いてリナも、

 「私も行けます。それにこの話をしたら、親戚の人が「泊まる場所を提供したい」と申し出てくれました」

 と伝えた。

 「ロリエちゃんはいいわ。昨日やっちゃんから詳しく報告があったから。『ロリエちゃんを頼みます』とうれしそうに話してたし」

 ウインリィはそう話したあと、

 「メルベインさん、あなたの親戚の申し出はありがたく受け取っておくわ。だけど、その心配はしなくても大丈夫よ。あっちの研究拠点には、複数の部屋があるから、泊まる場所は十分あるわよ」

 リナの親戚の申し出を丁寧に断った。するとリナは、

 「わかりました」

 と言った。するとウインリィは、リナを見つめながら、

 「せっかくだから、向こうに行った時は、リナちゃんと呼んでいいかしら?」

 こんな提案をした。突然の提案に戸惑ったリナであったが、

 「わかりました、先生」

 こう答えた。これを聞いたロリエは、

 「先生、ルリカのことはどう呼ぶんですか?」

 ウインリィにこう問いかけた。彼女はルリカを見ながら、

 「ルリカちゃん、でいいかしら?」

 こう問いかけた。ルリカも、

 「はい」

 うなずきながら答えた。それを聞いたウインリィは、

 「それじゃ、早速日程を話すわ」

 と言いながら、3人にプリントした紙と、ロリエ以外の二人には、パスポートの申請用の書類を手渡した。そして、

 「プリントにも書いてある通り、予定としては、今月の22日から10日程度の日程で調査を行います。念のため、ある程度のお金は持って行った方がいいでしょう。おみやげ物を買ったり、いざという時のために、ですね。それとパスポートや数日分の着替え、探検用の服も忘れずに。特にロリエちゃんはね・・・・・・・・・・。筆記用具などはこちらで用意します」

 こんな話をした。するとロリエが、

 「先生、それどういう意味!?」

 怒り気味に問いかけた。しかしウインリィは、

 「そうね、今回は森の奥を探索するから、ズボンがかならず必要になるわ。パンストをはいてもいいけど、スカート姿だと思わぬけがを負うことにつながるわね。さすがの私もズボンをはかないと、今度の調査地点ではきびしいことになるわ。だから、『ズボンはキライだからはかない』ということは考えず、自分の身を守ることを優先させた方がいいわ」

 淡々と、そして冷静に答えた。その答えに、ロリエもただ黙る他なかった。その後も話を続け、最後に、

 「日程の方は大丈夫かどうか、すぐに連絡をお願いします。色々な手続きが必要ですし」

 そう言ったあと、

 「それでは、帰りにもう一度確認をとりたいので、授業後に図書室に来てください。一旦終わりにします」

 こう述べて、図書室を後にした。ロリエは、

 「ねぇ、今から確認した方がいいと思うけど……」

 二人に確認するようにすすめた。それを聞いた二人は、早速各自のロップで電話をかけた。その後まずはルリカが、

 「私は大丈夫。特に家族の用事とかなかったし」

 と答えた。リナも、

 「私も同じよ。親戚の人が『夏休みが始まったらぜひこちらに来てほしい』って言ってたし、今月中に家族もホフマン諸島に行く予定があるから、むしろ“気分転換に”と後押ししてくれたわ」

 笑顔で答えた。


 それから授業が終わり、3人は再び図書室に集まった。しばらくしてウインリィが図書室に入り、3人のもとに来た。彼女は、

 「皆さん、今回の日程で大丈夫ですか?」

 こう問いかけた。すると、

 「はい」

 3人一斉に元気よく答えた。その声を聞いたウインリィは、

 「わかったわ。すぐにその方向で話を進めるわ」

 と言ったあと、

 「4、5日後までには集合場所などを知らせるわ。それまでに必要な準備は怠らないようにね。私は大事な仕事が残ってるから、何か聞きたいことがあれば、明日にしてね」

 そう言い残して、その場を後にした。ほどなくして、3人も図書室を出た。それからすぐに校門の外に出た。


 校門を出た3人は、前日と同じように一緒に歩いていた。するとルリカが、ふとロリエを見ながら、

 「あれ? 今日は新しいストッキングをはいてたのね。全然気づかななかったわ」

 いきなりこんなことを言い出した。ロリエは少し渋い表情をしながら、

 「……これ、今月始めにウインリィ先生と一緒に買い物をした時に、先生が買ってくれたストッキングだよ。わたし、本当に気に入ってはいたのに、誰も気づいてくれないなんて……」

 肩を落としてつぶやいた。ルリカは、

 「ごめん、ロリエちゃん。あまりにもいつもの光景に溶け込んでたから、新しいストッキングだとは全然気づかなくて……」

 そう謝ったあと、

 「でも紫色・・のストッキングって、初めて見たわ。どんなストッキングをはいても似合うのね、ロリエちゃんって……」

 こう話した。それを聞いたリナは、

 「……私も、ロリエみたいに似合うストッキングって、あるのかな……。周りから『あまり似合わない』って言われてるし……」

 ため息をつきながら言った。するとロリエが、リナのもとに駆け寄り、

 「心配しないで。わたしがリナちゃんに似合うストッキングを探してあげるから♪」

 励ますように話した。

 「ありがとう……」

 ロリエにお礼を言ったあと、

 「そういえば、明日で1学期が終わるわけですね……」

 こんなことを口にした。するとルリカが、

 「もう明日で終わりなんだ……」

 ハッとする感じで答えた。ロリエも

 「えー、そうなの……!?」

 驚いた様子で言った。そして、

 「それじゃ、準備始めた方がいいかも知れないね」

 と二人に話した。二人ともただうなずいた。それから数分、3人で世間話をしたあと、

 「それじゃ、明日ね」

 ロリエはそう言いながら、二人と別れた。



 「これからどうしようかな……」

 ロリエは電動自転車をこぎながら、新浜市街を駆け抜けていた。特に急いでいるわけではなかったために、“自動モード”にはしていなかった。しばらく考えながら走っていると、中央図書館近辺で、学校にいたはずのウインリィとばったりと出くわした。

 「あれ? 先生、学校に残ってたんじゃ……」

 ロリエは、考え込みながらウインリィに問いかけた。すると彼女は、

 「今日はね、図書館に用があるの」

 と答えたあと、

 「あら、私が買ってあげた紫色のパンストをはいてきたのね。よく似合ってるわ」

 こんなことを言い出した。それを聞いたロリエは、

 「先生、なぜ学校で言ってくれなかったの!?」

 うなだれながらつぶやいた。ウインリィは、

 「ごめんね、ロリエちゃん。あなたの気持ちは十分わかったわ」

 そうロリエに謝ったあと、

 「あなたがすでに、そのパンストをはいてたのは気づいてたけど、私もあなたも、変な誤解を受けるわけにはいかないでしょう? だから、二人きりの時に声をかける機会が無いまま、今まできたわけ。ところで、パンストをはいて、何か感じなかった・・・・・・・・?」

 真剣な声色でこんな質問をしてきた。思いがけない質問が飛んできたのか、ロリエはしばしの間考え込んだ。そして、

 「ええと……、はきやすかったし、何となく体が軽くなる感じがしたけど……。あ、そういえば、いつもより朝飯食べる量が多かった・・・・・・・・・よね」

 このように答えた。するとウインリィは、

 「ロリエちゃんも、やっちゃんほどではないけど『魔法関連の素質』が備わってるみたいね。さすが“やっちゃんの娘さん”って感じね」

 感心しながら話した。するとロリエは、

 「先生、それどういうこと!?」

 首をかしげながら問いかけた。ウインリィは、

 「あら、私と二人きりだったら、ウインリィちゃんと呼んでいいわ、ロリエちゃん」

 と言いながら、

 「事情があって現時点では言えないけど、詳しいことはいずれ伝えるわ。ただひとつだけ言えるのは、私もやっちゃんも、これから調べる『魔法に関連する“ある力”』があったからこそ、今に至っている、ということかしら」

 こう答えた。ロリエは、

 「ウインリィちゃん、それ今度行くところと関連あるの?」

 と聞いてみた。ウインリィは天井を見ながら、

 「まあ、関連があるといえば、一応はそう言えるのかも知れないわね……。大きく考えればね」

 はぐらかす感じで言った。ロリエは、ちょっとすねた表情を浮かべながら、

 「今日は家に帰ります。さようなら、ウインリィちゃん」

 そう言って、自転車に乗った。ウインリィは、

 「そんな顔をしなくてもいいでしょう。夏休み中には魔法のことはかならず教えてあげるから。……あ、やっちゃんが・・・・・・教えてくれるかも知れないけど。それと明日終業式が終わったら、ルリカちゃんやリナちゃんと一緒に食べに行きましょう。二人には私が伝えるから」

 何やら意味深な言葉も飛び出しながら、ロリエを食事に誘った。すると彼女は、

 「本当!? ありがとう、ウインリィちゃん♪」

 顔をほころばせながらお礼を言った。そして、

 「あ、ウインリィちゃん、ちょっとだけでいいからペンダント見せて・・・・・・・・。なぜだかしらないけど、見たくなって……」

 いきなり突拍子もないことを聞いてきた。ウインリィはため息を漏らした。それから、一瞬顔を曇らせながら、

 「これはだめよ。あなたにも見せられないわ。私にとって“人生でとても大切なもの”だから……。ごめんね、ロリエちゃん」

 こう言った。さらに、

 「でもね、もしも話す機会があれば・・・・・・・・、その時はペンダントのこと、ロリエちゃんに話すわ」

 こんなことを伝えた。

 「わかりました、ウインリィちゃん」

 ロリエはうなずいたあと、

 「また明日ね、先生」

 そう言いながら自転車をこいだ。彼女を見送ったウインリィは、

 「いきなり突拍子もないことを言うのも、ロリエちゃんらしいわね」

 笑みを浮かべながら言い残して、図書館に入った。その際、左手でペンダントを握りながら、じっと見つめた。そして、

 「……あなたの想い、かならずかなえてあげるわ……。歴史にひたむきな女の子たちが、私たちに味方をしてくれるから……。だから、彼女たちを見守ってて……」

 こうつぶやいた。



 「ただいま」

 家に帰ったロリエは、ハチマキを外しながら、

 「ねぇ、母さん、明日ウインリィ先生と一緒に食べに行くことになったんだ。だから、昼飯はいらないよ」

 陽菜にこんな報告をした。すると彼女は、

 「ロリエ、晩ごはんを食べ終わって、風呂に入ったら、ソフィと一緒に私の部屋に来て。話したいことがあるの」

 こんなことを言い出した。ロリエは、

 「話したいことって、もしかして……」

 陽菜に問い返そうとしたが、彼女は、

 「それは部屋に来てからのおたのしみよ」

 笑顔でロリエの問いかけをスルーした。少し渋い表情を浮かべながら部屋に行ったロリエを尻目に、晩ごはんを作り続けた。ほどなくして、ソフィも帰ってきた。そして3人が揃って15分位がたったところで、晩ごはんが出来上がった。

 「母さん、父さんはまだ帰ってこないの?」

 ロリエが陽菜に問いかけた。彼女は、

 「ええ、今日は取材で泊まりに行ってるわ」

 そう言ったあと、

 「さあ、晩ごはん食べましょう」

 と言って、ごはんを食べ始めた。それからごはんを食べ終わり、二人ともに風呂に入ったあと、3人は陽菜の部屋に集まった。そして、陽菜は、

 「ソフィ、ロリエ、準備はいいかしら?」

 と言った。二人はただうなずいた。

 「それじゃ早速、私とジュードちゃんとのなれそめの話、始めるわよ」

 こうして、陽菜とジュードの出逢いの時の話が始まった。

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