第98話 カナーサ王国 四
ダイさんが強化したものの、土壁はしょせん土壁だ。このままではすぐに破壊されてしまうだろう。
そうなれば、カナーサの民に犠牲が出てしまうかもしれない。それだけは避けなくては。
俺は、奴に接近する覚悟を決め、奴に向かってダッシュした。
「岩落とし!」
奴が俺の頭上の岩を高速で落下させた。
「傘型遅延空間!」
俺は、頭上1メートルほどのところに、スロウルームを傘のような形で作りだした。
スロウルームを通過した岩は、速度をゆるめ、俺は岩に当たることなく奴に近づくことに成功した。
俺はダッシュの勢いを利用して、奴にパンチを打った。
奴はそれをぎりぎりでかわし、パンチを打ち返してきた。
元々の俺の能力と、ヨイチの運動センスや動体視力が掛け合わされた今の俺にとっては、奴のパンチをかわすことはたやすい。
俺と奴は数十発のパンチの応酬をしていたが、だんだん奴のフェイントが複雑さを増し、奴のパンチが俺にかするようになってしまった。
ときに月面にいるかのようにふわりとした動きをしたかと思えば、急に沈み込むような動きをみせる。
自身の重力を操作しているのだろう。普通ではありえない特殊な動きに、反応が鈍ってしまう。
ついに、奴のパンチを右肩にくらってしまった。
ぐぅ! なんて重いパンチだ! おそらく、当たる瞬間に重力を強めて威力を高めているのだろう。予想以上の攻撃力だ。
ダメージを負った俺に、奴はすかさず追撃のパンチを打ってきたが、なんとかそれはかわして、俺も右ストレートで反撃した。
……おもっ! 俺の右腕が普段より重くなっている。俺の遅いパンチが奴に当たるわけもなく、簡単にかわされた。俺はあわてて奴から距離を取った。
まずいな。可能性としては考えていたが、奴の重力操作は、他の生物に対しても効果があるようだな。
「この機は逃さん! 大跳躍!」
俺が考えていると、奴は真上に大きくジャンプした。
「重力魔法弾の豪雨!」
奴は高い位置から、大量の黒い魔法弾を俺に向けて放った。
雨のように広範囲に降り注ぐ、大量の高速の魔法弾をかわし切ることは難しい。
だが、おそらくあの魔法弾に当たってしまうと、ダメージを受けるだけでなく、身体を重くさせられてしまうだろう。なんとかしなくては。
「防ぐ光の右手」
俺の右手から伸びた、光魔法で作り出した巨大な光の手によって、俺に当たりそうな魔法弾を防ぎ切った。
「よくぞ防いだ。と、いってやりたいところだが、これが本命だ! 重力を強める霧!」




