第72話
少将は、ちょうど、別の魔王を退治してきて先日凱旋したばかりのローラリン皇帝に、そのことを話してきてくれて、俺たちは、翌日ローラリン皇帝に謁見することになった。
「陛下は気さくなお方だから、そこまで緊張しなくても大丈夫だ。謙譲語を使われることを嫌うから、普通の丁寧語で接してくれてかまわない」
翌日、皇帝の間に入る直前に、少将は言ってくれた。俺たちは少将の後に続いて皇帝の間に入った。
そのまま皇帝の近くまで行き、少将が俺たちを皇帝に紹介してくれた。
「というわけで、彼らが例の件の首謀者である魔王を討伐してくれた者たちです」
「ふむ、そうか。久しぶりだな、イヴァーク。他の方たちも、ご協力、感謝する」
「ふっ。お主も相変わらず、皇帝にしては落ち着きがないな。先日も、魔王をほぼ一人で打ち取ってきたそうではないか」
「ああ。私の場合、ずっと政務をしていると肩が凝ってしまうからな。たまにはかるく運動したくなるのさ」
魔王討伐がかるい運動とは驚いた。さすが、ローラリン史上最高の賢帝にして、人類史上最強の剣帝とまで呼ばれる傑物だけのことはあるな。
「ところで、ナチャイ君。私は、東方の文化にとても興味があってね。これから、君の国とは交流を深めたいと考えているんだ。いろいろと、後で話を聞かせてくれないか?」
「ええ、かまいませんヨ」
「それはありがたい。ああ、そういえば、魔王が最後に口にした、アスモデウスという名のことなんだがね」
「なにか、お心あたりがおありなんですか?」
「うむ。これから話すことは他言しないでくれ。実は、一部の人間以外には秘密にしているのだが、魔王よりも強大な力を持った魔物がいるようなのだ。私は、仮に魔帝と呼んでいるがね。我が国の調査によると、伝説や伝承に残っている甚大な被害は、決して作り話ではなく、実際に起こったことなのだ。そして、それをおこなったものが魔帝だと考えている。おそらく、そのアスモデウスというのは、魔帝だろう」