第70話 魔王ケイべスとの戦闘 六
「力を分け与える思念矢」
その時、エルシドとムサシに抱きつかれた状態のヨイチが、俺に向けてオーラの矢を放った。
その矢は、俺に当たり、俺の体内に吸収された。その瞬間、ものすごい力があふれだしてくる。ヨイチとエルシドとムサシの力が、俺の身体に流れこんできたようだ。
「貴男のためだけの歌」
今度は、シースが具現化したヘッドホンのようなものが、俺の耳に装着された。
シースの歌がダイレクトに聞こえるのだが、不思議と他の音もはっきりと聞こえて、歌による強化の効果も数倍に高まっているように感じる。
みんなのおかげで、俺の力は圧倒的に強化された。今なら、奴に勝てる!
俺は、この機を逃すまいと、奴に切りかかる。
ザシュ!
俺の剣は、奴が構えた盾ごと、奴の身体を両断した。
「乱れ切り!」
止めをさすために、高速で奴の身体を切り刻んだ。
充分に細切れにして、燃やし尽くそうと炎魔法を使おうとしたとき、奴の身体は、無数の黒いオーラの粒子に変化した。
「解放する邪悪な力・身体を粒子化型邪悪力! まさか、この俺が人間ごときに、ここまで追い詰められてしまうとは思わなかったぞ。だが、残念だったな。俺はまだ死にたくはないからな。このまま、逃げ延びてやるぞ!」
奴の思念が俺の脳内に響いた。俺は、奴の粒子を切ろうとしたり、魔法で攻撃したりしたが、奴にダメージを与えられない。
奴の粒子の群れは、どんどん遠ざかっていく。
奴を逃がしてしまったら、そのうち回復した奴に、被害を受ける人たちがでてきてしまう。どうにかして、奴を捕らえたい!
そう強く思ったとき、俺の気持ちに呼応したように、新たなスキルが発現した。
「悪を滅する光の右手」
俺の右手から、光のオーラがすごい速度で伸びていき、奴の黒いオーラの粒子の群れに追いつくと、20メートルほどの、光のオーラでできた巨大な手のひらになり、奴の粒子を全て握りつぶした。
「ぐおおおおおっ、くそぉ。アスモデウス様ぁ」
奴の断末魔の思念が、俺の脳内に響いた。その瞬間、奴の邪悪な気配は消え去った。奴は完全に消滅したと考えてよさそうだ。
緊張の糸が切れた俺たちは、みんなその場に倒れこんだ。俺たちは、歩く力も残っていないが、その場で顔を見合わせ、笑顔を交わした。
「人間達よ、奴を殺してくれたこと、とても感謝している。だが、言いにくいのだが、悪い知らせがあってな。30000体ほどの魔物がこの森の近くまで来ていて、もうすぐ、ここに来そうなのだ」
おいおい、勘弁してくれ。体調が万全な状態ならまだしも、今の俺たちにそんな大群の相手をするだけの体力は残ってないぞ。




