第63話
クマの魔物は、ムサシのでかたをうかがっている。というよりは、ビビっているといった方が近いかもしれない。
先に動いたのは、ムサシの方だった。ムサシは一瞬で奴の目の前に移動した。あまりのムサシの速さに、あわててクマが攻撃を仕掛ける。
奴が振り下ろした腕は、空を切るだけだった。その瞬間、奴の身体中から血が大量に吹き出し、奴の身体は細切れになりながら地面に落ちた。
奴のいたすぐ後ろで、ムサシが剣を収めている姿が目に入った。俺と手合わせした時にも見せた、高速で敵の背後に回り込む技を使ったのだろう。
ムサシは俺に笑顔を向けた。かわいいんだけど、返り血を全身に浴びて、ちょっと怖いな。
「どうでござったか? 拙者の戦いぶりは?」
ムサシが嬉しそうに俺に質問する。なんだか、すごく褒めてもらいたそうにしているな。
エルシドやヨイチもそうだが、褒められたがる女の子は、俺はかわいいと感じる。なんだか、子犬や子猫が、構って、撫でて、とせがんでくるときと同じようなかわいさを感じてしまうのだ。
「すごく良かったよ」
「ふふっ、そうでござるか」
格好良かったと褒めようかとも思ったが、俺の分析では、ムサシはかわいいと言われた方が喜ぶタイプのようだし、やめておいた。
褒められて嬉しそうなムサシは、俺から離れずに、上目づかいで俺を見つめている。
なんだか、頭を撫でてほしいと言われている気がしたので、ゆっくりと、ムサシの頭に手を乗せた。
ムサシは、全く抵抗しないで、むしろ嬉しそうな顔をしている。そのまま、俺がよしよしと頭をなでると、とろんとした、気持ちよさそうな表情になった。
その顔が、とてもかわいらしくて、俺は無言で、ムサシの頭を何分も撫でていた。
撫でている最中に、ふとムサシがあびた返り血が気になった。
「そんなに返り血がついていたら、せっかくのかわいらしさが台無しだね。じっとしてて、俺がきれいにするよ」
俺は、水魔法を応用した、洗浄魔法を手のひらにまとわせ、ムサシの着物についた返り血を、手のひらでこすって落としていった。
わきの近くや、胸の近く、おなか、ふとももやお尻の部分の着物を触るときは、ムサシに確認したが、問題ない、やってほしいということだった。
「く、くすぐったいでござる」
それらの場所を触るときは、ムサシはくすぐったがりつつも、少し気持ちよさそうな表情になる。
その顔が、かわいらしいと同時に、色気も感じさせるため、俺はドキドキしながら、ムサシの着物をふいていた。
ふき終わると、ムサシは少し残念そうな表情をした。と思ったとたん、今度は急に真面目な顔になった。
「昇殿、たいへんでござる。さきほどの戦闘で、拙者はちょうどレベルアップして、悪い予感という、自動発動型のスキルを会得したのでござるが、そのスキルによると、数時間後に、ここに強大な力を持つ魔物が来るようなのでござる。おそらく、その魔物は拙者よりも力は上でござる」




