第28話 テイヌシュ大会決勝戦 Ⅲ
高々とロブが上がった。なんだ、こんなロブなら、今の俺のスピードなら簡単に追いついて返せると思った。
だが、ロブは超強烈なトップスピンがかかっていたのだろうか? ありえない速さで俺のコートに落ちた。1流の投手が投げるフォークボールを何倍も強烈にしたような、尋常じゃない落ち方だった。
「こんな技を隠していたなんて、エルファさんも人が悪いですね」
「いえ、隠していたわけではないのです。この技は身体にかかる負担が大きいため、できれば使いたくなかったのです」
「なるほど、そういうことでしたか。とにかく、僕はまだ負けるつもりはないですからね」
「ふふっ。そうでなくてはおもしろくありません。よろしくお願いします」
とはいうものの、愛の力もダブルも、めちゃくちゃ体力を消耗するスキルだ。正直、俺はもうフラフラだった。
俺を支えているのは、好きな女の子たちに格好いいところを見せたいという、男としての純粋な気持ち。ただそれだけだった。
俺のサーブゲーム。ライトニングサーブを打つも、エルファさんはなんとか返してくる。だが、返すので精いっぱいの弱いボールを、強烈なスマッシュで打ち返す! またも俺はリードした。
「ツイストサーブ。はっ!」
エルファさんのサーブを返し、ラリーが続く。俺の一瞬のスキをついてエルファさんは燕返しを放ってきた。
俺は無我夢中で、バスケットのフェイダウェイよろしく、後方へ仰け反るようにジャンプをして、燕返しが落ち始める直前に、なんとか打ち返した。
そのボールには、エルファさんも分身も追いつけず、ボールはエルファさんのコートに入った。その瞬間、気が抜けたのか、目の前が真っ白になった。
「ラララー、ララーラーラー」
かすかに心地よい歌声が聞こえる気がする。それに、なんだか体中がぽかぽかしている。さらに、全身に柔らかいなにかが当たっている。気持ちいいな。このまま目をつぶって、まどろんでいたい。
「……さん。昇さん。聞こえますか?」
シースの声が聞こえるな。俺がゆっくりと目を開けると、目の前にはシースの顔が超至近距離であった。俺は、大きなベッドの上で、シースに抱きつかれて寝ていたようだ。
「良かった~。お気づきになられたんですね~。私の最大回復魔法と、エルファさんの回復歌を、ずっと昇さんに使っていたんです。体調はどうですか~?」
「んー。なんだかすごく調子がいいよ。ありがとう」
「それは良かったです~。もう、心配はなさそうですね」
「昇、元気になったみたいで安心したわ」
「昇君、優勝おめでとう!」
「昇さん、見事な戦いぶりでした。とてもすてきでしたよ!」
「昇様、私の完敗です。まさか、ほとんどテイヌシュの経験がない方に、私が負けるとは思っていませんでした。本当に、格好良かったですよ」
そうか、俺はテイヌシュの大会で優勝したんだったな。みんなの前で負けなくてよかった。それに、みんなが俺のことを心配して、付き添ってくれてたことがとてもうれしかった。こうして、テイヌシュ大会は俺の優勝で幕をとじた。
その日は、疲れていたので、夕食を軽めにとって早めに寝た。翌朝起きてみると、シースやエルファさんの回復魔法のおかげか、体調は万全だった。
今日は、そろそろ進化石について考えてみるか。




