第27話 テイヌシュ大会決勝戦 Ⅱ
「分身」
ぶっつけ本番だったが、ダブルは成功し、俺の分身が現れた。よし、これで2対2、対等に戦えるはずだ。
そう思っていた俺が甘かった。エルファさんは、俺がダブルを使ったことに驚いていたが、すぐに気持ちを切り替えて対応してきた。
精神的に動揺することもないエルファさんは、テイヌシュの経験が豊富なようで、ダブルスのテクニックもあるのに対し、俺はダブルス特有の戦法なんて全く知らない。
さらに、テイヌシュテクニックも抜群で、バフも含めた腕力では俺の方が勝っているはずなのだが、ボールに伝わるパワーは同程度だ。このままじゃ負けてしまう。
俺はエルファさんの身体の使い方、魔力の使い方を、分析眼で分析した。なるほど、エルファさんは、ボールを打つときに、全身にまとっている身体能力強化のオーラを、足から腰、そして腕へと瞬時に、またスムーズに移動させて、多くはないオーラで最大のパワーを発揮しているようだ。
俺もやるしかない。愛の力で魔法センスも運動センスも高まっている、今の俺ならできるはずだ。
俺のサーブで試してみた。愛の力の身体能力強化のオーラを、足から腰、そして腕へと瞬時に、スムーズに移動させて、打つ!
今までとは比べ物にならない速さのサーブは、エルファさんでも反応すら出来ずに、サービスエースを取った。超高速のサーブ、仮にライトニングサーブとでも呼ぶか。
ライトニングサーブのおかげで、俺のサーブゲームを落とすことはなくなった。問題はエルファさんのサーブゲームだ。あのツイストサーブを返せないことには勝利はない。
「昇、がんばれー!」
「昇さん、ファイトです~」
「昇さんなら勝てます!」
「僕に勝ったんだもん。エルファさんにも勝って、優勝してよね!」
愛の力のオーラが増す。エルファさんがツイストサーブを打ってきた。顔面めがけて飛んでくるボールを、ついかわしてしまった。
くそっ。何をやっているんだ俺は! みんなが応援してくれているのに、ビビって避けてしまう自分が情けない。いくら力が強くなっても、俺の心は弱いままだ。人間の強さってのは、腕力じゃないだろ! 心の強さ、勇気。それを持つ人こそが、強い人間なんだ。俺に足りないのは勇気だ!
エルファさんがツイストサーブを打った。勇気だ! 勇気をふりしぼれ!
「うおおおおおおおおおおお!」
俺は避けたい気持ちを強引に乗り越えて、ツイストサーブを打ち返した。ラリーが続き、俺は3セット目を取った。散々苦しめられたツイストサーブを、勇気で克服したんだ!
4セット目では、エルファさんがポール回しを打つときの癖を見抜き、ポール回しも完全に返球できるようになり、俺が4セット目を取った。これで、ラストの5セット目を取った方が優勝することになる。
5セット目は、タイブレークにまでもつれこんだ。このゲームを俺がとれば、俺の優勝が決まる。
「ツイストサーブ。はっ!」
エルファさんのツイストサーブを打ち返し、ラリーが続く。一瞬エルファさんと分身に隙が出来た。ここで勝負をかける! 俺と、俺の分身はネット際にダッシュした。その時、エルファさんの口元が、かすかにあがった。
「秘技、燕返し」




