第105話
イールが帰ってきた日の三日後、鍛錬の合間に、自分の部屋でみんなと昼食を食べていた時、めずらしいことに、イールが俺の部屋に興奮した様子で入ってきた。
「昇君!
君が召喚したという3人の芸術家の女性たちのことなんだが、彼女たちの芸術は素晴らしい!
西方世界にはない独特な芸術で、レベルも高い!
実は僕は芸術には少しばかりうるさいたちで、審美眼にも自信があるんだ。
そして、芸術の世界にも金持ちの上流階級にも顔が利く。
僕が彼女たちをプロディースすれば、すぐにでも人気になるはずだ!
どうだろうか? 彼女たちの売り出し方など、僕に任せてもらえないだろうか?
もちろん、僕も利益の数割をもらうが、それでも君たちのもとに入るお金は、
僕に任せてくれた方が何百倍にも増えるはずだ。
ローラリンに納める税金など、面倒なことは僕の部下たちがやるから、
君は何もしなくていい。どうだい? 悪い話ではないだろう?」
なるほど。確かに、俺は芸術の世界にコネがないし、この手のことは玄人にまかせるしかないな。
どんなに素晴らしい芸術も、知られなければ価値は生まれない。そして、俺には広告のノウハウがない。
少し考えたが、俺は基本的にイールのことは信用しているし、彼女たちの売り出し方などは、イールに全面的に任せることにした。
イールは、芸術に関しては享受するだけではなく、自らも絵を描いたり、楽器を演奏したりするらしく、特にホクサイのことを気に入ったようで、俺がホクサイに絵を習うときは、イールも参加することになった。
そうして、1週間ほど過ぎて、イールとは話す機会が多くなり、徐々に仲良くなっていった。
この世界の勉強も始めて、俺は文武を高めるため、鍛錬の日々を過ごしていた。
ローラリン皇帝と光魔法の稽古をしている時、ローラリン皇帝から、イールへの説得を頼まれた。
なんでも、ジャラカンダ国奪還作戦が予定よりもうまく進んでいないらしく、イールの国から精鋭を派兵してもらいたいらしい。
皇帝から言うと、命令として受け取られてしまうかもしれないから、俺から、お願いするという形をとってもらいたい、とのことだった。
アレクやリョフがいくら優秀だといっても、アレクは、各国から集まった兵士を率いて、リョフは、各地の傭兵を率いるという、いわば即席の部隊だからな。中将が率いるローラリンの正規軍もいるとはいえ、上手くいかないのも無理はないだろう。
皇帝の頼みを承知して、イールの部屋に行き、そのことをイールに話した。