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街を歩く

作者: 竹仲法順

     *

 夏の繁華街は連日、沸騰するように蒸し暑い。歩きながら、そう感じる。駅で電車を降りて、街の中枢部を歩いていくと、辺りは人が大勢行き交っていた。ほぼ毎日歩いているのだが、歩くたびに微妙に景色が変わっている。

 全国にチェーン展開するカフェに入り、窓際の席に座った。アイスコーヒーを一杯頼むと、すぐに持ってこられる。カバンから読みかけの文庫本を取り出し、コーヒーを一口啜ってから、ページを開いた。そしてしばらくの間、読み進める。自分の時間だ。カフェは多少うるさい場所だが、読書するには返ってこういった店の方がいい。

 スマホが鳴っているのが分かった。本をいったん置き、バイブで振動中のスマホを手に取って着信を見ると、勤務先の会社からだ。すぐに通話ボタンを押して出る。

「はい、長岡です」

 ――ああ、黒沢だ。……今からいったん社に戻ってきてくれないか?至急やってほしい仕事がある。

「分かりました。では」

 頷き、電話を切ってから文庫本を閉じた。コーヒーを全部飲んでしまい、席を立って歩き出す。疲労はあった。人ごみにも会社にも慣れてはいるのだが、この蒸し暑さがブレーキになる。独り暮らしの自宅マンションに帰ったら帰ったで、夜の暑さも感じるのだし……。

 歩きながら、ふっと思った。カフェで何か食べてくればよかったと。空腹を覚え始めたのだ。ハンバーガーかホットサンドぐらい、店のメニューには普通にある。そこまで気が回らなかった。失策だ。特に大事なことというわけでもなかったのだが……。

     *

 やや急ぎ足になる。雑踏を抜けてまた電車に乗った。このエリア一帯、車が必要ない。全部電車かローカルバス、もしくは通りをうろつくタクシーで行ける。大抵歩きが多い。

 思っていた。住み慣れてしまうと、何でもないと。自動車の運転免許は、結局取らず仕舞いだったのだし……。

 会社に戻り、黒沢のいる社長室へ向かう。二言三言指示を出され、デスクに戻って、与えられた仕事をこなし始めた。いつも就業時間中はずっとパソコンに向かっている。慣れていてもきつかった。足がむくんだり、腰が痛かったりする。まあ、職業病として仕方ないと思っていた。雑務ばかりで、黒沢や別の上の人間に頼まれての資料作りなどが多い。仕事着もスーツじゃなくて、シャツにジーンズといったラフな格好だったし……。

 その日もオフィスを出たのは午後九時半を回る頃だった。自宅方面へ走る電車に乗り込み、揺られる。心身ともに疲れ切っていた。また今夜も自宅で摘みなどを食べながら、酒を飲む。アルコールが入り、酔いが回る時間になると、そのままベッドに潜り込んで眠るのだし……。

 夏の夜が更けていく。帰宅してすぐに自宅マンションのベランダから空を見上げると、星が瞬いていたのだし……。また今夜も蒸し暑いのだろう。夜間の寝苦しさといったものも、慣れると平気なのだが……。

                             (了)


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