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プロローグ(仮)

 俺は校門に立っていた。


「おはようございます」


 生徒たちが俺に挨拶して前を通って行く。


 いつもと変わらぬ、朝の登校風景だ。


「せんせー、おはよー」

「ちょっと待った」


 俺は一人の女子生徒を呼び止めた。


「スカートの丈が短すぎる」


「あー、ごめんなさいっ。ウエストで折ってるだけだから。すぐ戻しまーす」

 彼女はそう答えると俺の目の前でごそごそと折り上げていたスカートを直した。


 まったく。

 女の子の恥じらいってもんはないのか?


 数分後。

 俺はもう一人の女子生徒を止めていた。


「なにー?」

「お前の服装。何だそれは?」

「えー、制服じゃん?」


「いや、それ…いつの時代のだよ?」


 彼女が履いているスカートの丈は、膝下どころか足首まで届きそうなほど長い。

 そして上に着ているセーラー服は裾が異様に短くヘソが出ている。


「しかもウチの制服はブレザーだろうが。それからショルダーバッグはどうした?」

「ああ、アレ? ダサいじゃん」


 彼女は脇にはさんで持っていた、幅を潰してぺったんこにした黒革の学生カバンを俺に向かってこれみよがしに振ってみせた。


「ダサい、か。俺にはその辺はよく分からないが、とにかく校則違反だ。それと…学校に来たらマスクは取れ。な?」


「えー、だって、学校って空気が汚れてるじゃん」


 その取ってつけたような言い訳に、俺は思わず吹き出した。


 丈の長いスカートと裾の短いセーラー服とマスクはどれが欠けても成り立たない不良のシンボルなのだ。


 彼女にとって。


「学校の空気はどこよりもきれいだぞ。取れよ、行山(なめやま)

「ふんっ…じゃん」


 マスクを片方の耳からぶら下げた彼女がチリチリにパーマをかけた赤い髪を振りふり校舎に入って行くと俺は小さくため息をついた。


 1年B組 行山(なめやま)美音子(みねこ)

 これでも入学当初よりはずっとマシになった。

 ちょっと前までは、毎日のように彼女から竹刀やらヌンチャクやら高枝切りバサミやらを没収しては 収納箱(アイテムボックス) に放り込んでいたものだ。


 行山を開放したすぐ後にもう一人の問題児が登校してきた。


「あら、先生。お早うございます。今日も本当にいいお天気ですこと」

「そうですね」


 深くお辞儀をする彼女についつられてこちらも頭を下げその姿を見送ってから、俺ははっと我に返った。


 行山のような「不良少女」と違って、礼儀正しく言葉づかいも丁寧だが、考えようによってはこの人のほうが遥かに扱いがやっかいだったりする。

伊布野(いふの)ソネさん」

「はい。何でございましょうか」


 振り向いた拍子に着物の袖がはためいた。


 彼女は矢絣柄の着物にえび茶の(はかま)、足には草履代わりにふくらはぎまである丈の長い革靴を履いている。そしてショルダーバッグの代わりに風呂敷包みを抱えている。

 それは、俺には何時代か即答できないくらい昔の女学生の出で立ちだった。


「この学校の女子の制服はブレザーにスカートです。大変恐縮ですが、お着替えいただけないでしょうか」


「まあ、わたくしとしたことが」

 表現に気をつかいつつ恐るおそる指摘すると、伊布野は目を丸くし、半開きになった口元をあわてて手で覆った。


 俺はうっとりと美少女の上品な仕草に見とれたが、職務を思い出し心を鬼にした。


「この学校に入学した以上は伊布野さんにもこちらの規則を守っていただきませんことには。校則違反には処罰もございますので…」


勿論(もちろん)でございますわね」

 伊布野は強くうなずいた。

 頭のリボンが彼女の動きに合わせて大きく揺れる。


「私の粗忽(そこつ)(ゆえ)、先生にまでご迷惑をおかけして、何とお詫び申し上げたらよいか」

「いえいえ、そこまで謝っていただかなくても」


 この人は扱いが難しい。

 先生と生徒の間柄だから、俺のほうがえらそうにしていていいはずなのだが、いつも気がつくと俺は舌を噛みそうになりながら慣れぬ敬語を使い、彼女に向かってぺこぺこと頭を下げている。


 これも、この人が自然にまとうオーラめいた崇高さによるものに違いない。


「あのう」

 下げた俺の頭に声が降ってきた。

「わたくし、まだ着替えかたをよく存じ上げないもので。どのようにすればよろしゅうございますか」


 俺は頭を抱えた。


 着替えかたが分からない、だと?

 これと全く同じ会話、先週もした覚えがあるぞ。

 先々週も。

 この人は一体今までに何回、同じ 個人実習(チュートリアル) を受けたんだ!?


 もしかして。

 …アレか?


 どうする。

 報告(レポート)するべきか。


 ……。

 いや、でも、相手が相手だけに、下手な波風を立てて面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ。


 伊布野と同じクラスの女子学生がちょうど近くを通りかかったので、俺は彼女に伊布野の着替えを手伝うように頼み、この件を穏便に処理した。


 明日は別の教師が校門に立つ。

 伊布野がまた同じ問題を起こせば、その教師が何とかしてくれるだろう。


 登校時間の終わりを知らせるチャイムが学校の敷地じゅうにこだまする。


「ホームルーム始まるぞ〜、みんな早く教室に入れ〜」


 遅刻ギリギリで駆け込んできた生徒たちに声をかけ、俺は門扉(ゲート)を閉じた。


 見上げると、ポスターカラーをベタッと一色塗ったような青空がどこまでも広がっている。

 本当に今日もいい天気だ。



 国立青春高等学校の一日が今日も始まる。

 某巨大掲示板のスレッドをチラ見していたら、前にプロットだけ考えて放ったらかしにしていたのとほぼ同じアイデアについての発言を見つけました。


 ということは。

 このままにしておいたら、遅かれ早かれ誰かが同じような話を書くに違いない。


 …ヤバい。


 そんなワケで、見切り発車的にプロローグだけ書いて投稿しました。

 この後は1話完結か短期連載を複数にして、不定期投稿で気長に続けていく予定です。

 他に既に続きものを書いているので、あれこれ手を出して共倒れにならないよう、最初に始めたほうを優先にしてこちらは気分転換にと思っています。

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