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アマガミ  作者: 猫の人
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1話 月の雫(下)

 アマガミと懇意にしている冒険者、「青の守護者」。彼らはアヴァロン外部での活動を許された、国に認められるほどの実力者達だ。

 構成は前衛3、中衛1、後衛2のオーソドックス。盾騎士、魔法剣士、軽装騎士を前面に、槍使いを中衛に、弓使いと魔法使いを後衛に置く、基本に忠実なパーティだ。盾騎士が敵の攻撃を受け止め、軽装騎士は敵を引きつけるも攻撃をかわし、魔法剣士がダメージを与える。槍使いは回復役も兼任し、全体の指揮をする。後衛二人は攻撃的ながらも状況によりけりだ。弓使いは敵主力への集中攻撃をしたり矢を一度にたくさん放って数を削ったりするし、魔法使いは属性を考え適切な魔法攻撃を行うし、回復もする。とてもバランスの良い熟練のパーティだ。

 そんな彼らが今回挑む敵は、『ブラックメタルスライム』。アヴァロン東部の森に巣くう魔物である。アヴァロンにモンスターはいないのだが、数少ない例外として、地脈の点穴と呼ばれる場所にはボス級モンスターが発生する。これはアヴァロン王の方針らしいが、理由が「限定レア素材をドロップするから」という身も蓋もない理由だったりする。

 そうやって発生したボスを狩る事は推奨されているのだが、この『ブラック()メタルスライム(スケ)』だけは格が違うモンスターとして認識されている。アヴァロン王の側近など本当に最高峰にいる一部の強者しか狩れないからだ。

 その理由として、奴が使うバフがあげられる。≪アイアンボディ≫というバフは、行動速度低下を代償に圧倒的な防御力を得る特殊能力だ。これを常用しているためにダメージがほとんど通らず、防御力貫通系スキルと防御力ダウン系のデバフが一切効かなくなることから、倒すのは難しいとされていた。

 が、その伝説も今日ここまでである。「青の守護者」が手にするアイテムは『新・月の雫』。あらゆるバフ・デバフ・状態異常をランダムに書き換える凶悪アイテムである。これで奴のバフを書き換えてやろうという作戦だ。書き換えは上手くいくだろうが、書き換える効果は予測不可能なので、危険が在れば撤退する。

 森の一画、少し開けた場所が奴の定位置だ。開けた、といったが、開かれた、というのが正解だろう。奴の周囲に木々が無いのは、黒スケが移動するだけで森の木々が薙ぎ倒されているからだ。しかも、倒した木々を捕食しているので、黒スケのいる所だけはペンペン草一本無い空き地にされてしまう。奴は大きくなる事もなければ点穴の上から退く気配もないので被害は拡大しないが、やはりいい気分ではない。冒険者たる者、ボスの討伐ぐらい自分たちでやりたいのだ。

「作戦通り、往くぞ!!」

「「「「「応!!!!」」」」」

 黒スケの敏捷は低い。スライム系モンスターなので足が遅いのだ。そこに敏捷を強化した魔法剣士が突っ込む。両者の位置が交差する直前、魔法剣士の大跳躍。黒スケを飛び越え、その行き掛けの駄賃に『新・月の雫』を振りかける。

 『新・月の雫』の効果は即時現れる。突然、黒スケが高速移動したのだ。≪アイアンボディ≫が解除された結果である。冒険者たちは知る由もないが、今回は『敏捷度増加』のバフに切り替わっている。

 結果として黒スケは通常の3倍どころか50倍の速度で冒険者たちを襲う。ここまで早く動くスライムはさすがにいない。だが、異常な速度に冒険者たちがピンチになるかというとそうではない。スライムとしては規格外の早さでも、モンスター全体でみればまだ大したことはない。雷の精霊や光の精霊などはもっと早い。それに速度上昇は織り込み済みである。すぐさま対応してみせる。

 早く動くのだが、制御に慣れていない黒スケでは精密な動作などできない。軽装騎士が誘導した進路上にカウンター系の罠を使い、何度も自爆させる。動きが止まった瞬間を狙って魔法をぶち込む。それが出来ない時は盾騎士が頑張る。それを繰り返すだけだ。

 時間としては10分程度だっただろうか。圧倒的な防御力を持った『ブラックメタルスライム』は冒険者達によって倒される事になる。が、それが悲劇の始まりと知る者はこの場にいなかった。スライムの、とある特性を考慮していなかったのだ。

 スライム系モンスターは、液体系と植物系の薬品を使った場合、その特性を体液で再現することがある。倒されるまでのスライムは核が体液を維持してくれるのだが、核が壊されてしまえば体液はブチ撒けられる。そして、自分達に『新・月の雫』を使うつもりのなかった冒険者たちは、当たり前のようにバフをガンガン使っていた。

 結果について、詳細は分からない。ある者は呆けたようにして、ある者は羞恥に顔を染め、ある者はこの世の絶望全てを味わったかのような顔をしていた。

 黒スケのドロップアイテムはすぐさま売却され、その方法を知った他の冒険者が同じ手段で挑む事になるのだが、その結果についても深く語るまい。


 真相は、月だけが知っている。

読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。

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