未解決の問題が多すぎる。
ゆらり、ゆらり……
暖かな何かに包まれながらゆったりと揺れている。
ふわり、と上の方から柔らかな光が降ってきた、と思ったら急に凄い力で上に引っ張られる…っ
「初めまして、私の可愛い子…」
「おぎゃーーっ!」
横から赤ん坊の泣き声が聞こえて、意識が一気に覚醒する。
「むぅ…おぅおいやおや~?よーよ。」(む…もう起きたのか?翔悟。)
「うぇーっ…ひっく……うっ…。」
「おーいおい。いいおああーああないおー。」(よーしよし。良い子だなー泣かないのー。)
ふっ…泣き叫んだのは私だと思ったか?
私をそこらの赤ん坊と一緒にしてもらっては困るな。
まだ発音は甘いが既に大人と同等の会話をできると自負している。
……すまない。ふざけるのはここまでにして、きちんとこれまでのことを説明しよう。
だからそんな冷たい目で見ないでくれ。泣くぞ。(赤ん坊の特権だからな!)
ごほんっえー私の名前は松山樹。以前はぴちぴちの16才だった。
何故「だった」かというと、ある理不尽な事情によって私は今赤ん坊の姿になっているからだ。ぴちぴちを通り越してもう何と表現して良いのか分からぬ…。
ごほんっさて、この姿になった事情について説明しようか…
*****
「……き。…いつき。起きぬか、樹よ。」
む……テストが終わったばかりなんだ…寝かせろ………。
「あほう。何を寝ぼけておるか。早く目を覚まさんか。」
近くでやたら美々しい声が年寄りくさい喋り方で眠りを妨げてくる。
「年寄りくさくて悪かったな。お前も同じような喋り方をしているだろう。」
…うむ。確かに、否定はしないが……zzz
「こら、寝るでない!大事な話があるのだ。お前の魂に関してのな。」
…私の魂?ふむ。少し興味が湧いてきたのでそろそろ起きようか。重たい目を無理矢理開いて見ると目の前にはえらく光輝いている御仁が居た。輪郭は分かるが顔などははっきり見ることはできない……後光か?
「わしは仏ではない!はあ…まぁ聞く気になったのなら何でも良いか。さてお前の魂についてだが…正直に言うと今にも消えそうだ。」
いやいやいや…消えそうってどういうことだ?今すぐ説明を要求する。
「だから今から話すと言っているだろうが…あー何というかお前の魂が消える原因は突きつめて言えばわしのせい、でな?」
ふむ…?というか貴方は誰だ?
「むっ…そういえば言ってなかったな…わしは地球でいうところの神、だな。」
神…とな?本物か?
「本物もなにも人間が勝手にそう呼んでいるだけだからな。まあ一番偉いからな、わしは。だから神だ。」
痛い…今の発言は何故か物凄く痛い……。
「本当に失礼だな。お前は。とにかく、そのわしがお前の魂を気に入って見守っていたのが原因だ。」
私の魂を気に入った?何処を?
「しいて言えばお前の魂が綺麗過ぎる所かね?わしは光物が好きでな!お前、表情があまり変わらないとかよく言われなかったか?魂が綺麗過ぎて周りに負の影響を出すのを無意識に嫌がったんだろうな。おまけで正の感情も出さなかったが…。」
おぉ。確かにそれはよく言われるな。私は割と自分は感情表現が豊かだと思っているんだが。
「えっ…ま、まぁそれでお前の魂がこちらに来るまで見守っているつもりだったんだが……そうだ!お前が小さい頃などはたまに会いに行っていたんだぞ?一緒に遊んだりもしたな~。だがわしの口調がうつってしまって、やたら爺くさい幼児になった時は流石に焦ったのー(笑)それからは自重してずっ…ゴホンたまに覗き見る程度にしていたんだが……。あー…そうしたら、それを見ていた、その、自分で言うのもなんだが、わし至上主義!みたいな?わしの配下A(天使のしーちゃん)?がお前に嫉妬してのー……?」
私の口調は貴様が原因か!祖父は既に他界しているし、私の父は雲のようにふわふわ喋るから、反面教師でこうなったと思っていたぞ。まぁもう治す気は無いがな!…ていうか遊んだのか?全く覚えが無いぞ!
…後軽くストーカー宣言された気がするが、今は置いておこう。それで?
「わしに見つからないようにお前の魂を事故に見せかけて消そうとしたのだ。覚えておらぬか?車に引かれたことを。」
神様の話を聞いているうちに、ふっとある記憶が蘇ってくる。ブレーキ音と甲高い悲鳴………
あぁ…そうか私は死んでいるのか。
「そうだ。そして今は魂だけでわしが保護している状態だ。事故に気付くのが遅かったせいで肉体の方は間に合わなかった、本当にすまない。」
光り輝いているくせに、申し訳なさが伝わってくるとは…器用だな。
………つまり私の死因は嫉妬か。天使って嫉妬するのか?それは最早堕天使では?という疑問は今は置いておこう。死因が嫉妬って…理不尽すぎるな!これはもう本人(天使のしーちゃん)に報復したくなっても仕方ないな、うむ。
「本当にすまなかった…あぁ、あやつはお前の言う通り堕ちてしまっていた。そしてもう二度とわしらの前に現れることはないだろう。わしが許さん。あやつにはその力尽きるまで最果ての地で働いてもらう。」
むぅ………正直不満だらけだが私が報復するより、神に会えなくなる方が罰として効きそうだ。仕方ない。ここは無理矢理にでも納得しようではないか。ちっ…
で、これから私はどうなるんだ?まさかこのまま(魂のまま)消えるのを待つわけではないだろう?まさか。
「う、うむ。そ、そうしてくれるとありがたい。それで、お前の魂だが、わしのせいでせっかくの綺麗なお前の魂が消えるのはあまりにも惜しいからな。他の世界に転生させよう。」
転生、か。地球では駄目なのか?私は剣や魔法で戦うなんてことはしたくないぞ?運動神経の無さは自他共に認める程だ!
「いばるところか…?いや、地球には今すぐには転生できないのだ。先の事故を起こす為にあやつが地球に力を加えたことで、地球の力のバランスが崩れかけている。落ち着くまで何十年、何百年かかるか分からぬ。今お前を地球に転生させたら、地球の力のバランスが崩れ、その反動でお前の魂も消えるだろう。かといってこのまま落ち着くまでお前の魂は保たないだろう。」
そ、うか…消えてしまうなら仕方ない。
……それで、私が転生するのはどんな世界なんだ?
「うむ。お前が戦いを嫌がるのは予想済みだ。だが魔法には興味あるだろう?」
む…確かに。空を飛んでみたり、でかい火の玉を飛ばしてみたり、水の龍を出したりもしてみたいな……
「う、うむ。そ、それができるか分からぬが、魔法が存在する世界だ。お前も知っているだろう?」
は?いや、そんな世界知らないが…?
「おや?いや、お前の持っていた本と似た世界を探し出したんだが…。」
私が持っていた本?私はファンタジー系はいっちゃんに借りていたから持っていないはずだが?
だがお前が事故に遭った時持っていたカバンの中に入っていたぞ?
………!いっちゃんに借りたあれか!…いやあれは恋愛小説じゃなかったか?
「うむ。恋愛ファンタジーものだな。」
そ、そうだったのか…。ん?小説の世界ということは私は登場人物に転生するということか?
「そうだ。やはりここはヒロインに『断固拒否する。』……というと思ってな?他の者にしておいた。お前がどんな困難も乗り越えられるよう、わしの加護も与えておいたぞ?」
私がヒロインになるなんてありえない。また嫉妬でもされて危害を加えられたらどうしてくれる!
どんな困難もって…困難を与えないようにはしないのか……
「できないこともないが、それでは人生がつまらないだろう?ああ、それとその世界はあくまでも似た世界であるから、必ずしも同じ人物・環境ではないぞ。小説通りに人生が進むわけではもちろんないからな。まあ、何が起こるかは分からない、ということだな。」
つまらないって……おいコラ‥っといかん。つい口が悪くなってしまった。というかまだ本自体読んでいないからストーリーどころか登場人物も知らないぞ?
「ん?そうなのか?ではお前が不自由しないよう基本的な知識だけ与えておこう。他に聞きたいことはあるか?」
む、では私は誰に転生するのだ?できるならヒロインの恋愛に巻き込まれない立場が良いんだが…。攻略キャラとは絶対関わりたくないな。イケメンと恋に狂った女は恐ろしい……。あぁ、それと超能力について詳しく教えて欲しい。もし変な力を貰っても目立たないようにすれば平穏に暮らせるしな。
ん?神よ。光が少しくすんできたように見えるが…どうしたのだ?
「……………い、いやっお前なら大丈夫だ!!わしの加護もついているしな!ははは」
…ちょっと待て。今の間は何だ?何故急に愛想笑いをした?
「も、もうそろそろ送らないとお前の魂が消えてしまうぞ?人生とは先が分からぬからこそ面白いのだ。お前がどのような人物に転生するかもお楽しみだ!では行ってこい!!」
あっまてっ!まだ私の質問に答えてもらってないぞ!
私の叫びも虚しく、徐々に周りが暗くなり神が放つ光が小さくなって消えていく――――‥‥‥
「樹よ………今度こそ最期まで―――しろ。」
事故に遭った時とは違い、また消えゆく意識の中私の耳に届いた音はとても暖かくて優しいものだった………
*****
…以上、回想終了である。
聞けば聞くほど理不尽だろう?生まれたばかりの頃の私は、何かを考えたりすることが出来なかった為それはそれは可愛らしい無垢な赤ん坊だったが、最近になって幼児の体に慣れてきたのか色々思い出してきて、あまりの理不尽さに脳内で思わず頭を掻き毟って叫んでしまった。
何故脳内なのか……それは赤ん坊だから毛も少ししかなく、腕も思い通りに動かせず行動に移せなかった為である。無念なり。
思い出す、といっても幼児の体に負担をかけない為か、神が忘れたのか…今私が知っているのは私が此処にいる理由と攻略キャラとヒロインの名前くらいだ。
この世界には花時雨・城ノ鳥・風祭・月之宮という四代名家が存在する。この四家は国の政治・経済の6割を牛耳っており、特に花時雨家はその中でも半分を占めているため、国のトップに立つ存在と言っても良い。そしてこの四代名家の子息達が攻略キャラである。ヒロインは少し裕福な一般家庭の子らしい。…うむ。身分の壁の高さを考えるのも馬鹿馬鹿しい。
「きゃっきゃ♪あうあーあー!」
む。どうやら翔悟の機嫌が治ったようだ。…あぁ、翔悟というのは私の幼馴染兼側近候補で、私の現在の家、花時雨家に代々仕える家の直系だ。フルネームは雨宮翔悟。将来互いが一番の理解者になれるよう、物心つかないうちから一緒にいさせるという我が家の教育方針で、一緒にすくすく成長中だ。ちなみに小説では花時雨ルートで登場するいわゆる隠しキャラであった。もう1人の隠しキャラはまた後で説明しよう。
私の現在の名前は花時雨伊澄だ。
そう…私は四代名家の一つ、実質トップの花時雨家の4人目の子供で次女として生まれた。
……なぁ、君達!次女ならばヒロインと関わることはない!そう考えるだろう?普通。だが私は気づいてしまった…我が家の長男、長女、次男と私は最低でも5才は年が離れていて、そして攻略キャラの一人である翔悟と同い年であることに……。
……決定打は私の名前が攻略キャラと同じだったことだ。つまり私は攻略キャラの一人に転生したのだ。
気づいて当たり前!というツッコミは受け付けない。認めたくなかったんだ…。
生まれてからではもうどうしようもない、そう考えを切り替えて、とりあえず私はこの隣で可愛らしい声で笑っている子(♂)を真っ直ぐな良い子に育てよう!と決意した。理由は特に無い。
だが一つ気になって仕方がないことがある。
攻略キャラなのに、私は女として生まれてきたんだが………………?
な、長過ぎた…?いや、短か過ぎる…?
感覚が分からない!(泣)