プロローグである。
キーンコーンカーンコーン♪
テスト終了のチャイムが鳴る。
「はいそこまで。筆記用具置いて後ろから集めてー。」
先生の声に、シャーペンを置いてプリントを前に回す。
「ふぅ‥‥。」
5日間にわたるテストの終了に、気が抜けて思わず机に突っ伏してしまう。
そう、今日まで高校一年最後の学年末テストだったのだ。
「ちょっといっちゃん!やっとテスト終わったんだからもっとはじけなさいよ!」
ふやける私に文句を言うのは我が親友、りっちゃんこと立山律だ。
雪のように白い肌。腰まである艶やかな黒髪。黒曜石のように輝く黒い瞳。形のようい桜色の唇。これぞ大和撫子(絶滅危惧種)な美少女である。黙っていれば。
ちなみに私の名前は松山樹。大体の人はいっちゃんと呼ぶ、高校一年生でぴちぴちの16才だ。容姿は…一言でいうなら「普通」だな。
別に説明が面倒くさかったわけではないぞ?単に特筆すべきものがないだけで…
「‥‥いっちゃん?人の話聞いてるの?」
む、親友の声が低くなっている。これは急いで返事をしなければせっかくテストから逃れた命が危ない。
「いやいやりっちゃん。テストが終わったからこそこうやって気を抜いているんだ。」
テスト期間の緊張からやっと解放されたからな。うむ。
「普通の学生なら終わったー!って叫んで教室飛び出すんじゃない?」
‥‥それはさっきクラスの男子がやったことかね?
「りっちゃん、普通の学生はそこまではじけてない。それに私がテスト終了したくらいではしゃぐような性格だと思っているのか?」
私は周りによく年寄りっぽいと言われる。何故だ。
「ああ、そうね。っていうかそんなことより、テスト終わったし早く本屋に行きましょ!新刊が私達を待ってるわ!」
りっちゃんは輝くような満面の笑みでそう言うと、自分と私の鞄を掴んで教室を飛び出していく。
そんなことって‥‥君から振ったくせにそんなどうでも良さげに‥‥っとそんなに走ると転ぶぞ…遅かったか。
「ふふん♪ふ〜ん♪」
赤くなったおでこはそのままに鼻歌混じりに軽くスキップしているのは我が親友りっちゃんだ。
「りっちゃんよ、久しぶりの本屋で嬉しいのは分かるがもう少し落ち着いてくれ。」
とりあえず鞄振り回すのは止めようか。
今、私達は学校の近くにある行きつけ(?)の本屋に来ている。
「だって2週間ぶりなのよ?いっちゃんだって楽しみにしてたシリーズの新刊早く読みたいでしょっ?」
「うむ、まぁ否定はしないが‥‥」
確かに、買ったら読みたくなるのでテスト期間中は我慢していたが‥‥
「あっ!これいっちゃんが好きな作者の新作じゃない?」
「なにっ!?ああやっと出たか!むっ!これはいっちゃんがこの前貸してくれた物の続きではないか?」
「ほんとだ!これは買わなきゃ!あっこれも‥‥」
まぁ、会話を聞いていたなら分かるだろうが私とりっちゃんは読書好きだ。特にりっちゃんは幅広く色んなジャンルの本を呼んでいて私によく貸してくれる。たまに理解しがたいジャンルもあるが。
2人の出会いも本屋で、最後の一冊を同時に手に取るというものだった。どこの少女マンガかとツッコミたい。
「ふふっいっぱい買っちゃったわ♪これでしばらくは保つわね!」
満足いくまで2人で本を物色して今は帰宅中だ。
「うむ。そうだ、りっちゃんにこの前借りた本を返そうと思ったんだが‥‥持って帰れるか?」
りっちゃんの鞄は既に買い込んだ本でパンパンだ。
「あら、大丈夫よ〜。私もいっちゃんに本貸そうと思って持って来たから!今度はねー少女向けの小説よ♪」
おおそれは楽しみだ。‥‥しかし少女向け小説?
「ラブストーリーということか?それならこの前借りたと思うが‥‥また違う感じのものか?」
「えっとね、元はゲームでそれを小説化したものなの。恋愛相手が複数いてね?ゲームだと主人公が選んだ相手と1対1で恋愛するんだけど、小説では全員とちょっとずつ良い雰囲気になったりするのよ。」
ぜ、全員とか‥‥そうか最近流行っているという逆ハーというものか。
「登場人物のイラストがかっこ良くてつい買っちゃったんだけど、結構面白かったわよ!特に主人公の天然っぷりとか。」
「そこかっ!?ま、まぁ読んでみよう。ありがとう。」
りっちゃんから受け取った本の表紙には赤、青、緑、金とまぁ個性的な髪色の男性が載っていた。
「ちなみに攻略相手は表紙の4人と他に後2人いるわよ。」
6人!?多いな‥‥
「まぁ後2人はゲームでは条件揃えなきゃ出てこないみたいなんだけど。小説では全員出てくるの。」
うむ。ゲームをやることは一生無いだろうな。実に面倒くさい。せっかく薦めてくれたのだから小説は読むが。
「とりあえず読んでみて?面白かったら2を貸すわよ♪2は先生も隠しキャラとして登場するの。」
2もあるのか‥‥というか教師が教え子に手を出すなよ。せめて卒業したからにすべきだ。
「う、うむ、ありがとう。ではここではまた明日。」
「ええ!また明日ね!」
いつものように私達は手を振り合って別れた。
そう、ここまではいつも通りだった。
キキィィィーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!
「‥‥‥っっ!!??いっちゃんっっ!!?いやぁーーーっっ!!!!‥‥‥」
私が最後に聞いたのは車のブレーキ音と甲高い親友の絶叫だった。
主人公の喋り方が年寄りっぽい謎は次回あかされる‥‥!?