幼馴染の特権
以前フォレストノベルに掲載していた作品です。
カラン… カラン…
(お願いだからこけないでっ!お願いだからドジしないでっ!)
……そんな感じで、浴衣と下駄と只今奮闘中の私。そして、隣を歩く私服の、幼馴染のトモちゃん。
――今日は待ちに待った夏祭り。
下駄の音がほんのちょっと心地いい。でも、すごく不安。昔からドジだと定評がある私は、ほんとにほんとに何もないところでこける。高校2年になった今でも。身長だってまだ150センチもない。毎日の牛乳の効果は未だに表れない……。
だから、そんな私だと知ってるトモちゃんが、鳥居をくぐる前に、『手を繋ごうか?』って言ってくれたんだけど……ただの幼馴染が高校生にもなって手を繋ぐのは憚られて、断った。だって、そんなのズルい。
もちろん、ほんとは繋ぎたかったけど……、っ!?
「きゃっ」
――言ってるそばから何かに躓いて足ががくっとなる。でもぎりぎりのところで強い腕に支えられ、後ろから抱きしめられるような体勢になった私は、そっと顔を上げた。
「ほら、転んだ」
「ご、ごめん……!」
申し訳なさと、触れた体温に顔が熱くなって、慌てて離れるときゅっと左手を握られた。ますます、暑いんですけど……!
「この手、離しちゃだめだから」
「で、でも……!」
こんなところ、もし、クラスの子とかに見られたら……
――という言葉は呑み込んだ。何故ならトモちゃんが笑ってるから。私が昔から敵うことのない、あの有無を言わせない恐い笑顔。
「離さないから」
「っ!!」
耳元で溶かすように囁かれた言葉に、心臓が速くなる。ひ、卑怯だ!卑怯だあああああ!……ただただ私は首を縦に振ることしかできない。
トモちゃんの笑顔には昔から勝てない。にこにこにこにこ。黒い……んだよ、ね。こういうときのトモちゃんの笑顔って。ただ、今日は楽しそうに見える。もちろん私はトモちゃんの隣にいられて幸せなんだけど。それに握られた手が心地いい。こんな時は幼馴染で良かったと思う。逆に言えば、『幼馴染だから』こんなことしてくれるとも思えるけど。……でも、いいよね?今日くらい、幼馴染の特権、堪能していいよね?
「来年も……」
「ん?」
「…ううん!なんでもない!」
――来年の約束は、あえてしない。でも、ずっと隣にいられたら、それでいいから。どうか。……幼馴染の特権がなくなりませんようにと、それだけを願う。
fin
読んでいただきありがとうございました。