新しく始まる帰り道
以前フォレストノベルにて掲載していた作品です。
何年も続く、何年も続けている学校からの幼馴染との帰り道。私の想い人でもある隣の奴はモゴモゴと話しかけてきた。それはものすごく奴らしくなくて気味が悪い。
「あのさ……」
「なに」
「俺さ……」
「うん」
「隣のクラスの奴に告白された」
「……。……へー」
軽く答えながらも、頭はショックと興味でいっぱいいっぱい。なんて言われたんだろう。相手は誰なんだろう。何て答えたんだろう。魚の骨が喉につまったような感じで、吐き出したい言葉がつまってつまって苦しい。
「もっと何か言えよ」
「他になんて言えばいいの」
何が気に食わないのか、噛みつくように問うてくる声に、苛立ちが募る。
「……じゃあ、どうすればいいと思う?」
「何が」
「告白の返事」
……なぜそれを私に聞く。ぐさぐさと心に突き刺さる奴の言葉。私の気持ちも知らないくせにこいつは……!
「そんなのあんた次第でしょ」
「そうなんだけど、お前はどう思う?」
お互い目を合わせない会話。住宅街に伸びるふたつの影には距離がある。長いような短いような、沈黙。……考えたくもないのに、そんな、あんたが誰かと付き合うなんて。
「おい」
「しつこいなあ」
「お前はどう思うんだよ」
……ほんとにムカつく。どう思うも何も、私はずっと、好きだったわけで。あんたが好きだったわけで……
「いいんじゃない?付き合えば?」
それなのにいつも声になるのは、思ってることとは反対の言葉。また、やっちゃった。言っちゃったよ。馬鹿だ私。ずっと何年も、喉につまらせたまま。
……ん?ふと、隣を見ると奴がいない。後ろに首を回せば、奴は俯き加減に立っている。
「なにしてんの」
「――……だよ」
「は?」
「なんだそんなこと言うんだよ」
低い声と、怒った目。なんで睨むのかが分からない。なんで怒ってんのこいつ。っていうか……なんで私がそんな目で見られなきゃいけないの!?もう、ムカついた。
「なんで怒鳴るのよ!」
「お前がふざけた事言うからだろ!」
「はあ!?こっちは大真面目に応えてやった!」
「だから、なんで付き合えとか言うんだよ!俺は付き合いたくないんだよ!」
はああああ?なにそれなにそれ。言ってること滅茶苦茶じゃん。ああああああ!もう!頭の中がぐちゃぐちゃで言葉が止まらない。
「だったら最初からそう言えばいいでしょ!私に聞く必要なんてないじゃん!」
「~~っ!この鈍感!」
「ど…っ!?あんたには言われたくない!鈍感はあんた!」
「俺の気持ち知らねえくせにつべこべ言うんじゃねえーーー!」
「私にあんたの気持ちなんか分かるわけないでしょうが!」
唾が飛ぼうが、声が大きかろうが、構わない。
「だから鈍感だっつってんだよ!」
「なんでそうなんの!?」
「俺が鈍感っつったら鈍感なんだ!」
「私が鈍感っつったら鈍感なの!」
お互いに呼吸は乱れて睨み合い。子どもみたいな喧嘩。言葉が止まったところで、奴を睨みながら呼吸を整える。息が落ち着いていくうちに、頭も冷えてくる。なにしてんだろう。馬鹿だ。
もう、やってらんない。もう、どうでもいい。
ふいっと、目を逸らして足の向きをかえた。もう、帰ろう。ひとりで帰ってやる。こんな鈍感知るか。自分に言い聞かせるように、帰る帰る帰ると心で呟く。それに合わせるように歩調も速くなる。後ろから聞こえる足音さえ、腹が立った。それなのに――
「……邪魔なんだけど」
「待てよ」
奴は私の前に立ちはだかった。伸びる影が重なる。
「通行の邪…」
「お前が好きだ」
足が止まる。おかしな単語が聞こえた気がする。ちょっと、よく、わからない…、何言ったのこいつ。
「お前が好きだ」
心臓が走る。確かに、聞こえた。たぶん2回同じこと言った。言った。好きって言われた。……好きな人に好きって言われた。真っ赤な顔と尖らせた唇。さっきまであんなに腹が立ってたのに、この俺様な口調がムカついてムカついて堪らなかったのに。何故だか、可愛く思えて仕方ない。
「何か言えよ」
……何か言えよって言われても……言う言葉はひとつしかない。
「私は……」
――幼馴染との帰り道。横に並ぶふたつの影。でもその陰に隙間はなく……ふたりの手はひとつ。何年もつまってた喉の苦しさはない。幼馴染から、少し関係の変わった、そんな新たな帰り道。
fin
読んでいただきありがとうございました。
過去のものを掘り起こしているわけですが、パターンがどれも似たりよったりで…もっと柔らかい頭が欲しいと思います…。