青すぎる空
以前、フォレストノベルにて掲載していた作品です。
見上げる空は雲一つなく、青い。正直、青すぎる空は好きじゃない。昼休みに屋上に来るのは日課だ。休み時間の教室が苦手なのも、人と付き合うのが苦手なのも昔から。何年たっても学校は息苦しくて仕方ない。妙な噂話も、女子の甲高い声も、全てが頭を痛くする。でも、休むことはない。……休んだら煩いやつがいるから。幼馴染のあいつがいるから。
「あ、いた」
寝っ転がって、空を見ていた私への問いかけに思わずギクリとした。それを知って知らずか、その声の主は続ける。
「クラスの女子と喧嘩したって聞いた」
――だから、なんでこいつはいつもいつもそういう情報を掴むかなあ。早いんだよ。
「何で喧嘩になった?」
「別にちょっとしたことだし」
「嘘つくな」
「嘘ついてない。私が嘘つくの下手だって知ってるでしょ?」
「……もちろん、知ってる。嘘つくときはやたらと髪を触ること」
「……」
前髪で遊んでいた手が止まる。――私、そんな癖があったのか。
「しかも、顔にすぐ出る。今のお前、ばれてる!?って顔してるよ」
そう言って、奴は私の視界から空を奪った。私の目に映るのは上下逆さの幼馴染。心配そうな目。そんな目をして欲しくはない。
――何で喧嘩になったかって。だって…、馬鹿にされた。あの子たちあんたを馬鹿にしたんだよ。私の子守なんかじゃないのに。そうさせてる私の所為だと分かってるけど。私のことならまだしも、それだけは許せない。馬鹿みたいに腹が立つ。……大事な人を悪く言われたらムカつく。
「相変わらず、目綺麗だよね」
もやもやしながらも、唐突に私はそう呟いていた。目の前にあったものに感想を述べた、ただそれだけのこと。それなのに。
「は!?」
奴は顔を真っ赤にして、私から離れる。口元を手で押さえてすごい目で私を見る。
「……なにしてんの。ていうか、なんで顔赤いの」
「お、おまっ!絶対に、他の奴にそういう顔でそういうこと言うなよ!?」
「はあ?」
わなわなと震えながら奴は私を指さして喚く。体を起こして、理解しがたい状況に首を傾げた。
「なに言ってるか分かんないんだけど」
「だから、妙に可愛くなんなってこと!」
「かわいいぃ?」
自分に似合わなさすぎる言葉に寒気がする。可愛いってなんだ、可愛いって。引き気味に目の前の奴を見ていると、奴は深く嘆息して、もう何も言うな…と寝っころがった。……何も言うなと言われたら、何も言わなきゃいいんだよね?何か気になるけど、ま、いっかー。
考えることを放置した頭はごろん、と屋上に転がせる。見える空は相変わらず、青い。でも同じ空を見ているこの時間は心地いい。
「お前って、青すぎる空だよな」
「は?」
隣から聞こえた意味深な言葉に、また首を傾げる。
「お前が素直すぎるってことだよ」
「……すなお」
「そう」
「……」
言われた言葉を何度も心の中で繰り返す。ほんとにそう思われてるのか、と思うとちょっとモヤッとする。
――何年も想いを伝えてない私が素直なわけないのに。青すぎる空なわけがない。いつだって雲がある、私には。
「お前さあ……好きな奴とかいる?」
唐突にかけられた言葉に、少しだけ考える。今なら、変われるかもしれない。
「……いるねー…」
「ふーん……て、は!?」
素っ頓狂な声を上げて立ち上がった姿に、ちょっと満足した。なるほど、こういう反応されるのか。こういう反応してくれるんだ。
「私だっているよ、好きな奴くらいー」
「だ、誰だよ?」
「知りたい?」
「あ、ああ」
「……目の前にいる奴って言ったらどうする?」
「は?」
目を見開いて突っ立つ姿に爆笑するのを堪えながら、立ち上がって、扉へと向かう。私が素直だと言った奴が悪い。軽くなった心を感じながら、ドアノブを回して、動かない背中に言う。
「好きだよ、ばーか!」
――青すぎる空ってのも、いいもんだ。
fin
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