幼馴染の特権2
あのふたりの冬のひとこまです。
運動部の生徒らの掛け声。吹奏楽が奏でる様々なメロディー。放送部の発声練習の声。たくさんの音が、色んな場所から聞こえてくる。
この学校は他の学校よりも、部活動に重点を置いていて授業が終わった途端にほとんどの生徒は教室を慌ただしく出ていく。でも、それ以外、つまりは帰宅部の生徒もいるわけで…私もその中の一人。しかも、教室に今日はひとり。黒板の上にある時計の音が妙に響いていて、寂しさを感じさせると共に、体が冷えて仕方ない。
「うまく書けない…」
あまりの寒さに手がかじかんで、本日の最大の任務『日誌』への記入が進まない。だから冷え性って嫌なんだ!寒い寒い寒いと呪われたように、唱えながら外をチラリと見る。
「すごいなあ…」
思わずそう零してしまうのは、幼馴染のトモちゃんが必死にサッカーの練習をしているから。嬉しいことに、この教室の窓側の1番前の席はグラウンドがよく見える。だから私は時間がある時はここで、トモちゃんを観察している。今日の日誌が終わらないのは、もしかしたらこの所為かもしれないけど。でも、寒いものは寒い。窓際だから尚更寒いのかもしれないけど、でも外は見ていたいから。トモちゃんを見ていたいから。
むむむ……。今日の感想って…寒かったです、としか言いようがないですよ先生…。なんで5行の書かなきゃいけないかな。手を擦り合わせても、なかなか温まらないし。カイロを忘れた自分を恨む…馬鹿だ。
「さーむーいーよー……トモちゃん」
「それは大変だ」
「え!?」
独り言のつもりで呟いた言葉にまさかの返事。ぎょっとして振り返れば、教室の後ろの扉に立つトモちゃんがいた。まだ練習用のユニフォームのままで、トモちゃんの額や首筋には少し滴があるのが窺える。
「び、びっくりした…ど、どうしたのトモちゃん?」
いつもなら、まだ遅いはずなのに。疑問を抱きながらも私が座っている席に近付いてきたトモちゃんに、持ってきていたタオルを慌てて差し出す。ふわっと笑って、ありがとうと言われ心臓が跳ねる。なんて心臓に悪い笑顔だ……。
そのままトモちゃんは、私の隣の席に着き、手を伸ばしてきた。
「え?」
「手、出して」
「手?えと、はい……。と、トモちゃん!?」
言われた通りに手を差し出せば、そのまま手を握られて、じわりじわりと温もりが伝わってくる。な、な、なんで!?
「ちっちゃな可愛い子が困っていたようなので参上しました」
「!!」
溶けるように、落とされた言葉に顔が熱くなる。思考が変になる。寒さも、寂しさも全部どこかに消えた。
「早く終わらせて一緒に帰ろう」
包むように手を握ったまま、微笑むトモちゃんにどうしようもない気持ちになる。
「うん!」
大きく返事をして、私も笑う。
――きっと、これも、特権。冬は寒くて嫌いだけど、私はその存在ひとつで温かくなれるよ。
Fin
読んでいただきありがとうございました。
ちなみにこのふたりまだ付き合ってません…。




