8. 腹黒姫の泣き暮らし
角度を変え何回も味わうようにキスをされて思考が麻痺してくる。
頬が火照っているのが分かるほど自分が熱を持っていて、胸の奥がザワザワする。
ようやくこの忌々しい行為から開放された時には腕の筋肉も落ち着いていた。
だけどさっきみたいな元気がでないのは精神的ショックが大きすぎる所為だと思う。
何も言う気力がないし、睨み付けるのも面倒で下を向く。
それを良いことに頭に彼の手が乗り、髪を撫でてくる。
イラッときてついチッと舌打ちしてしまう。
一瞬彼の手の動きがピタリと止まったがまたすぐに再開される。
「今日は楽しかったよ有花ちゃん」
「名前で呼ばないで」
「また明日学校でね」
それを言うと彼は立ち上がり放り出していたカバンを手に持ちこちらに背を向け歩き出した。
それを横目で見ていれば彼がこちらを振り返りヒラヒラと手のひらを振りよく見慣れた王子スマイルを披露してくれた。
姿が見えなくなってもあたしはまだ立ち上がる事が出来なくて暫く呆然としていた。
思い返しせば悔しさと恥ずかしさ怒りと色んな感情がこみ上げてきて勢いよく立ち上がり猛然と走り出す。
-悔しい悔しい悔しい
目の前が涙でぼやけるのが許せなくてゴシゴシと拭う。
自分だって学校では猫かぶって生活しているけど、騙されたりするのは悔しくて堪らない。
それにあんな好き勝手されるがままになった自分が何よりも許せない。
力で抵抗してもまるで歯が立たなくて、初めて異性に対して恐怖を抱いた。
それまではどことなく馬鹿にしてたかもしれない。どこか、自分の方が強いとか賢いとかそんな事を思っていた。
だけど今日見た人は明らかに「男の人」だった。
それを目の当たりにして自分がとても無力で弱い生き物だと嘆く。
気づいたら自分の部屋にいてベッドの上で泣いていた。
いつもなら帰ったら即効着替えてリビングでまったりテレビや雑誌を見ていたりするけれど今日は何もする気が起きなくていつまでたっても制服を着替えようともしなかった。
途中で皺になるかも。と考えスカートとブレザーを脱いだ。
ブラウスと下着だけの姿になって布団に潜り込みまだかなり早い時間なのに今日はもう寝てしまう事にした。
途中で母親が心配そうに様子を見に来てくれたけど、体調が悪いと一言だけ伝え、夢の中へ現実逃避する。
あんなに早い時間だったのに睡魔はすぐに訪れ夢の中へ誘われた。
次に目を覚ました時は朝の4時で流石にもう寝れなかった。
時間はたっぷりあるので腫らした目をゆっくり湯船に浸かりながらほぐし、昨日の出来事を思い返した。
きっと学校へ行けばまた彼がいるだろうけど、泣き暮らしは性に合わない。
それにやはりされるがままと言うのも癪に障る。
--ならばこちらもやってしまえばいい。
思い浮かんだら色々と彼を貶める策が頭の中に過ぎる。
悪巧みを考えるのはどうしてこんなに楽しいのだろうか。
そうと決まれば話は早い。
打倒!三浦!!