6. 腹黒王子の本性・2
正面には整った端正な顔が
背面には冷たくて硬い壁が
あたしの肩の横を三浦くんの腕が通り過ぎるのがスローモーションの如くゆっくり見える。
言わば三浦くんに包囲されてるとでも言おう。
「なにすん…!?」
文句を言おうと彼の方に顔を上げ、言葉を発したらそれは最後まで口にすることは出来なかった。
目の前には彼の顔しか見えない。
緊張のあまり肩が強張るのを感じた。
唇に奇妙な感触がする。
キス、されてる。と頭の中でそれが浮かんだ。
だけど頭では理解してても体が力みすぎて思うように動かなくて、辛うじて指先がピクン、と動いた時には唇が離れていた。
言いたい事は沢山あるのに全く言葉がでてこない。
呆然としていたら一度離れたと思った唇がまた近づいてきた。
ハッ、と抵抗しようと腕を動かせばそれは彼の手で制御されむなしくも二度目の口付けを許してしまう。
「ふ…んぅ!!」
だけどそれは先ほどのような優しいものではなく、荒々しく『貪る』と言う言葉で表せるものだった。
息苦しくて顔を背けようとしてもそれは許されず、また喰らいついてくる。
もうダメだ、と息を吸い込む為に唇を開けば酸素と同時に自分のものではない舌まで一緒に入ってきた。
追い出そうと自身の舌で払っても逆に絡めとられる。
口の端から自分のものなのか彼のものなのか分からない唾液がツゥ、とこぼれた。
苦しみと怒りで視界がぼやけ目を細めれば涙が溢れてくる。
そこでようやく唇と拘束されていた体も開放された。
開放された瞬間ヘナヘナ、と力が一気に抜け、地べたにペタンとついた。
体中から汗がどっと沸きでてくる
「そんなに気持ちよかった?俺とのキス」
「!」
上から意地の悪い小ばかにしたような声が聞こえ、唇を噛み締める。
唇の端の気持ち悪い唾液を思いっきり袖でゴシゴシ拭い反対の手で目も拭う。
そんなあたしを見たのか彼は可笑しそうに屈んできた。
目を合わせたくなくそっぽを向いてもまた合わせようとこちらを向いてくる。
「いい顔だね。今まで見た中で一番俺好み」
「…っなんでこんな事すんの!?」
怒りで目の前が真っ赤になるとは今のことだと断言出来る。
目の前の男を憎しみでどうにかしてしまいそうになる衝動を必死に抑えてつけても声を荒げてしまう。
人がこんなにも怒りを表していると言うのに当の本人はなんとも思っていないのか楽しそうに口の端をにんまりと上げている。
それを見てあたしの怒りは頂点に達した。