5. 腹黒王子の本性
「三浦くん、あたしこの先の曲がり角曲がってすぐだからここでいいよ。今日は本当にありがとう。楽しかった」
ようやくこの面倒毎から開放されるため、思わず笑みが溢れる。
あー、本当に疲れた。帰って楽な格好に着替えたい。
だけど、あたしの思考とは反対にそれまで笑顔を絶やさなかった三浦くんが無表情になり、ピタッと足が止まった。
「?」
不思議に思いあたしも足を止めたが下を向いている為、三浦くんの表情が読み取れない。
「三浦くん…?」
「……だね」
「え?」
声が小さくてよく聞き取れなかった。
一体どうしたと言うのか。
三浦くんのことはよく知ってる訳ではないが、こんな意味不明な行動をするような人ではない気がする。
もう一度三浦くんに声をかけようか悩んでいたらそれまで下を向いていた顔をあげ、バッチリ視線が合う。
その目は先程の優しげなものとは違い、どこか挑発的なものだった。
「嘘ばっかりだね」
口の端しを思いっきりつりあげ、声のトーンは少し下がったように聞こえる。
言葉の意味が理解出来なくあたしの思考は停止した。
誰…この人…。
そんなあたしの困惑した表情を読み取ったのか三浦くんは面白そうにフッと笑いあたしに目線が合うように少し屈んだ。
「君がずっと苦痛で仕方ないって思ってたこと知ってるよ」
「なっ…!」
「どうして他の奴は気がつかないんだろうね?こんなに嫌で嫌で堪らないって顔をしてるのに」
三浦くんはクスクスと面白そうに笑うが、一方のあたしときたら絶句だった。
あたしの今まで見てきた彼はこんな風に人の事を見下すような人ではないと思う。
今の彼は全くの別人みたいであたしはここでようやく頭が回り始めた。
「あんたって本当はすっごく性格悪いんだね。騙されたよ」
あたしの発言に少し意外そうに、だけど興味深そうに様子を伺ってくる。
その目の奥は恐ろしい程澄んでいて、子供みたいに綺麗なのに態度は子供とは比べ物にならないくらい悪かった。
「騙してるのはお互い様じゃない?君だってそんなあどけない顔して皆を騙してるんだから」
ムッとくる発言に眉間にシワがよる。
こんな奴に言い負かされたくないと言う無駄なプライドが沸々と湧き上がる。
「心外だね。あたしはあんたと違って人を小馬鹿にする態度は見せないね。」
お互い一歩も譲ったりはしない。
正に腹の探りあいだ。
三浦くんがフ、と笑うまできっとあたしは動かなかったと思う。
「生意気」
気づいたら背後には壁があって、あたしの背中はとん、とぶつかった。
決して自らぶつかった訳でもバランスを崩した訳でもなく心ならずもそうしなくてはならなかった。
何故なら正面からどんどん三浦くんが迫ってきているから。