11:Ut incepit fidelis sic permanet.
「心配かけてごめんね」
でもまぁ僕も、伊達にセネトレアの魔女の異名を名乗ってないよ。情報数術の恐ろしさってのを敵さんは全く理解してなかったわけだ。それは兄様だって変わらない。
目に見えるモノが真実ではない。僕の情報操作はそりゃあ天下一品さ。リーちゃんがかつて心臓を刺しても死ぬことがなかったのは、心臓だと認識した場所が心臓ではなかったから。そういう風に周りの数値が書き換えられていた。神様って奴にね。僕もそれと同じ。
人体っていうのは膨大な数字で構成されている。それには個人差があり、そのアバウトな数で上限下限でどこがどのパーツなのかを数術使いは認識する。情報を読み取ると言うことは真実を知ることだけれど、その情報が書き換えられて別物になっているということに、気づけない数術使いもまた多い。
というか数字こそが真実を思いこむ。実際、適当な視覚数術なんか数値のブレでばれてしまうことがある。アバウトな数にもそこそこ正確さは必要で、数術を行ったことを隠す数術というのは書き換えた数式を見えなくし、元の数値をそのままそこに表示すること。殆どの場合はそれで騙せるけど、それでも完全に消すことは出来ないから、多くを見ることが出来る数術使いにはそれが通用しないことも多い。もっとも相手も一応人間だから、疲れていると計算ミス、つまりはその違和感を見過ごすことがある。
数術使い同士の騙し合いって高等に見えて意外と低次元。疲れさせて脳への負担を増やしてやれば、どんな天才だって真実を見誤る。
(代償払った甲斐はあったってことかな)
見える奴ほど騙される。僕の体の情報は偽りのデータ。目だと言う場所は目ではなく、心臓だという場所に心臓はない。
だから目のように見える場所を壊されても僕の目は見える。心臓らしい所を刺されても僕は死なない。逆を言えばまったく急所でもない場所を攻撃されて、僕は失明したり即死してしまう可能性もあるわけで、絶対に安全なんてあり得ない。
目の位置を移動させたのは、兄様が目を狙っているという情報を得た時だ。体の中の脂肪と眼球の構成数を入れ替えて、僕は事なきを得た。
もっとも、幾ら目をこらしても、僕の脂肪は目に見える。それもそのはず。これは変身数術だ。視覚数術のように外見を変えるのではなく、本当に体のパーツを別物に書き換える。だから僕の脂肪は確かに眼球であり、僕の眼球は脂肪になっていた。勿論数値敵にもそれは真実。脂肪を抉られた時、僕に目はなく、僕は数術を扱えなかった。
だから蒼ちゃん……ハルシオンがしてくれたことは、決して無駄じゃない。
僕が再び変身数術を使って、両目を元ある場所に戻すことが出来たのは、彼がその目を僕に与えてくれたから。回復数術には精霊の力を借りたとしても、エーちゃんは他者掛けの変身数術なんて使えないし、情報を得る視覚がなければ変身数術のような大技僕にだって使えない。脳みそ沸騰するところだった。その目は触媒としての価値はなくとも、私を救ってくれたんだ。その感謝の念から私は片目の場所に彼の青い瞳を残すことにした。私のもう片方の目は触媒として私の中にある。だから数術の使用はこれまで同様行使できる。
「姫様……ご無事で何よりです」
ベルちゃんは涙ぐみ、僕に抱きついて離れない。それを引きはがす無粋な真似はしたくなかった。
「うん……ありがとう。ハルちゃんがいてくれたから僕は今、ここにいるんだ」
「……はい」
だから彼の分も彼になったつもりでこうしていたいと彼女は言う。そんなことを言われたら、余計に拒めない。
「それにしても……変身数術とは奇妙な数術ですね」
「まぁね、僕もおいそれと使えない技なんだよ。前にリーちゃん襲うために一時的に男体化したとかそういうことはこの際忘れて貰えると嬉しいな」
「そう言えばそんなこともしていましたね姫様。瑠璃……半年前にリフルが昏睡から目覚めた頃でしたか?」
「酔った時の若気の至りさ……」
すみませんおいそれと使ってました。僕ってば馬鹿だね。いやだって、リーちゃんが毒あるから女の子とは寝ないって言うから。僕が男の子だったらいいのかなとか思ったら意外と乗り気だったよねあれ。男同士なら毒殺しないで最後まで済むやり方もあるもんね。アスカ君さえいなければあそこで一線越えられて、僕がめでたくヒロインに……あれ?でもあの場合リーちゃんがあれだからリーちゃんがヒロインで僕が主人公になってたのかな?ってそれはどうでもいいよ!今はそんなこと思い出してる場合じゃなくてっ!
「とにかくだよ、変身数術っていうのは才能だけじゃカバー出来ない、相性が必要な高等特殊数術なんだ。僕の代替数術代償の睡眠時間じゃ割に合わない。同じ風に見かけを変えるだけなら視覚数術をやった方が軽い代償で同じ奇跡を起こせるからね」
それでも存在する以上、その式にも意味がある。だが、殆どの場合僕では割に合わない。
例えばだ。これが便利な術だとして、仮に眼球を奪われても他の物質から新たに眼球を作り出せばいい。そういう発想がなるかもしれない。しかしそれは出来ない。僕の扱う変身数術は完璧ではなく、優秀な数術使いである僕であっても僕は僕自身にしかこの数術を施せない。
そして、あらかじめ決まっているパーツを無限に増やすことは不可能。それは僕という人間にあらかじめ心臓は一つしか無く、眼球は二つしかないということになっているから。仮に僕に生まれつき見える目が三つあったり、機能している心臓が二つあったりするなら話は別だけど、生憎僕は五体満足で生まれてしまった。
ならば僕の体中に眼球を植え付ければ幾らでも復元できる?そうでもない。その全ての目に視神経をつなぐことが不可能だからだ。心臓も同じこと。仮にそれが出来たとしても、数値的に違和感が生じる。そうなれば、数術使いは騙されない。
だから僕の数術は置き換え変身数術。例えば女の子から男の子になるには、別の何かを変換させて置き換える。その置き換えに使うのに、最も無難なパーツが脂肪。つまり元々の僕は胸の脂肪を眼球に変換し、眼球を胸の脂肪に変換させていた。
だからオルクスが僕の眼球を奪いたかったなら、僕の胸をそぎ落として持って帰り、その脂肪の塊にかけられた変身数術を解いていく必要があった。勿論他者の体なんて未知の宇宙に等しい情報群。解読することなんか出来ない。限りなく目のような目である脂肪は触媒としては機能しない。だって本質が脂肪だし。
視覚的には誰もかも、僕の両目が奪われたと思っていただろうけど、そう見える現象全てが偽りだ。変身数術はある意味で、最高の視覚数術。詰まるところ兄様は僕の胸を眼球だと思って、えぐり取っていったと表現するのが正解だ。そりゃ痛いし僕だって泣くよね。知らなかったとはいえ妹の両胸脂肪奪っていくなんてかなりの変態だよね兄様。
「まぁ、胸の肉って言ってもリーちゃんとのケーキデートで太ってお腹に付いた分の脂肪を数術で胸に移動させた分の脂肪だから別にどうでもいいんだけどね」
「いえ、私は許せません。姫様の白魚のような絹の如き柔肌をに触れっ!あまつさええぐり取るなど許せないっ!あの男、必ず殺します」
「僕としてはベルちゃんが襲われた方が許せないんだけどね。女の子に無理矢理やるなんて兄様最低」
「姫様にそう言って頂けただけでもこのベルジュロネット、恐悦至極に存じます」
「責任取ってベルちゃんは僕がお嫁に貰ってあげるよ」
「……お戯れでも、光栄です姫様」
ベルちゃんの顔が真っ赤だ。こんなに近くで照れる彼女を見たのは初めてかも。触れられているから彼女の思考が読み取れて、少し僕も気恥ずかしい。
僕は知っている。ベルちゃんもハルちゃんも僕を慕ってくれている。それは恋愛感情でもあり主である僕への親愛であり、それを越えるような深い愛情なんだっていうのも解る。僕はそれを有り難いと思って、大切だと思いながら……振り向くことが出来ない。それを知って仕えてくれる彼女、仕えてくれた彼。
僕がリーちゃんとのことで、長らく今の関係に満足していたのは、絶対に報われなくても良いと思っていたのは二人の存在があったから。そんな中途半端さは誰に対しても失礼なんだって、教えてくれたのはフォース君。そのフォース君にも危険が迫っている。何としてでも僕はオルクスから情報を、治療法を奪わなければならない。
「さてと、面倒なことになったね」
そのはずなのに、まだ迷う。何を考えても頭が痛い。本当どうにかなりそうだ。
大体の状況は把握した。情報数術に優れていない相手の懐に潜り込めたのは僕にとっても好都合。そこは敵のアジトの一室。やってることは透視盗撮数術での観察。
状況を伺う私の傍。仕えてくれる鶸ちゃんこと鶸紅葉。本名だとベルジュロネット。兄様ことオルクスに一方的に惚れられていて、その不在を見計らい助け出したはいいけれど、問題はまだまだ山積みだ。
愛しの王子様の居場所を見つけたは良い。手薄になった西の仲間のために精霊を送り込んだのも良い。問題は敵がそれぞれ一筋縄では行かないこと。
第三公アルタニア公カルノッフェル。第五公ディスブルー公のお抱え医師オルクス。第一公ことセネトレア王直属商人組合下請負組織gimmick、混血狩り頭ヴァレスタ。三人とも足並みが揃わないのは、全員の目的が同じ所にないから。
だから敵のカードの消耗が酷い。
迷い鳥や西裏町には僕の監視ポイントが無数にあるし、僕の部下からの情報も届く。それでも手に入らない情報も多い。オルクスからの妨害もあり、今僕が繋げられ信頼できる回線は、精霊が憑いているフォース君と聖教会の神子様の加護があるロセッタさんくらい。
他の回線を機能させすぎると僕がバリバリ健在だって向こうにバレる。そんなわけでフォース君やロセッタさん自身との会話は行わない。向こうの情報を流して貰っているだけ。僕はそう簡単には死なない。だからそれを伝えた上でロセッタさんには、僕との回線に何かあったら情報だけ残して貰うように頼んでおいたし、エーちゃんともそう。緊急事態のみ僕がそれに応える形で了承して貰った。
その情報を見る限り、相手側のカードは二枚減った。素直に敵の戦力が減ったのは嬉しい。だけど敵とは言え、敵とは呼びたくない相手が倒れた。亡くなったのはリィナさん。それから洛叉さんの異母妹の埃沙さん。
(リーちゃん、傷つくよなぁ……)
絶対に気に病む。洛叉さんに身内殺しをさせてしまったこと。それからリィナさんとロイル君。蒼ちゃん……ハルシオンとのことが無ければ私だってあまり敵対したくなかった相手。ロイル君は異母兄弟の中でも私が憎めなかった初めての相手だ。二年前に一度、私は彼に助けられている。だから彼がハルちゃんを殺したのだと解っていても、完全には憎めない。唯、悔しい。泣いた私を殺さずに、見過ごし捕虜にしてここにつれて来たのも彼。ハルちゃんとのことに負い目を感じ、ベルちゃんとの再会をさせてくれたのだとも思う。私の部屋のカギを壊しておいてくれたのもきっと彼。
そんなロイル君が瀕死の状況というのは、私にとっても微妙な心境。腹違いとはいえ私は彼のお姉さんだから。
「うーん……いつかはこんな日が来るとは思っていたけど。アスカ君……」
そして私を悩ます点はもう一つ。ロイル君に重傷を負わせ、リィナさんを殺害した犯人。それがアスカ君だと言うこと。
二人は同業者でアスカ君とは親しい間柄。ロイル君とは悪友と呼んでも良い仲。普段のアスカ君ならまず、こんな酷いことをしでかすはずはない。例えリーちゃんが傷つけられたのだとしても、こんな状況をリーちゃんが望むはずがないと彼は知っている。だからそんなことはしない。
リィナさんに至っては毒殺。とてもじゃないけどフォロー出来ない。手が滑ったなんてレベルじゃないよ。
(ゼクヴェンツを、リーちゃんの毒をこんな風に使うなんて……)
悲しむと思わなかったの?リーちゃんは苦しむし悲しむ。自分をますます嫌いになるよ。リィナさんはリーちゃんの友達だ。同じ年で、自分の境遇を知っても変わらず優しく接してくれた彼女に救われた部分も大きいんだ。
それはディジットさんだって同じだけど、彼女のそれは母親の愛に近い温もりで、リーちゃんに友達と呼べる友達って殆ど居ないんだ。彼との友情は、邪眼でねじ曲げられる。ハルちゃんだってアスカ君だって邪眼で引き出された愛情とかがあるんだ。だから純粋に友達って言う友達って、リィナさん位。ある意味仲良しなロイル君とアスカ君の相方同士、通じるところもあったんじゃないかな。彼女は心の底からロイル君が大好きだから、リーちゃんに恋愛感情を抱かないし下心も抱かない。そういう距離感ってリーちゃんにとってはかけがえのないものの一つで。リィナさんと会えなくなってから、リーちゃんはリアさんと出会った。
無理に女の子と友達になりたかったのは、そういう繋がりを誰かに求めたかったから……なんじゃないかな。でもなれなかった。リーちゃんは、リアさんに恋愛感情を抱いてしまった。
だからこそ気付く。彼にとってリィナさんとの関係ってちょっと特殊である意味特別なもの。男女間で健全な友情を育める機会ってそうそうあるものじゃないよ。もしも二年前、リーちゃんの邪眼が暴走しなくて、リーちゃんがアスカ君とコンビを組んで請負組織をやれていたなら……二人はもっと仲の良い友達になれていた。敵対してからも別に、二人は互いを忌み嫌ったりしていないし、お互い世話になったりしたこともあった。
そう、エルム君とヴァレスタ兄様の件さえ片付けば、なんとかなる。誰もがそう考えていた。僕だってハルちゃんが生きていれば四の五の言わずに頷いた。だけど……向こうもそれは無理になった。
「アスカ君……」
「……あれを、あの男がやったのですか?相手はコートカードだというのに」
ベルちゃんの疑問はもっともだ。僕だってロセッタさんから教会の知る裏ルールを聞くまでは解らなかったこと。
「数値破りの覚悟があるならやってやれないことはないよ。それにまだ、ロイル君は死んでいない。だからアスカ君はまだセーフ」
それは願いを叶える権利を放棄すること。ルール違反を犯すこと。ルール上、殺してはならない相手を殺すこと。それは自分以外の誰かを生き残らせ願いを叶えさせるため、汚れ役になる覚悟の行動。天に唾吐き悪魔を讃えるその行為。仮にその行動の先に生き延びても神はその人の願いを叶えてはくれない。
「……ハルちゃんはⅩ。ロイル君はJ。カードの差は1だった。ハルちゃんは命と引き替えにロイル君の幸福値を削ってくれたんだ。Ⅸのアスカ君でも殺せるレベルまで」
僕の胸元に挿した、彼の青いリボンの髪飾り。その真っ青な色が唯悲しい。それを見つめる僕に、ベルちゃんはもう一度僕の……私の背を優しく抱く。慰めてくれているのだろう。彼女にとって彼は半身、互いが自分自身のような者。二人は同じ気持ちで私に仕えてくれていた。だから私は今、彼に彼女に抱きしめられている。彼女はそのつもりで私に触れる。彼女だけの思いでベルちゃんがこんな風に私に触れることはないから。その優しさが今は苦しく痛い。私は笑って彼女の腕から抜け出した。
「アスカ君は、元々……かなり危険人物なんだ。なんて言ってもリーちゃんが殺される場面で彼に惚れたくらいだ」
綺麗とか可愛いとかで惚れたんじゃなくて、その美しい人が理不尽に殺される様に興奮したとんでもない変態野郎。
再会したリーちゃんを理想の女だと思ってる節があって、触れたいとか抱きたいとか孕ませたいとか家庭を築きたいだとか子供はリーちゃんそっくりの可愛い女の子が欲しいけどその子にお父さんと私の下着一緒に洗って干さないでとか言われたくないとかそういう欲求もある。うわ、言ってて気持ち悪いよあの男。それどう考えても異父弟兼主様に対する気持ちと違うよね。
そんなこんなで想像と理想で塗り固めた最愛の人。そこからリーちゃんが外れるだけで不快な気持ちになる。隙あらば昔のような死体になって、自分だけの人形で居て欲しいとすら思ってる。
「だけど本人はそういう危ない気持ちを常識で蓋をしている。どっからどう見ても彼はリーちゃんに惚れているのに、アスカ君がそれを認めようとしないのはその所為だ」
二年前、リーちゃんの記憶を見せるため……シンクロしたアスカ君の深層心理に触れて、吐くかと思ったよ僕は。さっさと退散したのはその所為でもあった。我慢したけど本部に戻ってから吐いた。だけど彼の本性を知れば、むしろ彼の普段通りが薄気味悪く思えてくる。
彼の抱える矛盾は業深い。守りたいけど奪いたい。崇めたいけど犯したい。幸せを望みながら不幸にしたい。生きていて欲しいのに殺したい。その醜悪なまでの独占欲と執着が、彼の中には棲んでいる。
君がどんなに醜い人間であっても彼は君を拒絶しない。嫌いにならない。受け入れてくれる。許して愛してくれる。それが恋愛感情ではなくとも、君を優しく抱きしめてくれるだろうよ。彼はそういう自己犠牲に慣れているから。大切な人の幸せを本当に心から願うことが出来る人だから。確かに人としては君は彼に誰より深く愛されてるよ。それが君の望むものではなくとも一番であることは僕から見ても丸わかり。だけど君は彼にそういう奴隷みたいな真似させたくないって格好付けて、せっかくのチャンスを棒に振る。獣みたいな欲だらけの癖に、王子様面するから救えない。
いっそ素直になってしまえ。何もかもさらけ出せ。認めてしまえと僕はそれなりに言って聞かせて来たつもり。僕は常々思ってた。それをひた隠しにすることで、いつか取り返しの付かないことが起きてしまうような気がした。だけど彼はそれを拒んだ。自分の醜い心を否定して、綺麗だと崇める崇高な人に釣り合う自分を求めてしまった。それは彼の歪みをここまで強めてしまったのだ。
せめてリーちゃんが女の子だったら、アスカ君ももっと自分に素直になれたのに。禁忌が近親相姦くらいだったらアスカ君も軽々と飛び越えるさ。そこにやれ親の仇だのやれ主従関係だのやれ邪眼だのやれ同性だのてんやわんや。これだけ並ぶと自分が常識人だと思ってるアスカ君のキャパシティ的にもうオーバー。言い訳脳内会議の言い訳祭りの言い訳大会、言い訳博覧会になる。
百歩譲って自分の気持ちを彼が受け入れたとしても、彼は何も出来ない。リーちゃんが自分と同じ気持ちで自分を好いてくれないことに気付いてるんだ。貪欲な彼は心まで欲しがる。その浅ましさこそ邪眼の生み出す欲に似ている。だからリーちゃんはアスカ君にはそういう風には近づかないんだ。
「姫様……それはおかしくありませんか?」
「え?」
不意にベルちゃんが私に問う。
「そのようなことならば、以前からこのようになっていてもおかしくはないはず。何故あの男は今になってここまで狂ったのです?」
「それはリーちゃんの目が刳り抜かれたから?」
「リフルの死に様に欲情するような変態がですか?」
「造形美が損なわれることに対する怒り?」
「それはあの男が、生きているリフルを思う心もあるからなのでは?」
「うん、まぁそれはそうだろうね。彼ブラコンだしマザコンだし、家族としてとか主従関係としてもリーちゃん大好きだし……」
生きている彼を望む気持ちは、健全な忠誠であり家族愛。死んでいる彼を求める気持ちは、不健全な恋愛感情?後者を否定したいがために彼はリーちゃんを守りたいし死なせたくない。自分に義務を課している。大切なのは確かだから傷つけないように、自分自身から大切な人を守ろうとしていた。自分こそが最も危険な存在であると彼は知っていたんだ。
「アスカ君は、リーちゃんの首を絞めたことがある。その記憶に僕も触れたけど、あれは無意識的なものだった。本当の彼の愛情表現は、とても歪んだものなのかも」
「姫様……それは?」
「アスカ君の怖いところは僕らも知ってる。そうでしょ?」
彼はなんだかんだでお人好し。分け隔て無く投げやりでそこそこきつく、それでも優しい。そう見えて、リーちゃんのためなら容赦ない。相手が女子供だって始末する。
あれでも彼も男だし、どちらかといえば女の子には親切で、男には風当たりが強い。それを装いつつも他人に対しかなりドライだ。唯一ウェットなのがご主人様であるリーちゃん関連と、幼なじみのディジットさんに対する対応だけ。そのディジットさんへの甘えもリーちゃんへの気持ちの代替だ。健全な自分を信じたいがために、家族のように思っている彼女への親しみを恋愛感情だと言い聞かせる。それが見え見えだから彼女には相手にもされない。その二人の例外を除き、アスカ君は誰の敵にもなれる。それを突き詰めた結果が今回のこれ。そしてアスカ君は、思うところはあってもリーちゃんのためならディジットさんさえ斬れるだろう。
「騎士道精神なんか糞食らえっていうのが彼の怖いところ。彼は吹っ切れれば、道徳とかそう言った物を簡単に逸脱してしまえる」
僕の言葉にベルちゃんは黙り込む。二年前からそうだ。アスカ君はこんなに可愛い僕にだって剣を向けるし、女の身のベルちゃん相手でも手加減なしの卑怯戦法。半年前はリリーという少女を殺した。彼なら殺さずとも止められた。それでも今後も同じことが繰り返されることを懸念して、早急にその芽を摘んだ。それまで殺人を禁忌としてきたはずの彼が、リーちゃんに会いたいがため、東に荷担することさえよしとした。
「彼はリーちゃんのためなら幾らでも冷酷になれる。そのくらい彼のリーちゃんへの執着は深いものがある。そいつは唯の愛じゃない」
それならばこの映像も確かに嘘ではないだろう。彼はこういうことをやってしまえる人間だ。
「ではあの男はリフルを何と?」
「憎んでいるのさ」
「憎む……ですか?」
「ああ、そうさ。守りたいっていう気持ちは愛は愛でもアガペー的な無償の愛。保護欲と言っても良い。だけど殺したいって言うのはそうじゃない」
殺意にも様々な種類が在るけど、殺したいって言うのは求める心。愛と同じくらい深い感情。それをイコールで結びつけるなら憎しみもまた愛情の一つ。
殺したいと思わない相手はそう思わないでも殺せるだろう?だからそう思うと言うことに意味がある。オルクスがベルちゃんを苛めるのはそういうこと。憎んで愛して欲しいんだ。無関心が一番恋する人間には辛いことだから……
(なんて、とてもじゃないけど言えないよ)
兄の不祥事に当てられた僕の従者を思うに、それは言えないことだった。僕はベルちゃんに目をやって、小さくため息。
「姫様?」
「ううん、なんでもない」
その理論だとベルちゃんと兄様は相思相愛にされてしまうからね。あそこまでされて憎まないってのは女の子としてまず無理だ。そりゃ殺したいくらい余裕で思うよ。だからこれは時と場合と人による、という前提がある。
「彼は何らかの事態により、心の均衡を見失っていた。それもごく最近。リーちゃんの目はそれを曝いた一因に過ぎない」
今の彼は鞘を無くした刃だ。斬れ過ぎる兇器。リーちゃんが一度離れたのが解る。離れず傍に置いたのが解る。彼はこれを恐れていたんだ。
「その何らかの事態とは……」
「アスカ君、たぶん自覚したんだよ。自分の好きはそういう好きだって。問い詰めたって絶対に認めないだろうけど」
自分の心根が腐り、醜く、汚れたものであることを知ってしまった。心の中に巣くう聖域、神のような人を思う崇拝のような愛が、低俗で欲まみれの下賤で下衆な感情に過ぎないと思い知る出来事があった。それを邪眼の所為だと逃げることが出来ないほどに、打ちのめされたんだ、彼は。
「その自覚の結果、リーちゃんの死を望む気持ちは他者の死を望む気持ちに変わった。今の彼は味方だって斬りかねない」
「何故……あの男は」
「敵わないと思ったんだよ。リーちゃんが好きなのは、自分と違う場所に居るタイプの子」
僕だって彼を見てきた。だから解る。暗い夜の中で傍で自分を支える相手より、遠くで日の光を浴びているような、そんな輝きに魅せられる。
彼がこれまで惚れたのは、何も知らないお嬢様、殺人なんかとは無縁の世界を生きる画家、そして正義を愛した聖十字。それは憧れとか羨望に似た愛だ。決して隣にいられない、そんな相手ばかりに恋をする。報われないと知っていて、それでも好きになってしまうのが、彼の可哀相なところ。
傍で自分を慕う相手が居ても、恋愛感情は抱けない。自分が汚れていると知っている。そういう引け目があるんだ。だから同じ傷をなめ合うことを由とせず、自分を慕いそこまで降りて来られると申し訳ない気持ちで一杯になり、そういう好きにはとてもなれない。
それでも僕は傍にいることで何か変わることがあると信じているけれど、アスカ君はそうそうに諦めてしまった。彼は僕ほど頭の柔軟性がないのだ。
「情報によると、ラハイア君が死んだ。リーちゃんの大好きだった子だ」
「あの聖十字が?」
「多分そのことで何かしちゃったんだよアスカ君は。それでリーちゃんに嫌われたと思った。馬鹿だよね、本当」
さて、どうしたもんかな。今のアスカ君なら僕らですら殺しかねない。Ⅸは僕らより強いカード。ちょっと向こうの頭が冷えるまで、お相手は御免被りたいね。
なら、今はどうする?画面の中。カード達は別れていく。
(ロイル君が目覚めたら、大変なことになる。彼はコートカードだ)
これまではアスカ君と戦いたいってだけのお遊びだったかもしれない。それでもリィナさんが殺されたと知れば……彼は本気で殺しに来るよ。そうなれば危ないのはリーちゃんだ。自分の最愛の人が殺されたなら、相手の最愛の人を殺さなければフェアじゃない。ロイル君ならそう考える。
(リーちゃんの幸福値が今どのくらい残っているかは解らないけど、キング相手に色々やられたんだ。無傷とは言えないはず)
幸運の差は勝っていてもリアルラックはリーちゃんのが下。本気で襲われたら勝機は危うい。数値破りを使われたら……
「ベルちゃん、作戦変更だ。オルクスの本体を探す前に、ロイル君を殺さなきゃ駄目になった」
「お言葉ですが……あの男を、捨て置くのは危険です」
ベルちゃんの言い分はもっとも。確かに当面の驚異はオルクス。僕らが今行動しているのもそのため。
ハルちゃんの体は僕が調べた。それにリアさんとカルノッフェルの例からの推測。
それからオルクスに操られた子供と、エリス君の脳派。それをロセッタさんが教会兵器でスキャンした数値を全て、僕の脳内共同データベースに転送して貰った結果、解析できた答えがある。オルクスが他者を操るあの数術。それは二種類、三種類。
一つはあらかじめその脳を弄るか、洗脳装置を植え付けて、遠隔操作で操る。これがリアさんや迷い鳥の子供の例。ハルちゃんの目はその応用。だけど脳を弄る時間が無くて監視装置止まりだった。
二つ目は脳を改造、設定した場面状況キーワード。その条件下で設定した行動を行わせる。これがカルノッフェルの例。彼が狂気に取り憑かれたのはマリアという名前がキーワード。その名を聞けば殺人衝動に駆られるようにおそらく彼は脳を弄られた。名前狩りは仕組まれていた計画だったんだ。
そして三つ目が自分自身の脳波を相手に送ること。これがエリス君の例。もっと前のことを言えば、エルフェンバインが生み出した式がこれに近い。あの数術学者がウィルという少年を乗っ取ったのはこれの行き過ぎた版。オルクスは相手の精神を殺さずに行き来することが出来たけど、彼の場合は情報負荷で相手を殺めてしまった。
一つ目と三つ目の明確な違いは距離。一つ目の遠隔操作は相手の体の一部を手元に置くかことで、距離は関係なしに支配下に置くことが出来る。
エリス君の例は三つ目だと言ったけれど、これにも一応穴がある。彼を追ってオルクスが第一島まで来たことがその証拠。三つ目の数式は同じ島内が限界なのだ。更に二つの式にはもう一つ差がある。
迷い鳥での一戦。洛叉さんと埃沙さんの戦い。オルクスが助太刀をしなかったのは、出来なかったから。だから傀儡だった子供をその場に置き去った。
これまで何の武器も持っていなかったエリス君。オルクスが彼に使わせたのは、リーちゃんの体液を解析して作られた毒薬。それはオルクスが作った物であり、リーちゃんがオルクスに捕らえられてから……その後エリス君はオルクスと出会していない。だからそれを受け取ることが出来るはずがない。だから彼があらかじめ毒物を持っていたとは思えない。となると残るは空間転送。座標のはっきりしない場所にそれを送ることは不可能。となればまずはエリス君に憑依。後に空間転送で毒だけをエリス君に受け取らせる。
ここから推測するに三つ目の憑依式は、オルクスがその体を乗っ取ることで、数術の才能がない人間ですら、それを扱えるようになると言う利点がある。
それでも勿論良いこと尽くしではない。通常人は同時に二つの意識を保つことは出来ないのだ。だからエリス君が乗っ取られている時、オルクス本体の意識は無い。寝首をかくには絶好の機会。
そして、だ。一、二、三と見てきたけれど、その全て。憑依対象の座標は常に情報としてオルクスに届いていると見て間違いない。それを匿うこと自体、危険なことなのだ。
「カルノッフェルは発信装置。オルクスにヴァレスタの企みはバレている。勿論カルノッフェルの企みも」
「……となればやはり、先にオルクスを討つのが先手でしょう」
「だけど万が一、数値破りをロイル君に気付かれれば、大変なことになる」
そうなれば、リーちゃんが殺される。死んでしまう。ハルちゃんみたいに、殺される。
泣きそうになる私をベルちゃんは突き放す。彼女は私に言う。貴女は何ですかと問いた。
「……姫様。リフルは貴女に何を望みましたか?身分を無くしても王女であってくれと、二年前彼は貴女に言いませんでしたか?」
「……そうだね」
思い出していた。二年前の彼。
仲間にならないなら殺すと脅した私と敵対し、それでも共存の道を示した。手を伸ばし、賭を考案。それに破れた私が彼に魅入られた。利用するはずの駒だった。その駒に心を奪われた。
それまで男としてなんか見ていなかったのに、簡単に好きになった。
彼は女の子のような姿をしていたけれど、その心は立派な王だった。彼は私を守ってくれると言った。国のために私のために、幾らでも殺してくれると言った。だから私に王女であって欲しいと彼は言った。民を守るための存在であってくれと。
「あの男の身の上では……彼と貴女が結ばれることは無いかもしれない。それでも貴女が王女であろうとする限り、貴女は誰よりあの男にふさわしい!隣に立つべきお方です!あの男の伴侶は貴女以外にあり得ないっ!それをリフルも知っている!知っているはずです我が姫、セネトレイア様!」
「ベルちゃん……」
どんな女も彼にはふさわしくない。だって所詮は庶民の娘。
王族などではない。身分を失って尚、貴女はまだ王女でいらっしゃる。今尚光り輝いく存在であるのだと、彼女は私に言い聞かせる。傲慢でよい。その誇りが守るための強さなのだ。我が物顔で物にしろ。その権利がある。隣並ぶ資格があるのだと、彼女は私に強く説く。
「あのシャトランジアの王子など知るものか。所詮は男。姫様には及びませぬ。先天性混血同士、二人並んでこそ絵になるのです。あの男ならばお美しい姫様とも釣り合いが取れましょう」
「僕を褒めすぎだよベルジュロネット。片割れ殺しのリーちゃんの方がずっと綺麗だ」
「いいえ、世界一美しいのは姫様。貴女様以外にあり得ません。今日まで組織を守り街を守り、尽力して来た貴女様の苦労。その苦労にあの男が及ぶはずもありません!だから貴女が美しいっ!貴女の守った平和こそ、貴女を語る美しさなのですっ!それは壊すだけのあの男には、決して作れない!だからこそっ!貴女が彼の伴侶なのです!」
同じ歴史の裏側。表舞台から葬られたような人間。華やかな王宮で暮らすことも出来ない。裏町の破落戸。そんな日陰者同士。夜の闇を生きる二人にも、光と影はあるのだと彼女は私に教える。
「姫様、貴女はあの夜空に浮かぶ美しい月。あの男はその月光が生み出す暗き影。貴女が居るからこそ、あの男はそこにある」
「でも彼が欲しいのは真昼の月。綺麗でまぶしい太陽だ」
「しかし太陽は墜とされた。違いますか?」
太陽がない今、貴女が月になれ。正義を示せ。それこそが、あの男の心を手に入れる唯一の術。
だけどそんな風に言われてしまったら、私は動けない。私は醜く浅ましい。彼の心を手に入れるため、国を民を思う振りをするなんて。それこそ全てを馬鹿にしている。そう思ってしまうのだ。
「貴女がここであの男を助けるためだけに動くのなら、あの男は貴女に失望する。他の月を探しに夜の闇の彼方まであの男は歩くでしょう。そうなれば貴女は永遠にあの男の伴侶たる資格を失うのです姫」
愚かな恋のために、永遠の愛を失うか。どちらが貴女の幸せなのだと彼女は私に問いかける。前者は愛するための愛。後者は彼に愛されるための愛。真実の愛とは何かと私は尋ねられている。
「……ベルちゃん。僕はさ、もし今度生まれ変われるなら……今度は普通の平民にでも生まれたいよ」
「姫様?」
「重い物を背負わずに、適当ののらりくらりって生きて、友達作ってお茶したり、好きな子といちゃついたりして暮らすわけ。今にして思うと、幸せってその程度のことなんだよ、本当はさ」
幸せなんて最初からあった。私には仕えてくれる大事な友達が、家族が二人もいた。リーちゃんと二人でセネトレアのために奔走している時間はとても満ち足りていた。僕が生きていられること。大好きな人が生きていてくれること。幸せってそういうこと。
死にたくないって僕の願いは二年前から変わっていた。僕の願いは、死なせたくない。それから笑っていて欲しい。
僕が好きな人が辛い思いで生きているより、あの人が笑って死ねるように、僕はいつだって彼を幸せにしてあげたい。それは僕が彼を助けることじゃなく、僕が王女様らしく、生きて生きて、死ぬことだ。
僕が守りたい物は彼一人なんて狭い物?ううん、違う。違うからこそ僕は苦しい。ハルちゃんの死に泣いて、ロイル君との敵対が胸を刺すんだ。僕はそれが嬉しいよ。僕は邪眼だけで彼が好きなんじゃない。僕の視野は他をも見ている。僕は僕だ。それでいて、その上で彼が好き。それが解る今はとても幸せで……だからこそ、誰かを幸せにしてあげたい。そう思える。この余裕が、僕の王女の証なんじゃないかな。僕は笑って顔を上げた。人間みんないつか死ぬんだ。知ってる。悔しいけどそういうことだ。
「だけど何の因果か、今回の僕はセネトレアの王女様に生まれてしまったわけだ」
死ぬまでそれは逃れられないことなんだ。唯の娘なんかに僕はなれない。身分を無くしても僕の心は常に気高く在らねばならない。
「作戦は変えないよ、ベルジュロネット。私はこれから兄さ……オルクスを殺しに行く。着いて来てくれるね」
「ご命令とあらば、天上まででも奈落でも」
微笑むベルちゃんは、僕の手の甲に口付ける。その接触により伝わってくる彼女の一説。それはオルクスの言動、監視の広さ……物質の空間転移の謎もカバーできる。そうか、その発想はなかった。その考えで洗い直してみるならば、見つかる。あの男の隙は絶対に!僕も意を決し、彼女にむかって微笑んだ。
「よろしく頼んだ」
「はい、我が姫、我が最高の主」
*
リフルは見る。何気ない風景の中、悲しい対比がある。一番最初の人形が見せた記憶に似ているそれは、双子の姿。
明るく感受性豊かな姉と、影を背負い遠くを見ている弟。2人の容姿は一致はしない。よくある混血達のように、髪の色も目の色も同一ではない。
片割れ同士の髪の色と目の色の反転。それは希少性の一つ。唯一同じ場所は2人の瞳に浮かぶスター効果。それもまた希少価値へと繋がる。
常に比較されながら生きる彼を私は哀れんだ。絶対に勝てない相手の傍にいることは苦しい。それでも彼女も悩みなく生きているわけではない。
「!んゃちムルエ!き好大」
実の弟に恋愛感情を抱くというのはどういう感じなのだろう。幼い彼女には、それがいけないことだという概念はなかった。それを禁じる法律や常識ほど、煩わしい物はない。それでも幼い彼女はこのセネトレアという国の在り方を理解していて、法も常識も意味を成さないことを知っていた。エルムさえ頷けば、この世界で2人の関係は完結してしまう。
エルムはこの狂った国にありながら、限りなく常識人だった。彼はある意味で誰より正しく、十年と少しで得た常識という概念に縛られていて、姉の好意を煩わしく思っていた。
他に好きな相手がいたら、尚更だろう。彼女がいる所為で、その人が自分を見てくれないのなら……彼女からの好意には憎しみをもって返すしかない。
それでもエルムはその憎しみを解き放つまで、十三年もの時を費やした。
記憶の中で泣く少年。それは私の知らない景色。死を望む彼に、銀髪の男……ヴァレスタが熱い言葉を注ぎ込む。あの済ました顔の男が必死になる様……それが私以外に向いたのを、私は初めて見ている。
彼に強く必要とされて、生きる気力を取り戻していくエルムの姿……それを見守ってやれたらどんなに良いか。それでも仕える相手はあのヴァレスタだ。酷い命令をされている。
混血でありながら、混血殺しを強いられている。その外見を生かし混血の中に潜り込み、混血を殺す。
最初の仕事だろうか?彼の手が震えている。終わった後はぼんやりと虚ろな眼差しで空を見る。そしてとぼとぼと帰路に着く。
「たっやくよ」
犬にしては上出来だ。男は笑い、少年の赤毛の髪を優しく撫でる。
仕事を繰り返す内に、エルムは笑顔を取り戻す。人を殺した後に笑うのだ。またあの人に褒めて貰える。頭を撫でて貰える。
たったそれだけのこと!あの子が望んでいるのは、そんなちっぽけなこと!飢えているんだ、愛情に。ほんの一言の優しさと他者との触れ合い。それがあの子の存在証明になっているんだ。
些細なミスで暴力を振られたり、八つ当たりで虐待されても彼の口元は嬉しそうに笑む。構って貰える。自分のために、同じ時間を共有して貰える。それが嬉しい。どんなことをされてもそれは至福なのだと、そんな風になるまでどうしてあいつ以外の誰も……彼の飢えに気付いてやれなかったのか。
人は他者にランクを付ける。みんな同じように好きということはない。好きにも様々な意味があるし、思いの強さも異なる物だ。彼が望んだのは一番。だけど、アルムからの一番は要らない。
他者からの一番。血も繋がっていない、赤の他人。別の存在だと認識できる相手。そういう者から強く求められたい。自己愛の延長にしか思えない愛ではなく、自分という存在を認めた上で求めて欲しい。あれはそういう気持ちなのだ。
あの男には一番など無い。その頂点に自分を置く。それ以外の相手など皆等しくゴミだ。そう顔に書いてある。皮肉なことに、よりにもよってその傲慢さがエルムの孤独を癒してしまった。
それに対抗するに私が彼を世界の誰よりも彼を大事だと心の底から思えるか、それかあの男以上に傲慢になり見下してやるか。そのどちらも出来ない私には、エルムは救えない。
西の町を守るということは、彼と戦うことだ。今の彼の幸せを真正面から壊しに行くこと。そう思うと、私は何のために戦っていたのか解らなくなる。
混血を守りたかった。
だけど純血にだっていい人はいる。悲しい身分の人もいる。混血だけを助けることは不平等だ。だから私は奴隷ならばどの人種でも助けることにした。それを見捨てる理由にしたくなかった。
私は、数の選択を迫られていたんだ。西裏町には大勢の混血、奴隷がいる。その中には私を疎ましく思っている人もいるけれど、私は彼らを救わなければならない。
そのためには知人であるロイルやリィナと戦い、歪とはいえようやく幸せを手に入れたエルムを傷付けなければならない。彼を見逃しても、ヴァレスタを殺せば……それで彼が不幸になることは決定づけられる。そうなれば彼は私を強く憎むだろう。
歪な幸せ。私も知ってる。
あのおかしな屋敷での生活も、私は幸せだと思えていたんだ。お嬢様の笑顔が見られるだけで、本当に幸せだったんだ。傍にいられるだけで心が安らぐ。遠くから見ているだけでもそう。嫌なことも何もかも忘れて、胸が満たされていく。おかしな話だ。第三者から見れば、私が狂ってるように見えるだろうな。或いは誰かは私を可哀想とか、不幸だとか言うかも知れない。それでも確かにあの瞬間、私は幸せだったのだ。
私が不幸だと思ったことは、お嬢様を守りきれず、死なせてしまったこと。私の毒と邪眼がなければ、あの幸せは続いていたんだ。そう思うとやりきれない。それだけ。他のことはもう割り切っていた。そんなことを言えば、きっとアスカは怒るだろうけど……自分を大切にしろだとか、慎みを持てだとか……
(アス……カ?)
その人の名に、私は我に返る。血だまりに浮かんでいた人形は消えていた。食事を終えたらしい五体の人形……いや、もっと少ない。
毒は向こうのテーブルにも盛られていたのか。更に二体が消えていて、小さなテーブルにも血だまりがあった。残り三体だけの骨人形。小さな腕を伸ばして輪を作り、先を急ごうと私の周りと取り囲んでいる。
彼らはぐるぐると輪になって私を囃し立てるのだけれど、胸がざわつく。先程感じたような未練などではない。そんな言葉では言い表せないような強い強迫観念が込み上げるのだ。彼の名前を思う度……不思議なことだけれども。
(もしも……)
もしも命が二つあったなら、私は一度死んでみたい。それで彼を見守る。
私が死んで本当に後を追いそうなら、慌ててもう一つの命を使って生き返り止める。だけど、もし仮に……落ち込んでも誰かに励まされ、生きていくことを望めるのなら……私はそのままひっそりと息を引き取ろう。埋められるか焼かれるがまま、予備の命も消費してしまうのだ。そういう風に、心配……してやれなくなるというのは、死というものの不便利さ。
「私には、騎士というものの気持ちが解らないな……」
一緒に死んで貰って、何が嬉しいのだろう。何が楽しいのだろう。そんな風に命を人生を丸ごと私に背負い込ませて、愉快なのか?そうさせたのが私の目。それを言ってしまえばお終いだけれど……
(だったら尚更……やはり私は死ぬべきだ)
私は椅子から腰を上げ、小屋の外へと向かい……次第に大きくなって来た塔の姿を捉えるのだ。
生きていてはいけない人間はいる。死ななければならない人間は、確かにいる。確かにそうだ、ここに一人。
*
アスカが目を開くと、辺りはすっかり薄暗い。見れば生い茂った林の中だ。戦っていた場所からは離れた場所のよう。
朝から戦っていたはずなのに、もう夜だ。昼頃から記憶が飛んでいる。向こうから騒ぎが聞こえて油断した。その一瞬に斬られた。それで負けを覚悟した。そこまでは覚えている。
「気が付いたか?」
「げ、洛叉」
「起きて早々悪態付けるとはあのまま捨て置いても良かったな」
闇医者とモニカに手当をされたのか、大きな外傷は斬られた腹くらい。そこはまだ完治していないのかじわじわと血が滲む。
「……俺、また意識飛ばしてたのか。近くにロイル落ちてなかったか?」
「いや、近場に大きな血溜まりが一つあったが姿はなかった。足跡を見るに逃げ出したのだろう」
となるとまたドロー。引き分けって事か。以前以上にお互い深手を負ったのは間違いない。
(本気でやって、この様かよ)
情けないことこの上ないが、目的は……あれ?
「お前、こんな所で何してるんだよ。お前が俺を助けるなんて柄にねぇことしやがって」
「……貴様の回復数術が必要だ」
「……お前もあれ、知ったって事か……そうだ!リフルの目っ!」
懐を探ってみる。良かったちゃんとある。
(ロイルの野郎……)
何が俺が勝てば、だ。戦えば……が条件だったんじゃねぇか。心の中で悪友に悪態吐きながら、アスカは空を見上げる。余計戦いにくい理由ばっか作りやがって。
溜息ながら、向こうの怪我の度合いはどうだろうと血溜まりを見る。致死量とまではいかないだろうが、俺を黙らせるに足る物がそこにはあった。
「……これ」
「眼球だな。それも黒。タロック人の眼球だ」
それは片方だけ落ちている。ぞっとした。誰がこんなことを。そう思って見る俺の得物と俺の手足は、不気味なほどに暗い色。
「モニカ…?見てた……んだよな?」
《見ていられなかったわ》
俺から少し距離を取って佇む風の精霊。その反応が全てを物語る。俺がこれをやったのだ。
《リフルちゃんの居場所を吐かないなら、同じ目に遭わせてやるって……アスカニオスがあの子の目を抉ったの》
「……」
《もう片方って所で、エルムってあの混血の子が助けに入った。それで戦線離脱。アスカニオスもそれを追う体力残って無くて、ここでダウン》
悪い夢でも見ているようだ。自分で自分が解らない。何でこんなことをしてしまったのか。
記憶がある限りでは、俺はロイルに感謝してたはずだ。勝負を楽しむ心もあったはず。それなのに、どうして?
《アスカニオス……諦めなさい。過去は変えられないわ》
「過去は、変えられない……」
変えられるとしたら、それはこの審判の勝者くらいなものだろう。そうだ、普通は過去を変えるなんて出来ない。
《あの子は貴方を深く憎むと思う。急ぎなさいアスカ。次に会う時に彼は同じ人間であるとは限らない》
「あいつが、リフルに何かするって言うのか?」
《ええ。だから急ぎなさい。貴方は彼の逆鱗に触れてしまったのだから》
モニカが強い口調で俺に語りかけてくる。俺がそれに押されて頷けば、鼻をつまみながらも彼女は俺の肩まで近づく。
「今まで治療掛かったのか?」
急ぐも何も今は何時?状況を知っていそうな洛叉に俺は尋ねる。ここから西裏町まで山道ならば4、5時間。地下道ならば1、2時間。だがこの辺りの地下道は知らない。一度迷い鳥に戻るっていうのも危険そうだ。崩れた家屋で道が閉ざされているかもしれない。
なら山道?全力疾走なら3時間くらいでいけるか?だがそこから東裏町の隅から隅まで探すには、時間が幾らあっても足りない。
「なぁ」
「埃沙ならば彼らと合流はしない。そこに蹄の跡がある。もっともエルムに馬を操れるかは解らない。ひとまず落ち着けるところまで行ってロイルの回復が妥当。先に東に行くことは十分可能だ」
「でも」
「エルムは数術に触れてまだ浅い」
「確かに第二島では使わなかったみたいだが……お前の妹は似たような年なのに使えてただろ」
「エルムは迫害を前に拾われた。迫害の度合いも浅い。埃沙やウィルのように空間転移に特化した様子もない。空間転移までマスターしていないだろう。混血が数術を生み出すのは必要に駆られてのことだからな」
才能はあっても子供だと洛叉は言う。一番最初の命の危機に数術を覚える混血が多い。そこで覚えられなければ死ぬ。だがそれを潜り抜けた後は、自分自身の学習によって数術の幅を増やしていくのだと言う。混血と数術の研究を続けていた男が言う以上、説得力はある。
「じゃあ……まだ間に合うってことか」
「貴様がいつ倒れたかは知らんが、治療は夕暮れには終わった。それでも貴様が目覚めんので、近くの薬草で気付け薬を作り鼻から注ぎ込むこと30分。ようやく貴様が目を覚ました」
「何やってんのお前っ!!」
「仕方なかろう。毒薬ばかりしか水分は持ち合わせていなかった。口移しなど吐き気がする、生理的に無理。仮に貴様がリフル様にそういうことをされていたなら、間接との解釈で小一時間悩んだだろうがそれも情報として存在しない以上仕方のないことだ」
「よしわかった。てめぇが今度ぶっ倒れたら耳の穴からか目からか気付け薬ぶっ込んでやる」
「そんなことよりさっさと東へ行くぞ。もう片目の回収はロセッタに任せ、我々はリフル様の救出に向かう。馬を探すよりも空間転移の方が早い」
「おい、簡単に言ってくれるけどな!空間転移なんて大技、よっぽど修行積んだ天才か、混血じゃないと無理だっての!純血がそんなことやろうもんなら脳がいかれちまう。今から東に向かうなんて……無茶だ」
俺を脳死させるつもりか。モニカに計算肩代わりして貰ったって上手く行くかどうかわからない。死ねってか?俺が文句を言う間に、闇医者は数式を展開。その膨大な数式の量に俺は絶句。お前がやるのかよ。
(こいつ、これを計算してやがるのか!?)
こんなの普通の人間がやったら脳がいかれる!脳死確定だ!
心配しながら奴を見れば、楽しそうに笑ってやがる。ああ、そうか。こいつ元々脳味噌がいかれてる奴だった。
「空間転移なんて……なんだったか?」
「こ、この野郎っ……」
しれっと空間転移を正解させたクソ野郎。俺も此奴もそれなりには知っている東裏町の路地に出た。
「半分は冗談だ。この触媒はなかなか質が良いな。俺も成功するとは思わなかった」
「お前……賭けだったのかよ」
第二島産の触媒。それは俺も持っている。しかしここまでのことは出来る気がしない。保証もないのにこの男……
「リフル様のためだ。命を賭けることなど取るに足らん」
「心底むかつくが、そこだけは同意してやる。モニカ、gimmickの連中とリフルの声は覚えているな!?」
《勿論よ!意外とあのヴァレスタって男も良い声してて……嫌ん、あんな声で罵られるなんてリフルちゃん羨ましいっ!はぁはぁ》
「うっとりしてる場合か!?」
罵られるで済んだら俺も文句は言わないが、罵られる以上のことをあいつはされたし、されているかも知れないんだ。だってのに敵の親玉に何を悩殺されてるんだこの馬鹿精霊は。俺に一発殴られようやくモニカは落ち着いた。殴られてる癖に、モニカは笑っている。
「……っち」
ああ、そうか。モニカはなるべく何時も通りを演じてくれていたんだな。殴った手でそのまま精霊の頭を撫でる。悪かったと。
《禿げるから止めて》
「可愛くねぇ……」
反応に困る照れだ。俺はモニカから手を離す。
《そうね、単品なら負けるけどアスカニオスだってリフルちゃんとセットならそこそこいい男よ》
「世辞は要らねぇから働け」
俺の行動をどう解釈したのか見当違いのフォローを寄越す精霊に、さっさと働けと俺は指示。とりあえずは歩いて音を拾える場所まで行かなければならない。gimmickから離れて俺も洛叉も半年以上経っている。向こうのお頭も指名手配されてるんだ。以前と同じ場所に構えているとは思えない。虱潰しで探していく他ないだろう。
なら、時間が惜しい。足を速める俺は洛叉を追い越し……後ろで足音が止まったのを知り振り返る。
「洛叉?」
「この時間帯は、厄介だな。いや……何時にも増して、静かすぎる」
商人達の朝は早い。だがその分夜も早い。それでもまだ店を閉める時間であっても、就寝するような時刻ではない。この静けさが不気味だと、闇医者は俺に告げていた。
「殆どの奴らが出払ってるって、そういうことか?」
まだ迷い鳥にいる?それか此方に帰って来ていない。馬で向こうに行ったんだとしても、まだ此方に帰り着かない。
向こうから東に帰るには船を使うか、馬車を使うか。馬車ならば西裏町を通過しなければならない。その場合、更に略奪を行うか……或いは返り討ちに遭うか。Suitが死んだっていう話が広まったのが不味かった。奴らから西裏町への恐れが無くなっている。
「留守番連中もいるにはいるだろう。だが……騒ぎを起こせば一点に集中させることが出来る」
洛叉は暗に言う。自分が囮になって騒ぎを起こすと。
「鳥頭、貴様のナンバーでは精霊がいたところでろくには戦えないだろう」
確かに俺の数術の力は一対一でやり合うか、複数人と斬り合うのが限界だ。洛叉の阿呆は空間転移まで成し遂げた。悔しいが数術だけなら俺より上位ナンバーの洛叉の方に軍配が上がる。
それでも聞き捨てならないものがある。俺はこの男が戦うところは見たことがない。それ以前に俺より強いなどと言われて黙って見過ごせないのだ。俺はこれまでずっと荒事の中で生きてきたんだ。こんなひょろい日陰男に任せられる仕事など無い。
「てめーみてぇな変態闇医者インテリ野郎より俺の方がよっぽど戦えるっ!」
「俺に言いたくもないことを言わせるつもりか?」
低く押し殺したような声。洛叉のその声に俺は我に返った。
俺はまだ完治していない。モニカが治せる限度までは治してくれたが、回復力の前借りというのも限度がある。一日に何度も大きな回復術をかければ、俺の身体に問題が生じるのだ。
「……っち、遠慮しとく。あんたの口からそんな言葉は聞きたくない」
囮。その役目を俺には任せられない。その理由はそれ。こいつの言葉を借りれば足手纏い。むず痒い言い方をするなら、俺は今心配されているのだ。
「で、……お前、何やったんだ?」
普通ではこの男はそんな事は言わない。この男は俺のことなどどうでも良いのだ。とすればこの台詞はこいつ自身かリフルのため。
「……妹を殺した」
淡々と、洛叉が答える。
「今は、リフル様に会わせる顔がない。あの方がそれを知れば必ずや自分自身を責めるだろう」
こいつとその妹の仲違いは、リフルが……那由多王子が処刑されたことに起因すると、聞いたことはある。洛叉を愛するあまり憎しみがリフルに向いていたのも知っている。
そんな殺しをした後に、主に響く言葉など……傲る天才の脳を持ってしても見当たらないのだろう。
「俺は面の皮の厚さだけなら貴様には劣る」
俺も人は殺した。だからリフルは俺から逃げた。また、逃げられるかも知れない。でも今はそんな身体じゃない。今度は逃がさない。俺の言葉を聞いて貰う。あいつが納得してくれるまで言い訳を幾らでも俺は紡ごう。俺には時間があった。言い訳くらいもう幾らでも思いついている。
「おい、洛叉。リフルがどう言うかは置いておく」
リフルのための殺しは、リフルに喜ばれない。それは俺も知っている。この半年俺とあいつの間に微妙な空気が流れていたのもその所為だ。それを知らない洛叉でもないだろう。その上で身内に手をかけたのだ。その点は評価してやる必要がある。
「だがそのことに関してだけは俺は礼を言う。あいつへの危険を処分してくれたこと、感謝する。その情けない面、整えとけよ。すぐにリフルを連れ帰る」
モニカに行くぞと声をかけ、俺は洛叉を置いて行く。振り向きはしなかった。背を向ける瞬間、紡がれた膨大な数式に……安堵すらした。
純血の癖に、トーラにでもなるつもりか。でもあの変態のことだ。不可能事を思いつかない。成し遂げてしまいそうな予感すらある。それだけの大暴れをしてくれるのなら、俺の仕事は楽に済む。その分さっさとリフルを探し出す。
(俺にはお前が必要なんだ……リフル)
お前が傍にいてくれないと駄目なんだ。
見られたくない自分さえ、お前は俺だと認め受け入れてくれる。そんなお前がいなければ、俺は駄目になってしまう。馬鹿なことやって、またお前に嫌われるようなことをしてしまう。ロイルを傷付けた俺を、許さなくても良い。それをお前のためだとか言うつもりはない。俺がやったことだ。教会でのことも同じ。お前が気に病む必要はないんだ。怨むならお前じゃなくて、俺を。




