俺らって、あ行じゃない? 式神八将はそんなことを思った。
「あいつは?」
「主って言えよ」
「いないのか?」
「迷子か」
「困ったな」
重装弓騎兵の式神八将は、どこの世界のどこの時代かも分からない場所に飛ばされてしまった。
八将の名前はこうだ。
あゆみ あきつ あきら あかり あまね あやめ あかし あすか
「俺らって、あ行じゃない?」
「偶然だろ」
「さすがに偶然はありえんだろう」
「あいつ、なんで式神に適当な名前を付けたんだ?」
「あいつの事、あいつなんて言うなよ」
「あいつは、あいつぽいよな」
「そだね」
「それより主を探そうぜ。なんかこうしっくりこない」
「そだね」
重装弓騎兵の式神八将は、重装弓騎兵なだけあって、騎馬に乗っている。
騎馬と言っても機械の騎馬だ。騎馬に施された装甲も重装甲だった。
式神たちは円形の陣形を組んで、草原をゆっくり進んだ。
円形の中心にいるはずの、主は不在の陣だ。
行先には巨大な軍事国家があった。
この世界最強の軍事国家だ。
どこかで見たような軍装にどこかで見たような街並みが広がっていた。
「とまれ!」
検問所で兵隊は、重装弓騎兵の式神八将に命じたが、式神八将は止まらなかった。
式神八将に命令できるのは、主だけだったから。
そして検問所の詰め所から、槍兵が出てきた。
屈強な槍兵も見たことのない機械の騎馬に、見たことのない鬼のような式神を長槍で包囲した。
「やっぱ俺らの名前、あ行じゃねーの?」
「だとすると、か行もあるって事か?」
「俺ら以外に、主は式神を従えているって事か?」
「浮気じゃねーか!絶対許せねぇ」
そんな議論をしながら、長槍を物ともせず、検問所を突破した。
この文明レベルの長槍では、重装弓騎兵の式神八将の装甲に傷一つつける事が出来なかったのだ。
巨大な軍事国家の中枢は、急遽騎士団に討伐を命じた。
騎士団によって、王都への道は封鎖された。
「どうしろと?」
重装弓騎兵の式神八将を前に、精鋭の騎士団は困惑した。
騎士団は剣を抜き、重装弓騎兵の式神八将に突撃を欠けてきたが、文明のレベルの差に成す術はなかった。
道を塞いでいた騎士団を、機械の騎馬が蹴散らしながら、進んだ。
そして重装弓騎兵の式神八将は、そのまま王城へ向かった。
王城から無数の弓矢が降り注いだが、重装弓騎兵の式神八将にとって、大雨洪水警報レベルの攻撃に過ぎなかった。
「うっとおしい!」
王都の城壁は突破され、最強の軍事国家の中枢が、滅亡を覚悟した時、重装弓騎兵の式神八将たちは、動きを止めた。
「おお!主の馬車じゃん!」
主はパン屋でパンを買っていた。
「ん?どうした?この雰囲気、僕が迷子になったかのようなその目は?」
「主が迷子になったんだろうが!」
「なってないし!」
「主が迷子になったかどうかは知らんけど、探したぜ!」
「それより、君たち、良い子にしてた?誰かに迷惑かけたりしなかった?
僕がいないとすぐ暴徒化するから」
「俺らが暴徒化?心外だわ!むしろ俺らが暴徒に襲われたりしたんだぜ。めっちゃ怖かったぜ」
「俺らみんな、めっちゃ良い子にしてたし」
「それならいいよ」
重装弓騎兵の式神八将は、主の馬車を中心に円陣を作ると、最強の軍事国家の城壁の外に出て行った。
この事件が、最強の軍事国家の基幹を揺るがしたことは、歴史書のどこにも記載されてはいない。
完




