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異世界で『整体×魔術』始めます  作者: 桜木まくら
第二章『アークロスの聖光』

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第二章8『幽霊屋敷の攻防』

狭い廊下に響く金属音。

大柄の男がナオトに迫るその背後、短剣を構えた盗賊二人がルナを取り囲み、息を合わせて飛びかかる。

ルナは一歩も引かず、むしろ小さな体をさらに低く沈め、獣のように床を蹴った。


「……っ!」


突き出された短剣を紙一重で外に逸らし、刃が壁に火花を散らす。

同時にルナの小剣が鋭く閃き、敵の手首を叩きつける。


「ぐあっ!」


盗賊が短剣を取り落とし、悶絶して膝を折った。

もう一人が背後から斬りかかる。

しかし、ルナは振り返らない。

そのまま前方に踏み込み、壁を蹴って身体をひねる。


「しまっ……!」


敵の刃が空を切ると同時に、ルナの踵が側頭部に直撃した。

鈍い音とともに男は横倒しになり、床板に頭を打ちつけて動かなくなる。


「……二人、無力化」


息ひとつ乱さず報告するルナ。

その声に反応して、隠し部屋からさらに盗賊が飛び出してくる。

鎖鎌を振り回しながら、ルナに迫る影。


「嬢ちゃん、ちょこまかとよく動くな。だがこの距離なら逃げ場はねぇぞ」

「……試してみるといい」


ルナは小剣を構え、冷たい視線を向ける。

次の瞬間、鎖がうなりを上げて放たれた。

鉄球が壁に叩きつけられ、木片と埃が四散する。

ルナは身をひねってかわし、床を蹴って横へと滑り込んだ。

しかし鎖はまるで生き物のように軌道を変え、ルナの足首を狙う。


「っ!」


一度絡まれれば動きが封じられる。速さも、力も油断できない。

鎖鎌の男は口元を歪め、次々と鎖を操って攻め立てる。

ルナはその合間を縫うように滑り込み、紙一重で刃を避け続けた。


「逃げるのに必死じゃねぇか!」

「……観察してるだけ」


鎖が二度、三度とうなる。

鎖がルナの髪をかすめ、冷たい感触が頬を掠める。だが彼女は怯まない。


――振りが大きい。戻しに時間がある。


男は振り回すたびに少し体勢を崩す癖がある。ルナはその戻しの瞬間を狙い、跳躍のタイミングを図る。鎖が頭上を通った瞬間、ルナは鎖の軌道の内側へと滑り込み、剣先で鎖の一節を掛け、その遠心力を利用する。

鎖は重い。だがその重みこそが、逆に武器の反動となって男の方へ跳ね返る。


「うおっ!」


鎖の遠心力はルナの動きと同期してねじれを生み、鉄球が男の脚に絡んで重心を崩す。

ルナは相手の足元へ強く蹴りを入れ、男の膝を崩す。


「……ここまで」


ルナの声は小さいが鋭い。男は片膝をつき、鎖に絡まれた自分の足を見下ろす。鉄の重みが腕にも伝わり、自由を奪われている。

ルナは短剣で鎖をさらに巻き取り、床の梁や椅子の脚に絡ませて固定する。金属同士が喰い合う音が小さく鳴り、男の手足はほとんど動かせなくなった。


「チビにしてはいい動きをしてやがる……俺が相手をしてやる」

「……来い」


次にルナの前に立ちはだかったのは、ほかの盗賊とは雰囲気の違う一人の男だった。

頬に古傷を持ち、身のこなしは軽い。

手には双剣を携え、鋭い眼差しでルナを値踏みしている。ルナは小剣を構え直し、わずかに腰を落とす。

次の瞬間、金属が火花を散らした。

双剣の速い連撃を、ルナは刃と刃を滑らせて受け流す。

その一撃ごとの重みは、さきほどの雑兵とは比べ物にならない。

振るわれる刃が壁を抉り、床板を削り、風圧がルナの髪を揺らした。


「くっ……」


ルナは小剣で捌ききれず、身をひねって壁際へ飛ぶ。

一瞬遅れれば肩を裂かれていた。


「どうした嬢ちゃん、さっきみたいに余裕はないか?」

「……様子を見ているだけ」


ルナの目が細く光り、呼吸が研ぎ澄まされる。

再び双剣が迫る。上下左右、寸分の隙もなく畳み掛ける。

ルナは後退せず、逆に踏み込み、わずかな隙を狙って小剣を突き込んだ。


「っ……!」


男が双剣を交差させて防ぐ。

ルナの突きは彼の顎を掠め、血が一筋飛んだ。


「……やるじゃねぇか」

「あなたも……」


ルナと双剣の男の刃が何度も交錯し、火花が散る。

互角の攻防が続くなか、ルナは呼吸を整えながら冷静に相手の動きを観察していた。


……速い。力もある。真正面からは分が悪い……ならば――


双剣が再び振り下ろされる瞬間、わずかに左手を掲げた。


「……水よ、集まって……」


ルナの手のひらに、淡い光を帯びて小さな水滴が生み出される。

その水を弾丸のように敵の顔へと弾き飛ばした。


「……っ!?」


不意に飛んできた水滴に、男は反射的に顔を背けた。

その一瞬の隙を、ルナは逃さない。


「……ここ」


床を蹴り、矢のように踏み込む。

双剣が防御の態勢を整える前に、ルナの小剣が男の胸元へ鋭く突き込まれる。


「くっ……!」


刃先が服を裂き、血を滲ませる。男は後退し、双剣を落としかけた。

ルナは剣先を突きつけ、冷たい声で告げる。


「……次は外さない。武器を捨てて」


男は荒い息を吐きながらも、目を細めてルナを睨んだ。

だが、その小さな身体から放たれる圧と、氷のような眼差しに抗うことはできず、

双剣を床に落とすと、舌打ちして膝をついた。


「……チッ、化け物め……!」


ルナは静かに剣を下げ、ナオトとメルの方へと視線を向けた。


―――


「……お前、何をしにここへ来た?」


男の瞳がナオトをじっと射抜く。単なる脅しではなく、確かな探りの目。


「……俺たちは、幽霊騒ぎの調査だ」


ナオトは冷静に答えるが、声には警戒が混じる。

男は低く笑い、棍棒を軽く床に叩きつける。振動が床板に伝わり、周囲の埃が微かに舞い上がる。


「幽霊?……フン、俺達には関係ないな。だが、見られてしまったからには……その首、俺がいただくぞ」


一瞬の沈黙の後、男は棍棒を振り上げ、攻撃の構えを取る。


「……やっぱり戦うしかないか」


大柄の男は棍棒を両手で握り、振り回すたびに衝撃が周囲に広がる。棍棒の軌道を鋭く変え、空気を切り裂く音が屋敷全体に響き渡る。


「よーし、行くよ!」

「援護する」


ナオトは弓を構えたが、相手の男は筋骨隆々でありながら身のこなしが驚くほど軽やかで、矢が飛ぶ前に位置を変える。矢は空を切り、床に小さく衝撃波のような光を散らすが、男には届かない。


「くっ……速すぎる!」

「あたしに任せて!」


一度目の横振りを避けたものの、二度目の振りが襲いかかる。床を蹴って跳び退くが、男の棍棒は遠心力を伴って迫り、肩に微かに当たって衝撃が走る。メルは一瞬よろめき、笑顔がひきつった。


「……くっ、でも負けない!」


踏み込み、右ストレート。拳が当たり、衝撃が小さく光の粒となって迸る。男はのけぞるが、すぐに振り直して攻撃を叩き込んでくる。


「まだまだ!」


男の棍棒を真上から叩き込む。メルは紙一重で体をそらしてかわす。棍棒が床を叩いた際の振動が空気を揺らし、床板が軋む。


「ふんふん、だんだん分かってきたよ!」


次の攻撃、男が棍棒を縦に振り下ろし切る前に、メルは拳で正確に打ち払う。衝撃が拳先から迸り、光の粒が弾ける。男の棍棒は軌道を変え、勢いを失う。


「ここからメルの番だよ!」


右ストレート、左フック、回し蹴り、膝蹴りと連続攻撃。蹴るたびに紫や赤の光が渦巻き、衝撃で空気が震える。男は防御に必死で、足元のバランスが崩れ始める。


「行っくよー!」


メルは元気いっぱいに叫ぶ。


「ジャンピング・サンシャインキックー!!」


跳び上がって連続蹴りを叩き込む。前蹴りで距離を詰め、横回し蹴りで相手の肩を打ち、跳び蹴りで胸を叩く。さらに、床を蹴って回転しながらの飛び蹴りで男の側面に打撃。蹴るたびに光の波紋が広がり、男は後退を余儀なくされる。


「まだまだー!」


メルは踏み込み、拳を打ち下ろす。赤く光る衝撃が男の胸にぶつかり、体を揺さぶる。男は棍棒を振り上げて反撃しようとするが、メルは攻撃のタイミングを読み、拳で正確に撃ち落とす。棍棒が暴れれば暴れるほど、打撃の衝撃で光の粒が迸り、男は次第に押される。

ナオトも思わず声を上げる。


「メル、すごい……拳で棍棒を弾き返してる!」


メルは跳び回りながら蹴りを繰り出し、連続の攻撃で男の体勢を崩す。前蹴り、膝蹴り、横回し蹴り、飛び蹴り、そして着地からの蹴り返し。蹴るたびに床が軋み、衝撃が周囲に波紋として広がる。男の体はぐらつき、ついに膝をつきそうになる。


「ここで決めるよー!」


メルは男の足元に滑り込み、両手を地面につけて低い姿勢を作る。


「必殺!ダブル・ライトニングブレイク!!」


両足を揃え、鋭く伸ばして顎を切り抜く蹴りを放つ。衝撃が瞬時に広がり、床に光の粒が弾ける。


「ぐあっ!」


男は後ろに吹き飛び、壁に叩きつけられる。棍棒は遠くへ飛び、膝をついたまま動けなくなる。衝撃波で床板が軋み、周囲の埃が舞い上がる。


「やったー!楽しかったー!」


メルは両手を振り上げ、跳びながら笑顔を見せる。蹴りや拳で生じた光はまだ彼女の周囲で淡く揺らめき、戦いの余韻を彩っていた。


メルが大柄な男を制圧し、三人は慎重に隠し部屋の奥を覗き込んだ。


「……ん?」


部屋の奥に、もう一人の人影が見えた。細身の金髪の少女。見覚えのある顔にルナは息をのむ。


「……まさか……」


ルナの瞳が一瞬鋭く光る。以前、ひったくり犯を追いかけていた時に逃げられてしまったあの少女だった。

少女はじっとこちらを見つめ、不敵な笑みを浮かべる。


「……またアンタか」


少女の声に、部屋の空気がピリリと引き締まる。

すると少女は手に持った何かを床に投げつけると、瞬く間に濃い煙が部屋全体を覆った。


「……っ……!」


煙はただの視界妨害ではなかった。空気は重く、鼻腔に絡みつき、嗅覚までも封じる。どんな匂いも体内に正確に伝わらず、世界がぼやけるように感じられた。床板の軋みも、相手の呼吸音も、全て煙に吸い込まれる。

メルは咳き込みながら手探りで前へ進む。


「えー、何も見えないし、匂いも分かんないよー!」


ルナも小剣を握りしめ、鼻を押さえながら慎重に一歩ずつ前進する。


「次に会ったときは覚えておきな」


少女は煙の中で捨てゼリフを吐くと、屋敷の奥へと姿を消していく。


「……また逃げられた」


濃い煙が隠し部屋を満たし、視界も嗅覚も奪われた世界。三人の呼吸は重く、床板の軋みや埃の舞いもわずかにしか感じられない。


「……何も見えない……匂いも消されてる……」


ルナは小剣を握りしめ、慎重に足を踏み出す。


「えー、何も分かんないよー!」


メルは咳き込みながらも、手探りで前へ進む。

ナオトも耳を澄ませ、周囲の気配を探る。だが、空気を震わせる気配はあるものの、姿は掴めない。


「……ん?」


ナオトの背筋に冷たい感触が走る。風の揺れや埃の舞いとは違う、まぎれもない気配。

視覚も匂いも、完全に煙に吸い込まれている。しかし、確かに背後に白い影が迫ってくるのが分かった。


「……ルナ、メル!」


ナオトが声をかける間もなく、白い影は彼の背後でふわりと形を変え、無音で忍び寄る。まるで煙そのものが生き物のように動くかのようだ。

メルは咳をしながら手を振り、声を上げる。


「なにー!?どこにいるのー!?」


ルナは耳と手の感触を頼りに、背後の空気の揺れを探る。小剣を握り直し、体をわずかに回転させる。

白い影は次第にナオトの後ろ、手の届く距離まで迫る。煙の中で形を完全に隠し、攻撃のタイミングをうかがっているようだ。

白い影がナオトの肩に触れた瞬間、空気がビリッと裂けるような感覚が走る。煙の中、光や色はなくても、接触の衝撃だけが現実として伝わった。


「いただきます」


ナオトの背筋に戦慄が走る。次の瞬間、白い影が煙の中で跳ね、鋭い動きで首筋に噛みついた。

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