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異世界で『整体×魔術』始めます  作者: 桜木まくら
第二章『アークロスの聖光』

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第二章6『忍者風メイド服』

「任せてください。今どき弓矢なんて誰も使ってないから面白そうです!」


ボニーの言葉にナオトは思わず眉をひそめる。


「え……どういうことだ?」

「最近はほとんどの人が魔法で狩りをしています。弓矢は持ち運びが大変ですし、矢が無くなると狩りは出来なくなりますけど、魔法なら魔力が切れてもしばらく休憩すればまた魔法が使えるようになりますから。弓矢はもう時代遅れって感じなんです」


ナオトは矢を手に持ったまま、肩を落とす。


「……そ、そうなのか……」

「でも、こうして弓矢を自分で扱えるのって貴重だと思います。工夫と腕で勝負するっていうのも、悪くないと思います」


ナオトは小さくため息をつきながらも、矢を握りしめる。


「……俺、まだまだ力不足だけど……頑張れば使いこなせるかな」

「もちろん!腕を磨いて、私の改良も活かせば、大型の獣でも倒せるようになります!」


ナオトは少し元気を取り戻し、矢を見つめながら静かに頷いた。


「よし……頑張るか……」


ルナは店のカウンター付近で接客をこなしつつ、店主と少し話をする時間を持った。


「そういえば、ルナさん。この前こちらで買っていただいた小剣、どうですか?」


店主は明るく声をかけ、カウンター越しにルナに微笑む。

ルナは手元で軽く小剣を握り、柔らかく答える。


「とても役に立っています。狩りや護衛のとき、欠かせない存在です」

「そうですか……大切に使ってもらえて、剣もきっと喜んでいると思います」


店主は目を細め、楽しそうに小剣を見つめた。

ルナは少し頬を染めながらうなずく。


「はい、常に手入れをして大事にしています」


ルナはふと表情を変え、棚の方を指さした。


「そういえば、以前ここに置いていたエリー・グレイヴンの魔法瓶、売れちゃったんですね」

「ええ、ちょうど今朝売れたばかりです。買った方はプレゼントにすると言っていました」


店主は明るい声で答え、少し楽しそうに笑った。

ルナは軽く微笑み、魔法瓶の持ち主が喜ぶ様子を想像しながら頷いた。


「そうですか……きっと喜んでくれるでしょうね」


店内は忙しいながらも、ふと温かい空気が流れるひとときだった。


ナオトは作業をあらかた終え、手を洗いながらボニーに声をかけた。


「ところで、店主の旦那さんの様子はどうなんだ?」

「まだ少し腰の調子が悪くて、奥で横になっているんです」


ボニーは少し眉を寄せ、心配そうに答える。

ナオトはうなずき、にっこりと微笑む。


「そうか……よかったら、俺が治療してあげようか?」


ボニーは目を大きくして驚く。


「え、治療ですか?ナオトさん、治癒魔法が使えるんですか?」

「いや、治癒魔法じゃないんだけど、無理に動かすわけじゃないし、少しでも楽になれば」


ナオトは軽く肩をすくめながら答える。

ボニーは少し考えた後、うなずいた。


「……ありがとうございます。じゃあ、お願いできますか?」


ナオトはボニーに案内され、腰を痛めて奥で横になっている店主の旦那さんの前に立った。


「こんにちは。ちょっと治療をさせてもらいますね」


旦那さんは少し不安そうに眉を寄せるが、ナオトの穏やかな笑顔に安心して頷いた。


「頼むよ……痛いのは腰だから、気をつけてくれ」


ナオトは丁寧に腰や背中の筋肉を触診し、ゆっくりとほぐしていく。


「ここは張っていますね……少し痛むかもしれませんが、我慢してください」


旦那さんは息をつきながらも、ナオトの指先の確かさに少しずつ体の緊張が解けていくのを感じる。

ルナも接客を終えて駆けつけ、旦那さんの足元に座ってそっと支える。


「動かすときは私が支えますので、安心してください」


ナオトは背中や腰を丁寧にほぐし、筋肉の緊張を緩める。


「少しずつで大丈夫です……はい、もう少し力を抜いて」


旦那さんは顔に安堵の表情を浮かべ、肩を少し伸ばして楽になった様子。


「おお……だいぶ楽になった気がする……すごいな」

「これで少しは動きやすくなるはずです」


店主の女性は嬉しそうにナオトを見つめ、感謝の声を上げた。


「ありがとうございます……これで旦那も作業がやりやすくなるわ」


ルナもにこりと微笑む。


「少しでもお力になれて良かったです」


こうしてナオトの整体で旦那さんの腰の痛みは軽減され、鍛冶屋『鉄の手』の依頼は一段落した。

ナオトはボニーや店主に挨拶をし、商業ギルドへ向かった。

ナオトは報酬を受け取り、中身を確認する。小銭や銀貨がぎっしり入っており、思った以上の金額に少し目を見開いた。


「ルナ、これで好きなものでも買うといい」

「え……ルナにですか?」


ルナの声には驚きが含まれていたが、すぐに穏やかに続ける。


「ありがとうございます。でも、そんな……」

「いいんだ。いつもルナには支えてもらってるから、これは感謝の気持ちだ」


ナオトは袋を少し差し出す。ルナはしばらく迷っていたが、やがて手を伸ばし、受け取った。


「……大切に使わせていただきます」

「喜んでもらえたなら何よりだ」


外に出たルナは、控えめに財布を握りしめながらも、少しだけ嬉しそうに笑みを浮かべていた。


街の通りを歩き、ナオトとルナは服屋に到着した。店内は明るく、色とりどりの布地や小物が整然と並んでいる。


「ルナ、何を買うんだ?」

「ルナは兄様の付き人ですから、一目で付き人と分かるような服を選びたいと思います」


ルナは真剣な眼差しで、タイトで動きやすい上着やスカートを手に取る。


「でもさ、ルナは俺の妹なんだし可愛らしい服にしてもいいんじゃないか?」


ナオトは柔らかい色味の布地やフリルの付いたデザインを指さす。

ルナは少し戸惑いながらも頷く。


「……兄様がそうおっしゃるのなら」

「では、動きやすさと可愛らしさを両立させて仕立て直しましょう」


店主はにっこり笑い提案する。ナオトとルナは布地の色や形を相談しながら、細部を決めていく。

しばらくして、仕立て直された服が完成した。鏡の前に立つルナは、濃紺のタイトな上着に白いエプロン風前掛け、膝上のスカートと下穿きショートパンツというデザインに袖を通す。胸元の呪印はあえて隠さないスタイル。


「……動きやすい……でも可愛らしい……」


ルナは鏡越しに自分の姿を確認し、少し頬を染めた。

ナオトは満足そうに頷く。


「よし、これからはこの服で街も森も駆け回るぞ。名付けて……『忍者風メイド服』だ!」

「……忍者風メイド服……なんだか不思議な響きですが、覚えました」


―――


ナオトとルナは街での買い物を終え、夕暮れに差し掛かる街の通りを歩きながら小屋へ向かった。空は茜色に染まり、森の緑が柔らかく影を落としている。


「そろそろ小屋に着くな」

「はい……あ、兄様」


ルナは新しい付き人服の裾を整えながら、少しはしゃいだ様子で歩く。

小屋に到着すると、庭先の様子に二人は足を止めた。小屋の横の土地には、整った畝がいくつも作られ、土がふかふかに耕されている。


「……これは……」


ナオトが目を見開くと、畑の中央でメルが小さな鍬を手に、真剣な顔で作業をしていた。


「うぅ、まだまだこれからだけど、頑張るの!」


メルはにっこり笑い、手に土をつけながらも楽しそうに耕している。


「お、おお……すごいな、メル」

「うん!お世話になったお礼がしたくて!」


ナオトは思わず声を上げ、メルも返事をする。


「昨日、整体をしてもらったら……体がすごく軽くなって頑張れたんだ!」

「そりゃあ良かったな。体が軽いと動きも楽だろ?」

「うん!ほんとに軽くなったの!」


メルは嬉しそうに小さく飛び跳ね、鍬を持つ手も軽やかだ。


「それでね、トーヴィアさんに育てやすい野菜の種をもらったから、植えてみたんだ」


ナオトは目を細め、畝の上に並べられた小さな種袋や、少し芽を出したばかりの苗を確認する。


「へえ、ちゃんと植えたんだな。頑張ったな、メル」

「でも、柵を作るところまでは手が回らなくて」


メルは肩を少し落とし、恥ずかしそうに続ける。

ナオトはその言葉に軽く笑いながら、メルの肩に手を置いた。


「大丈夫だ。まずは育てることからだし、柵は後からでも考えられる」


メルの顔にほっとしたような安堵の表情が浮かぶ。


「うん、わかった!これで少しは恩返しできたかな?」

「もちろん!十分に恩返しになってるぞ」


ナオトは土に触れた手を軽く握り、畑全体を見渡す。柔らかく耕された土、芽を出したばかりの苗、そして真剣に作業するメルの姿――すべてが、夕暮れの光に温かく照らされていた。


―――


畑での作業を終え、夕暮れの光が小屋の窓から差し込む中、ナオトは布団の上に座り、ルナとメルに日課の整体を始めていた。


「では、まず肩からほぐしていくぞ。力を抜いて、深呼吸してくれ」


ルナは布団に横たわり、静かに目を閉じる。


「はい……お願いします」


メルも少し緊張しながら布団にうつ伏せになり、ナオトの手が背中に触れると、自然と体の力が抜けていく。

ルナは小さく息を吐きながら、体の軽さを感じていた。


「兄様、肩の力がすっと抜けました」


メルもにこりと微笑む。


「体がすごく軽くなった!ありがとう!」


ナオトは手の動きを緩め、二人の背中や腰を丁寧にほぐしながら、今日一日の疲れを確認する。


「よし、次は腰をほぐしていくぞ」


ルナとメルは頷き、ナオトの手の感覚に身を任せる。

そのとき、小屋の扉がノックされ、元気な声が響いた。


「ナオトさーん!いますかー?」


ナオトが窓から覗くと、扉の向こうに一人の美少女が立っていた。肩までのブロンドの髪を風に揺らし、琥珀色の瞳がキラキラと輝く。手には大きめの袋を持っている。


「アリアか、入っていいぞ」

「お邪魔しまーす!」


アリアが顔を出すと、布団の上でナオトがルナとメルの背中に手を当てている姿を見て、目を大きく見開いた。


「えっ……な、なにしてるんですか!?」


アリアの顔は真っ赤になり、慌てて手で口元を押さえる。


「……えっと、ちょっと待って!ナオトさんとルナちゃんともう一人知らない女の人と、三人でお楽しみ中だったってこと!?まだ入っちゃダメだった!?」


ナオトは驚きながら振り返り、ルナとメルも目を丸くする。


「ち、違うぞアリア、これは……整体だ」


アリアは慌てたまま一歩後退し、誤解に顔をくしゃくしゃにしている。


「アリアさん、兄様の整体は凄いんです。二人まとめて気持ちよく出来るんです」

「ルナ!言い方!」


ナオトが必死に誤解を解く。

アリアはようやくほっと息をつき、顔の赤みを手でぬぐった。


「そ、そっか……よかった、びっくりした……」

「……で、何しに来たんだ?」

「遊びに来たんです!」


アリアは元気よく答え、少し照れたように手を振る。


「そうか。良かったら、風呂に入っていきなよ。ちょうど湯が沸いてる」

「えっ、ええーっ!?お風呂があるんですか!?せっかくですし入らせていただきます!絶対に覗かないでくださいね!」

「もちろんだ。安心しろ」


―――


風呂から上がり、タオルで体を拭いたアリアは、髪をざっくりまとめ直してメルの隣に腰を下ろした。

アリアは少し照れくさそうに、琥珀色の瞳をキラキラさせながら口を開いた。


「えっと……あの、自己紹介してなかったよね。わたしはアリア、神官見習いです!」


メルはにこりと微笑み、手を差し伸べる。


「あたしはメル。森で飢え死にしそうになっていたところをナオトっちとルナに助けてもらったの!」


アリアは差し出された手をぎこちなく握り返す。


「そ、そうなんだ!よろしくね、メルちゃん!」


メルは笑顔でアリアに話しかける。


「今日ここに来たのはナオトに会いたかっただけなの?」


アリアは小さくうなずき、少し恥ずかしそうに顔を赤らめる。


「うん、小屋の修理が終わった話は聞いてたから遊びに来たかったんだ。ルナちゃんと二人暮らしだからって変なことしてないかチェックしないといけないしね」

「と、ところで、その袋には何が入ってるんだ?」


ナオトは慌てて話題を変える。

アリアは目を輝かせ、胸を張る。


「よくぞ聞いてくれました!なんと、エリー・グレイヴンの新作魔道具、『虎印の魔法瓶』です!」

「聞いたことある魔道具だな。鍛冶屋で売ってたやつか」


アリアは得意げに説明を続ける。


「温かいものは夜まで温かく、冷たいものは翌日まで冷たいまま!魔力の壁が熱を通さないだけじゃなく、音や振動までも通さないんです!なんなら爆発さえも吸収してしまう逸品なんですよ!」


メルも興味津々で前のめりになる。


「えっ、それってすごくない!?そんな魔道具があるの?」


アリアは少し胸を張って言う。


「しかも魔力を込める必要がなく、誰でもすぐに使えるよう工夫されているんです!すごいでしょー?」

「俺が知ってる内容より大分盛られてるな」


ルナは心配そうに、少し眉をひそめた。


「確か……その魔法瓶、結構高かったはずでは?」

「ふふ、ナオトさんでツケてもらいました!」


アリアはにっこり笑いながら、胸を張る。

ナオトは思わず目を丸くする。


「つまり、俺の支払いってことかよ!」

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